ドールの菫の物語

影葉 柚樹

文字の大きさ
上 下
14 / 32

このときめきを大事にして

しおりを挟む
 マスターの居ない時は僕はピョンさんやランさんと共に過ごす。
 今日はマスターがどうしても外せないお仕事で家を空けているんだけれど。
 菫(すみれ)! ってマスターの声が聞こえてきそうな気がして、そわそわしてドアを見つめる。
 ピョンさんがランさんと寄り添って僕を見ていて、嬉しそうに告げてくる。

「菫くんは本当にあの子が好きなんだね」
「うん! 僕はマスター大好きだよ!」
「とても嬉しいわ。あの子は本当に孤独と共に生きてきた子だから家族が出来るのは、私達も喜ばしいもの」
「ピョンさん、ランさんも家族じゃないの??」
「僕らは動けない。あの子が望まないと触れる事も出来ない。だから家族でも慰めてあげれないんだ」
「でも菫くんは動ける。どうか私達の分まであの子に寄り添ってあげて?」
「分かった! 僕がマスターの家族になって守るね!」

 ピョンさんランさんはその言葉を聞いて安心したのか黙った、寝たみたい。
 僕は足をバタバタさせながらマスターの帰りを待ち続ける。
 いつの間にか僕は眠っていたのだろう、夢を見た。
 マスターが泣いている姿が見える、足元にはボロボロになったピョンさんランさんの姿。
 よく見たらマスターの姿も子供っぽい、マスターの過去? それとも未来?
 どちらにせよマスターが泣いているのは見てて辛い、行かなきゃ! と思って手を伸ばす。
 僕の手は透明で、マスターには触れれない。
 それでもマスターの頬に触れて涙を拭ってあげたくて。

「マスター、泣かないで」

 僕の声が聞こえてないのか、幼いマスターは泣き続ける。
 でも、僕が包み込むように抱き締めるとマスターは泣きながらこう言うんだ。

「す、みれ……逢いたいよぉ……どこなのぉ……」
「ここにいるよ。マスターのここに僕はいる……」

 そう言って僕の手はマスターの心臓付近に触れて、目を伏せてマスターに寄り添う。
 そこで目が覚めた。

「あ、起きた?」
「ま、すたー……?」
「ふふ、おはよう菫。そしてただいま」
「ん、お帰りなさいマスター」

 キスで満たされるこの身体は先程まで泣いていたマスターの夢を思い出させる。
 マスターはピョンさんランさんを膝に置いて指先で撫でながら僕の髪を反対側の手で撫でてくれているけれど、優しい手付き。
 それが胸をドキドキさせる。
 ねぇマスター、このドキドキをマスターにもあげたい、そして……1人でない事をいつか伝えるから。
 だから、それまでこのときめきを大事にしてもいいですか??
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

桜は今日も息をする

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

炎使いのドラゴンスレイヤー

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

異世界で双子の弟に手篭めにされたけど薬師に救われる

BL / 連載中 24h.ポイント:725pt お気に入り:367

この想いを声にして~アナタに捧げる物語~NL編

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

最強竜騎士と狩人の物語

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:20

この想いを声にして~アナタに捧げる物語~BL編

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:12

太陽の向こう側

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:86,159pt お気に入り:3,355

処理中です...