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2章
12話「ランスロットの密かな悩み」
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新人騎士の募集時期が訪れが迫るティクス国。騎士団の者達もそれはそれで忙しい日々を送り新人を迎える為の準備に追われている。
この時期になるとランスロットの執務は思っている以上に詰め込まれている為に、側近のローレンスを始めとする部下達のサポートがあったとしてもまともに休める状態ではなくなる。そんな多忙さを極めるランスロットには密かな悩みがあった。
「……」
ローレンス達がいない団長室の中でカリカリとペンを走らせているランスロットの集中力は凄まじいの一言で表現できる。だが、その集中力を遮る存在が団長室にある為にランスロットの鋼の精神力でもそれは回避出来そうになかった。
「うにゃーん」
「っ、ルト……またお前はいつの間に入ってきたんだ」
「にゃ~ん」
黒の毛並みを持つオス猫のルト。騎士団の練習場にいつの間にか姿を見せて騎士達の癒しの存在になっていた猫だが、いつの頃からかロルゾ達が団長室のドアを空気の入れ替えの為に解放したままでいたのがキッカケで団長室に入り込む事を覚えてしまったのである。ルトは別にランスロットの執務を邪魔したりする事はしないのでランスロットの怒りが沸くと言う事はない。
ただ、ルトの丸まった姿を見ると執務で疲れている心が休息を求めて仕事を放棄させたくなるという気持ちを生み出す。それが今のランスロットには密かな悩みとして真面目に対処を間違えたら厄介だと考えなくてはならない状態であった。
「おーい、ランスロット~」
「どうしたロルゾ?」
「お、ルトは今日はここか。あ、いや、ロゼットから呼び出し来ているぞ」
「ロゼット様から? 知らせが来たか」
「何でも今年の応募者の中に耳に入れておきたい人間がいるってさ。もしかして、期待の新人でもロゼットの方で見付けたのかもしれないな」
「そうだといいんだが。ルトに餌を与えてやっておいてくれ。この暑さだ、ロクに水分も取れてないと他の騎士達が過剰に反応するからな」
「おう。それじゃハルウッドがそろそろ戻るだろうしルトに餌をやったら他の処理に入るわ」
「あぁ。頼む」
ロルゾから告げられたロゼットからの呼び出しに応じる為にランスロットは椅子から立ち上がり、ソファーで丸くなっているルトを一度優しく撫でてから団長室を出る。ルトはそれを見送って水と餌を用意してくれているロルゾに視線を向けてただ見つめているのだった。
ロゼットからの呼び出しに応じてロゼットの執務室に姿を見せたランスロットはそこで衝撃の事実を聞かされる。妹、アレスが新人騎士団の応募者リストに名を連ねていると言う事実だった。
「本当にアレス、なのですか?」
「間違いないと思われる。左手の甲に「アルボリス」の模様が刻まれている。これはエルンシア家の子供である証拠であろう?」
「恐らく父がアレスに刻むのであればその模様……。でも、どうして新人騎士募集に応募なんてしているんだ……」
「そこら辺も今調査しているが……どうも育ての親の影響だと考えられる」
「育ての親? 母親と一緒にいるのではないのですか?」
「現時点で分かっているのは、アレスの実母はアレスが4歳の頃に再婚相手の不倫相手に殺害されて、再婚相手にはアレスは懐かなかったので子供のいない老夫婦に育てられている、と言う事実だ。その老夫婦の地位が凄いのだがな」
ロゼットが調査の途中報告書をランスロットに見せる。そこに書かれている老夫婦の身分について記されている部分を読んだランスロットには更に衝撃があった。
老夫婦は現国王のケンベルトの乳母夫婦であり、今でもケンベルトに大事にされている貴族の人間だと言う事実にランスロットは眩暈を覚えてしまう。この老夫婦に育てられているのであればアレス自身の教育はそれなりに出来ていると信じてよう。
だが、それでアレスがどうして新人騎士の募集に応募をしたのかまでは検討がつかない。そもそもケンベルトの乳母である老夫婦ならば異母妹を探していると情報が公開された時に真っ先にケンベルトに知らせていてもおかしくない筈である。
「ロゼット様、この老夫婦はどうしてケンベルトにアレスの事を知らせなかったのでしょうか。何か理由でも?」
「それは老夫婦に聞いた陛下から言われたが……。アレス本人の至って強い希望から知らせるのを控えていたとお伺いしている」
「強い……希望?」
「アレスの身辺調査にも老夫婦は協力的でな。アレスの情報は今それなりに集まりつつある。だが、アレスはどうもお前と同じ神々に愛されている存在である事はまだ本人にも自覚がないと老夫婦から聞いている」
「アレスにも神託が聞こえている、と考えてもいいのですか?」
「まず間違いはないだろう。そして、お前の事を兄だとも認識はしている事も確認済みだ」
ランスロットはそこまで聞いてアレスがどうして自分の妹である事を伝えなかったのか? それについては顔を合わせて兄として伺うべきだろうと考えた。考えればランスロットはまだアレスとは対面すらした事のない状態で探していたのである。
ケンベルトやロゼットの力を借りなくては、新人騎士募集にアレスが応募している事も知る事は出来なかっただろう。それだけアレスと言う少女についての事をランスロットは知らない事が多過ぎたのである。
ロゼットの部下である女性が報告しに入ってきたのでランスロットは辞する事にした。執務室から出て通路を歩いていると、本日は曇り空であるがそれなりに風が城内の空気を涼しくしてくれていたがランスロットはその風すら感じない程に考え込んでいた。
「(俺はただ父さんが母さんとは別の女性に子供を産ませた、そう最後の遺言時に聞いてから最後の家族としてアレスを探し続けてきた。だが、蓋を開ければ俺は何一つアレスについて知らないままで、それがこうして近くにいるとしても知らないままでいる……兄としてそれが正しいとは思わない。だが、今更兄としてアレスに顔を会わせたとしてアレスは許すのだろうか……)」
胸の中に渦巻く不安と願い。それを消化させなくてはアレスとの対面に挑めない事もランスロットの心も分かっている。
団長室に戻るとローレンスとガルドが資料の整理をしながらランスロットの帰りを待ってくれていた。ロルゾとハルウッドはルトの為に簡易的な寝床の準備をしている様だった。
「戻った」
「お帰りなさいませ。ロゼット様に呼び出されたと聞いていたので午後の仕事に必要な書類を揃えておきました」
「あと、食事もまだだろうから食堂からチーズパンの差し入れを貰ってきたぞ」
「ありがとう。……2人は家族はティクスにいるんだったか?」
「私は既にこの年齢ですが娘と孫がおりますよ」
「俺は嫁と養子の息子がいるが?」
「2人はまだ会った事のない家族と再会する前に何も知らないままだったら……何かしら責任を感じるか?」
「アレス嬢の事で何か言われたのか」
「その答えになるかは不明ですが、まだお時間があるのではあればそこから知って理解を深める……それが出来うる最善の方法だと私は考えます」
ローレンスの言葉にランスロットの顔からも苦笑が浮かぶ。ガルドの貰ってきてくれたチーズパンを片手にソファーに座って一口齧りながら不意に色々とまた思考の海へと落ちて行くのを感じていた。
ガルドが紅茶の準備をしながらため息を小さく吐き出す。この状態になるのはあまりランスロットの中では意図しない行動なので外部の人間の声が届かない事が多い。
こんな時に緊急の判断が必要になった場合、正確な判断が出来るかは不透明である。ローレンスとガルドの心配を他所にパンを食べて行くランスロットの中ではアレスへの想いが色々と生まれつつあった。
「失礼します」
「どうかされましたか?」
「あ、実は今外部からの来訪者で国王陛下の乳母であるカレルご婦人がランスロット団長にご面会に参られておりまして。お通ししてもよろしいかお伺いに」
「陛下の乳母って、どうしてランスロットに用があるんだぁ?」
「……どうされますかランスロット様」
「通してくれ。皆も同席を頼む……アレスの事だろうからな」
ランスロットはそこまで話をしてカレル婦人が来るのを待つ事にした。知らせを受けて暫くしてから白髪の長い髪の毛を後ろで纏めている老女が若い騎士に案内されて団長室の応接室に姿を見せた。
ハルウッドとガルドの2人が入口に、ロルゾは窓の近くに、ローレンスは紅茶の用意をしているので団長室の奥に、ランスロットがカレル婦人に深々と一礼して出迎えた。カレル婦人は柔らかな微笑みを浮かべ丁寧な礼をしてくれたランスロットにこちらも深々と頭を下げる。
「この度は急な訪問をお許し下さい。陛下から今の時期の多忙さはお伺いしていたのですが、どうしてもお話を一度しておきたかったので無理を言って通してもらいました」
「いえ、カレル婦人が陛下の乳母様だとは本日ロゼット様からお伺いしていたので驚きはしましたが……アレスの事でお話にお見えになられたのかと思いまして」
「えぇ、陛下に本来なら情報が公開された時にお伝えしなくてはならなかったのですが……アレスに下された神託がそれを良しとはしなかった事もありお知らせするのが遅れました。今日お伺いしたのはその神託について兄であるランスロット様にお話をしておこうと思いまして。あまり喜ばしい内容ではありませんが……」
カレル婦人が案内されたソファーに腰掛け、持っていた手持ちバックから1枚の小さな紙束を取り出す。それを向かい側に座ったランスロットに差し出し読む様に促す。
受け取ったランスロットが紙束の内容を読み込むと、そこには神託だと思われる内容が書かれていた。それもカレル婦人が書いたのではなく、もっと若い人間の手による文字で。
「これは……」
「アレスが5歳の頃から聞いた神託を記録していた物になります。見てもらって分かる様に……神々は幼いアレスにこの先に起こるだろう、このティクス国の有事をお知らせしております。それが何を意味するか……ランスロット様にはご理解頂けるかと」
「アレスの存在は……ティクスの運命を担っているって事に繋がります、あくまでこの神託を読む限りは。ですが……、それがどうしてアレスが騎士になろうとしている理由に繋がるかは分かりません」
「貴方の傍で生きる為です」
「俺の……為?」
「神託の最新は分かりませんが、どうも5歳の頃に受けた神託の一部に兄であるランスロット様の事を思わせる言葉があった様なのです。それを聞いたアレスは歳を重ねていく内に貴方の傍にいて、共に生きていく事を強く望む様になりました。それはある意味兄と妹を超えた強い絆を生み出す程に。アレスは自分の手で護りたいのです。最後の家族であるランスロット様の事を」
カレル婦人がそう話してアレスの騎士へ応募した事の理由を教えてくれた。ランスロットの心はそれで深い苦しみを生むが、同時にアレスへの深い愛情も芽生えていた。
同席したローレンス達はまだ見ぬ妹であるアレスが騎士としてランスロットの傍にいる事になれば、ランスロットの事を護る為にどんな困難も乗り越えようとする事は安易に想像出来る。そして、それは同時にランスロットの運命を大きく動かす事も4人は分かってしまうのであった――――。
この時期になるとランスロットの執務は思っている以上に詰め込まれている為に、側近のローレンスを始めとする部下達のサポートがあったとしてもまともに休める状態ではなくなる。そんな多忙さを極めるランスロットには密かな悩みがあった。
「……」
ローレンス達がいない団長室の中でカリカリとペンを走らせているランスロットの集中力は凄まじいの一言で表現できる。だが、その集中力を遮る存在が団長室にある為にランスロットの鋼の精神力でもそれは回避出来そうになかった。
「うにゃーん」
「っ、ルト……またお前はいつの間に入ってきたんだ」
「にゃ~ん」
黒の毛並みを持つオス猫のルト。騎士団の練習場にいつの間にか姿を見せて騎士達の癒しの存在になっていた猫だが、いつの頃からかロルゾ達が団長室のドアを空気の入れ替えの為に解放したままでいたのがキッカケで団長室に入り込む事を覚えてしまったのである。ルトは別にランスロットの執務を邪魔したりする事はしないのでランスロットの怒りが沸くと言う事はない。
ただ、ルトの丸まった姿を見ると執務で疲れている心が休息を求めて仕事を放棄させたくなるという気持ちを生み出す。それが今のランスロットには密かな悩みとして真面目に対処を間違えたら厄介だと考えなくてはならない状態であった。
「おーい、ランスロット~」
「どうしたロルゾ?」
「お、ルトは今日はここか。あ、いや、ロゼットから呼び出し来ているぞ」
「ロゼット様から? 知らせが来たか」
「何でも今年の応募者の中に耳に入れておきたい人間がいるってさ。もしかして、期待の新人でもロゼットの方で見付けたのかもしれないな」
「そうだといいんだが。ルトに餌を与えてやっておいてくれ。この暑さだ、ロクに水分も取れてないと他の騎士達が過剰に反応するからな」
「おう。それじゃハルウッドがそろそろ戻るだろうしルトに餌をやったら他の処理に入るわ」
「あぁ。頼む」
ロルゾから告げられたロゼットからの呼び出しに応じる為にランスロットは椅子から立ち上がり、ソファーで丸くなっているルトを一度優しく撫でてから団長室を出る。ルトはそれを見送って水と餌を用意してくれているロルゾに視線を向けてただ見つめているのだった。
ロゼットからの呼び出しに応じてロゼットの執務室に姿を見せたランスロットはそこで衝撃の事実を聞かされる。妹、アレスが新人騎士団の応募者リストに名を連ねていると言う事実だった。
「本当にアレス、なのですか?」
「間違いないと思われる。左手の甲に「アルボリス」の模様が刻まれている。これはエルンシア家の子供である証拠であろう?」
「恐らく父がアレスに刻むのであればその模様……。でも、どうして新人騎士募集に応募なんてしているんだ……」
「そこら辺も今調査しているが……どうも育ての親の影響だと考えられる」
「育ての親? 母親と一緒にいるのではないのですか?」
「現時点で分かっているのは、アレスの実母はアレスが4歳の頃に再婚相手の不倫相手に殺害されて、再婚相手にはアレスは懐かなかったので子供のいない老夫婦に育てられている、と言う事実だ。その老夫婦の地位が凄いのだがな」
ロゼットが調査の途中報告書をランスロットに見せる。そこに書かれている老夫婦の身分について記されている部分を読んだランスロットには更に衝撃があった。
老夫婦は現国王のケンベルトの乳母夫婦であり、今でもケンベルトに大事にされている貴族の人間だと言う事実にランスロットは眩暈を覚えてしまう。この老夫婦に育てられているのであればアレス自身の教育はそれなりに出来ていると信じてよう。
だが、それでアレスがどうして新人騎士の募集に応募をしたのかまでは検討がつかない。そもそもケンベルトの乳母である老夫婦ならば異母妹を探していると情報が公開された時に真っ先にケンベルトに知らせていてもおかしくない筈である。
「ロゼット様、この老夫婦はどうしてケンベルトにアレスの事を知らせなかったのでしょうか。何か理由でも?」
「それは老夫婦に聞いた陛下から言われたが……。アレス本人の至って強い希望から知らせるのを控えていたとお伺いしている」
「強い……希望?」
「アレスの身辺調査にも老夫婦は協力的でな。アレスの情報は今それなりに集まりつつある。だが、アレスはどうもお前と同じ神々に愛されている存在である事はまだ本人にも自覚がないと老夫婦から聞いている」
「アレスにも神託が聞こえている、と考えてもいいのですか?」
「まず間違いはないだろう。そして、お前の事を兄だとも認識はしている事も確認済みだ」
ランスロットはそこまで聞いてアレスがどうして自分の妹である事を伝えなかったのか? それについては顔を合わせて兄として伺うべきだろうと考えた。考えればランスロットはまだアレスとは対面すらした事のない状態で探していたのである。
ケンベルトやロゼットの力を借りなくては、新人騎士募集にアレスが応募している事も知る事は出来なかっただろう。それだけアレスと言う少女についての事をランスロットは知らない事が多過ぎたのである。
ロゼットの部下である女性が報告しに入ってきたのでランスロットは辞する事にした。執務室から出て通路を歩いていると、本日は曇り空であるがそれなりに風が城内の空気を涼しくしてくれていたがランスロットはその風すら感じない程に考え込んでいた。
「(俺はただ父さんが母さんとは別の女性に子供を産ませた、そう最後の遺言時に聞いてから最後の家族としてアレスを探し続けてきた。だが、蓋を開ければ俺は何一つアレスについて知らないままで、それがこうして近くにいるとしても知らないままでいる……兄としてそれが正しいとは思わない。だが、今更兄としてアレスに顔を会わせたとしてアレスは許すのだろうか……)」
胸の中に渦巻く不安と願い。それを消化させなくてはアレスとの対面に挑めない事もランスロットの心も分かっている。
団長室に戻るとローレンスとガルドが資料の整理をしながらランスロットの帰りを待ってくれていた。ロルゾとハルウッドはルトの為に簡易的な寝床の準備をしている様だった。
「戻った」
「お帰りなさいませ。ロゼット様に呼び出されたと聞いていたので午後の仕事に必要な書類を揃えておきました」
「あと、食事もまだだろうから食堂からチーズパンの差し入れを貰ってきたぞ」
「ありがとう。……2人は家族はティクスにいるんだったか?」
「私は既にこの年齢ですが娘と孫がおりますよ」
「俺は嫁と養子の息子がいるが?」
「2人はまだ会った事のない家族と再会する前に何も知らないままだったら……何かしら責任を感じるか?」
「アレス嬢の事で何か言われたのか」
「その答えになるかは不明ですが、まだお時間があるのではあればそこから知って理解を深める……それが出来うる最善の方法だと私は考えます」
ローレンスの言葉にランスロットの顔からも苦笑が浮かぶ。ガルドの貰ってきてくれたチーズパンを片手にソファーに座って一口齧りながら不意に色々とまた思考の海へと落ちて行くのを感じていた。
ガルドが紅茶の準備をしながらため息を小さく吐き出す。この状態になるのはあまりランスロットの中では意図しない行動なので外部の人間の声が届かない事が多い。
こんな時に緊急の判断が必要になった場合、正確な判断が出来るかは不透明である。ローレンスとガルドの心配を他所にパンを食べて行くランスロットの中ではアレスへの想いが色々と生まれつつあった。
「失礼します」
「どうかされましたか?」
「あ、実は今外部からの来訪者で国王陛下の乳母であるカレルご婦人がランスロット団長にご面会に参られておりまして。お通ししてもよろしいかお伺いに」
「陛下の乳母って、どうしてランスロットに用があるんだぁ?」
「……どうされますかランスロット様」
「通してくれ。皆も同席を頼む……アレスの事だろうからな」
ランスロットはそこまで話をしてカレル婦人が来るのを待つ事にした。知らせを受けて暫くしてから白髪の長い髪の毛を後ろで纏めている老女が若い騎士に案内されて団長室の応接室に姿を見せた。
ハルウッドとガルドの2人が入口に、ロルゾは窓の近くに、ローレンスは紅茶の用意をしているので団長室の奥に、ランスロットがカレル婦人に深々と一礼して出迎えた。カレル婦人は柔らかな微笑みを浮かべ丁寧な礼をしてくれたランスロットにこちらも深々と頭を下げる。
「この度は急な訪問をお許し下さい。陛下から今の時期の多忙さはお伺いしていたのですが、どうしてもお話を一度しておきたかったので無理を言って通してもらいました」
「いえ、カレル婦人が陛下の乳母様だとは本日ロゼット様からお伺いしていたので驚きはしましたが……アレスの事でお話にお見えになられたのかと思いまして」
「えぇ、陛下に本来なら情報が公開された時にお伝えしなくてはならなかったのですが……アレスに下された神託がそれを良しとはしなかった事もありお知らせするのが遅れました。今日お伺いしたのはその神託について兄であるランスロット様にお話をしておこうと思いまして。あまり喜ばしい内容ではありませんが……」
カレル婦人が案内されたソファーに腰掛け、持っていた手持ちバックから1枚の小さな紙束を取り出す。それを向かい側に座ったランスロットに差し出し読む様に促す。
受け取ったランスロットが紙束の内容を読み込むと、そこには神託だと思われる内容が書かれていた。それもカレル婦人が書いたのではなく、もっと若い人間の手による文字で。
「これは……」
「アレスが5歳の頃から聞いた神託を記録していた物になります。見てもらって分かる様に……神々は幼いアレスにこの先に起こるだろう、このティクス国の有事をお知らせしております。それが何を意味するか……ランスロット様にはご理解頂けるかと」
「アレスの存在は……ティクスの運命を担っているって事に繋がります、あくまでこの神託を読む限りは。ですが……、それがどうしてアレスが騎士になろうとしている理由に繋がるかは分かりません」
「貴方の傍で生きる為です」
「俺の……為?」
「神託の最新は分かりませんが、どうも5歳の頃に受けた神託の一部に兄であるランスロット様の事を思わせる言葉があった様なのです。それを聞いたアレスは歳を重ねていく内に貴方の傍にいて、共に生きていく事を強く望む様になりました。それはある意味兄と妹を超えた強い絆を生み出す程に。アレスは自分の手で護りたいのです。最後の家族であるランスロット様の事を」
カレル婦人がそう話してアレスの騎士へ応募した事の理由を教えてくれた。ランスロットの心はそれで深い苦しみを生むが、同時にアレスへの深い愛情も芽生えていた。
同席したローレンス達はまだ見ぬ妹であるアレスが騎士としてランスロットの傍にいる事になれば、ランスロットの事を護る為にどんな困難も乗り越えようとする事は安易に想像出来る。そして、それは同時にランスロットの運命を大きく動かす事も4人は分かってしまうのであった――――。
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