私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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2章

16話「試験開始」

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 持久力の試験が開始されて1時間経過した頃から脱落者が相次いだ。体力の限界・気力の限界・何より持久力の維持困難の者達が後を絶たない。
 アルも時々剣を落とし兼ねないレベルになり掛けているものの気力でなんとか持ち直しているから続けている。アルの様子を伺っていたアレスは少し冷や冷やしたものの、自分の事も限界に近いとか考えるとアルの事も気遣えない状態である事を考え直して自分の事に集中する。
「1時間でこの程度しかいないのか? 20名中15人も落ちるとか想像以上の落ち方だな」
「残り2時間、5名がどこまで食らい付けるか見物だな」
 監視官を務める騎士達はアレス達に聞こえる様に大声で話をしているが、アレス達はそれでも気合いで銀剣を振り続けていく。アルもアレスもなんとか中間時間で自分のペースに持ち込めた事も幸いして最後の時間まで剣を休まず、落とさずに試験を突破する。
 もう片方のグループの突破者はアレス達のグループと合わせて8名の人数しか残らなかった。その日の試験はそこで終わりを告げて宿舎に戻ってきたアレスとアルは食堂でお互いの努力を話し合う。
 アルは右腕に疲労感を感じながらスプーンでスープを飲んでいているが、アレスが利き腕を使わないで反対側の手で食事をしていた。2人はお互いの試験結果に苦笑しながら明日の試験について色々と話し合う。
「明日の試験が例年で言うなら最終試練になっている筈だ」
「最終試験なら、基礎の試験は終わっているよね? 今日まででの試験で」
「あとはどんな試験かは予想は尽かないんだよな。例年通りなら団長の指示の元で何かの試験になる筈なんだけれど、今までの試験内容を顧みると最終試験は今までのより過酷になりそうな予感がしている」
「明日の試験で全てが決まる……今までの努力が実るかが決まるね」
 アレスは右手を労わる様にして左手で食事をしていたが、アルがアレスの左手の甲に刻まれている模様に気付いて首を傾げる。アレスは少し言葉を選択しながらアルに自分の身の上を話していく。
 それを聞いていたアルはアレスが以前の国が公表していたランスロットの異母妹ではないか? と感じ取ってしまうが言葉にはしなかった。それがアルなりの優しさではあったがアルなりにアレスが色々と経験した上で騎士を目指しているのだろうと考えていた。
「私なりの形なんだ。兄さんの力になる為ならどんな事でもやってみせる。それが私の兄さんへの愛情だと思うから」
「アレスって……本当にお兄さん想いなんだな」
「ふふっ、私のたった1人の家族だから」
 そう柔らかな笑みを浮かべるアレスをアルは眩しいな、と思ってしまったがそれがアレスの魅力だとも気付く。そして、食事を終えた2人は別々に別れて入浴を済ませて部屋へと帰って行った。
 最終試験当日。広場には今までの試験を勝ち残ってきた8名の受験者達と、担当官の騎士達、そして……団長のランスロットの姿があった。
 この時にアレスはまともに兄であるランスロットの顔を見る事が叶った。8名の受験者達にランスロットはまず労いの言葉を紡ぎ、そして最終試験の内容を知らせる。
「まず、最終試験までの残った8名の皆にはここまでよく頑張ったと告げよう。だが、次の最終試験を見事突破した者こそが騎士としてこのティクス国を護る者となる事を理解して欲しい。最終試験は……野外実戦形式であるモンスターの巣穴の掃討を行ってもらう」
「実戦形式……」
「君達には1名につき1名の騎士をパートナーとして組んでもらい、目標のモンスターの巣穴のあるエリアに向かい巣穴の中に入り込んでそのモンスターを1匹残らずに駆除する事が最終試験となる。パートナーの騎士による目視にて掃討を確認後、報告に戻ってきてもらい試験終了とする。そして、この実戦形式では危険が大いにある為に緊急時は試験を優先をするのではなく自分の命を優先する事を条件とする。パートナーになる騎士が危険に陥ったとしても決して手助けをしようとかを考える必要はないと告げておこう」
 ランスロットの言葉が終わると担当官の騎士達が控えていた騎士達を呼び出す。現れた8名の騎士達はまだ見た感じでも分かる程の新人である事が伺える。
 アルのパートナーになる騎士は熱血タイプの騎士の様で、アルに挨拶代わりに握手を求めている。アレスのパートナーの騎士になる者は見た目が中世的な見た目をしている男性がアレスを見下ろして一言告げる。
「君が僕のパートナー? ふぅん……君、死ぬよ」
「……死にますか?」
「だって……そんな優しい瞳でモンスターを殺せるの?」
「それが試験内容ですから」
「それじゃ僕の力を借りないで掃討してみせなよ。まぁ、危ない目に遭ったら助けなくもないけれど」
「あの……」
「なに?」
「お名前をお伺いしてもいいですか?」
「僕の名? 僕はレイシアル。レイって呼ばれているよ」
「レイ様、もし私が危険な目に遭っても助けないで下さい。その場合はレイ様の安全を優先してもらって結構ですから」
「自分より僕の身を安全である事が優先するの?」
「私は一般の受験者。貴方様は立派な騎士様。どちらが優先されるべき命かは明らかです」
 アレスの言葉にレイはあまりのハッキリさに驚きは見せるが共感する事はない。だが、このアレスが自分の命よりもパートナーであるレイの命を優先する感覚は騎士には必要であるとレイは考えていた。
 そして、モンスターの巣穴が多数確認されているエリアに移動していく受験者達から遅れてランスロット率いる実力隊が移動を開始。目的のエリア到着後すぐにテントが張り巡らされて簡易陣営の設置が行われた。
 簡易陣営の中心地にランスロット達本体が入り指示を行い、受験者達は準備が整い次第集まりパートナーの騎士と共に巣穴のある場所へと向かって出立して行った。ランスロット達の情報では巣穴の数は丁度10個、その内の8個を今回掃討する事で試験として使用する事にする。
 ベテラン騎士達が出て行った騎士達とは離れた位置から動きを見守ってくれているので、掃討自体の危険度を下げてはいるが油断は出来ない所ではある。ガルド・ハルウッド・ローレンスに情報の処理を任せていたランスロットの元に報告が入る度に心臓が締め上げられる程の不安を持っているのはランスロットの心情を知る者達は理解している。
「あの洞窟が今回の目標であるモンスターのベルベルの巣穴だ。いいかい、間違っても1人で突っ走るんじゃないよ」
「分かりました。ベルベルと言えば集団行動をするモンスターですから、統率するリーダー格の個体を探すのが常套手段ですか?」
「そうだね。まず個体差による警戒心を上手く利用してリーダー格を孤立させて、そこを一気に叩く。ベルべルはその身体の構成上から胴体はヤギの身体、頭部は馬の姿をしているから、音に敏感で危機を知らせる為に鳴き声を上げて警戒を呼び掛ける習慣を持つ。鳴き声の高さでリーダー格を呼ぶ事もあるから個体を潰すのはリーダー格を潰してからが安全だ」
 レイの言葉をしっかり自分でも理解しているかを確認するように反芻するアレスをレイは小さく溜め息を漏らして前方に視線を向ける。事前に先輩騎士からアレスが今回の試験で無茶をしない様に制御する様に、と言い付けられている事はアレスには話をしていない。
 だが、それだけの情報を貰っていれば察しがいいレイは気付く。アレスが騎士団の誰かの身内である事を。
「(誰かの身内なら、その身内のコネを利用する方が楽だろうに。どうしてそれをしないでこんな危険な試験に挑むんだか。僕には分からないよ)」
 レイの考えを知らないアレスはジワジワと近寄るベルベルの巣穴に視線を向けていながらも周囲への警戒を怠る様子は見られなかった。案外このアレスは騎士としての適正を持っているのではないかと、レイの中では少し評価を修正する事になる。
 アレスとレイが担当する巣穴は他の巣穴より離れているせいか他の受験生達の姿は確認されない。それは逆に不安要素が1つ減ったと考えていいだろうとレイとアレスはアイコンタクトで突入のタイミングを計る。
 アレスの腰から支給されている銀剣を引き抜けばレイも同じ様に銀剣を引き抜き、巣穴の中に持っていた松明を投げ入れて火に驚いたベルベルが飛び出してくるのを確認後にアレスが先頭を切って切り掛かった。レイが先頭を走るアレスの背後を護る為に背後を走っているとアレスはまず暴れている入口付近のベルベルの心臓を正確に貫いて絶命させる。
「まず1頭!」
「そのまま左右のベルベルを仕留めるんだ!」
「はいっ!」
 レイが背後を護っているのを理解してアレスは迷いも見せないで左右に立ち尽くしているベルベルをまずは右側から切り伏せて行く。迷いのない真っ直ぐな剣を振るって確実に頭数を減らしていく。
 そして、入口に出ていたベルベルの集団をアレスは1人で倒し切ると息を整えて巣穴の中を覗き込んだ。レイが松明を拾い上げて洞窟内部を照らすと奥からまだ成体ではないベルベルが走って突撃してくる。
 そのベルベルをアレスは迷わず切り捨てていく姿はレイは小さく笑いながら見守っていたが、すぐにアレスに注意を促す言葉を掛けておく。一応なりにも先輩騎士からの指示を忠実に果たす意味合いで掛けたがアレスには意外だったらしく、キョトンとした視線を返された。
「なに?」
「あ、いえ……。レイ様がそう気遣ってくれるのが意外だったので」
「一応パートナーとしては受験者を死なせたりしたら騎士として恥ずかしいからね。ほら、要注意して。まだベルベルの気配があるよ」
「はい。すみません」
 アレスは意識を洞窟の奥へ向けて慎重に足を進めて行く。入口からだいぶ入り込んだ先でベルベルの巣穴が行き止まりになった。
 ここに来るまでにベルベルの抵抗はあったが、数にしてそんなに多くは無かったのでアレスとレイは過度に入り込んだ肩の力を抜く。入口に戻って外に出た時だった。
「た、助けてくれー!!」
「何事?」
「あっちから聞こえました。何かあったのでしょうか?」
 声が聞こえてきた方角に向かったレイとアレスが見たのは……数組の受験者とパートナーの騎士達が混戦入り乱れてベルベルの集団と戦っている光景だった。だが、普通のベルベルならばパートナーの騎士達が冷静であれば対処は出来る。
 レイは同期達の騎士に声を掛けようとして気付いた。ベルベルの様子がおかしい事に。
「何かが変だ……ベルベル達が異常に興奮している……」
「レイ様! 早く助けないと!」
「待つんだ! これはどう考えてもおかしい。団長達に知らせに行くべきだ。僕達だけじゃ助けれない!」
「でもっ!」
 アレスは今にも噛み殺されそうな受験者を見て剣を握る右手に力を込めて走り出す。レイが止めるのも聞かずにアレスは救援を呼ぶよりも目の前の救難を優先させた。
 レイは舌打ちをして近くに逃げていた受験者を捕まえてランスロットの元に知らせに行く様に命じると、受験者はすぐに頷いてその場から駆け出してランスロット達の元に知らせに行った。レイは1人で異常な興奮をしているベルベルの攻撃を凌いでいるアレスに駆け寄り、ベルベルの目を剣先で貫いて視力を奪って攻撃力を下げる。
 この異常な興奮をしているベルベルの猛攻撃にレイとアレスは立ち向かう。だが、2人だけでの奮闘もいつまでも持たない、そんな死を予兆させる瞬間が迫っている時、アレスに秘められし力が目覚めんとする。
 神々が愛した御子の覚醒が今まさに行われようとしていた――――。
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