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2章
17話「アクシデント」
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ベルベルの異常な興奮で受験者達の別のグループが壊滅的ダメージを受けている所を見たアレスとレイは迷わずに救難に入ったアレスをサポートするべくレイも戦闘を開始。逃げ出せた受験者にランスロット達に事態の緊急性を知らせる様に命じたレイの働きもあってアレスと一部の騎士達はなんとかベルベルの猛攻に耐え凌いでいたが。
「このままだと全滅するっ……足の動く者達は怪我人を連れて少しでもいい、離れろ!」
「っ……どうしてこんなにベルベルが攻撃的なの……?」
「レイ! どうもその巣穴の奥にこの状態を招いた原因があるみたいなんだ! それをどうにかしないとこの状態からは抜け出せそうにない!」
1人の騎士が足を怪我しているパートナーの受験者を護りながら下がっている途中でレイにそう告げる。示された巣穴に視線を向けたレイは異様な気配を察知してベルベルを切り伏せながら近付いていく。
アレスもどうにか猛攻を回避しながら切り伏せているがレイの様に確実仕留めれる腕前ではないので苦戦を強いられているが、まだ平常心を保てていた。レイが巣穴の奥を覗き込んで瞳を大きく開く。入口からでも分かる殺気の強さに存在感の強さ、これはどう考えても該当する存在をレイは本でしか読んだ知識でしかないがその存在の名を口にする。
「マザーベルベルがいるのか?」
「マザーだって!? それじゃこの異常な繁殖と興奮は……」
「マザーってなんですか!? 俺達死んじゃうんですか!?」
「落ち着いて下さい! ここで冷静さを失えば余計に死が近くなります! 落ち着いて!」
「アレス!」
パニック状態に陥る手前の受験者達を落ち着かせようと剣を振るっていたアレスの名を呼ぶ声。それは別の巣穴を担当していたアルの声で、同行していたパートナー騎士と共にこの現場に駆け付けてくれていた。
パートナーの騎士がすぐに回復魔法を唱えて治療をした受験者達を逃がしている間、アルはアレスの隣にまで駆け寄り同じ様に興奮状態のベルベルを仕留めに掛かる。アルも同じ様に巣穴の掃討を終わらせ帰還する為に歩いていた時に異変に気付き駆け付けたのだという。
「一体何が原因なんだ?」
「レイ様の言葉を聞く限り、マザーと呼ばれる個体がいるいみたい。それがきっとベルベル達の興奮と繁殖を促してるんだと思う」
「この事を団長達に知らせには?」
「既に向かってもらっている。でも、このままだと本隊が来る前に全滅し兼ねない……」
「ちょっとそこの君」
「あ、はい!」
「アレスを連れて下がって。ここは騎士の僕達が抑えるから受験者の君達は他の怪我人を連れて本隊を合流するんだ」
「けれど、騎士様達の人数的にこの数を相手するのは危険過ぎますよ! 俺も戦います!」
「バカな事を言うんじゃない。団長からも言われているだろう? 命の危機の時は騎士の僕達を優先するんじゃなくて自分の命を優先する様にって」
「でも!」
「レイ様、私も引き下がるつもりはありません。誰かを護るのに理由なんて必要ありませんから」
アルとアレスの強い言葉にレイも眉を寄せて2人に近寄るがこれ以上の話している時間はもうなかった。巣穴の奥からズルズルと這うような地滑りの音が聞こえてきて騎士達は一斉に剣を構えて警戒する。
アルとアレスも同じ様に剣を構えて警戒すると巣穴から背中に巨大な透明の羽根を持ち、腹部を大きく膨らませ、頭部の顔はまるで綺麗な能面を被っているかのように綺麗な皮膚で覆われた馬であり、胴体は離れていたも分かる位に脈打つ鼓動を響かせている巣穴の入れていたのが不思議な程の巨体を持つマザーベルベルが姿を見せた。マザーの身体がドスン、と地面に地響きを起こし振動がアレス達の足に伝わる。
明らかにこの巨体で警戒から解き放たれて殺意を丸出しにしているマザーは近くにいた受験者の男に狙いを定めてその巨大な鉤爪を振り翳す。自分に攻撃が迫っている事に気付いた男は恐怖のあまり逃げ出す事もままならなかったが、寸での所でパートナーの騎士が男の腕を引っ張り攻撃から逃がす事に成功するが、振り翳された鉤爪が降りた場所には穴が出来ていた。
「攻撃力も相当だな……食らったら一撃で死ぬ」
「これがマザーモンスター……」
「……」
アレス達はギリギリの攻撃範囲を見極めながらどう攻撃するべきか考えていた。だがその間にもマザーの身体からは無数のベルベルの成体が産み落とされて周囲に取り囲むように立ち上がる姿をアレス達は視界に治めている。
その頃、本隊にもマザーの存在が知らされて早急な対応を迫られていたが、ランスロットの冷静な状況判断が下されてランスロット・ガルド・ハルウッドを中心とした救助隊が既にマザーのいる場所に駆け付けようとしていた。ローレンスに逃げ出せた受験者達の保護と治療を頼んだランスロットは内心で舌打ちをしている。
「(まさかこの時期にマザーが存在しているとは予想外だった。それも1体だけならまだ良い方だが、クィーンマザーだけならいいがキングマザーも近くにいると考えるべきだろう。……アレス、無事でいてくれ!)マザー確認後早急に殲滅陣営を形成、攻撃を一切緩めずに息の根を止めるんだ!」
「ハルウッドは残っている連中のサポートを任せるぞ。攻撃は俺達に任せろ」
「分かりました。状況に合わせて私も判断をします」
しかし、ランスロット達本隊が到着した瞬間マザーのけたたましい鳴き声が周囲に響き渡った。この鳴き声はキングを呼ぶ為の鳴き声である事は本隊の面々もすぐに気付く。
現場に入ってすぐにランスロットはベルベルに囲まれているアレス達を見付ける。本隊の到着まで持ち堪えた事は素晴らしいと言えるが状況は最悪だった。
「大丈夫か!」
「団長! すみません! 受験者はこの子達だけなのですが、レイを庇って女性の受験者が猛毒の刃に襲われてしまい動かせんません!」
「っ、解毒魔法が使える者はその受験者をすぐに解毒しろ! 戦える騎士達はベルベルを切り捨てて退路を開け! いいか、1人たりとも死なずに帰るぞ!」
「アレス! しっかりしろ! アレス!」
「っ……」
アレスがマザーの毒に侵されてしまった。それはランスロットの怒りを買うには充分な事であり、ランスロットの中にある護りたいとの精神が強く引き出される事となる。
レイを庇う為に自分の身体を盾にしたアレスは体内を溶かされるような感覚を味わいながらも、徐々に解毒魔法で体内から毒が消えていくのを感じながらも必死に意識を保っていた。自分の護れる範囲で出来たのはパートナーの騎士であるレイを護る事。
自分とレイの存在価値は大きく異なる。自分はまだ騎士でもない受験者でレイは正式に騎士として自分のパートナーとして命じられて付き添ってくれた立派な騎士。
そのレイを死なせたら兄であるランスロットがどれだけ悲しみを抱き、また1人で抱え込んでしまうか……それを瞬時に考えた時身体は勝手に動いてマザーの攻撃からレイを庇っていたのである。レイは自分を庇って攻撃を受けたアレスにすぐに魔法で解毒の治癒を行っていたが自分の未熟さ故にこの少女を危険に晒した事が許せなかった。
「団長! キングマザーも来ました!」
「それも2頭です!」
「本当にマザーがこんな時期にいる事自体が異常だな……。全員、団長の私が許可する。マザーを一網打尽にする。遠慮は不要、迷わず殲滅しろ!」
「行くぞ!」
「若い者達を傷付けた借りは返すぜ!」
「レイ、状態は?」
「っ、解毒はある程度完了しましたが体力消費が激しくまだ動かすのは……」
「アレス嬢、アルフォッド、よく耐えましたね。もう大丈夫です。さぁレイはアルフォッドをサポートしながら下がりなさい。アレス嬢は私が抱き上げて下がりましょう」
「すみません……ハルウッド様っ」
「えっ……ハルウッドって……」
「話は後ですアルフォッド。今はこの場から離脱が先ですよ」
ランスロットの指示を受けたベテランの実力者揃いの騎士達がマザーモンスターを殲滅していく。その戦力はあっという間にマザーの息の根を仕留めるのは造作もなかった。
これが本当に騎士として戦ってきた実力者達である事を薄れ行く意識の中でアレスは見届けていた。アルフォッドとアレスを連れて本陣まで下がる事が出来たハルウッドはレイに他の受験者達の生存と人数の確認作業を任せてから、アルフォッドに状況の再確認の為に話を聞いていた。
アルも兄であると理解した目の前の騎士に戸惑いながらも本隊が来るまでの状況をしっかり報告してアルはローレンスの元に行く様にハルウッドに促されてテントを出て行った。アレスは意識を失ってはいるものの解毒が早かった事もあって命に別条はないだろうとハルウッドは安堵の息をする。
「とりあえず今回は死者が出なかったのは幸いでしたね。これもランスロット様とアレス様が神々に愛されていたから叶った出来事、だと思うのは些か出来過ぎですか」
「……んっ」
「目が覚めましたかアレス嬢?」
「……こ、こは……?」
「ここは本陣ですよ。もう大丈夫です。今頃マザーはランスロット様達により殲滅されている頃でしょう。気分はどうですか?」
「身体が……思っている以上に楽です……私、本当に生きていますか……?」
「えぇ、生きておいでですよ。貴女がレイを庇って毒牙に倒れたと分かった時はひやりとしましたが、こうして元気そうに会話を出来ていると知ったらランスロット様も酷く安心されます」
「兄に……哀しい想いをさせる所でした……」
「そう思うのであればこの試験結果がどうであれ、あの方に妹として会う事を願います。あのランスロット様が長年時間を掛けて貴女を探していたのはこんな目に遭わせる為ではありませんよ」
「……はい……」
「さぁ、少し眠っていなさい。体力が回復しないと宿舎にまで戻れませんから」
ハルウッドの右手がアレスの目元を覆い眠り魔法を掛けてやるとアレスは抗う事なくすんなり眠りへ意識を落として行った。アレスの身体を冷やさない様にハルウッドが毛布を掛けてテントを出て行くとアレスの寝ている横にヒラヒラと背中に白い羽根を持った存在が舞い下りる。
その存在は人々の言葉で呼ぶなら「天使」。その天使はアレスの寝ている身体の左手に触れると優しい光を模様に与えて静かに身体の中へと溶け込んでいくのを見つめていた。
「貴女はまだここで死ぬべき運命ではありません。神々の与えし運命を変えるべき存在であり運命なのですから」
天使の言葉をアレスは聞けていなかったが、身体に溶け込んだ光のおかげか顔色は見る見るうちに良くなっていく。天使はそれを見届けて静かに存在を消した。
ランスロット達本隊が本陣に戻って状況の報告を受けていたランスロットはマザーの存在を考えていた。まだ繁殖時期には程遠い時期にマザーの3頭も確認し殲滅に至った事はどう考えても自然的に起こっているとは考えにくい。
ローレンスはアルとレイから聞いた状況から考えられる事をランスロットに進言する。それはランスロットの中でも考えられる可能性の一部ではあった。
「やはり人為的にマザーを誘発した可能性がある、か」
「考えうる中ではもっとも可能性が高いかと、風読みしているロルゾの考えを聞かなければ断定は出来兼ねますが、どう考えても裏で何者かがマザーの個体に何かしらの方法で繁殖期の頃と同じ状況下に導いたと考えるべきでは」
「でもよ、誰がそんな事をする必要があるんだ? この巣穴の事に関しても今回試験で使う事は騎士団の人間でもない限り知り得ない情報だぜ?」
「可能性として……他国の関与があった、と見るべきでしょうか」
「……帰国後に極秘にはなるが洗い出しを行う。他国、つまりディズ国の関与が一番に考えられる以上、陛下にもそれなりの事をご報告しなくてはならない。……ハルウッド、アレスは?」
「今はお休みしてもらっております。体力が回復すれば自力で本国に戻れますから」
「皆、色々と迷惑を掛けた。結局甘やかしてしまったな……」
「でも、こればっかりは致し方ないぞ。マザーを相手にしてあの状況で死ななかっただけ評価出来る」
「そうでございます。受験者の他の者達に冷静さを促し状況的に逃げ出せなかったのに果敢に立ち向かったアレス様とアルフォッドは今回の功績者ですよ」
「我が弟の名が上がるのは少々気恥ずかしいですね。ですが、アルフォッドが最後までアレス嬢の傍を護っていたのは騎士として喜ばしい限りです」
「とりあえず最悪の事態は避けられた。今後はベルベルの討伐の事も慎重に行う必要があるから派遣部隊の再編成も考える。皆、最後まで申し訳ないが受験者達が本国に戻るまで護ってやってくれ」
ランスロットの言葉にガルド達は大きく頷き全員が今回の試験を終わった事に安堵する。結果としてアレスが傷付いた事はランスロットの中でアレスへの贖罪になるが、生きててくれた、それだけでランスロットの心は安心感に包まれているのであった――――。
「このままだと全滅するっ……足の動く者達は怪我人を連れて少しでもいい、離れろ!」
「っ……どうしてこんなにベルベルが攻撃的なの……?」
「レイ! どうもその巣穴の奥にこの状態を招いた原因があるみたいなんだ! それをどうにかしないとこの状態からは抜け出せそうにない!」
1人の騎士が足を怪我しているパートナーの受験者を護りながら下がっている途中でレイにそう告げる。示された巣穴に視線を向けたレイは異様な気配を察知してベルベルを切り伏せながら近付いていく。
アレスもどうにか猛攻を回避しながら切り伏せているがレイの様に確実仕留めれる腕前ではないので苦戦を強いられているが、まだ平常心を保てていた。レイが巣穴の奥を覗き込んで瞳を大きく開く。入口からでも分かる殺気の強さに存在感の強さ、これはどう考えても該当する存在をレイは本でしか読んだ知識でしかないがその存在の名を口にする。
「マザーベルベルがいるのか?」
「マザーだって!? それじゃこの異常な繁殖と興奮は……」
「マザーってなんですか!? 俺達死んじゃうんですか!?」
「落ち着いて下さい! ここで冷静さを失えば余計に死が近くなります! 落ち着いて!」
「アレス!」
パニック状態に陥る手前の受験者達を落ち着かせようと剣を振るっていたアレスの名を呼ぶ声。それは別の巣穴を担当していたアルの声で、同行していたパートナー騎士と共にこの現場に駆け付けてくれていた。
パートナーの騎士がすぐに回復魔法を唱えて治療をした受験者達を逃がしている間、アルはアレスの隣にまで駆け寄り同じ様に興奮状態のベルベルを仕留めに掛かる。アルも同じ様に巣穴の掃討を終わらせ帰還する為に歩いていた時に異変に気付き駆け付けたのだという。
「一体何が原因なんだ?」
「レイ様の言葉を聞く限り、マザーと呼ばれる個体がいるいみたい。それがきっとベルベル達の興奮と繁殖を促してるんだと思う」
「この事を団長達に知らせには?」
「既に向かってもらっている。でも、このままだと本隊が来る前に全滅し兼ねない……」
「ちょっとそこの君」
「あ、はい!」
「アレスを連れて下がって。ここは騎士の僕達が抑えるから受験者の君達は他の怪我人を連れて本隊を合流するんだ」
「けれど、騎士様達の人数的にこの数を相手するのは危険過ぎますよ! 俺も戦います!」
「バカな事を言うんじゃない。団長からも言われているだろう? 命の危機の時は騎士の僕達を優先するんじゃなくて自分の命を優先する様にって」
「でも!」
「レイ様、私も引き下がるつもりはありません。誰かを護るのに理由なんて必要ありませんから」
アルとアレスの強い言葉にレイも眉を寄せて2人に近寄るがこれ以上の話している時間はもうなかった。巣穴の奥からズルズルと這うような地滑りの音が聞こえてきて騎士達は一斉に剣を構えて警戒する。
アルとアレスも同じ様に剣を構えて警戒すると巣穴から背中に巨大な透明の羽根を持ち、腹部を大きく膨らませ、頭部の顔はまるで綺麗な能面を被っているかのように綺麗な皮膚で覆われた馬であり、胴体は離れていたも分かる位に脈打つ鼓動を響かせている巣穴の入れていたのが不思議な程の巨体を持つマザーベルベルが姿を見せた。マザーの身体がドスン、と地面に地響きを起こし振動がアレス達の足に伝わる。
明らかにこの巨体で警戒から解き放たれて殺意を丸出しにしているマザーは近くにいた受験者の男に狙いを定めてその巨大な鉤爪を振り翳す。自分に攻撃が迫っている事に気付いた男は恐怖のあまり逃げ出す事もままならなかったが、寸での所でパートナーの騎士が男の腕を引っ張り攻撃から逃がす事に成功するが、振り翳された鉤爪が降りた場所には穴が出来ていた。
「攻撃力も相当だな……食らったら一撃で死ぬ」
「これがマザーモンスター……」
「……」
アレス達はギリギリの攻撃範囲を見極めながらどう攻撃するべきか考えていた。だがその間にもマザーの身体からは無数のベルベルの成体が産み落とされて周囲に取り囲むように立ち上がる姿をアレス達は視界に治めている。
その頃、本隊にもマザーの存在が知らされて早急な対応を迫られていたが、ランスロットの冷静な状況判断が下されてランスロット・ガルド・ハルウッドを中心とした救助隊が既にマザーのいる場所に駆け付けようとしていた。ローレンスに逃げ出せた受験者達の保護と治療を頼んだランスロットは内心で舌打ちをしている。
「(まさかこの時期にマザーが存在しているとは予想外だった。それも1体だけならまだ良い方だが、クィーンマザーだけならいいがキングマザーも近くにいると考えるべきだろう。……アレス、無事でいてくれ!)マザー確認後早急に殲滅陣営を形成、攻撃を一切緩めずに息の根を止めるんだ!」
「ハルウッドは残っている連中のサポートを任せるぞ。攻撃は俺達に任せろ」
「分かりました。状況に合わせて私も判断をします」
しかし、ランスロット達本隊が到着した瞬間マザーのけたたましい鳴き声が周囲に響き渡った。この鳴き声はキングを呼ぶ為の鳴き声である事は本隊の面々もすぐに気付く。
現場に入ってすぐにランスロットはベルベルに囲まれているアレス達を見付ける。本隊の到着まで持ち堪えた事は素晴らしいと言えるが状況は最悪だった。
「大丈夫か!」
「団長! すみません! 受験者はこの子達だけなのですが、レイを庇って女性の受験者が猛毒の刃に襲われてしまい動かせんません!」
「っ、解毒魔法が使える者はその受験者をすぐに解毒しろ! 戦える騎士達はベルベルを切り捨てて退路を開け! いいか、1人たりとも死なずに帰るぞ!」
「アレス! しっかりしろ! アレス!」
「っ……」
アレスがマザーの毒に侵されてしまった。それはランスロットの怒りを買うには充分な事であり、ランスロットの中にある護りたいとの精神が強く引き出される事となる。
レイを庇う為に自分の身体を盾にしたアレスは体内を溶かされるような感覚を味わいながらも、徐々に解毒魔法で体内から毒が消えていくのを感じながらも必死に意識を保っていた。自分の護れる範囲で出来たのはパートナーの騎士であるレイを護る事。
自分とレイの存在価値は大きく異なる。自分はまだ騎士でもない受験者でレイは正式に騎士として自分のパートナーとして命じられて付き添ってくれた立派な騎士。
そのレイを死なせたら兄であるランスロットがどれだけ悲しみを抱き、また1人で抱え込んでしまうか……それを瞬時に考えた時身体は勝手に動いてマザーの攻撃からレイを庇っていたのである。レイは自分を庇って攻撃を受けたアレスにすぐに魔法で解毒の治癒を行っていたが自分の未熟さ故にこの少女を危険に晒した事が許せなかった。
「団長! キングマザーも来ました!」
「それも2頭です!」
「本当にマザーがこんな時期にいる事自体が異常だな……。全員、団長の私が許可する。マザーを一網打尽にする。遠慮は不要、迷わず殲滅しろ!」
「行くぞ!」
「若い者達を傷付けた借りは返すぜ!」
「レイ、状態は?」
「っ、解毒はある程度完了しましたが体力消費が激しくまだ動かすのは……」
「アレス嬢、アルフォッド、よく耐えましたね。もう大丈夫です。さぁレイはアルフォッドをサポートしながら下がりなさい。アレス嬢は私が抱き上げて下がりましょう」
「すみません……ハルウッド様っ」
「えっ……ハルウッドって……」
「話は後ですアルフォッド。今はこの場から離脱が先ですよ」
ランスロットの指示を受けたベテランの実力者揃いの騎士達がマザーモンスターを殲滅していく。その戦力はあっという間にマザーの息の根を仕留めるのは造作もなかった。
これが本当に騎士として戦ってきた実力者達である事を薄れ行く意識の中でアレスは見届けていた。アルフォッドとアレスを連れて本陣まで下がる事が出来たハルウッドはレイに他の受験者達の生存と人数の確認作業を任せてから、アルフォッドに状況の再確認の為に話を聞いていた。
アルも兄であると理解した目の前の騎士に戸惑いながらも本隊が来るまでの状況をしっかり報告してアルはローレンスの元に行く様にハルウッドに促されてテントを出て行った。アレスは意識を失ってはいるものの解毒が早かった事もあって命に別条はないだろうとハルウッドは安堵の息をする。
「とりあえず今回は死者が出なかったのは幸いでしたね。これもランスロット様とアレス様が神々に愛されていたから叶った出来事、だと思うのは些か出来過ぎですか」
「……んっ」
「目が覚めましたかアレス嬢?」
「……こ、こは……?」
「ここは本陣ですよ。もう大丈夫です。今頃マザーはランスロット様達により殲滅されている頃でしょう。気分はどうですか?」
「身体が……思っている以上に楽です……私、本当に生きていますか……?」
「えぇ、生きておいでですよ。貴女がレイを庇って毒牙に倒れたと分かった時はひやりとしましたが、こうして元気そうに会話を出来ていると知ったらランスロット様も酷く安心されます」
「兄に……哀しい想いをさせる所でした……」
「そう思うのであればこの試験結果がどうであれ、あの方に妹として会う事を願います。あのランスロット様が長年時間を掛けて貴女を探していたのはこんな目に遭わせる為ではありませんよ」
「……はい……」
「さぁ、少し眠っていなさい。体力が回復しないと宿舎にまで戻れませんから」
ハルウッドの右手がアレスの目元を覆い眠り魔法を掛けてやるとアレスは抗う事なくすんなり眠りへ意識を落として行った。アレスの身体を冷やさない様にハルウッドが毛布を掛けてテントを出て行くとアレスの寝ている横にヒラヒラと背中に白い羽根を持った存在が舞い下りる。
その存在は人々の言葉で呼ぶなら「天使」。その天使はアレスの寝ている身体の左手に触れると優しい光を模様に与えて静かに身体の中へと溶け込んでいくのを見つめていた。
「貴女はまだここで死ぬべき運命ではありません。神々の与えし運命を変えるべき存在であり運命なのですから」
天使の言葉をアレスは聞けていなかったが、身体に溶け込んだ光のおかげか顔色は見る見るうちに良くなっていく。天使はそれを見届けて静かに存在を消した。
ランスロット達本隊が本陣に戻って状況の報告を受けていたランスロットはマザーの存在を考えていた。まだ繁殖時期には程遠い時期にマザーの3頭も確認し殲滅に至った事はどう考えても自然的に起こっているとは考えにくい。
ローレンスはアルとレイから聞いた状況から考えられる事をランスロットに進言する。それはランスロットの中でも考えられる可能性の一部ではあった。
「やはり人為的にマザーを誘発した可能性がある、か」
「考えうる中ではもっとも可能性が高いかと、風読みしているロルゾの考えを聞かなければ断定は出来兼ねますが、どう考えても裏で何者かがマザーの個体に何かしらの方法で繁殖期の頃と同じ状況下に導いたと考えるべきでは」
「でもよ、誰がそんな事をする必要があるんだ? この巣穴の事に関しても今回試験で使う事は騎士団の人間でもない限り知り得ない情報だぜ?」
「可能性として……他国の関与があった、と見るべきでしょうか」
「……帰国後に極秘にはなるが洗い出しを行う。他国、つまりディズ国の関与が一番に考えられる以上、陛下にもそれなりの事をご報告しなくてはならない。……ハルウッド、アレスは?」
「今はお休みしてもらっております。体力が回復すれば自力で本国に戻れますから」
「皆、色々と迷惑を掛けた。結局甘やかしてしまったな……」
「でも、こればっかりは致し方ないぞ。マザーを相手にしてあの状況で死ななかっただけ評価出来る」
「そうでございます。受験者の他の者達に冷静さを促し状況的に逃げ出せなかったのに果敢に立ち向かったアレス様とアルフォッドは今回の功績者ですよ」
「我が弟の名が上がるのは少々気恥ずかしいですね。ですが、アルフォッドが最後までアレス嬢の傍を護っていたのは騎士として喜ばしい限りです」
「とりあえず最悪の事態は避けられた。今後はベルベルの討伐の事も慎重に行う必要があるから派遣部隊の再編成も考える。皆、最後まで申し訳ないが受験者達が本国に戻るまで護ってやってくれ」
ランスロットの言葉にガルド達は大きく頷き全員が今回の試験を終わった事に安堵する。結果としてアレスが傷付いた事はランスロットの中でアレスへの贖罪になるが、生きててくれた、それだけでランスロットの心は安心感に包まれているのであった――――。
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