私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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6章

42話「崩れていく平和」

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 アキュートスが見せているディズ国の過去の日々、それが過去の栄光であるディズ国の日常がそこには映し出されていた。ワット王と部下達はアキュートスに毎日祈りを捧げて平和なディズ国を守る様に願いを残す。
『聖なる武器、アキュートスよ。どうかこの国に神々のご加護が与えられるように祈りを捧げん』
『ワット陛下、アキュートスに魔力を込め終わりましたら魔法研究者達からのご報告が』
『いよいよ、禁呪が完成したか?』
『可能性的には高いかと。まずはお話をお伺い下さいませ』
『参るぞ。このガハランド大陸を統治せねばまた悪魔の再来を促してしまうからな』
 ワット王と腹心の部下達はアキュートスを宝物庫に置いたまま玉座の間に引き上げていく。そして、どれぐらいの時間が経過したかは分からないが、アキュートスの記憶の最後に残されている映像が写し出された。
 周囲は生気を失い、死の香りが満ちているだけのディズ国の宝物庫にワット王が半分骨と化している姿でやってくる。そして、骨に近い右手でアキュートスに触れて告げる。
『いよいよ、この国を贄として目覚めさせる事が出来た……。奴が覚醒する時、このディズ国こそがガハランド大陸の最強を名乗る事が許される筈だ……! そして、神々は私を見直すのだろう……私こそが、神々に最も近い存在であった事にな……!』
 ワット王が告げた真実、何かを目覚めさせた事をランスロット達は知った。だが、何を目覚めさせたのか? 国1つを生贄にして目覚めさせる者とは? アキュートスから放たれる光が消えると周囲は静寂に包まれていく。
 ロゼットもやってきて、ランスロット達からディズ国の目的が明かされる。そして、国自体は報告にもあった様にもはや死者の国だとして認識してもいいだろうと判断して撤収する事にした。
 空が異様に暗い事にロルゾが気付き、それが一部だけの暗さである事に気付いた。
「ランスロット! 何か”来る”ぞ!!」
「なんだ? あれは……ドラゴン、か!」
「全員、戦闘隊形を取れ! 迎え撃つぞ!」
『我が名はレードリッグ! かのディズ国の王であるワットの願いを贄に蘇りしブラックドラゴン! このガハランド大陸を支配せん!』
「本気かよ!? ブラックドラゴンってドラゴン族の中でも一番の狂暴なドラゴンじゃねぇか!」
「つべこべ言わず、攻撃態勢を取れロルゾ! 食われるぞ!」
 ロルゾとガルドが戦闘隊形を取りながら、ハルウッドとロゼット、ランスロットも攻撃をする為に武器を構える。空を飛ぶドラゴン相手に魔法部隊の魔法で翼を攻撃する事から始まるが、魔法部隊の殆どがドラゴンのブレスでバリアを展開しているので攻撃に移行出来ないでいた。
 ロルゾが弓兵を引き連れて風を読んで弓の軌道を確保すると、一斉に弓でドラゴンの翼を狙う。当たっているのだろうが大してダメージが入っていないらしい。
 翼が大きく羽ばたくだけで暴風が巻き起こり、騎兵部隊はそれだけで後方に下がらなくてはいけない。ブレスは魔法部隊が引き受けているがそれだけしか出来てない。
「ロゼット、秘密部隊と俺の魔法を使えないだろうか?」
「考えてみてもいいが、魔法が効くといいんだが」
「どちらにせよ俺達が攻勢に出なくては他の部隊の耐久を考えると、あまり時間の猶予は無いのかもしれない。俺が囮になるから、その隙にロゼットは翼を仕留めてくれ」
「いいだろう。無理はするな」
 ランスロットがラインハッドに光を宿してドラゴンの前に躍り出る。そしてドラゴンはラインハッドの光に瞳を細めてニヤリと笑った。
 尻尾でまずランスロットの足場にダメージを与えて足場を不安定にさせていく。ランスロットはその場から飛び上がり風の魔法を足に掛けて少しの浮遊状態を維持する。
 ドラゴンのブレスがランスロットに向けられる。それと同時に今までのブレスを受けていた魔法部隊がすぐにランスロットの周囲にバリアを張っていく。
「はぁぁぁ!」
『甘いわ! その程度の力で我を止めるなんて愚かである! 愚かな人の子に粛清を!』
「俺はお前に対して負ける要素は持ち合わせていない!」
『人の力などに我は屈せぬわ! 殺してやる! このガハランド大陸を支配するのは破者の王ではない! 我こそが王なのだ!!』
 ブラックドラゴンの口から出た破者の王と言う言葉にランスロットの瞳が微かに細まる。このドラゴンは過去の王と戦った記憶でもあるのだろうかと思わせる。
 ランスロットのラインハッドが段々とブレスを破りドラゴンの口に迫る。ドラゴンはブレスを強化しようと火球も生み出すがランスロットの方が一足早かった。
 ラインハッドの先端が火球を打ち砕き、そのままドラゴンの口を突き刺す。それと同時にロゼット達が翼に攻撃を仕掛けてドラゴンは多方面からの攻撃に流石に怯む。
 ズルっとドラゴンが地面に落下する、それと同時に追撃を仕掛けるランスロットの攻撃がドラゴンの喉を貫通してドラゴンはブレスが吐けなくなってしまう。ロゼットがガルドとハルウッドと共に翼を総攻撃し、翼もボロボロになってしまえばドラゴンは長い爪先と尻尾のみでの物理攻撃を仕掛けてくる。
「そのまま一気に畳み掛けろ!」
『グヌヌッ! だが! 我は負けぬ!』
「なっ、まだ体力があると言うのかよ!?」
「流石はドラゴンですね……。このままでは持久戦もそう長くは出来ませんね」
「光よ、我に力を与えたまえ!」
 それぞれが総攻撃を与えているがブラックドラゴンの体力は減るどころか、傷付きながらも攻撃を止めない。騎士達が1人また1人と致命傷を受けて息絶えていく。
 これがディズ国の狙いだったのか? それとも別の狙いがあるのだろうか? ランスロットの脳裏には色々な疑問が浮かんでいた。そして、ドラゴンは魔力を高めて身体に闇の光を纏わせ始める。
 それを止めようと騎士達が攻撃を仕掛けるがドラゴンの身体は闇の光に包まれて上空に舞い上がっていく。それに危機的判断をしたのはロゼットとロルゾだった。
「皆、離れよ!!」
「ドラゴンから離れろ!! 何か仕掛けて来るぞ!!」
「なんだ!?」
「う、うわぁぁぁぁ!?」
 ドラゴンの闇の光が周囲に散った、かと思うとその一帯が「無」の空間が広がった。その場にいた騎士達が飲み込まれて消えていた。
 これにはランスロットの額からも汗が流れ落ちる。このままだとあの闇の光を払い落さないと一向に体勢はよろしくない状態になってしまうだろう。
 ロルゾとガルドが合流し、ハルウッドとランスロットが合流し、ロゼットは秘密部隊を伴ってドラゴンの下から離れている。全員が空に浮いているドラゴンを見上げているが、攻撃手段が持ち合わせていないのが現状である。
「このままだとどうにも出来ないぞ!?」
「闇の光さえなんとか出来りゃいいんだろうが……」
「ランスロット様、如何致しますか?」
「……少し試してみたい事がある。他の部隊を指揮して回避行動に移ってくれ」
「分かりました。ガルド、ロルゾ!」
「「了解!!」」
 ハルウッドとロルゾ、ガルドが各部隊の指揮を執りながら回避行動に専念し、ロゼットはランスロットの周囲に光が満ち始めているのに気付き何をしようとしているのかを察する。その為に囮になる為、部隊と共にドラゴンの注意を引き付けに掛かる。
 ランスロットはラインハッドの剣に祈りを捧げて光の力を集めて、その光が最大になった時に詠唱に入る。元々ランスロットが聖騎士団団長になれるだけの力があるのは、この聖属性である魔法の使用が出来るからだ。
「神々の聖なる力に導かれし聖なる者達よ。我が声が聞こえたならば舞い降り給え。この地に汝らの加護を求める者達の力となり給え」
 詠唱を口にしてラインハッドに蓄積された光が天に貫く様に放たれて、そこから無数の光の矢がドラゴンに向かって降り注ぐ。その光の矢がドラゴンに当たると闇の光が薄れていき、ドラゴンの身体全体に光の鎖が絡まっていく。
 ドラゴンの身体に絡まる鎖は次第にドラゴンを締め上げていき、鎖のせいで翼を広げる事も出来ない。地上に落下していくドラゴンに追撃するように空から背中に白い羽根を持つ人種、天使達が総攻撃を仕掛けていく。
 これがランスロットのみに使える「天使騎士」召喚の聖魔法である。これによる天使騎士達の総攻撃を受けたブラックドラゴンの身体は身体中に絡み付く鎖のせいで身動きも取れず、そして、身体中から血が流れ出ているのが大地に血だまりを生み出している。
「あれが……聖魔法の中でも上位魔法だと言われている召喚魔法」
「ランスロットのみに許されている魔法だっけか」
「あれが使えるからって事でロゼットは引退を考えたって話だ。まぁ、天使騎士なんて普通に呼ぶ事も出来ないからな」
『貴様……神の申し子か!?』
「そう呼ぶ者達もいるが、俺は俺に加護を与えて下さっている神々の力になっているだけの存在だ。さぁ、ブラックドラゴン、お前の最後だ!」
『ウヌヌヌッ! だが、面白い……我が死んだとてあの者にとっては依代の存在がこんなにも傍にいた事に気付くだろう。そして、同時にこのガハランド大陸を支配するのは我でなくともあの王たる男だろう……グハッ!』
「依代? 男? 一体なんの事だ……?」
 ランスロットのみに聞こえた言葉にランスロットは眉を寄せながら考える。だが、ブラックドラゴンの死体は既に大地の中に沈んでいき、消えていた。
 部隊を纏めていたハルウッド達が集まるが、ランスロットの中には疑問しか残らなかった。まるでこの先の事についてブラックドラゴンは予言した、としか言いようがないからである。
 ロゼットはランスロットの傍に来て部隊の被害状況から急いで本国に戻るべきだと告げてきた。それもそうかとランスロットはすぐにティクス国への帰国を促す命令を出す。
「でも、これでディズ国の脅威は消えたんだな。なんちゅうか……支配を目論むなんて悲しいな」
「それこそが王となる者達の考え、とでも言うのだろうよ。その点ティクス国は本当に陛下が穏やかで聡明であられて良かったわ」
「ティクス国の王たる方の騎士でいられて良かったですよ私は」
「喋るのはいいが、帰国までしっかり指揮を執れ。お前達の指揮次第だと帰国が遅くなるからな?」
「へーい」
 ランスロットの言葉にロルゾ達は素直に従っていく。ランスロットの耳にはブラックドラゴンの言葉がどうしても残ってしまっている。
 依代、男、この言葉に連なる出来事が未来に起きるのは明らかに分かる。だが、そんな未来だとしてもランスロットの行く手を阻む者達は切り裂くのがランスロットの流儀なのだろう――――。
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