私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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6章

48話「ティクス国の強み」

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 ケンベルト死去後のティクスは大きな混乱が起きる事はなかった。それもそう、政治の面では大臣達をまとめ上げているロゼットの手腕が発揮されて大きな混乱を招く事は無かったからだ。
 それとは別に次期国王と分かっているロック王子の後見人に聖騎士団団長、ランスロット・エルンシアがなる事でも混乱より安心感が市民に生れていたのが何より大きい。ティクスの強みは国王に依存する事のない政治と国のあり方にある。
 そして、それを可能としているのはケンベルトが進めていた「人材発掘」による身分に囚われない才能者の採用にあった。大臣達の大半もこれにより身分のある者ではなく、市民や学者から成り立っている。
 その結果、国王に依存して成り立つ国ではなくなった。それがこうして国王不在の間の国を護っている。
「これも見越して陛下はお考えであった、と言うべきか」
「そうだとしたらあいつは本当に王としての器に恵まれていたというべきだろうな。それでロック王子の国王王位継承の儀式だが」
「どこまで進んでいる?」
「8割は終わっている。残り2割は大臣達の意見を元にした儀式内容を考えたい。騎士団で出来るのはパレードと着任式の護衛だけでもある」
「ふむ。まぁ王子の事を優先するのであれば大臣達の考えも聞かねばなるまい」
 ロゼットの言葉と共に考えられる問題点をランスロットは考えていた。そんなランスロットをロゼットの視線が捕らえる。
 ランスロットはロゼットの視線に気付き顔を上げる。ロゼットの視線にはアレスの世話役着任についての説明を求める意味が含められていた。
「別に本人の希望を優先したまでだ」
「それでお前が納得しているとは思えないが?」
「納得するも何も、お互いに話し合って決めた事がそんなに問題か?」
「まるでお前達2人はこのティクスの為に自分達を犠牲にしている様にしか見えない」
「そう見えているなら光栄だな」
「本気か」
「俺もアレスも騎士団の人間だし、エルンシア家の人間だ。国の為に尽くすのが本来の姿なんだ。それをお互いに受け入れているだけだ」
「……それがお前が陛下に向ける義理か」
「……なんと言われても俺達の決めた事だ。ケンベルトも分かってくれる」
 ランスロットはそこまで言いながら資料に視線を戻す。ロゼットの脳裏には生前のケンベルトの言葉が浮かんでいた。
 死の間際になってもケンベルトはランスロットの事を気遣っていた。自分の為にあの男は自分を殺す事も厭わない性格、であると。
 それが今顕著に出ている事に頭を痛めてしまう。ケンベルトへの恩義を果たす為にこの兄妹は自分達を犠牲にし始めている。
 それが本当の意味で2人を苦しめるのであれば、ケンベルトも浮かばれない。早急に何かしらの手を打たねばなるまい、とロゼットの経験が警鐘を鳴らす。
――――
「アレス」
「どうされましたか王子」
「ここはどういう意味ですか?」
「ここはですね」
 ロックの部屋でアレスはロックの質問に答えていた。近衛騎士として正式に王子の身辺を護る様になってからメイド以上の働きまでしているアレスにロックも心を開いていた。
 アレスの事を姉の様に慕い、そして、先日正式に決まった後見人にはアレスの兄であるランスロットだと聞いてロックはアレスにランスロットの事を質問していた。アレスはランスロットの事をこう表現していた。
 「強くて、でも、心は優しい騎士の鏡である方」と。アレスとランスロットの事を知っている者達はアレスがこの時に恋人だと言わなかった事には驚愕していた。
 だが、ランスロットの事をそう告げるだけの信頼を寄せているのも理解していたが、ロックはアレスとランスロットの事を本当に信頼している。それは第3者から見ても分かる程にまるで姉弟の様にアレスにくっ付いて回るロックを見れば分かる。
 いつかはランスロットの事を恋人と明かすだろうと思っていたが誰一人信じれない言葉をアレスは告げる。それはロックがアレスとランスロットが恋人だと誰からか聞いた時にアレスへ質問した際の返事であった。
「アレスはランスロットと恋人だと聞きました。本当ですか?」
「……兄ですよ。誰よりも近い、誰よりも信頼している兄で、団長です」
 アレスがランスロットと恋人ではないと断言したのを他の者達は驚くしかなかった。そして、それはランスロットにも見られた。
 同じようにロックがランスロットにアレスと恋人か? と問われた際にアレスと同じ様に兄妹だと答えているのをロルゾ達も聞いていた、そして、その言葉に2人の決意を知る。
 ランスロットはエルンシア家の人間としての立場を持ち、聖騎士団団長の立場を持つ。そしてそれはアレスも同じ、エルンシア家の人間としての立場を持ち、聖騎士団騎士としての立場を持つ。
 お互いの立場を理解しているからこそ、2人はこのティクスが弱っている時にお互いの事を愛する事は出来ないと判断したのである。その結果、恋人関係を解消していたのである。
「俺達はあの2人が一緒にいる事が当たり前の事だと思っていた……それが2人を追い詰めていたのかねぇ……」
「でもよ、ランスロットもアレスもどうしてもその判断をしなきゃいけないって決めるのは簡単じゃなかった筈だ。落ち着けば、きっとまた以前の様に戻ると信じるしかねぇ」
 ロルゾとガルドは団長室で机を挟んで話す。だが、この団長室の主であるランスロットもそう簡単に団長室に戻れない日々が続いていた。
 ロック王子の王位継承の儀式が迫っている。その責任者でもあり後見人にでもあるランスロットも王子の為に色々と動き回っているのである。
 ローレンスとハルウッドのサポートがあるとは言え、ランスロットの激務は日に日に増している。いつもならアレスがサポートしていた、だが、そのアレスも王子の近衛騎士として王子に付き従っているし恋人じゃないとなると、もはやランスロットの過労で倒れる日は近い。
 ガルド達はどうにか少しでもランスロットの過労が重ならない様にと、書類の仕事をせっせと自分達で書類する事を毎日続けていた。そんな日が続いてロック王子王位継承の儀式が行われる当日。
「事前に打ち合わせしていた通りに準備を進めてくれ。王子のパレードでは市民の乱入を気を付ける様に」
「……」
「どう見ても最終ボーダーライン突破してんよな……」
 ランスロットの過労はもうすぐで振り切れる。そう分かる程に付き合いの長い者達には分かってしまう。
 だが、今日までの激務は全てこの日の為にあった。王位継承の儀式がすべからく終わればランスロットの身体も休まる事になる。
 パレード中は王子の傍にはランスロットの姿があり、王城の入口にアレスが近衛兵として控えている光景は既に見慣れているものであった。そう、これが「当たり前」だと認識してしまえる程の時間が経過してしまったのである。
 パレードも無事に終わり、王城の入口にロック王子が到着すると近衛騎士のアレスがランスロットの命令で王子を玉座の間にお連れする。ここからは大臣達とロゼットの管轄である。
 立場のある者達、騎士団の一部、そして、大臣達に囲まれてロック新王の王位継承の儀式が慎ましく終わった。王としてバルコニーに立つロックをアレスは静かに護る。
「これでティクスの弱体化も収まる。皆、よく本日まで頑張ってくれた。すぐに全員に休みを与えれないが交代をしながら各自休みを取ってくれ」
 騎士団の中庭で騎士達にそう告げたランスロットは団長室に戻って行く。ロルゾ達とランスロットは激務の間に溜まった仕事を捌いていたがローレンスが空を見上げてランスロットに告げる。
「ランスロット様、そろそろお帰り下さい」
「何故だ? 俺がまだ仕事を終えてないと分かるだろう?」
「最近の激務がありましたから、今日くらいはお身体をお休みさせるべきかと。急ぎの仕事はありませんので今日はお帰り下さい」
「そうだぜ。今ランスロットが倒れたら陛下にも心配を掛けちまうぞ」
「お屋敷まではガルドとハルウッドが付き添います。どうぞお休み下さい」
「……そうするか。それじゃすまないが先に失礼する」
 聞き分けのいいランスロットが立ち上がりガルドとハルウッドを連れて下城する。ロルゾとローレンスは深い溜め息を吐き出す。
 以前のランスロットなら聞き分けのいい時には大体アレスの言葉があった。だが、もはやそれは叶わない状態である。
 アレスは近衛騎士でありながらロック新王の側近として騎士団と王族の板挟みを自分でしている。その騎士団を纏めているランスロットの傍に寄る事は皆無だった。
「こんな状態、いつまで続くんだ……?」
「お2人が考え直さない限りは無理かと。こんな状況は前王のケンベルト様はお望みじゃないでしょうに……」
「失礼するぞ」
「ロゼット」
「どうかされましたか? ランスロット様でしたらすれ違いで下城されましたが」
「いや……入りなさい」
「失礼します……」
 ロゼットが連れて来たのはアレスによく似た女性であった。ローレンスもロルゾもその女性には見覚えのない。
 ロルゾがロゼットの真意を問う。ロゼットはこの女性をランスロットの世話役に付けると言い出したのである。
「本気か?」
「アレスに似ているのはせめても償いだ。思っている以上にランスロットとアレスにあまりいい風が吹かないのでな」
「どういう事ですか?」
「……陛下がアレスを妻にしたいと相談してきた」
「「!!」」
「すぐに答えを求められていないが、直にアレスにも伝えるだろう陛下は。ランスロットとの関係を知らないとは言え、俺としてはランスロットが自分で動いてくれるとありがたいと思っている」
「それが本当ならアレスも断るだろ。だって2人は」
「……」
「星がそうならないと言いたげだなローレンス」
「マジかローレンス」
「アレス嬢はランスロット様の事を思って自分を犠牲にしますでしょう……危機的状態にならない限りこの運命は変えれないと思っていいかと」
 ローレンスの言葉にロルゾは机を睨み付ける。だが、ロルゾもローレンスにも何も出来ない。
 ロゼットはこの女性を最悪替え玉にするつもりだとも言ったが、アレスの代わりには到底ならない事は誰が見ても明らかである。ランスロットとアレス、一体この2人の運命の糸はどこで結び合うのだろうか。
 2人の運命に神々の祝福は何処に――――。
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