私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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7章

52話「悪魔の国の再来」

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「ご報告致します! 北の大地に滅んだはずの国、「ベリアズ国」の出現を確認!」
「なんだと……本当の報告か?」
「先の戦争時に残されていた歴史書に書かれていた特徴にかなり合致していまして……。星読みの者達からも間違いはないだろうと報告が」
「……俺の方からランスロットには話をしてこよう。お前達は城内に動ける者達の確認をしておいてくれ。いざって時に動ける人材はある程度は確保はしておきたい」
「承知しました」
 ロゼットの部下からもたらされた報告、悪魔の国だと呼ばれていたガルディア戦争時に滅ぼされていた筈の「ベリアズ国」が前触れもなく出現したのはロゼットも信用出来ない状態ではあった。だが、星読みの者達からも報告が上がっているのであれば間違いはないのだろう。
 厄介な事になってしまう前に騎士団と連携を取って対処を決めなくてはならない、と判断したロゼットは団長室に向かう。ベリアズ国が本当に本物であれば北の大地と言えば死者の塔がある大地。
「闇の星導きの者達が動いている、と考えていいのだろうな……」
 団長室に到着したロゼットはランスロットの姿を探す。ランスロットはローレンスからベリアズ国の復活を報告されている途中だった。
 ロゼットの来訪にアレスがすぐにソファーに案内して紅茶を用意してくれる。ローレンスからの報告を終えてランスロットはソファーのロゼットの向かい側に座ると溜め息を吐き出す。
「まさかの悪魔の国、再来ってところか」
「それが可能としているのは死者の塔の存在だと思える」
「死者の塔の存在が今回の再来に1枚噛んでいるという事か。だが、どうやって復活させた?」
「死者の魂を使ってアンデットにして復活させた、というのが俺の部下の見立てだ」
 ロゼットの部下は既にベリアズ国の調査を行い始めていた。定期的に入ってくる報告で判明している事実があまりにも衝撃的過ぎて驚きしかない。
 ランスロットも騎士団の人間を使って調査に行かせているが、入ってくる報告には頭を抱えたくなる。だが、これもまた定められた運命ではあると2人は知っている。
 報告が来る度にローレンスとアレスがそれを詳細に纏めている間、ロゼットの視線がランスロットの視線を捕らえる。そうランスロットの視線は手元の書類に注がれている。
「何か策でもあるのか?」
「いや、そうじゃない。例の身体を狙っている王について色々と調べているんだが、思っている以上にあまり記録に残っていないらしくてな。詳細が掴めないんだ」
「それについては俺の方でも調べているが、王とは名ばかりでその実体は魔神だとしかまでしか判明しなかった。エドゥル国にならば何かしらの手掛かりを得る事が出来るとは思うのだが……」
「その魔神だとする者が俺の身体を依代にしてこのガハランド大陸に降臨したら、正直太刀打ち出来る戦力はまだこのガハランド大陸にある国々では持ち得まい」
 ランスロットの考えでそこまでいうのであれば、とロゼットの考えも修正される。そして、同時にロゼットの中でランスロットの肉体を渡す事に関しては余程の事がない限りと考えるが……そのトリガーはアレスなのは充分に理解はしている。
 ランスロットの意思で肉体を明け渡す場合はアレス関連の理由がなければないと言ってもいいだろうと断言出来る。それだけランスロットの心は、魂はアレスと結び付いているのであるから。
 ロゼットがアレスの淹れてくれた紅茶を飲みながら不意に漏らす言葉にランスロットの意識が引き戻される。それはロゼットにしては弱気な発言に聞こえたのかもしれない。
「お前が死ぬ時はティクスの終わりかもしれないな」
「……そんなのは次期聖騎士団長に引き継げばいいだけの話ではないのか?」
「それが出来れば苦労しない。お前を次期聖騎士団長に推薦した先王ケンベルト陛下のご苦労を知らないから、そう言えるだけなんだぞ」
「そんなに苦労していたのか?」
「大臣方の癒着もあって、思っている以上に進行が進まなかった。お前がティクスに戻るからと、エルンシア家の人間だから、という事で陛下が押し進めたのだ」
 ケンベルトの苦労をこの時に知っていれば無理をしてでも、国内に入り込む事をして実力で黙らせる事も出来たのでは? と思ってしまう。だが、ケンベルトの性格を一番に理解しているランスロットの脳裏には朗らかな笑みを浮かべて「気にするな!」と告げるケンベルトの姿が浮かんでいた。
 ロルゾとガルドが調査部隊の報告を持って戻ってくる。ロゼットは紅茶を飲み干すとランスロットの瞳を見つめたままハッキリと告げる。
「このまま何も起きないのは夢物語だ。構えておけ」
「あぁ、エドゥル国への同盟の話も考えてもらいたい」
「そちらの事は任せてもらおう」
 立ち上がり団長室を後にして、自分の執務室に戻り始めていたロゼットは静かに考える。ケンベルトが自分の信頼を全部預けてでもランスロットの事を頼むと残した手紙を受け取った数日前。
 手紙の存在を知っていたのはごく一部の人間で、ロゼットは手紙を受け取り中を確認した時にケンベルトは死んでもなおランスロットの事を案じているのかと絆の強さに驚きをしたのを覚えている。2人は幼少期の出逢いだったと聞いているが、そこまで長い時間を過ごしていた訳ではなかったと聞いている。
「陛下が死の間際まで心を見せたのはランスロットの事を信頼しているから……そして、いつかはランスロットの事を解放出来るのもまた陛下だけなのかも知れないな……」
 それ程までに絆が深いケンベルトとランスロットの事をロゼットは正直凄いなとしか思えなかった。自分は父親の代からこのティクスに仕えているが、歴代の王達にそこまで大事にされてきた一族ではなかったからかもしれない。
 だが、そこで不意に思い出す。ケンベルトの父、彼はどうしてエドゥル国との同盟の為にとはいえティクスをケンベルトに渡してエドゥル国へと向かったのだろうか。
 現在、ティクスの国を治めているロックも実子ではあるがロックが産まれる前に父親はエドゥル国へ行っている。今再会をしてもいいのではと思いエドゥル国に親書を出してはいるが……。
「父親でありながら王でもあるルーディル陛下が再びこのティクスを守る為にご自身を犠牲にされたら、ロック王はどう思われる事だろうか……ただでさえ、ケンベルト陛下の跡を継いだロック王のプレッシャーは考えなくても大きいというのに……」
 ロゼットが自室の執務室に戻って椅子に腰掛け、執務をし始めて数時間後。ロック王の来訪を受ける事となった。
 ロック王がこうしてロゼットの執務室に来るのは自分に迷いがある時にアドバイスを貰う為である事が多い。だが、今回は少し様子が異なっていた。
「ロゼット様、少しよろしいですか?」
「どうされましたか?」
「私宛に父ルーディルから親書が届いたのです。内容には父はエドゥル国との同盟を結ぶ為に晒し者になると書かれておいでで」
「……ロック王はどうされたいのですかな?」
「私は兄上が父上を憎んでいなかった事を知っています。そして、私も父上を憎んではいません。母上が私を身籠った時、父上の政治ではこのティクスは守れない、そう判断したのだと母上は教えて下さりました。だから父上を晒し者にはしたくありません」
「ではその様に配慮してもよろしいのですな?」
「ロゼット様、私はまだ王としては未熟です。でも、子を想う親がいる様に親を想う子もいる事を示したい。お力と知恵をお貸し下さい」
 ロック王の健気な言葉と態度にロゼットの微笑みも浮かぶ。この若き王は誰よりも愛情を貰えなかった王子時代を逆恨みするでもなく、こうして真正面から向き合うだけの強さを身に付けている。
 ケンベルトが幼い弟にどれだけ時間を掛けて王族としての立場と振る舞い方を見せて来たかは一目瞭然である。そして、このロック王の事をロゼットもランスロットも心から敬愛しているからこそ、守りたいと心から思う。
 ロックの傍に立ち上がって移動したロゼットに両手を握り締められたロックは顔を上げてロゼットを見上げる。ロゼットはそれは兄の様に、父の様な微笑みを浮かべたままロックにしっかり忠義を果たす。
「陛下のお心に添える様に全力でルーディル様の事をお迎えいたします。皆がなんと申しても陛下の父君であられる事には変わりはないのですから」
「ありがとうございますロゼット様」
「陛下、これだけはお忘れなきよう。今ティクスを治めているのは誰でもない、ロック様である事だけは忘れてはなりません」
「はい」
「父君が王位を欲しがってもそれは与えてはならない事だけはお分かり下さい」
「そうですね。今ティクスを治めているのは私です。その私が揺らがない為にも王として父上とは再会を果たします」
「そのお心を私達は必ずお守り致します」
 ロックはロゼットの言葉に力強く頷いて見せる。この幼い王を守る為にも悪魔の国と呼ばれているベリアズ国の動向はしっかりと監視しておかないといけないだろう。
 直にベリアズ国の事でエドゥル国との同盟は組まないといけないのは間違いない。そして、その時に父王であるルーディルはティクスに帰国する事になるだろう。
 その帰国でティクスが揺らがない為にも色々と手を打つ必要はあると、ロゼットの脳裏では色々な手順や準備についての計画が浮かんでいた。だが、結局親子の再会を喜ぶのは家臣の者達なので市民がいない今のティクスにはあまり大きな問題が生じる事は少ないと計算出来る。
「そう言えば、悪魔の国とやらが戻ってきたと聞きました。私に何か出来ませんか?」
「まだ詳細は調査中なので陛下のお手を煩わせる事はないのですが……時が来れば全面戦争も否めないかと」
「……血が流れてしまう戦争が始まるのですね」
「ですが、ベリアズ国の存在はこのガハランド大陸にはあってはならない存在。神聖国であるティクスが先頭に立って秩序を守らなくてはいけないのはご理解頂けますかな?」
「えぇ、それはしっかりと分かっています。ただ、兵士や騎士の方々が傷付くのを私はあまり喜べません。皆が私には家族と同じ程に大事な存在なのです」
「そのお心だけは大事にされて下さい。国は王1人だけで成り立つものではない。民がいて、家臣がいて、初めて国として成り立つのであるのですから」
「……はい」
 ロックはロゼットの瞳を真っ直ぐに見つめて頷く。大丈夫、この幼い王はきっとケンベルトの志を引き継いでいい王としてティクスを導いてくれる。
 自分やランスロットの力が無くなったとしても、このティクスは潰えない。そう信じられるだけの器をロックは持っている。
 悪魔の国がどんな力を持っているかは不明だが、神聖国ティクスは負けない。ロックの名の下に聖騎士団が一丸となって守り通す事だろう――――。
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