私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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7章

53話「狙われる御子」

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 ティクスの市民は既に国内から避難を済ませている為に、残っているのは騎士達や兵士達、城仕えの者達だけとなっていた。それでも市民達が戻ってきた時の為にと騎士団は市内の巡回は変わらず行っている。
 アレスも巡回に同行して怪しい存在や危ない危険な物がないか等の見回りを行っていた時だった。騎士達の動きが不意に止まるとアレスの本能が危機を知らせる。
「っ!」
『見付けた』
「誰!?」
『お前が御子。神々に愛されし御子』
 騎士達の足元に伸びていた影から動きと声を封じられた騎士達の様子に気付いたアレスが光魔法を唱えようとして異変に気付く。周囲から「音」が消えている事に。
 その消えている「音」はそう、アレスの「声」さえも消しているのである。光魔法を唱える事もそれでは出来ない。
「一体っ……」
『我々の話を聞け。悪い話ではない』
「こんな方法を使っての接触をしてくる者達の言葉を信じろって方が無理な話です!」
『お前の兄、ランスロットの命は預かっている』
「!!」
『我々はその時が来ればランスロットの肉体を手に入れて我が主に献上する。だが、今すぐにでも手に入れる事は出来る。そう……このティクスを生贄にしてな』
 アレスの脳裏に浮かんでくるのはランスロットを始めとする仲間達や主であるロック王の姿。だが、ここで動揺を見せては相手に付け込まれると気丈に意識を奮い立たせる。
 だが、それすらも打ち砕くかの様に声だけがアレスの耳に届く。それはあまりにもアレスの心を揺さぶるには最適な選択でもあった。
『お前が次の満月の夜に我々の元に来るのであればこのティクスを血祭りにする事は止めよう。我々は出来るだけ我が王の依代になるランスロットの身体は無傷で手に入れたい。ランスロットが我々の元に来る様に仕向けるには妹のお前の存在が必要なのだ』
「そんなの、受け入れる訳がないでしょ!」
『どうだろうな。これを見てもそう強気でいられるか?』
 急にアレスの影から生まれた物体が持っていたのはゴールドカラーの髪の毛。それはアレスの貴族としての友人であるティナの髪の色と同じで……。
 アレスはティナに何かあったのではと思って顔色を変える。だが、声が笑い声を出しながらアレスに取り引きを持ち掛けた。
『この髪の主の安全も我々は預かっている。お前が満月の夜に大人しく我々の元に来ればこの髪の主の身の安全も保証する。簡単だ、お前は満月の夜に我々の迎えに従って我々の元に来るだけでいいのだから』
「っ、卑怯よ! 私が仲間を、友人達を犠牲に出来ないと知っていて……ランスロットの肉体を求めるアナタに従わないといけなくするなんてっ!」
『それが我々闇の眷属のやり方だ。別にお前が抵抗するならすればいいのだ。その分犠牲が出るだけの話なのだからな』
「くっ……そんな者達に従わなきゃいけないなんて……」
『なぁに、お前が我々の元に来てもすぐにはどうにもせんよ。ランスロットが我々の元に来るまでの間はお前は立派な人質なのだからな。それでは3日後の満月の夜、ティクス郊外の泉にて待ち受ける』
 声が消えて騎士達は何が起こっていたのか分からない状態で解放されて、アレスは声の言っていた3日間の猶予でどうやってランスロットに事の詳細を伝えるべきか考えていた。アレス達が戻った時、ティクス王城ではエリッド達がランスロットとロゼットの両名と悪魔の国の事について話し合いをしていると聞かされてアレスは残された時間で出来る事を考える。
 満月の夜の勤務はアレスはランスロットと共に城内で夜間の任務に就いている。そんな状態で郊外まで行くのは少々ランスロットにどう話しても怪しまれる。
 そして、素直に話した所でランスロットがアレスを行かせてくれるとは思えない。でも、アレスが行かないとロック王を始めとする力を持たない人々が危ない目に遭ってしまう。
 アレスはこの夜間任務の時にランスロットに何かしらの理由を付けて外出の許可を取り、郊外に行って闇の眷属達の迎えに従う事にした。本来ならランスロットに助けを求めてもいいだろう。
 だが、アレスにはランスロットの事を信じているからこそ、時間稼ぎにもなるのであればとこの決断を下す。震えている自分の身体を自分で抱き締めてアレスは瞳を強く伏せた。
――――
「悪魔の国の動きは?」
「今の所活発的には動いてはいない。ただ、国内の様子は確認出来ていない」
「力の流れを読むと国内は既に敵の戦力で埋め尽くされていると思われます。光の届かない闇の国、というべきでしょうか」
「このまま存在するだけならいいのだが、明らかに戦闘態勢なのを考えると戦いは避けられないだろうな」
 エリッド達とロゼット、ランスロットは長机を挟んで地図を広げて色々と話し合いをしていた。正直な所、今のティクスにはベリアズ国の規模がどうであれ戦争に持ち込まれたら長期戦は不可能な状態ではあった。
 市民の避難が済んでいるのは幸いだが、生産力が無くなっているので食料も他国から買い付けなければならない。財政的に余裕のあるティクスだが長期になれば財政的な圧迫も免れないのである。
 そこに加えて戦争になれば食料だけじゃない、兵士や騎士達の手当てに必要な材料などにも限界は見えてくる。戦争になるのであれば短期的かつ素早く終戦に持ち込まないとティクスは自滅する運命だ。
「正直、国同士の争いには発展はしないと思います。ベリアズ国の目的は死者の塔に眠る破者の王の復活だと思われますから」
「そして、その為の手段として何かしらの接触をしてくる可能性は高いです」
「ランスロットさんの肉体を狙っているのは間違いない。だからランスロットさんの周辺を固める事も考えないといけないんだけれど……」
「アレス、か」
「まぁ、ランスロットの肉体に関してはアレスがどう考えても関わってくる。最近のアレスの様子は?」
「普段と変わりはない。今日も市内の巡回に出て行っている」
 ランスロットの肉体を狙う者達が一番に関りを持てるのは御子であり、妹であり、婚約者のアレスであるのは明白だ。そして、ランスロットの肉体を無傷で手に入れたいと考えているだろう者達の先を読む事も考えなくてはならない。
 話し合いの終わりは見えないまま、少しの休憩を取る事になる。エリッドはランスロットに近寄りアレスの力について自分なりの見解を述べた。
「アレスはきっとランスロットさんが危険な目に陥ったらその力が解放されると思う」
「御子の力、って事か?」
「そうとも言えるし、違うとも言える。なんだろう……ディズ国にいた時に感じていたのはアレスには神々の力の一部が流し込まれている気がするんだ」
「神々の力の一部?」
「簡単に言うと、癒しの力とかもそう言えるね。アレスには恐らくランスロットさん以上の強い聖属性の力が宿っている。闇の者達がそれに目を付けて何かに利用しようとしたら少し厄介かも」
 エリッドの言葉にランスロットは色々と心当たりを考えてみる。元々アレスは神々に愛されている事もあって御子としての力に長けている。
 そして、それは騎士としても傷を癒したり、毒を解毒したりと補佐に至ってはアレスは万能な騎士として実績を挙げている。それが今のティクスの憂いになるというのだろうかとランスロットは考えてしまう。
 話し合いが再開されて、当面の目的としては悪魔の国であるベリアズ国の調査にエリッド達が同行する事と、アレスの事に関してはランスロットに一任するという事で決まった。エリッド達が調査隊との打ち合わせに移動している間に、ロゼットはランスロットに釘を刺す。
「仮にアレスがお前の事を守る為に危険な橋を渡る事になったとしても、冷静な判断をしろ」
「それはアレスに何かしらの接触があったって前提か?」
「可能性がないとは言えないだろう。あのアレスだ……お前や友人達の事を天秤に掛ける事になれば自分の事など簡単に犠牲に出来る聖女でもあるんだぞ」
「……その判断をさせたいとは思わないが」
「だが、アレスはそんな判断をいとも簡単にしてしまえる。お前の愛した女は誰よりも優し過ぎる女だ」
 ロゼットはそう言ってランスロットの肩を叩いて歩いて行く。ランスロットの脳裏には以前闇の星導き者達に囚われた祭のアレスの事を思い出す。
 あの時も屋敷の者達を守る為に自分を犠牲にして捕まっている。それが今回もないとは言えない。
 一度アレスにはしっかり話をしておくべきだろうかと考えているとロルゾとガルドが慌てて近付いてきた。事は穏やかには進まないらしい。
「どうした?」
「ベリアズ国の調査に出ていた連中から聞いたんだが、死者の塔に動きがあったらしい」
「それもあまりよろしい内容じゃない。死者の塔周辺から攻撃性の高い魔物達が溢れ始めているとの報告だ」
「……死者の塔で確実に何かが起こっている証拠か」
「このままだと魔物達の大群がティクスに押し寄せるのも時間の問題だろうってローレンスが言っている。ハルウッドが念の為の迎撃部隊の編成に入った」
 ランスロットは痛くなる頭を抱えながら団長室に歩く。その背をアレスが見ているとは気付かないで。
 団長室ではローレンスとロルゾ、ガルドと共に対応策を練る為に話し合いという名の会議を行っていた。だから気付かなかった……アレスが姿を消した事に。
 ランスロットはハルウッドとロルゾの両名による迎撃部隊の編成を命令し、ガルドとローレンスには残った騎士達を纏めて防衛線の構築を命じる。そこでアレスの存在を思い出すが室内を見てもアレスはいない。
「アレスは?」
「まだ巡回から戻ってないのかもしれないぜ?」
「それはないでしょう。巡回に行ったのは2時間前ですよ。もう戻って報告に上がっている筈の時間です」
「今の状態で巡回の優先度が低いのを気にして1人で落ち込んでいるのかもしれねぇな」
「……少し探してくる。各自の判断で動いてくれ」
 ランスロットが団長室から出て城内を探し回っているとルトが姿を見せる。普段のルトにはない不機嫌そうな声でランスロットに言葉を掛けてきた。
『アレスがいなくなった』
「いなくなった……? さっきまでいたかのようだが」
『正確には下城している。先程アレスを見掛けたが顔色が悪い様に伺えた。体調が悪いのだろう。少しは気遣ってやれ』
「そうだったのか……。ルト、少し頼みがある」
『なんだ?』
「アレスの傍から離れないでくれないか。嫌な予感がする」
『そう言うと思っていたがアレスには何という? 嫌な予感がすると言えば気遣われるぞ』
「心配だから、で通す。アレスならそれだけでも受け入れてくれるだろうからな」
 ランスロットに言われてルトは尻尾を左右に揺らす。この兄妹達は本当にお互いが大事過ぎて周囲の事など考えないのが悪い部分だとルトは思っている。
 そして、ランスロットに言われて屋敷に向かう事になったルトはアレスの状態に違和感を覚えた。アレスが手紙を何通も書いていたからだ。
 ルトの気配があってもアレスは手紙を書き続ける。まるで遺書を残す様な熱心さで。
 アレスの心を読めないルトはその様子をただ眺めているしか、出来なかった――――。
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