私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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7章

54話「伸ばしたその手に掴めなかった存在」

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 ルトの意識がアレスから離れる事はなかったが、アレスは合計にして50通の手紙をランスロットが帰宅するまでに書いていた。それらを自室の机の上に纏めて置いてからルトにアレスは微笑みながら近寄り抱き上げる。
 背を優しく撫でるアレスの手には癒しの力でもあるのかとルトは自分の意識が眠りそうになっている事に気付くが後の祭り。スヤスヤと眠ってしまったルトを抱えたままベッドに向かうと枕元にルトを降ろし、アレスもベッドに入り眠りに落ちた。
 ランスロットがアレスの部屋に入ると、アレスもルトも気持ちよさそうに眠っている姿があり、心無し落ち着いている様に見えてランスロットが微笑みながら退室するとその日は何事もなく終わった。
 そして、運命の満月の夜を迎える日。ルトが起きる前にアレスは自室の机にランスロット宛てにメモを残す。自分は今日闇の眷属達の元に向かう事を残して手紙は全てランスロット宛てである事を書いたメモでもあった。
「……ごめんなさい、ランスロット……」
 アレスの悲しみに染まった声をルトは顔も上げないまま聞いていた。アレスが何かしらの決意を秘めている事を察してルトはルトなりにアレスを守る為に傍にいる事を決める。
 城に上がるのは夕方頃のアレスであるが、ランスロットは朝からずっとベリアズ国の対応に追われていて時間の感覚が無かった。だからアレスがいつまで経っても登城しない事に不信感を募らせたローレンス達に言われるまで気付きもしなかったのだ。
「そろそろアレス嬢が来ると思っていましたが、遅いですね」
「いつもは時間を守るアレス嬢なので遅刻とかではないとは思うのですが」
「登城する際に何か問題でも起きたとかか?」
「それなら迎えに行った方がいいだろう。どうするランスロット?」
「ん? 何がだ?」
「聞いていろよな! アレスがまだ登城してこないんだよ」
「アレスが? もうそんな時刻か。……迎えに誰か行ってみてくれ。ルトもいるから危ない目には遭ってないとは思うが」
 ランスロットの脳裏には数日前のロゼットの言葉が思い出される。自分やロック王達の為なら自分を簡単に犠牲にするだけの聖女でもある事をロゼットは告げている。
 そして、同時にランスロットの背中に嫌な汗が流れる。ここ数日アレスは体調が悪いからとランスロットの誘いを断っている。
 それが今回の何かの伏線であるような気がしてランスロットの中で何かが繋がろうとしている時だった。ローレンスが星読みをしていた盤を見ていた時にアレスの星に動きがあった事を知らせてくる。
「ランスロット様、アレス嬢の星に影が」
「どういう事だ?」
「闇の力に囚われるという意味でございます」
「!!」
「今ならまだ間に合うかも知れません。急ぎお探しください」
「暫く城を空ける。アレスの事をロルゾ達も探してくれ」
「了解!」
 ローレンスに留守を任せて、ロルゾ、ガルド、ハルウッドの3名を連れてランスロットは城を飛び出た。屋敷に戻ればアレスは普段着の服装で既に屋敷を出たと言われて足取りが掴めない。
 目撃者を探すにも市民の避難が終わっているティクスには市民の姿がないので、目撃情報を集める事は出来ない。そこにロルゾが風を読んで知らせてくる。
「郊外の方に何か集まっている感じがあるな」
「郊外? どこら辺だ」
「風の流れからして……郊外にある湖の傍だと思う。アレスもいるかもしれない」
「郊外……馬を出せば夜までには着くか」
「間に合うとは思う。そう言えば今日は満月だな。嫌な日だぜ」
「満月が嫌な日とかあるのか?」
「ランスロットは本当にそこら辺は無知だよな。満月の夜は闇の眷属達の力が増す夜でもあるんだ。アレスの事を攫うとか簡単に出来ちまうんだよ」
「それとは別に、星読みの者達にも満月の恩恵が下されます。今頃エリッド達がその力でベリアズ国を調査している事かと」
「とりあえず馬だな! 待ってろ、馴染みの馬屋がある。ちょっくら借りてくる!」
 ガルドが馬屋に向かって走っていく中でランスロットは空を見上げる。もうじき夜の帳が降り始める時間である。
 ロルゾとハルウッドがガルドが連れて来た馬を借りて騎乗すると、ランスロットも遅れて騎乗して郊外へと4人は急いで向かう。ルトがいるからと油断していた訳ではないが、アレスの事になるとランスロットは本当に視野が狭くなってしまうのはどうしても否めないのである。
 郊外の湖に着いたのは満月が空の中央に上がった頃。馬から降りた4人は手分けしてアレスの姿を探す。
 ハルウッドとガルドが湖の少し離れた森林を、ロルゾは湖の淵に沿って建てられた遊歩道を、ランスロットは湖の全貌が見える位置に足を伸ばした。アレスらしい人影が見えたのはロルゾのいる遊歩道から湖の中央付近の遊歩道だった。
「ランスロット! あそこにアレスらしい女の影がある!」
「!!、行ってみる!」
 ロルゾの言葉に従ってランスロットがその場所に向かうと確かにアレスが立っていた。それも無防備な状態で湖をただ見つめている。
 ランスロットがアレスの背後に向かっていると湖がそれまで静寂だった水面に大きな波紋が生み出される。それと同時に湖から闇の力を纏った馬車が現れたのである。
「アレス!!」
「っ、ランスロット……」
「こっちに来るんだ!」
「それは……出来ない話だよ」
「何を……アレス!?」
「ごめん、ごめんなさい……でも、これしか今の私に選べる方法がないの。貴方を……ランスロットを守る為にはこれしか選べない」
「アレスー!!」
 闇の馬車のドアが開きアレスはその中に身体を滑り込ませた。ランスロットの右手がアレスの右腕を掴もうとしたが、寸での所で馬車の扉が閉まり馬が嘶き走り出す。
 目の前でアレスはランスロットの為だと言って闇の者達の手に落ちた。掴めなかった右腕の存在をランスロットの瞳は確かに捉えていた……震えていた事を。
 ロルゾ達も一部始終を見ていて状況的にアレスが敵の手に落ちた事は理解出来た。そしてその判断をさせた理由にランスロットの事もそうだが、他の理由もある様に感じられて3人は呆然としているランスロットの傍に集まる。
 それからランスロットは我に戻ると状況的にアレスの真意が分からない今、冷静さを取り戻す為に城には戻らず屋敷に直に帰る事をロルゾ達に告げて帰宅する。屋敷の者達にもアレスが敵の手に落ちた事を伝えるとアレスの部屋に大量の手紙が置かれているのとランスロット宛てのメモが残されている事を伝えられる。
 アレスの部屋に入ったランスロットは机の上に置かれている手紙と一枚のメモを手に取るとその内容を見ていく。書かれている内容を読んだランスロットの眉間に皺が寄せられていく。
『このメモをランスロットが読んでいる時は、私が敵の手に落ちた時だと思うので、何故私がその判断をしたかは手紙の1通目に書いてあります。ごめんなさい……勝手な事をして。でも、これしか選択肢が無かった私を許してとは言えないけれど、信じています』
 メモに書かれている1通目の手紙を手に取り開いて読み始めたランスロットは、何故アレスが敵の手に落ちる判断をしたのかの理由を知る。友人であるティナ嬢の身の安全、ロック王達の身の安全、なによりランスロットが襲われる事を懸念しての時間稼ぎとして自分を犠牲にする判断をしたのだと書かれている手紙にランスロットの双眸に強い決意が刻まれる。
 アレスはランスロットを信じているとメモには書いている。そうならば確実にベリアズ国ではなく死者の塔に眠っているという破者の王と決着を付けなくてはいけないのは確かな事だろう。
 アレスを守る為に戦うのではきっと負けてしまう。ならば勝つ為にはどうすればいいのだろうかと考えた先にあるのは、取り戻す為の戦いである。
「アレス……必ずこの手に取り戻す。だから、今は待っていろ。お前の事を守るのは俺だけの特権だ」
 ランスロットをここまで本気にさせた女はアレス以外はいないだろう。そして、敵への強い怒りを覚えたのもこの瞬間だった。
 目の前でランスロットからアレスを奪っていった闇の眷属達にはそれ相応のおもてなしのお礼をしなくてはならないだろう。ランスロットの口元に小さな笑みが刻まれる。
 奪われたら奪い返すまで。目には目を歯には歯をの精神でランスロットの闘志に火が点く。
「それじゃアレスは国の為にと友人達の為に自分を犠牲にした、と言うのか」
「間違いない。そして、アレスに取り引きを持ち掛けた闇の眷属達は俺の肉体を死者の塔に導く為の餌としてもアレスを欲したらしい」
「どうやら、死者の塔が最終的な意味での決戦場になるという事か」
「エリッド達と共に向かう事も考えなきゃいけないだろうな。だが、最終的にはその塔に眠る破者の王を倒せば問題も無くなる」
「簡単に言うが、相手はガルディア戦争の王でもあるんだぞ。簡単には手の内は見せたりはしないだろう」
「だからと言ってアレスを奪われたままにするつもりはない。相手がその気なら俺もそれ相応の対応を取るまでだ」
「……怒りで物事を見れないかと思ったが、その言葉を聞く限り冷静さは失ってはいないようだな。分かった、ロック王には俺から進言して死者の塔攻略を進める為の部隊編成を許可願おう」
「俺は騎士団の編成に入る。相手はあくまで俺の身体を無傷で手に入れたいのであればティクスには手出しはそう簡単にしてこないとは思うが」
 ランスロットの考えとロゼットの考えは一致していた。死者の塔の破者の王はランスロットの身体を求めている。
 ならば手に入るまでは目の前の事しか集中しないだろうというのが考えである。そして、その考えには補足するべき項目もあった。
「エドゥル国から使者が参ってな。同盟の再構築と死者の塔への対応には共同戦線を張りたいと申し出ている」
「その使者がケンベルトの父親であるルーディル様が来られたと言うのは本当か?」
「あぁ、間違いない。本日陛下とご面会される。お前も同席してもらいたい」
「分かった。ルーディル様とはアレスと再会したのを除けば幼少期にケンベルトの誕生日時に会ったのが最期だったな」
「仮にも元国王陛下でもある。だが、今のティクスはロック王の統治だ。下手に王族争いが再発する様ならばルーディル様にはご退席願わないといけないがな」
「だが、ルーディル様だって実子のロック陛下にはしっかり愛情をお見せになるだろうとは思うがな。仮にも王としての立場で面会する陛下と、使者としての立場で面会するルーディル様の違いは明らかだ」
「それでも、未だにルーディル様支持の大臣達もまだ残っている。それに幼いロック陛下より経験豊富なルーディル様の統治を望む声だって上がってもおかしくない」
「ならば俺が後見人としてその役目は負おう。それが俺の立場でも言える」
 ランスロットの言葉にロゼットも大きく頷く。今はティクスを治める立場のロックを支持するロゼットとランスロットの両名がいるから安定しているが、ルーディルの存在はどう考えても大きな波紋を生み出すのは明白である。
 アレスと言う愛する女を奪われて怒りを持つランスロットの目の間には色々と現実問題がやってくる。だが、それすらもアレスを取り戻す為に必要な過程だと思えばそれすらも苦ではなくなってくる。
 ティクスの問題はまだこれから色々と発覚していくだろう。同時に死者の塔攻略の準備も始まっていく。
 アレスの存在が全ての鍵を握るのは明らかな事であった――――。
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