私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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7章

56話「決意と覚悟の天秤の動き」

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 ロックの前に並べられる意見書から始まり、報告書に至るまで膨大な枚数をロックは文句の一言も漏らさずに目を通してサインしていく。ロゼットとランスロットも手伝っている上でこの枚数なので少ないとロックは感謝を2人にしているのでは間違いない。
 そんなロックは一枚の報告書に視線が止まる。聖騎士団の死者の塔攻略の為にティクスを空けるスケジュールに関しての報告書であった。
 ロックの中にはアレスとランスロット、両名の仲つむまじいい姿が思い出されるのと同時に、ランスロットの傷付いたであろう心をどうにか主として労わってやれないだろうか? との良心が動く。ロックだってアレスが無事ならそれだけで嬉しいと思えるだけの器は持っている。
「ロック陛下」
「あ、ロゼット様。何か?」
「こちらの書類に不備が見付かりましたので引き取りに。……聖騎士団の報告書でございますか?」
「えぇ。アレス救出ではなくガハランド大陸の未来を守る為にとは書かれているこの報告書を書いたランスロット様の心情が物凄く切なく感じてしまって。私に出来る事は何かないのでしょうか……主として、ランスロット様のお力になりたいのですが」
 ロックが真剣な表情を浮かべて考え込む姿にロゼットは小さく頷く。そんな国王陛下だからこそ騎士達も兵士達も、そして、ランスロットや自分が誠心誠意仕えるのだがと思う。
 ロゼットは少し考えてロックにある提案をする。それはランスロットにとっては今一番に必要な行為だと前置きして。
「それならば私にも出来るかと思います。なら早速その様に手配しますのでロゼット様はこの事をランスロット様にお伝え下さりませんか?」
「分かりました。ランスロットには私からお伝えしましょう」
「そうと決まれば急いで執務を終わらせて、準備に取り掛からなくては!」
 カリカリと書類を読んではサインしていくロックの姿を側近達も微笑ましく見守る。ロゼットは不備のあった書類を引き取り、ランスロットに知らせる為にロックの執務室から出て行く。
 今のランスロットにとってアレスだけの救出をする事は団長として選択肢は簡単には選べない。だからロックの力添えがあればその決断をする事が出来ると分かれば、ロックも嫌とは決して言わないだろう。
 団長室に赴いたロゼットは中に入るとロルゾ達に出迎えられる。肝心のランスロットの姿は今は無かった。
「ランスロットの姿が見えないが?」
「今死者の塔攻略部隊の最終チェックに行っているんだ。国の守りもあるから上限はあるからさ。でも、アレス救出も兼ねていると分かっているけれど殆どがこのガハランド大陸の未来を守るってのに気合いが入っているからな」
「そうだったな、聖騎士団の者達の士気の高さは今のランスロットに関連するからな。お前達も普段より士気が高い様に思えるが?」
「はははっ、ロゼットは前々からの付き合いがある分俺達の事をしっかり知っている。ロルゾや俺は分かりやすいが、ハルウッドやローレンスについては見た目じゃ分からないのに、お前には分かるんだもんな」
 ガルドの言葉にロルゾも同意する様に腕を組んでうんうんと頷いている。ハルウッドとローレンスだってしっかり付き合いの時間が経過していれば大体は把握出来ると言うのに、とロゼットは思っているが口には出さない。
 そこにハルウッド、ローレンスを引き連れたランスロットが戻ってくる。ロゼットの姿を確認したランスロットがロゼットが座っているソファーの向かい側に腰を降ろした。
「何かあったか?」
「喜べランスロット。陛下がご命令を下される」
「陛下がご命令? 死者の塔攻略になにか不備でもあったか?」
「……ティクス国の聖女である”アレス・エルンシア”を聖騎士団の手により闇の眷属者達から救出する命令を下されるそうだ」
「!!」
「それじゃ国を上げて正式にアレスを助け出そうって事か!」
「それはなんともありがたいですね。聖騎士団の士気にも関わってきます」
「陛下に何を言った?」
「何も。陛下がお前に何かしたい、どうしたらいいだろうか? って相談されてランスロットの一番力になるご命令を下せばよろしいのです。って言ったまでだ」
 ロゼットの言葉にランスロットの眉が下がり顔は俯く。そこまで自分はロックに心配を掛けていたのかと思うと心苦しくはなるのだが。
 それだけではないとロゼットはランスロットに伝える。ランスロットの事を誰よりも慕っているアレスと、そのアレスと共にいるランスロットの事を好きなのはロックである事を。
「俺は陛下が子供心で言っているとは考えてない。お前やアレスの事を1人の人間として気にしているから出た行動だと思っている」
「そうだな。何せ、陛下の初恋を俺はぶち壊して、尚且つ後見人になっているんだ。恨みとかあってもおかしくない関係ではあるからな」
「そう捻くれるな。だが、お前だってこうして国を上げて正式にアレスを救出に行けるのはありがたいだろう? 陛下の成長も凄いと思え」
「全くだな。ふぅ、これで士気が維持出来れば問題はないんだが」
「何か問題でも起きたか?」
「死者の塔付近の魔物達の狂暴さに新人騎士達が怯えてしまってな。今回新人達も一部編成に入れているから初陣になる騎士達も少なくない」
「それはある意味危険でもあるな」
「だが、ベテランだけの編成では国の守りに正直不安が残る。だからバランスを考えれば新人も入れなくてはならなかった」
 ランスロットは編成に組み込んでいる騎士達のレベルや経験量を考慮して、色々と新人騎士でも不安にならない様にベテランとは組ませているがあまり思わしい状態ではなかった。ロルゾ達もそこは不安なのだが時間の足りない現状で出来る限りの方法を取ってはいるだけまだマシなのかも知れないと自分達に言い聞かせている。
 団長室に訪問者が訪れる。大臣のガーベルであった。
「失礼します。おや、ロゼット様もこちらでしたか」
「ガーベルが来たという事は何か大臣方で揉め事か?」
「ロゼットは毎回ガーベルにそんな事を言っているのか? ガーベルはたまにではあるが騎士団の編成のアドバイスをしてくれるんだがな」
「今回はロゼット様のご意見が正しいですね。大臣側で少々問題意見が出始めており、これは騎士団のランスロット様と軍師のロゼット様にお話するべきかと思い訪問したのです」
 ガーベルがドアから離れてランスロットとロゼットの前にある意見を纏めた書類を提出する。それを見たランスロットとロゼットの両者の双眸が細められて険しい色を宿す。
 書類に書かれているのは「聖騎士団の兵力維持に関して」の項目で大臣達の意見が纏められている。一言で言えば大臣達は甘く見ている事が顕著に出ていた。
 ロルゾ達にも分かる様にガーベルは説明をし始める。ロルゾ達はその説明で段々と血の気が失せ始める。
「大臣達はディズ国の禁術を応用した魔法戦士を生み出して国の防衛に聖騎士団の騎士を宛がい、死者の塔攻略にはその生み出した魔法戦士を使用するべき。という愚かな意見が出始めております」
「本気か? ディズ国の禁術をティクスで使えというのか」
「そもそも、禁術を手に入れているとは初耳だが」
「恐らく魔法部隊の誰かが秘密裏に手に入れて大臣達に売り込んで一儲けした可能性もありますね。星読み部署にも不思議な魔法書の存在が知らされておりましたから」
「大臣達は国を守る為の兵力について色々と疑問視をしている模様。中には影で禁術を研究させている大臣もいるようです。これはあくまで私個人の意見ではありますが……死者の塔攻略前に内情を整えるべきかと思います」
「……政治的な意味では俺が動く必要があるが、騎士団に関してはランスロットと連携をして取らねばなるまい」
「内部から腐る事も考えて、膿み出しをする事も必要という事か。……少し強引ではあるが大臣達の一斉辞職に追い込む方法を考えたがいいかも知れないな」
 ランスロットとロゼットの頭を悩ませる事になってしまっている事にガーベルも少々申し訳ないとは思ってしまう。だが、そこにロルゾが珍しく言葉を挟む。
「だったら、作り上げてしまえばいいんじゃね? 辞職に追い込む”理由”をさ」
「ロルゾが言うなんてよっぽど腹に据え兼ねたな?」
「だってよ、現状も何も分からない連中が国を支えて行こうなんてちょっと信用出来ねぇよ。死者の塔攻略が済んだ後のガハランド大陸の未来を守る為にもティクスは率先して立ち上がる必要性もあるんだろ? だったら今の内に不安要素は排除するべきだろうと思うぜ?」
 ロルゾの言葉は一理あった。そして、それはランスロットとロゼットの心の中にある種の決断を促す言葉にも繋がっていた。
 内部の状態を綺麗な清潔さを維持しなくては、今はそこまで影響はないかも知れないがロックの精神衛生上にも影響が出始める恐れもある。それを事前に排除する事は国を維持する為には必要である事は明確なのであった。
「ランスロット、理由の作り上げは任せてもらえるか?」
「あぁ、それでも渋るようならば俺が団長としての権限を使って人工的に辞職に持って行ける様に仕向けよう。そういうのは家柄的に慣れている」
「まさか、大臣達がここまで腐っているとは思わなかったが表面上に出る前に知れて良かった。ガーベル、お手柄だ」
「勿体ないお言葉です。ですが、用心されて下さい。相手もそう簡単に折れる様な人間達ではありません。何かしらの手は使う事は頭に入れておいて下さい」
 ガーベルの忠告を受け入れて、ランスロットはロルゾ達の視線を受けて立ち上がる。まずはティクス内部の浄化を始める作業が待っている。
 そして、聖騎士団の留守中の事はロゼットに任せなくてはならない事をランスロットは気付くがロゼットは豪快に笑いながら団長室をガーベルと出て行く。恵まれている人材にランスロットは小さく微笑みを浮かべた。
「ロルゾとガルドは大臣達のリストアップしてくれ。ローレンスは禁術の場所を特定。ハルウッドはロゼットはサポートに回ってくれ」
「了解~」
「任せてくれ」
「お任せを」
「それでは行動開始します」
「内部から膿み出しをしてから、アレス救出をするぞ。こんな小さな事でも傷口から細菌が入って化膿するって事も考えられる。油断しないで終わらせる」
 ランスロットはアレス救出の命令が下る前にこの作業を終わらせるつもりであった。そして、アレスの事を想うが故にランスロットは非情なる判断も下せてしまうのであった――――。
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