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7章
58話「虎視眈々と」
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死者の塔の攻略は虎視眈々と準備が整い始めていた。攻略に向かう為の部隊を編成しているハルウッドとランスロットは新人達の訓練にも力を入れている。
そして、星導きの者達であるエリッド達も訓練に参加して士気を挙げてくれている事もあって、次第にティクス国全体の士気は高まりが強くなっていた。そんな時にランスロットは神託をその身に受ける事となる。
屋敷で眠っていたランスロットの枕元に1人の神が舞い降りた。神聖なる神気を感じ取ったランスロットが目覚めると、その神はランスロットの前に一振りの短刀を浮かび上がらせる。
『この短刀は悪しき者の力を封じる力を宿している。御子が使えばより強い力も封じる事が出来るだろう。お前が申し子として御子を守る為に戦うのであれば、この短刀はお前の力になる』
「神よ、この先に待ち受けている死者の塔の王である破者の王と私が戦う時。アレスにお力をお貸しは願えませんか? あの子を守ってもらえればそれだけでいい。私はこの力を以って破者の王を倒し、アレスを助け出すまでしか出来ないでしょう」
『お前が死ぬというのか? それは断じて許さない。御子が生きてその命を繋ぐ。それは決められし運命でもある。ランスロットの命は御子により繋がれた運命だ』
「アレスが俺の命を繋ぐ……やはり神々はアレスに何かしらの力を注いでるのですか?」
『そうだ。あの御子はこのガハランド大陸において聖女として生きる為に生まれた宿命の子。そして、我々神々の愛した子。決してそれは揺るぎない事実であり、そして、同時に聖女であるが故の試練も今降り掛かっている』
神々の言葉を聞いていたランスロットの脳裏に笑顔を浮かべているアレスが思い出される。そして、どれもアレスがランスロットの傍で見せている笑顔はランスロットの為だけに浮かべられた笑顔である事も思い出される。
ランスロットは神々に向かって一言告げる。それが神々の心を動かしたとは到底思えないけれども、言わなければきっと自分の心の中だけでは収まらない事はランスロット自身が一番気付いている事でもあった。
「私はアレスを手放すつもりはありません。例えそれが神々の愛情を、信頼を裏切る行為だとしても……アレスは私の女です」
『それでいい。お前達の絆は神々が予想していたよりも強く美しい。それが無くなる事は神々の怒りを買うと思え』
そう告げて神は姿を光として消していった。ランスロットの瞳は天井を見上げたままで、先程まで神がいた場所に向けられる事はなかった。
ランスロットの瞳にはアレスの笑顔だけが浮かんでいる。もう一度この腕の中に取り戻すまではアレスの事を諦めたりするつもりはランスロットには無かった。
翌日、ランスロットの枕元には淡い光を帯びた短剣が置かれていた。昨晩の神が置いていってくれていた物だろうとランスロットはそっと短剣を持ち上げる。
そして、それを大事に愛剣ラインハッドと共に腰に添えて城へと上がる為に準備を整えてから登城する。同じ頃、団長室ではロルゾとガルドによる大掃除が行われていた。
アレスがいなくなってから仕事で溜まり込んだ汚れを一気に掃除してしまおう、とロルゾがガルドと共に大掃除を開始したのがキッカケであった。そして、同時にハルウッドとローレンスも後から加わって4人掛かりで団長室はかなりの汚れを綺麗にした。
「朝からご苦労様だったな皆」
「本当に。アレスがいたから掃除楽だったんだと痛感しちまった。戻ってきたら自発的に掃除する癖を付けないとな」
「それにしても、少しだけのつもりがかなり大掛かりになってしまいましたね。これでは他の騎士達に印象が悪くなるかも知れません」
「それだけならいいけれどよ。この不用品の回収作業は思っている以上に量が多過ぎねぇか??」
「少しだけだと思っていた不用品もここまであると、少し整理整頓をする事も考えなくてはいけない事が分かりましたね」
「それもこれも、死者の塔攻略が終われば全てが片付く。そうなればアレスも戻るし、また前の様に落ち着くだろう。それまで皆で協力して頑張るぞ」
ランスロットは自分の机の上の掃除をし始める。一番に不用品が溢れているのは実際はランスロットの机だというのは自覚しているらしいので、テキパキと片付けている。
そして、エリッド達の調査と先遣隊の報告が重なったある日。ランスロットの元にはガハランド大陸各地で魔獣の覚醒が始まっている、との報告結果が揃い始めていた。
これはランスロットの見立てでは闇の眷属達の仲間達が魔獣を覚醒させている、と読んで各国に防衛と討伐の願いをティクス国王であるロック名義で嘆願書を出している。これに対して各国はディズ国の二の舞は避けたいのだろう、すぐさま討伐部隊を編成して、鎮圧に向かい始めていた。
「これもアレスを連れ込んだ闇の眷属達の狙いだろうか」
「そう考えてもよろしいかと思います。魔獣の覚醒が出来るのはそう簡単ではありませんからな」
「失礼します。ランスロットさんいますかー?」
「エリッドか。どうした?」
「ちょっと相談があって。今いいですか?」
「あぁ、構わない。場所を変えた方がいいか?」
「あ、大丈夫です。実は、攻略部隊の先発隊に俺を入れてもらえないかなって思って」
「先発隊に? お前達は中枢の主力部隊に配置が決まっているじゃないか」
「それを少し変更してもらいたいんです。今の騎士団の士気を維持して攻略に挑みたい。ならどうすれば士気を維持出来るか? って考えた時に、先発隊で魔獣達を一掃出来たら士気が上がるんじゃないか? って思ったんですよ」
エリッドはそう告げながらランスロットの瞳を見つめていた。その瞳にはランスロットの事を信頼しているから頼んでいるエリッドからの信頼を感じ取る事が出来た。
策があって頼んでいるのであればそれを有効に発揮させる事も団長としては大事な事である。エリッドの提案を少し考えたランスロットは腕を組んでその案を受け入れる事にした。
だが、ランスロットはある条件をエリッドに出す。それはエリッドを仲間だと信じているから出す条件である事をランスロットは前置きにして話す。
「ならば、魔獣の掃討はエリッドに任せる。だが、決して力を全部出す必要はない。それだけは頭の隅に置いてくれるのであれば条件付きで飲もう」
「それは勿論! でも、条件って?」
「死者の塔の最上階には共に行く事。お前だって最上階には目的があって行くんだ。決して1人で行かせたりはしない」
「ランスロットさん……。分かりました。必ずランスロットさんと一緒に最上階へと行きます」
「あぁ、約束だ」
エリッドの肩に手を置いてランスロットは微笑みを浮かべる。エリッドにしても、自分の意見を受け入れてくれた上に自分の事を信頼しているといっても過言じゃない条件を出されて、悪い気はしなかった。
エリッドが団長室を出て行くとハルウッドがディニワールを淹れてランスロットの机に置いてくれた。この紅茶も団長になってから味わって愛飲しているがハルウッドの淹れてくれるディニワールはいつも香りが高いと感じられる。
椅子に座ってディニワールの香りを堪能していると、不意にアレスの淹れてくれたディニワールもこんなに香りが高い事を思い出す。その様子にハルウッドが首を傾げてどうしたのだろうかと様子を伺ってくる。
「どうかされましたか?」
「あ、いや……。アレスが淹れてくれるディニワールもこんなに香りが高かったなと思ってな。ハルウッドの淹れ方を真似たのだろうか」
「あぁ、それは恐らく私の淹れ方を教えたからです。まだあの頃のアレス嬢は作法もそんなにご存知ではありませんでしたから、紅茶の淹れ方を1からお教えしたのを覚えています」
「そうだったのか。それでハルウッドのいない時にアレスが淹れてくれたディニワールも香りが良かったんだな。ありがとうハルウッド」
「いえいえ。あの頃のアレス嬢は本当に何事にも全てがランスロット様の為に学んでいた事ですから。お気付きでしたか?」
「ん?」
「アレス嬢、紅茶の淹れ方と共にランスロット様のお仕事の振り分け方や、進め方の癖を見抜く為にいつもランスロット様の背後で仕事ぶりをお勉強されていたのを」
「……いや、知らなかった。そうだったのか」
「あの頃から本当に愛されておいででしたよアレス嬢はランスロット様の事を」
ハルウッドがそう言って他のメンバーにもディニワールを淹れる為に離れると、ランスロットはカップを持ったまま思い出す。騎士になりたての頃は自分の想いを殺す為に宿舎に寝泊りして、距離を取っていたアレスがこうしてハルウッドが教えてくれた淹れ方を覚えて、それに合わせてランスロットの仕事のサポートする為に勉強をしていた事を知ると、物凄く愛おしさに胸が満たされていく。
アレスは何をしていたとしても、その根本は全て「ランスロット」の存在がある。だから、今回の敵の手に行くのも全ては「ランスロット」の存在を守る為にでもある事を分かっているランスロットの内情は複雑ではあった。
だが、アレスの事を救いだせるのはランスロットだけであるとアレスは信じている。それを裏切る行為をランスロットがする訳もなく。
「(どんなに言われてもアレスは俺の事を信じているから自分から敵の手の内に落ちた。それが愚かだとしても、信じている相手の為に出来る最大の愛情表現でもあると思えば……そんな所も愛らしいのだがな)」
小さく微笑みを浮かべているランスロットはディニワールを静かに飲み始める。ティクス国が本格的に死者の塔攻略を始める為には、周辺国との足並みを揃える必要性がある。
その1つがルーディルが使者として同盟を再構築する為に親書を持ってきたエドゥル国との足並みであった。今のところエドゥル国は聖なる武器の使い手ある李麗王の元で訓練を積んだ精鋭達を編成してからこちらの防衛に力を貸す、との内容を手紙で送ってきている。
エドゥル国の戦力がティクス国に到着するまであと4ヶ月は掛かると見込んでいる。そして、死者の塔にはどう頑張っても戦力を率いて行くのであれば途中で戦闘があるのも考えて、1か月の移動時間は必要になるだろう。
ランスロットは虎視眈々と自分の身体を狙っているだろう死者の塔の王である破者の王についても調べていた。インブルと呼ばれているエドゥル国にあるガハランド大陸の全ての書物を集めた巨大図書館に依頼を出して調べてももらっている。
少しでも敵の情報を集めて、有利にしたいのは兵法の中でも当たり前の行為。それは恐らく、いや確実に相手も同じ事をしていると考えていいだろう。
「ランスロット様」
「来たか」
「はい、インブルからの早馬が。やはりお考えに合っている様でインブルには破者の王の元になった魂の主について詳細が残されていた模様です。こちらがその文章でございます」
「破者の王と思われる人物は、250年前のガハランドに生を受けた聖王「ラオン」である事が濃厚。そして、そのラオンは非情に武勇に優れており、彼の通った道には生きた敵兵は残らなかったと言われる程の実力者であった……」
「中々に厄介ではありますな」
「だが、武勇を持っていた聖王とも呼ばれていた男が破者の王になるまでに何かがあったのは事実だ。そこら辺の事も直に分かるだろうとは思うが」
「今後はインブルでも破者の王に関する書物の再調査を行うと聞いております。攻略までの間に何かしらの事実が分かるかと思います」
ローレンスの言葉にランスロットの中でも確たる事実が積み上げられていく。これで少し敵の事が分かったので打つ手が増えたと思うランスロットの微笑みには少しだけ、狂気の色が滲んでいるのは誰も気付かなかった――――。
そして、星導きの者達であるエリッド達も訓練に参加して士気を挙げてくれている事もあって、次第にティクス国全体の士気は高まりが強くなっていた。そんな時にランスロットは神託をその身に受ける事となる。
屋敷で眠っていたランスロットの枕元に1人の神が舞い降りた。神聖なる神気を感じ取ったランスロットが目覚めると、その神はランスロットの前に一振りの短刀を浮かび上がらせる。
『この短刀は悪しき者の力を封じる力を宿している。御子が使えばより強い力も封じる事が出来るだろう。お前が申し子として御子を守る為に戦うのであれば、この短刀はお前の力になる』
「神よ、この先に待ち受けている死者の塔の王である破者の王と私が戦う時。アレスにお力をお貸しは願えませんか? あの子を守ってもらえればそれだけでいい。私はこの力を以って破者の王を倒し、アレスを助け出すまでしか出来ないでしょう」
『お前が死ぬというのか? それは断じて許さない。御子が生きてその命を繋ぐ。それは決められし運命でもある。ランスロットの命は御子により繋がれた運命だ』
「アレスが俺の命を繋ぐ……やはり神々はアレスに何かしらの力を注いでるのですか?」
『そうだ。あの御子はこのガハランド大陸において聖女として生きる為に生まれた宿命の子。そして、我々神々の愛した子。決してそれは揺るぎない事実であり、そして、同時に聖女であるが故の試練も今降り掛かっている』
神々の言葉を聞いていたランスロットの脳裏に笑顔を浮かべているアレスが思い出される。そして、どれもアレスがランスロットの傍で見せている笑顔はランスロットの為だけに浮かべられた笑顔である事も思い出される。
ランスロットは神々に向かって一言告げる。それが神々の心を動かしたとは到底思えないけれども、言わなければきっと自分の心の中だけでは収まらない事はランスロット自身が一番気付いている事でもあった。
「私はアレスを手放すつもりはありません。例えそれが神々の愛情を、信頼を裏切る行為だとしても……アレスは私の女です」
『それでいい。お前達の絆は神々が予想していたよりも強く美しい。それが無くなる事は神々の怒りを買うと思え』
そう告げて神は姿を光として消していった。ランスロットの瞳は天井を見上げたままで、先程まで神がいた場所に向けられる事はなかった。
ランスロットの瞳にはアレスの笑顔だけが浮かんでいる。もう一度この腕の中に取り戻すまではアレスの事を諦めたりするつもりはランスロットには無かった。
翌日、ランスロットの枕元には淡い光を帯びた短剣が置かれていた。昨晩の神が置いていってくれていた物だろうとランスロットはそっと短剣を持ち上げる。
そして、それを大事に愛剣ラインハッドと共に腰に添えて城へと上がる為に準備を整えてから登城する。同じ頃、団長室ではロルゾとガルドによる大掃除が行われていた。
アレスがいなくなってから仕事で溜まり込んだ汚れを一気に掃除してしまおう、とロルゾがガルドと共に大掃除を開始したのがキッカケであった。そして、同時にハルウッドとローレンスも後から加わって4人掛かりで団長室はかなりの汚れを綺麗にした。
「朝からご苦労様だったな皆」
「本当に。アレスがいたから掃除楽だったんだと痛感しちまった。戻ってきたら自発的に掃除する癖を付けないとな」
「それにしても、少しだけのつもりがかなり大掛かりになってしまいましたね。これでは他の騎士達に印象が悪くなるかも知れません」
「それだけならいいけれどよ。この不用品の回収作業は思っている以上に量が多過ぎねぇか??」
「少しだけだと思っていた不用品もここまであると、少し整理整頓をする事も考えなくてはいけない事が分かりましたね」
「それもこれも、死者の塔攻略が終われば全てが片付く。そうなればアレスも戻るし、また前の様に落ち着くだろう。それまで皆で協力して頑張るぞ」
ランスロットは自分の机の上の掃除をし始める。一番に不用品が溢れているのは実際はランスロットの机だというのは自覚しているらしいので、テキパキと片付けている。
そして、エリッド達の調査と先遣隊の報告が重なったある日。ランスロットの元にはガハランド大陸各地で魔獣の覚醒が始まっている、との報告結果が揃い始めていた。
これはランスロットの見立てでは闇の眷属達の仲間達が魔獣を覚醒させている、と読んで各国に防衛と討伐の願いをティクス国王であるロック名義で嘆願書を出している。これに対して各国はディズ国の二の舞は避けたいのだろう、すぐさま討伐部隊を編成して、鎮圧に向かい始めていた。
「これもアレスを連れ込んだ闇の眷属達の狙いだろうか」
「そう考えてもよろしいかと思います。魔獣の覚醒が出来るのはそう簡単ではありませんからな」
「失礼します。ランスロットさんいますかー?」
「エリッドか。どうした?」
「ちょっと相談があって。今いいですか?」
「あぁ、構わない。場所を変えた方がいいか?」
「あ、大丈夫です。実は、攻略部隊の先発隊に俺を入れてもらえないかなって思って」
「先発隊に? お前達は中枢の主力部隊に配置が決まっているじゃないか」
「それを少し変更してもらいたいんです。今の騎士団の士気を維持して攻略に挑みたい。ならどうすれば士気を維持出来るか? って考えた時に、先発隊で魔獣達を一掃出来たら士気が上がるんじゃないか? って思ったんですよ」
エリッドはそう告げながらランスロットの瞳を見つめていた。その瞳にはランスロットの事を信頼しているから頼んでいるエリッドからの信頼を感じ取る事が出来た。
策があって頼んでいるのであればそれを有効に発揮させる事も団長としては大事な事である。エリッドの提案を少し考えたランスロットは腕を組んでその案を受け入れる事にした。
だが、ランスロットはある条件をエリッドに出す。それはエリッドを仲間だと信じているから出す条件である事をランスロットは前置きにして話す。
「ならば、魔獣の掃討はエリッドに任せる。だが、決して力を全部出す必要はない。それだけは頭の隅に置いてくれるのであれば条件付きで飲もう」
「それは勿論! でも、条件って?」
「死者の塔の最上階には共に行く事。お前だって最上階には目的があって行くんだ。決して1人で行かせたりはしない」
「ランスロットさん……。分かりました。必ずランスロットさんと一緒に最上階へと行きます」
「あぁ、約束だ」
エリッドの肩に手を置いてランスロットは微笑みを浮かべる。エリッドにしても、自分の意見を受け入れてくれた上に自分の事を信頼しているといっても過言じゃない条件を出されて、悪い気はしなかった。
エリッドが団長室を出て行くとハルウッドがディニワールを淹れてランスロットの机に置いてくれた。この紅茶も団長になってから味わって愛飲しているがハルウッドの淹れてくれるディニワールはいつも香りが高いと感じられる。
椅子に座ってディニワールの香りを堪能していると、不意にアレスの淹れてくれたディニワールもこんなに香りが高い事を思い出す。その様子にハルウッドが首を傾げてどうしたのだろうかと様子を伺ってくる。
「どうかされましたか?」
「あ、いや……。アレスが淹れてくれるディニワールもこんなに香りが高かったなと思ってな。ハルウッドの淹れ方を真似たのだろうか」
「あぁ、それは恐らく私の淹れ方を教えたからです。まだあの頃のアレス嬢は作法もそんなにご存知ではありませんでしたから、紅茶の淹れ方を1からお教えしたのを覚えています」
「そうだったのか。それでハルウッドのいない時にアレスが淹れてくれたディニワールも香りが良かったんだな。ありがとうハルウッド」
「いえいえ。あの頃のアレス嬢は本当に何事にも全てがランスロット様の為に学んでいた事ですから。お気付きでしたか?」
「ん?」
「アレス嬢、紅茶の淹れ方と共にランスロット様のお仕事の振り分け方や、進め方の癖を見抜く為にいつもランスロット様の背後で仕事ぶりをお勉強されていたのを」
「……いや、知らなかった。そうだったのか」
「あの頃から本当に愛されておいででしたよアレス嬢はランスロット様の事を」
ハルウッドがそう言って他のメンバーにもディニワールを淹れる為に離れると、ランスロットはカップを持ったまま思い出す。騎士になりたての頃は自分の想いを殺す為に宿舎に寝泊りして、距離を取っていたアレスがこうしてハルウッドが教えてくれた淹れ方を覚えて、それに合わせてランスロットの仕事のサポートする為に勉強をしていた事を知ると、物凄く愛おしさに胸が満たされていく。
アレスは何をしていたとしても、その根本は全て「ランスロット」の存在がある。だから、今回の敵の手に行くのも全ては「ランスロット」の存在を守る為にでもある事を分かっているランスロットの内情は複雑ではあった。
だが、アレスの事を救いだせるのはランスロットだけであるとアレスは信じている。それを裏切る行為をランスロットがする訳もなく。
「(どんなに言われてもアレスは俺の事を信じているから自分から敵の手の内に落ちた。それが愚かだとしても、信じている相手の為に出来る最大の愛情表現でもあると思えば……そんな所も愛らしいのだがな)」
小さく微笑みを浮かべているランスロットはディニワールを静かに飲み始める。ティクス国が本格的に死者の塔攻略を始める為には、周辺国との足並みを揃える必要性がある。
その1つがルーディルが使者として同盟を再構築する為に親書を持ってきたエドゥル国との足並みであった。今のところエドゥル国は聖なる武器の使い手ある李麗王の元で訓練を積んだ精鋭達を編成してからこちらの防衛に力を貸す、との内容を手紙で送ってきている。
エドゥル国の戦力がティクス国に到着するまであと4ヶ月は掛かると見込んでいる。そして、死者の塔にはどう頑張っても戦力を率いて行くのであれば途中で戦闘があるのも考えて、1か月の移動時間は必要になるだろう。
ランスロットは虎視眈々と自分の身体を狙っているだろう死者の塔の王である破者の王についても調べていた。インブルと呼ばれているエドゥル国にあるガハランド大陸の全ての書物を集めた巨大図書館に依頼を出して調べてももらっている。
少しでも敵の情報を集めて、有利にしたいのは兵法の中でも当たり前の行為。それは恐らく、いや確実に相手も同じ事をしていると考えていいだろう。
「ランスロット様」
「来たか」
「はい、インブルからの早馬が。やはりお考えに合っている様でインブルには破者の王の元になった魂の主について詳細が残されていた模様です。こちらがその文章でございます」
「破者の王と思われる人物は、250年前のガハランドに生を受けた聖王「ラオン」である事が濃厚。そして、そのラオンは非情に武勇に優れており、彼の通った道には生きた敵兵は残らなかったと言われる程の実力者であった……」
「中々に厄介ではありますな」
「だが、武勇を持っていた聖王とも呼ばれていた男が破者の王になるまでに何かがあったのは事実だ。そこら辺の事も直に分かるだろうとは思うが」
「今後はインブルでも破者の王に関する書物の再調査を行うと聞いております。攻略までの間に何かしらの事実が分かるかと思います」
ローレンスの言葉にランスロットの中でも確たる事実が積み上げられていく。これで少し敵の事が分かったので打つ手が増えたと思うランスロットの微笑みには少しだけ、狂気の色が滲んでいるのは誰も気付かなかった――――。
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