私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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9章

70話「掴め!俺の手を!」

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 ラオンの手から逃げる為に階段の淵に立ったアレスは祈りを捧げてから、その淵から身を投げる。そして、ランスロットの身体も階段から飛び出てアレスを受け止める為に宙に飛んだ。
 ラオンがロドを練り上げてアレスを捕まえようとするが、ハルウッドやエリッドのロドがそれを阻止しガルドとトールデッドが援護としてランスロットの身体に風魔法を付与する。アルフォッドとオルベは地上側に待機して他の騎士達と共にロドを練り上げてクッションの代わりの障壁を生成する。
「っ、ランスロット!」
「掴め! 俺の手を!」
 伸ばされた手をアレスはしっかりと掴み、そして、掴んだのを確認したランスロットがアレスの手を引っ張り腕の中に閉じ込める。そのまま風魔法の付与されているお陰で地上のクッション障壁の上に優しく降りた2人を騎士達は歓喜を見せながら出迎える。
 ラオンは歯をギリッと食い縛って見つめていたが、静かにそのまま最上階へと姿を消す。アレスは最低限の服装しかしてないのもあってすぐにオルベがマントを身体に掛けてくれて肌が晒される事はなかった。
 ランスロットはアレスを強く抱き締めたまま存在を確かめていると、ロゼットが上層階に上がっていくラオンの姿を追っていた。ランスロットもアレスの事を取り戻した事もあってこのまま追うべきかと考える。
「一度撤退する事を提案する」
「ロゼット?」
「今の戦力と疲労具合ではあまり無理は出来ん。それに当初の目的である聖女アレスの奪還は叶った。今は戦略的撤退をするのが普通だ」
「……全員、撤退するぞ。陣形を維持したまま塔から出る!」
 軍師であるロゼットの提案をランスロットは飲んだ。アレスをお姫様抱っこにして抱き上げるとそのままガルド、ハルウッドに守られながら塔を後にする。
 どちらにせよ、アレスの身体が穢されている以上このままこの異界に留まる事は出来れば避けたい。何よりアレスをこの異界から連れ戻すのが本来の目的である。
 アレスはガタガタと震えながらランスロットの腕の中に包まれていた。見る限り身体を相当穢されているのがランスロットには分かる。
 今は少しでも早くアレスを休ませたかった。そして、異界とガハランド大陸を結ぶ入口に戻ってきたランスロット達は入口を通ってガハランド大陸に戻る。
「お! 戻ってきたぞ」
「ランスロット! アレス!」
「お婆様……。アレスに光の力を分けてあげて下さい。俺は天使達と今後の事について話し合いをしてきます。……それと身体を清めてやって下さい」
「分かりました……アレス、こちらに……」
「っ、ランスロット……」
「大丈夫だ。少ししたら戻る」
 フィンにアレスを預けてランスロットは入口を維持してくれていた天使達の元に向かう。天使達はアレスの穢されている身体と魂を感じ取り祈りを捧げている途中だった。
 ランスロットは天使達と今後この入口を使う際の方法について話し合いをしていく。ロルゾがガルドやハルウッド達から状況を聞いて、今後の戦略に何か繋がるかは分からないがある事実を2人に話をしていた。
「それじゃ、ガハランド大陸のあちらこちらに光の柱が生成されていった、という事ですか?」
「それもかなりの数だ。フィン様のお話だと神々がこの大陸に光の力を満たして異界へ光を送る為にしている事だっていうのは言っていたが」
「だから、俺達があんなに普段の実力が出せたって訳だな。光の力があれば俺達も対等に戦えるからなぁ」
「それだけではありません。アレス嬢やランスロット様の魂にも力が宿ると思います。しかし……今回アレス嬢はかなり穢されています。これが神々にとってどれだけのダメージになるかは分かり兼ねます」
 ハルウッドもガルドも、ロルゾもフィンと共に身体の清めに向かったアレスを思う。アルフォッドとオルベはアレスの身の回りの世話をフィンと共にしながらアレスの思い詰めている横顔に何も言えなかった。
 愛する男しか知らなかった身体を、敵の王に穢されて、あまつその魂も穢されてしまった。それがどれだけ純粋で優しいアレスを苦しめるかは2人は嫌でも理解出来てしまう。
 フィンに湯を頼まれて、火を熾して湯を用意しているオルベがアルフォッドに小さな声で告げる。それは同期組の強い絆がもたらす言葉でもあった。
「僕達は男だから痛みは全部理解出来る訳じゃない。でも、愛する人の事を守りたいって気持ちは理解出来る。アル、僕達は……僕達だけはアレスの味方でいようね」
「勿論だ。どんなにアレスが辛い事になっても傍で支えていく。ランスロット団長の不在の時は俺達がアレスを守るんだ。アレスが笑顔で団長の隣にいられる様に」
 その言葉の通り、アルフォッドとオルベは湯を沸して清潔なタオルを持ってフィンとアレスのいるテントに向かう。中に入れてもらった2人はアレスが身体中に酷く赤くなっている背中や腕を見て何も言わずに回復魔法を掛け始める。
 アレスは涙を浮かべて2人の優しさに感謝を述べる。だが、2人はそんなアレスにこう告げるのであった。
「アレス、俺達は友達で仲間だろ? だから、お前が苦しい時も俺達が支えていく。どんな事になっても俺とオルベはアレスの味方だ」
「男だから理解出来ない痛みとかもあるけれど、でも、それでも僕達はアレスの事を守りたい。こんな事しか出来ないけれど、それでも、アレスが団長と幸せになってくれる事を一番に願っているよ」
「アル……オルベ……ありがとうっ」
「痛みが取れたならいい。それじゃフィン様、俺達追加の湯を沸してきます。風呂までは出来ないけれど、水はたっぷりあるから沸しまくります」
「あと消毒液も貰ってきます。清潔な服とかもまだ予備があったと思うので用意してきます」
「ありがとうございます。アレスの事を大事に思ってくれて心よりお礼申し上げます」
「俺達、仲間だからですよ」
「うんっ。アレスは僕達の大事な仲間で友達です!」
 アルフォッドとオルベが出て行くとアレスは大粒の涙を流しながらフィンにより子宮内のラオンの液体を掻き出してもらった。これで妊娠しないとは限らないが可能性は低くなる。
 フィンの手により身体を清めてもらい、オルベとアルフォッドから用意された清潔な下着と服に着替えたアレスは身体を横たえていた。精神的な面でも色々とダメージがあったので身体が動かせないのである。
フィンの手により光の力を少しずつ身体に送り込んでもらっていきながらもアレスの魂に残された傷痕、それが癒える事はなかった。そして、ロゼットの提案でアレスを天使達により一度ティクスの神殿内部で徹底的に穢れの浄化を行う事を決めるランスロットは、フィンの元に訪れていた。
 アレスはまだ眠っているので静かに2人は話し合う。フィンの考えではラオンはアレスに何かしら目を付けているのは明らかだという。
「ラオンの狙いは俺の身体の筈。それが何故アレスまで……」
「アレスの秘めている力に着目したのかもしれません。聖女の力……言い換えれば神々の力でもあります」
「聖女の力……アレスにはその力がもう目覚めていると?」
「死者の塔にいる頃に私が導いて、一部の力に開花させています。あとはアレスの力次第ではありますが、それなりに力を使いこなせていれば或いは……」
「ラオンが聖女の力を使って何をしようとしていたのか……それが分かれば……」
「ランスロット、ここから話す事はあまり私の様な者が口を挟む事ではないのでしょうが……アレスの魂の汚れを祓うのに必要なのは”魂同士の絆”です」
「魂同士の絆……」
「アレスが心から愛する貴方の愛を受け取る事で穢れも祓う事も出来るでしょう。そして、何より聖女の力を強める事も出来ます。……貴方の愛をアレスに注いであげる時です」
 フィンが何を示しているのかは明らかに分かる。肉体を重ねて、そして、ランスロットの子種を注ぐことがアレスの魂の穢れを祓い癒し、そして、聖女としての力を強める事に繋がる事を示しているのである。
 愛する者の愛を知る事は女の身であるアレスには一番の光でもある。それはランスロットの心の中に一番に分かっている事実でもあった。
「ティクスに戻れば暫く俺はアレスと共に過ごそうと思います。少しでも離れていた時間を埋めていきたい。何より……俺がアレスを求めているから」
「えぇ、それでこそ愛する者達の自然の姿だと私は思います。ランスロットの愛がアレスを救う事を神々も望んでいるでしょう」
「んっ……」
「それでは私は外にいます。アレスを頼みますよ」
「はい。……アレス」
「ら、んすろっと……?」
 目を覚ましたアレスをランスロットの右手がそっと頬を撫でる。その愛情の籠った触れ方にアレスの双眸から大粒の涙が零れ落ちる。
 再会出来るとは信じていたがそれでも不安が無かった訳ではない。だが、それでもアレスの傍に、こうしてランスロットの姿があるのは奇跡だとアレスは感じている。
 双眸から流れ落ちる涙をそっと拭ってくれるランスロットの手にアレスは静かに自分の右手を添える。そのまま2人は手を握り締め合って見つめ合う。
「ティクスに戻ったら覚悟しておけ」
「……なんで……?」
「俺が離れていた間に味わった不安もアレスも同じだった筈だ。その不安を取り除く為にも離れるつもりはない」
「でも……団長としての仕事が……」
「俺は団長としての俺の面よりも、男としての面を取る。仕事はハルウッド達に任せてアレスを取る。それくらい許せ」
「そんな……」
「嫌だとは言わせない。お前だって俺が傍にいた方がいいだろう」
「……いて、ほしい……」
「素直でよろしい」
 アレスの素直な言葉にランスロットの瞳にも優しい色が宿る。そして、アレスの右手を握り締めて静かに思う。
 この小さな身体であのラオンを受け止めていたのかと思うと酷く愛おしく感じてしまう。そして、同時にラオンへの怒りも沸々と湧いてくる。
 愛するアレスを穢された事は怒りに満たされてしまうが、今はアレスの事を考えて穏やかな感情でアレスを見つめていたい。ランスロットの瞳をアレスが見つめる。
「どうした?」
「……」
「アレス……話してみろ」
「嫌いに……なったかと思った……」
「俺がアレスをか?」
「うん……黙ってラオンの手には落ちるし……穢されるし……こんな女じゃ嫌われると思っていた……」
「……確かにアレスがしたのはあまり歓迎される事ではないな。だから……お仕置きが必要だな?」
「お仕置き……してくれるの……?」
「その期待に満ちた瞳が可愛らしいよ」
「んっ……」
 お仕置きと聞いて嬉しそうにするアレスに苦笑しながらランスロットの瞳はアレスの瞳を見つめる。そして、その愛らしい唇をそっと塞げばそのまま触れ合うだけの口付けで終わらせる。
 ようやくアレスを取り戻したランスロットはアレスを癒す為に行動を起こす。そして、神々に愛された2人は今一度愛し合う――――。
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