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10章
82話「本当の闇の存在」
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ラオンの本陣では闇の導きの者達が毎日ラオンの肉体になっている人間の身体に、ロドを濃縮した魔力を注いでいた。それによってラオンの魂と肉体の融合を強めているのである。
ラオンの脳裏にはもう1人のランスロットの肉体を求めている男の存在、バルキットの事が思い浮かべられる。あの男の存在もまたラオンの計画には必要不可欠でもあった。
このガハランド大陸に闇をもたらし、そして、闇による支配をする為にはバルキットの存在は無くてはならない。だが、ラオンは自分の立てた計画に少しばかりの修正をする事も考えていたのである。
「(バルキットの魂を私の中に取り込み、そして、私の血肉として糧にするのも悪くはない……。その為の器としてあの申し子の肉体は必要だ。何があったとしても手に入れて私の魂を飲み込ませてみせる)」
「ラオン様、本日分は終わりました。どうぞお身体を楽にされて下さい」
「今日のはやけにロドが濃いな。そんなに融合が進まなかったか」
「いえ、光の力に対抗する為にも強いロドを流し込んだのであります。身体と魂は完全に融合は出来ていますので、問題は器の肉体の老化でございます」
「そこは私のロドでどうにでもなる。それよりもあの申し子の肉体が欲しい。なんとかして手に入れるのだ。もはやバルキットの為に手に入れる必要はない」
「と、申しますと?」
「バルキットの魂を私の糧として飲み込むつもりだ。私こそがこのガハランド大陸に闇をもたらす存在として相応しいのだからな」
「……承知致しました。すぐに申し子の肉体を手に入れれないか考えてみます」
ラオンの前から辞した闇の導きの者はその足をある場所に向ける。闇の瘴気が強く根付き、そして、闇の力が強く残るその場所を闇の導きの者はこう呼ぶ。
『ディーオ』
「ディーオの存在をあのラオンは知らない。そして、愚かにも自分こそが真なる支配者であるかの様な考えを持ち始めている。やはり単なる英雄の魂ではそこまでが限界か。愚かにも私の魂を糧にするとは、笑わせる」
『バルキットの魂を食らうと申しているのかラオンは。愚かな事よな。自分こそが操り人形である事を知らないとは。悲しき魂よ』
ディーオから響き渡る声はバルキットの姿をした……偽りの虚空の魂である。闇の導きの者としての姿をしている存在こそが本物のバルキットの姿でもあった。
ラオンが人間の肉体を得ていた様に、バルキットもまた人間の肉体を手に入れていたのである。そして、バルキットの人間の肉体に宿っている魂とディーオにある肉体の魂は別々の魂。
虚空の魂はバルキットの本来の姿である覇王の姿を意地する為に、肉体を得ているバルキットの魂が用意した魂。そして、覇王の姿を維持させている間に本来の魂は人間の肉体を得て、依代に最も相応しいランスロットの肉体を虎視眈々と狙っていたのである。
「このまま行けば、ラオンは自滅する運命だ。そして、その後にこのガハランド大陸に闇をもたらした愚かな聖王として語り継がれていく。だが、私は違う……このガハランド大陸に闇をもたらすのに別に興味はないのだからな」
『我々が求めているのは、天上界の崩壊と破壊。それだけの事だからな』
「そう、天上界にて加護を与えている神々の寝首を掻く事だけを願い続けてきた。そして、その時が訪れ様としている。神々がいなければ私達は確実に支配する事が叶うのだからな」
『我々、真なる覇王こそが全ての支配者として相応しい事を知らしめる事になるのだな』
ディーオから覇王の姿をしたバルキットの顔が浮かぶ。肉体を得たバルキットはその顔に微笑みながら頷き、そして空を見上げて思う。
この永遠とも言える神々の支配から逃れんとしていた永きに渡る苦痛の時を耐え抜いて、そして、今やっとその時から解放される時が訪れようとしている。神々の死こそ、バルキットの最大の願いでもあった。
神々を酷く憎んでいるかの様に空を見上げているバルキットは静かに口元に笑みを浮かべる。自分の存在を神々が知る時は既に計画は完成に近い時、手遅れに近い時である事をバルキットは信じている。
「私はこのままラオンの魂を取り込む為の準備を続ける。お前は取り込んだ後にラオンの肉体になっている器を食らえ」
『仰せのままに』
クックッと笑いながらバルキットはラオンの魂を取り込む為の準備を再開させていく。本当の闇はバルキットであるのだろうか。
――――
ランスロットの召喚に答えた純血の天使達により、闇の瘴気は徐々に浄化されて大地には光が差し込んできて命の流れが出来始めていた。そして、ガーベルの一団がランスロットの元に到着して祝福された弓を持ってきた事を伝えていた。
ガーベルの話で、その弓が元々ティクスの繁栄を願って祝福された存在であった事を知った事でランスロットの元に運んでくれたガーベルに礼を述べる。だが、ガーベルはランスロットに忠告する。
「ラオンがこの弓の存在を知らない訳ではないかと思います。それだけではありません……ラオンの背後にいる異世界の魔王バルキットの事も考えなくてはなりません。私達はまだ本当に倒さなくてはならない敵を見極めていないのです」
「ラオンがバルキットの力を求めているだけならまだ何とでもなるが、肉体をラオンもバルキットも狙っている。迂闊に俺が出て行く訳にはいかないのがな……」
「本当にラオンはバルキットの力を求めているのでしょうか。私にはお互いに反発し合ってる様に思えます。もしかしたら敵の内情は一枚岩ではないのかもしれませんね」
ガーベルは祝福された弓をランスロットに手渡しながらそう告げて溜め息を吐き出す。そうだとしても敵が強いのは言うまでもないのである。
そこにローレンスとロゼットがやってくる。何かが起こったのは明らかだった。
「どうかしたか?」
「アレス嬢が高熱を出しましたのでお知らせに」
「負傷者達の治療に力を使い過ぎたらしい。少し休ませる必要があるだろう」
「そうか……。ラオンの方に動きは?」
「今の所はありません。それどころか瘴気が浄化されているお陰で弱体化が見られています」
「ランスロット、アレスを休ませている間はお前も休め。俺達の方でその間の調整は出来る」
「あぁ、すまないが頼む。光の力も回復させておく」
「それでは私はティクス本国に戻ります。どうかご無理はなされないで下さい」
ガーベルを見送ってからランスロットはテントを出てアレスがいる場所に向かう。フィンも同行しているだろうが高熱を出すまで頑張るアレスにランスロットは微笑みを浮かべてしまう。
フィンの看病を受けていたアレスの熱は思っている以上に高熱が出ており、それだけで体力が消耗されていく。戦場の空気も悪いのだとも言えるかもしれないが、光の力を使い過ぎもあるのだとは理解していた。
「お婆様」
「あ、ランスロット……。思っている以上にアレスに負担を掛けてしまいました。ごめんなさい」
「いえ、それはアレスが自分で判断して行った結果ですから。お婆様は大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。それと……一度天上界に行ってもいいですか?」
「神々の元にお戻りになられるのですか?」
「アレスの力の為に神々にある宝具を貰いに行こうと思うのです。私が戻れるのはあまり許された事ではありませんが……」
「神々だってお婆様の事を怒っている訳ではないのです。どうかもっと神々を信じてもよろしいのではありませんか?」
「……そうですね。天使の私の血を引く貴方とアレスに加護を与えて下さっているのを考えれば、神々も理解して下さっていると考えておくべきですね」
フィンはそこまで言って汗を浮かべているアレスの額をタオルで拭いていく。ランスロットの視線がアレスの寝顔を見つめる。
まだ比較的に穏やかな寝顔をしているのを確認して、フィンに看病を代わる事を伝える。フィンも天上界に行く為に準備をするとその場から離れる。
アレスの熱い手にそっと触れながらランスロットの光の力がアレスの身体に反応していく。光が反応するというのはそれだけアレスの光が弱まっている証拠でもある。
眠り続けているアレスの手を握り締めている横で、そっとアレスの頬に唇を寄せる。アレスの辛い苦しみもランスロットが代わりに引き受けたいと思ってしまう。
「アレスは少し頑張り過ぎる所があるからな……そこが美点でもあるんだが。だが、無理をさせたのは間違いなく俺の責任だ。少しの間はアレスの事を思うのであれば休ませてやる事も考えておかないと」
ランスロットの独り言が聞こえたのか、アレスが伏せていた瞳を開いて行くとランスロットの瞳を見つめる。何かを言いたげな瞳を受け止めてランスロットの右手がアレスの頬に添えられて撫で上げる。
頬を撫でられて嬉しいのか、アレスは熱で上気した顔で微笑みを浮かべる。そして、掠れた声でランスロットの名を呼ぶ。
「ランスロット……」
「頑張ったな。だが、お前が倒れたら意味がないだろう?」
「ごめんなさい……でも、少しだけ頑張りたいなって思ってしまったの」
「それはどうして?」
「騎士の中にね……来月お子さんが生まれるって言ってた人がいて。その人はその生まれてくる子供に会えなくなってしまっても、自分の魂は子供と妻に寄り添うって覚悟を決めていた。それがなんだか素敵だなって思って」
「つまり、その騎士達の為にも頑張り過ぎたって事か」
「出来たら生きて帰って、自分の血を引く子供の事を腕に抱いて欲しい。それを考えたら気付いたら頑張り過ぎていたの……私のお腹の子供の為にも無理はダメなのにね……」
「アレス、それが分かったなら今後は頑張り過ぎない様にしてくれ。アレスの身体はもうアレスだけの身体じゃない、俺とアレスの子供の為にも母親のアレスが無理して倒れたら子供も心配するだろう?」
「うん、ごめんなさい……でも、もう1つだけ我儘言ってもいい?」
「俺に聞ける事なら」
「……触って欲しい……力が溢れ出て制御しずらいの」
アレスの瞳を見つめていたランスロットにもそれは分かっていた。アレスの光の力が予想以上に強いのか、それとも多いのか、身体の中でそれが溢れ出ようとしているのが辛いのだろうと。
ランスロットはそっとアレスの顔を覗き込んで静かに告げる。兄としての顔をランスロットはしていて。
「俺が傍にいるから、少し落ち着く様に力の制御に集中しよう。アレスは休んでいなさい」
「んっ、ありがとう……」
アレスの額にそっと口付けをするランスロットはそのまま眠りに落ちたアレスの手を優しく握り締めたまま集中し始める。2人の時間が静かに流れていく――――。
ラオンの脳裏にはもう1人のランスロットの肉体を求めている男の存在、バルキットの事が思い浮かべられる。あの男の存在もまたラオンの計画には必要不可欠でもあった。
このガハランド大陸に闇をもたらし、そして、闇による支配をする為にはバルキットの存在は無くてはならない。だが、ラオンは自分の立てた計画に少しばかりの修正をする事も考えていたのである。
「(バルキットの魂を私の中に取り込み、そして、私の血肉として糧にするのも悪くはない……。その為の器としてあの申し子の肉体は必要だ。何があったとしても手に入れて私の魂を飲み込ませてみせる)」
「ラオン様、本日分は終わりました。どうぞお身体を楽にされて下さい」
「今日のはやけにロドが濃いな。そんなに融合が進まなかったか」
「いえ、光の力に対抗する為にも強いロドを流し込んだのであります。身体と魂は完全に融合は出来ていますので、問題は器の肉体の老化でございます」
「そこは私のロドでどうにでもなる。それよりもあの申し子の肉体が欲しい。なんとかして手に入れるのだ。もはやバルキットの為に手に入れる必要はない」
「と、申しますと?」
「バルキットの魂を私の糧として飲み込むつもりだ。私こそがこのガハランド大陸に闇をもたらす存在として相応しいのだからな」
「……承知致しました。すぐに申し子の肉体を手に入れれないか考えてみます」
ラオンの前から辞した闇の導きの者はその足をある場所に向ける。闇の瘴気が強く根付き、そして、闇の力が強く残るその場所を闇の導きの者はこう呼ぶ。
『ディーオ』
「ディーオの存在をあのラオンは知らない。そして、愚かにも自分こそが真なる支配者であるかの様な考えを持ち始めている。やはり単なる英雄の魂ではそこまでが限界か。愚かにも私の魂を糧にするとは、笑わせる」
『バルキットの魂を食らうと申しているのかラオンは。愚かな事よな。自分こそが操り人形である事を知らないとは。悲しき魂よ』
ディーオから響き渡る声はバルキットの姿をした……偽りの虚空の魂である。闇の導きの者としての姿をしている存在こそが本物のバルキットの姿でもあった。
ラオンが人間の肉体を得ていた様に、バルキットもまた人間の肉体を手に入れていたのである。そして、バルキットの人間の肉体に宿っている魂とディーオにある肉体の魂は別々の魂。
虚空の魂はバルキットの本来の姿である覇王の姿を意地する為に、肉体を得ているバルキットの魂が用意した魂。そして、覇王の姿を維持させている間に本来の魂は人間の肉体を得て、依代に最も相応しいランスロットの肉体を虎視眈々と狙っていたのである。
「このまま行けば、ラオンは自滅する運命だ。そして、その後にこのガハランド大陸に闇をもたらした愚かな聖王として語り継がれていく。だが、私は違う……このガハランド大陸に闇をもたらすのに別に興味はないのだからな」
『我々が求めているのは、天上界の崩壊と破壊。それだけの事だからな』
「そう、天上界にて加護を与えている神々の寝首を掻く事だけを願い続けてきた。そして、その時が訪れ様としている。神々がいなければ私達は確実に支配する事が叶うのだからな」
『我々、真なる覇王こそが全ての支配者として相応しい事を知らしめる事になるのだな』
ディーオから覇王の姿をしたバルキットの顔が浮かぶ。肉体を得たバルキットはその顔に微笑みながら頷き、そして空を見上げて思う。
この永遠とも言える神々の支配から逃れんとしていた永きに渡る苦痛の時を耐え抜いて、そして、今やっとその時から解放される時が訪れようとしている。神々の死こそ、バルキットの最大の願いでもあった。
神々を酷く憎んでいるかの様に空を見上げているバルキットは静かに口元に笑みを浮かべる。自分の存在を神々が知る時は既に計画は完成に近い時、手遅れに近い時である事をバルキットは信じている。
「私はこのままラオンの魂を取り込む為の準備を続ける。お前は取り込んだ後にラオンの肉体になっている器を食らえ」
『仰せのままに』
クックッと笑いながらバルキットはラオンの魂を取り込む為の準備を再開させていく。本当の闇はバルキットであるのだろうか。
――――
ランスロットの召喚に答えた純血の天使達により、闇の瘴気は徐々に浄化されて大地には光が差し込んできて命の流れが出来始めていた。そして、ガーベルの一団がランスロットの元に到着して祝福された弓を持ってきた事を伝えていた。
ガーベルの話で、その弓が元々ティクスの繁栄を願って祝福された存在であった事を知った事でランスロットの元に運んでくれたガーベルに礼を述べる。だが、ガーベルはランスロットに忠告する。
「ラオンがこの弓の存在を知らない訳ではないかと思います。それだけではありません……ラオンの背後にいる異世界の魔王バルキットの事も考えなくてはなりません。私達はまだ本当に倒さなくてはならない敵を見極めていないのです」
「ラオンがバルキットの力を求めているだけならまだ何とでもなるが、肉体をラオンもバルキットも狙っている。迂闊に俺が出て行く訳にはいかないのがな……」
「本当にラオンはバルキットの力を求めているのでしょうか。私にはお互いに反発し合ってる様に思えます。もしかしたら敵の内情は一枚岩ではないのかもしれませんね」
ガーベルは祝福された弓をランスロットに手渡しながらそう告げて溜め息を吐き出す。そうだとしても敵が強いのは言うまでもないのである。
そこにローレンスとロゼットがやってくる。何かが起こったのは明らかだった。
「どうかしたか?」
「アレス嬢が高熱を出しましたのでお知らせに」
「負傷者達の治療に力を使い過ぎたらしい。少し休ませる必要があるだろう」
「そうか……。ラオンの方に動きは?」
「今の所はありません。それどころか瘴気が浄化されているお陰で弱体化が見られています」
「ランスロット、アレスを休ませている間はお前も休め。俺達の方でその間の調整は出来る」
「あぁ、すまないが頼む。光の力も回復させておく」
「それでは私はティクス本国に戻ります。どうかご無理はなされないで下さい」
ガーベルを見送ってからランスロットはテントを出てアレスがいる場所に向かう。フィンも同行しているだろうが高熱を出すまで頑張るアレスにランスロットは微笑みを浮かべてしまう。
フィンの看病を受けていたアレスの熱は思っている以上に高熱が出ており、それだけで体力が消耗されていく。戦場の空気も悪いのだとも言えるかもしれないが、光の力を使い過ぎもあるのだとは理解していた。
「お婆様」
「あ、ランスロット……。思っている以上にアレスに負担を掛けてしまいました。ごめんなさい」
「いえ、それはアレスが自分で判断して行った結果ですから。お婆様は大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。それと……一度天上界に行ってもいいですか?」
「神々の元にお戻りになられるのですか?」
「アレスの力の為に神々にある宝具を貰いに行こうと思うのです。私が戻れるのはあまり許された事ではありませんが……」
「神々だってお婆様の事を怒っている訳ではないのです。どうかもっと神々を信じてもよろしいのではありませんか?」
「……そうですね。天使の私の血を引く貴方とアレスに加護を与えて下さっているのを考えれば、神々も理解して下さっていると考えておくべきですね」
フィンはそこまで言って汗を浮かべているアレスの額をタオルで拭いていく。ランスロットの視線がアレスの寝顔を見つめる。
まだ比較的に穏やかな寝顔をしているのを確認して、フィンに看病を代わる事を伝える。フィンも天上界に行く為に準備をするとその場から離れる。
アレスの熱い手にそっと触れながらランスロットの光の力がアレスの身体に反応していく。光が反応するというのはそれだけアレスの光が弱まっている証拠でもある。
眠り続けているアレスの手を握り締めている横で、そっとアレスの頬に唇を寄せる。アレスの辛い苦しみもランスロットが代わりに引き受けたいと思ってしまう。
「アレスは少し頑張り過ぎる所があるからな……そこが美点でもあるんだが。だが、無理をさせたのは間違いなく俺の責任だ。少しの間はアレスの事を思うのであれば休ませてやる事も考えておかないと」
ランスロットの独り言が聞こえたのか、アレスが伏せていた瞳を開いて行くとランスロットの瞳を見つめる。何かを言いたげな瞳を受け止めてランスロットの右手がアレスの頬に添えられて撫で上げる。
頬を撫でられて嬉しいのか、アレスは熱で上気した顔で微笑みを浮かべる。そして、掠れた声でランスロットの名を呼ぶ。
「ランスロット……」
「頑張ったな。だが、お前が倒れたら意味がないだろう?」
「ごめんなさい……でも、少しだけ頑張りたいなって思ってしまったの」
「それはどうして?」
「騎士の中にね……来月お子さんが生まれるって言ってた人がいて。その人はその生まれてくる子供に会えなくなってしまっても、自分の魂は子供と妻に寄り添うって覚悟を決めていた。それがなんだか素敵だなって思って」
「つまり、その騎士達の為にも頑張り過ぎたって事か」
「出来たら生きて帰って、自分の血を引く子供の事を腕に抱いて欲しい。それを考えたら気付いたら頑張り過ぎていたの……私のお腹の子供の為にも無理はダメなのにね……」
「アレス、それが分かったなら今後は頑張り過ぎない様にしてくれ。アレスの身体はもうアレスだけの身体じゃない、俺とアレスの子供の為にも母親のアレスが無理して倒れたら子供も心配するだろう?」
「うん、ごめんなさい……でも、もう1つだけ我儘言ってもいい?」
「俺に聞ける事なら」
「……触って欲しい……力が溢れ出て制御しずらいの」
アレスの瞳を見つめていたランスロットにもそれは分かっていた。アレスの光の力が予想以上に強いのか、それとも多いのか、身体の中でそれが溢れ出ようとしているのが辛いのだろうと。
ランスロットはそっとアレスの顔を覗き込んで静かに告げる。兄としての顔をランスロットはしていて。
「俺が傍にいるから、少し落ち着く様に力の制御に集中しよう。アレスは休んでいなさい」
「んっ、ありがとう……」
アレスの額にそっと口付けをするランスロットはそのまま眠りに落ちたアレスの手を優しく握り締めたまま集中し始める。2人の時間が静かに流れていく――――。
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