私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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12章

96話「勝利を掴んだその瞬間」

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 ランスロット達が異界から戻り、ガハランド大陸に戻ってきたと同時にガハランド大陸に光が無数に差し込み光が大陸を包み込んでいた。それはまるで神々がランスロット達が無事に戻ってきた事を知らせるかの様であり、離れている者達にも戦いの終わりを告げるかの様な光の差し込み具合ではあった。
 ティクス国では光の差し込み具合と大陸全土に及ぶ神々の慈愛に満ちた加護の付与がされている事を確認し、ランスロット達が戦いを終えた事を知る。それは騎士団を預かっているハルウッド・カセルを始めとする騎士団の面々にも伝わる事となる。
 ハルウッドとカセルはランスロット達が戻ってきている事を知った上でアベリオ国の騎士団の対応を一気に厳しくする事にした。それはランスロットがいない間に聖女で婚約者のアレスの事を調べようとしたアベリオ国への制裁を兼ねている処分を取り仕切る事にしていたからである。
 騎士団の人間達が集まる朝礼の時間にハルウッドがアベリオ国の騎士団の面々にハッキリと伝える。今後聖女に関する事を内偵を使って調べたり、聖なる武器の事を内密に調べたりする様な動きがあればティクスはアベリオ国の同盟を破棄し、それ相応の対応を取る事を断言すると伝えたのである。
「もし、この決定に不服がある場合は正式な使者を立てて抗議をしてもらえればそれ相応の対処をする事をお約束致します。しかし、先にこちらの信頼を裏切るような真似をしているのはアベリオ国である事を踏まえて、我々はそれ相応の行動を考えています」
「騎士団としては、まず手始めにアベリオ国の騎士団の方々には今後このティクス国内部での活動制限をさせてもらう。そして、それを不服に思うのであれば無実を証明出来る証拠を用意してもらわないと制限を解除する気はないと思っていい」
 ハルウッドとカセルの両名からの発言にアベリオ国の騎士団の面々は一気に顔色を変えて黙り込む。不服を申し出るのもリスクがあるし、無実を証明するにもリスクはあるのをしっかり現実胃を突き付けられている状態なのである。
 ロゼットとロックがその様子を玉座の間から出たテラスから眺めていると、ロゼットの元にガーベルが姿を見せる。ガーベルの手には分厚い報告書が持たれているのを確認したロゼットにロックが静かに微笑みを浮かべるとガーベルの仕事振りに感謝の言葉を伝える。
「本当にガーベル様とロゼット様のお仕事のお陰で早い内にアベリオ国との同盟の見直しが出来そうです。これもひとえにお2人の内密な調査と証拠集めのお陰でございます」
「勿体ないお言葉でございます。私の出来る事をしたまでの結果ですから褒めて貰えるとは思っておりませんでした。それにロゼット様のご期待に添えたかは不明でございますし」
「俺の見当違いなら悪いが、この証拠の半分以上はガーベルの独自の調査による結果だろう? それならば俺の期待には充分に応えているのは確かだぞ。ランスロットの留守中の見事な成果だと言える」
「ランスロット様の喜ぶお顔を見れると思うと私は嬉しいです。それにアレスだってこの証拠集めに力を貸してくれたのでしょう?」
「えぇ、聖女アレス様のお力添えもあった上でこの分厚さになりましたので。一番の功労者はアレス様だと思いますよ。身重の身体で敵を誘き出す功績を残されたのですから」
「本当にランスロットの妹であり、聖女であり、騎士としても優秀な娘だと思う。自分の身辺にいる騎士達やローレンスと共に炙り出すのだからな」
 ロゼットの笑い声が静かにテラスに響く。それはロックも同じでガーベルはやれやれと右目のモノクルを左手の人差し指で押し上げて溜め息を付く。
 こんなのがランスロットの耳に入れば責められるのはロゼットや自分だと言いたげな視線をロゼットに向けるが、ロゼットは我関せず状態で笑い続けている。実際、アレスの強力が無かったらこんなに早く証拠が集まる事は無かったと言ってもいいのだから。
 アレスが聖女として屋敷から出て、城の直属である教会に祈りを捧げに行ってアベリオ国の騎士団の人間と話をした際に、名前と自分に会いに来た理由をそれとなしに伺って記憶してくれていたのである。まさか聖女がこんな危ない目に自らなるとはアベリオ国の騎士団の人間達は考えもしなかったのだろう。
「陛下、これはあくまで表面上の動きでしかありません。本格的な深層部の動きはランスロット様が戻られてから具体的に考える事がよろしいかと思います」
「そうですね。ランスロット様の判断も今後は必要になるでしょう。ロゼット様とランスロット様のお2人によってこの国は支えられていると言っても過言ではありませんから」
「それは買い被りというものでございますよ陛下。俺やランスロットはあくまで主であるロック王の指揮下の元で軍師と騎士団長としての任務に就いているだけの事ですからな」
「ですが、お2人の存在があるからこそ国として機能をしているのも事実でございます。今のティクスを支えている2大柱は間違いなくロゼット様とランスロット様だと言えるでしょう」
「私はまだ幼くて無知な部分が目立つ王です。そんな王でも国の為に出来る事は色々とあるかとは思います。でも、それでも、まだまだ支えてもらわないと出来ない事も多くあります。だから、まだお2人には傍にいてもらわないといけません」
 ロックはそこまで話をして、ゆっくりと空を見上げて静かに微笑みを深める。まだ14歳の年齢であるロックが王としての素質を持っていたとしても名君と呼ばれるだけの政治や治政を行う事はまだ不可能だと理解しているから出来る微笑みだと、ロゼットとガーベルは見ていた。
 そんな若き王を支えていくだけの素質を持つランスロットやロゼット、ガーベルをロックはかなり信用をして、意見も取り入れ、そして、自分の成長を一番近くで見届けて貰う事が何よりも恩返しになる事だと思っている。ロックの脳裏には若き姿のままで志半ばで息を引き取った兄、ケンベルトの王としての姿が浮かんでいた。
「私は兄のケンベルトと比べて経験も器も知識も少なく未熟な王ですが、それでも……私はこの国をケンベルト兄様から預かり、引き継いだ王として国を発展させていき、より豊かな国として人々に愛されるティクスにしていく事が夢です。だから、まだこんな私でもお2人のお力は本当にありがたいと思っているんですよ?」
「ロック陛下は立派にケンベルト様のご意思を引き継がれている。それは誰から見ても分かる程にケンベルト様への親愛を感じさせます。だからこそ、私やロゼット様とランスロット様がこうしてお傍にいる事も偶然ではないのですよ」
「そうだな。俺はケンベルト陛下の頃に騎士団長を辞して軍師としてこのティクスの内政に関わっているが、それでもケンベルト陛下の時に出来なかった事をロック陛下は成されている。それは弟だからとか、引き継いだからだとかのものではないと思える」
 ロゼットの言葉にロックは驚いた様な表情をして空からロゼットの方に顔を向けた。その驚き方は本当に心の底から驚いているのだと言える程の表情であったのをガーベルは見ている。
 まだ少年の面影を残すロックの瞳をロゼットは微笑みながら見つめ返す。そして、そんなロックにロゼットはケンベルトの頃からの忠義を尽くすのであった。
 城でそんな出来事が起こっているとは知らないのはエルンシア家の自室で、1人出産に備えて呼吸の練習をしていたアレス。フィンが今日から屋敷に助産師や医者を寝泊りさせて出産に備える為の準備を取り仕切ってくれている。
 出産まで残り2週間という所まで迫っているが、未だに陣痛を感じる事はないがお腹の張りはパンパンになっており、いつ出産の陣痛が来てもおかしくない状態ではあった。フィンのサポートがあるからまだアレスは比較的に落ち着いて過ごせているが、これが1人での準備などだったら今頃は、とアレスは静かに祖母の存在に感謝を覚えていた。
「失礼します。産道の確認をしに参りました。まだ痛みとかはありませんか?」
「まだありません。その……出産の前に破水ってのが起きるとお婆様からお伺いしているのですが、それすらもない様に思えて……」
「それじゃ念の為に確認して本格的に出産に備えての準備に入って行きましょう。また出産が初めての初産ともなりますし、双子の出産ですから何が起こるか分かりませんのでね」
「はい、私自身も勉強をしてはいますが実際にそうなる事例通りになるとは思えないので、先生達のお力をお貸し下さい」
「それじゃ産道を確認しますね? 足を開きますよ~」
「っ、はい」
 助産師の女性の先生がアレスのベッドに近寄り両足を開かせて産道が開いているかの確認を行う。その間のアレスは心許ないのか少し視線を彷徨わせて落ち着かない。
 助産師が「あっ!」と声を上げたのをアレスはビクッと身体を跳ねさせて聞いてから驚いた顔の助産師を見つめる。助産師はすぐに助手の女性に何かを指示して準備に取り掛からせていた。
「あ、あの……?」
「破水していますよ! 産道も完全に開いている。陣痛がまだ一定間隔じゃないからって油断していたみたいです。お産に入りますよ!」
「えっ、えぇ!?」
 アレスの驚きの声に重なってフィンの姿が部屋に現れて、出産の準備が始まっているのを確認するとアレスの隣に移動して右手を握り締める。フィンの手がアレスの右手を包み込んでくれるので少し落ち着きながらアレスは初めての出産に入る事となった。
 それから陣痛が来ないのも考えて自然と陣痛が来るのを待っていたら難産になるとの判断をした助産師の女性は、ハーブで作られた陣痛促進剤をアレスの子宮に打ち込んで強制的に陣痛を起こす。そして、ジワジワと痛みを感じ始めたアレスは額に汗を浮かばせて、これから襲い掛かってくるだろう激痛に備えて心構えをしっかりとするのだった。
「アレス、これから頑張る貴女の事を神々はきっとお見守り下さる。大丈夫、元気な我が子と出逢えますよ」
「は、はい、お婆様」
「さぁ、自然の理のままに命の誕生に挑むのです」
 フィンの手を握り返してアレスは初めてのお産に挑み始める。屋敷中に響き渡り始めるアレスの出産時の声は神々にすら届くかも知れない程に大きく、そして、力強い母親への試練に挑んでいる女性のアレスの悲鳴でもあったと後々ローレンスとアルフォッド達はそう語っていた――――。
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