最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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東の大陸へ編

32話「体調不良」

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 エゾッフェ街からヘリオス国へ向かったアルス達、ハンターの男が王として君臨し国を治めているという国である。そのヘリオス国とオベールゾ国の間で異変は起きているとの情報を得ている事もあってルーピンを飛ばしながらアルスが背後のハルトにこう切り出す。

「異変の原因が判明したらハンター達が処理するとは思うんだが、何だか嫌な予感しかしないんだよな」
「嫌な予感?」
「ドラゴン系が関わっている訳じゃないだろうが、何か人為的な裏がありそうな予感」
「それはこっちとしても要注意して調査しないといけない事に繋がるとは思う。アルスの勘はよく当たるから」
「あまりにも当たらないでもらいたいのはあるんだけれどな。流石に今日はこれ以上はルーピンでも無理か。降りるぞ」
「頑張ってくれてありがとうルーピン」
『キュオン……』

 ルーピンの速度が下がり始めた頃を見極めてアルスは大地に降りる様に指示を出す。ドラゴンと違って竜は長時間の飛行には向いていない。
 その分吐き出すブレスや短時間の飛行には輝く点が多い。だが、そんな竜の特性とドラゴンの特性を活かしたハイブリッド種も人工的ではあるが生み出されているのが今の時代はあって、竜騎士達は複雑そうな心境ではある。
 ガルーダでもハイブリットの種を育てていくべきではないか? そんな意見もガルガル本部に集まる程なので近い内に竜騎士の愛竜は変わるのかも知れないとアルスはハルトに話している。でも、ハルトは知っている……アルスはルーピン以外の竜に乗る事はしない事を。
 それだけの絆があるのも知っているし、いくらハイブリットとは言えドラゴンの血があるとなればいつ本能に従って人間達を襲うかは分からないのが本心なのをアルスから聞いているからだ。アルスは竜騎士と竜の関係性は常に「切っても切れない強い絆」とハルトに言っていた事もハルトがそう考えるに至る理由ではある。

「よーし、ルーピンは休んでいるといい。餌になりそうな場所を探してくるからな」
「僕は野宿の準備に取り掛かる。ルーピンはここで待ってて。すぐに戻るから」
『ヒュンオー』

 尻尾を振ってお留守番を任せろって伝えているルーピンを置いてアルスは餌場探しに、ハルトは見えていた川辺に向かって飲み水と調理用の水を汲みに行った。少しして飲み水類の確保を終えたハルトが戻るとルーピンが自分の翼に口を付けて何かをしているのが見えてどうしたんだろうかと近寄る。
 ルーピンがハルトに気付き、翼から口を離すとポロポロと鱗が数枚口から落ちて地面に散ったのをハルトはしっかり見ていた。剥がしただろう場所には新しい鱗が生えており古い鱗が取れないで痒かったのだと察して頭を撫でてあげた。

「生え変わりの時期だっけ。そろそろ身体のケアもしてあげないとね」
『グオグオ~』
「お待たせ、ルーピン餌場近いから行くぞってどうした?」
「古い鱗が取れなくて痒かったみたい。ご飯食べている間に点検してあげて」
「あー、そろそろ生え変わりの時期か。分かった、それじゃ食べさせてくる」
「はーい」

 ドスドスと歩いてアルスと餌場に向かうルーピンを見送ってハルトは食事の用意の為に焚火を起こす事を始めた。少しして火種と焚火の準備が整ったので火を用意し終えると簡易的な調理を始める為に小型の鍋に水を入れてお湯にする為に焚火に置く。
 コポコポ沸き始める鍋に調味料と干し肉を炙ってから小さく千切って入れるとスープを作っていく。日が落ち始めて周囲に暗闇が迫りつつある頃にルーピンとアルスが戻ってきた。
 ルーピンはハルトのいる場所の背後に陣取って丸くなり翼を休め、アルスは火の傍でフルヘルムを取り少し落ち着いて息を吐き出してリラックスし始める。スープと共に乾燥させて硬くした携帯食料のパンを用意しているとアルスが少し笑いながら餌場のルーピンの話をし始めた。

「ルーピンの翼に生えている鱗、よくよく見たら潮風で取れやすくなっていたのが元々強い鱗の持ち主であるルーピンの皮膚のせいで中々剥がれなくてさ。食べている間に30枚ほど剥がしたぜ」
「そんなに生え変わりの量ってあるの? 一気に剥がして大丈夫?」
「もう新しい鱗が生えていたから大丈夫。人間で言うなら子供の歯が取れる様になるのと同じ現象だ。竜達は年に2回は生え変わりの時期が必ず訪れるから定期的にチェックはしてあげないといけねぇの」
「今回気付けて良かったね。それにしてもルーピンの身体の鱗って綺麗だけれど鋭利だね?」
「どうした?」
「さっき落ちていた鱗が勿体ないから拾ったら右手の親指が切れちゃった」
「あらら。まぁ竜の鱗はドラゴンより鋭いし硬いから気を付けろよ?」
「うん。でも、ルーピンの色味は僕好きだよ」
「綺麗だよな」

 背後で休んでいるルーピンを眺めて完成したスープとパンを炙り簡易的ではあるが夕食の準備は整って、人間組もしっかりと身体に栄養と温もりを補充する。見張りながら交代で休むのも慣れたもんで、アルスはハルトが起こさない限り起きない程の信頼をしている。
 ハルトもハンター生活が15年も続けているので見張りは得意である。ハルトが見張りをしてアルスが休んでいる時、夜空には無数の流れ星が流れていた……何かを知らせるかのような流れ方をしているのにハルトは気付かない。
 ハルトが交代の時間になるとアルスの近くに行こうとして気付く。ルーピンがハルトの服を噛んで行かせない様にしている事に。
 いつもはお願いしてくる時のルーピンは尻尾を絡ませてきて行かせない事はあったが、噛んで引き止める、とのいうのは初めてでハルトはルーピンの方に身体を寄せて問い掛けた。

「どうしたのルーピン?」
『……』
「アルス起こすだけだよ? どこにも行かないから安心して?」
『行ってはならない』
「!?、え、る、ルーピンの声??」
『この声はハルトの頭に直に語り掛けている。アルスは今休ませ置いてほしい』
「それはどうして? それは僕は構わないけれど理由あるなら教えてほしい」
『アルス、少し熱がある。私の食事の時に触れた手が熱かった。人間の身体は弱い、休息をしっかり取らないアルスの場合倒れたら暫くは動けないのは知っているだろう?』
「アルスに熱? それなら薬早めに飲ませて休ませたがいいね。ルーピン、アルスを温めてあげて? 僕が薬の調合している間に起きない様に」
『分かった。ハルト、すまない』
「いいんだよ。こうして教えてくれてありがとう。それじゃしっかりアルスが飲める薬の調合に取り掛かる。苦くても無理矢理飲ませるから安心して」

 ルーピンと会話が出来た喜びもあったが、アルスの体調を見抜けなかった自分に悔しさが募るもののとりあえず回復薬の調合を始める。ルーピンがアルスの身体を包み込む様に翼で覆うとアルスが起きた気配を感じるがルーピンが身体を抑え込んでいるのだろう、抵抗している声が聞こえてきた。
 調合は少し手間が掛かるがアルスが無理矢理でも飲める程度まで苦味を薄めた回復薬を作り終えたハルトがルーピンに近付く。アルスが弱々しくルーピンの翼を持ち上げ様としているのに気付き、本当に熱が出始めているのに気付く。
 アルスの身体を抑えている翼を掻い潜って口元に回復薬を持って行くと問答無用で流し込んだ。ハルトの攻撃に驚きながらも本能的に飲んでいくアルスにハルトも安心する。

「プハッ! にっげー!!」
「良薬は口に苦しっていうじゃないか。熱、出ていたんだろ?」
「いつから気付いた……?」
「ルーピンが教えてくれたんだ。ご飯の時に触れた手が熱かったって。隠さないで。信用ない?」
「自分でも気付いてなかったんだよ……でも、ごめん」
「いいよ。それじゃ引き続き寝てて。朝になるまでに下がらなかったら近くの森にでも行って簡易テント作るから」
「すまねぇ……それじゃ異変あったら起こせよ?」
「分かっている。お休み」

 またルーピンに寄り掛かって眠り始めたアルスが素直なのも野宿で体調を本格的に崩せば迷惑を掛けるのを知っているから。ハルトは聡明なアルスに微笑みを浮かべてまた元の位置に戻って朝の分である回復薬の調合を始める。
 出逢いたての頃はこんなに素直に体調が悪くても寝なかったアルスが、結婚した今では心から安心して寝てくれる事がハルトには嬉しく感じれていた。それ程までに体調が悪いのと信頼があるからだろうと考えると不思議と怒る事もしないで済む。
 暫くはヘリオス国へ行くのは控えて身体のメンテナンスに割いた方がいいだろうか、そう考えて朝を迎えると本格的に熱が出始めたアルスが怠そうにしているので、やはり急いでテントを作った方がいいと判断。回復薬を飲んだアルスをルーピンに乗せてルーピンに近くにある森へと飛んでもらった。
 
「あそこかな。ルーピンいい?」
『キュオ!』
「アルス、もう少し我慢して。すぐにテント張るから」
「悪い……」

 森に降りたハルトはすぐに道具からテントの準備を始めて木々の間にロープを張り、そこに簡易的ではあるが雨風凌げる丈夫なテント布を掛けて固定していく。テントが完成して適度に詰め込んで作った枕を置いてアルスを寝かせるとアーマーを取り外して楽にすると同時にタオルケットを掛けて寝かし付ける。
 ルーピンにテントの傍で様子を見ててもらっている内に食料になる動物を狩りにハルトは森の中へと走り出す。2人にとってこの時間は久々の夫婦としての時間を過ごす事になり、お互いの存在が大事だと痛感する時間となるのだった――――。
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