最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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一時の休息編

47話「準備段階」

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 バドリアのアイテムショップの数件をはしごして色々なアイテムを買い込み、携帯食料の買い足しも済ませて宿屋に戻ってきたハルトはアルスの筋トレをしている所に出くわした。まだまだ筋トレして筋肉を付けようと頑張るアルスを応援したいから食事も筋肉が付きやすい食事を心掛けている。
 荷物を整理する為にテーブルに買ってきたのを置いてポーチやバッグに詰め込んでいく。そろそろ本格的に休息も終わらせてゴルゾーネ砂漠方面に移動する事を考えていた。

「ふっ、よっ、ふん」
「……」
「はぁ、これでノルマ終わりっと。ハルト、準備は?」
「んーある程度整いつつあるよ。それで足りないのがあるか確認中」
「悪いな任せて」
「別に気にしないでいい。僕が好きでしている事だし、それより少し気になる噂が流れているんだけれど……」
「噂?」

 ハルトはアイテムショップで聞いた噂を思い出す。アルガスト大陸の北にあるアルストゥーラ国から新しい守護者が誕生したとの噂である。
 別段守護者が誕生するのは珍しい事じゃないので気にはしてなかったが、その守護者というのが少し引っ掛かった。ドラゴンを操るドラゴン使いの青年、そう聞いたからだ。
 アルスにも同じ話をしてアルスの反応を伺うと、アルスは少し考え込んでいたがあまり気にしないのかすぐに顔を上げて笑顔を浮かべる。だが言葉は予想外過ぎたが。

「潰すか」
「えぇ!?」
「ドラゴン使いってのが引っ掛かる。竜騎士とは違うから勝手も違うんだろうが、あのドラゴンだからな……嫌な予感がする」
「そうだね。だからって潰すって発想になるアルスが怖い……」
「俺の敵になるんなら潰すまでだろ。ハルトだって邪魔なら潰すじゃん」
「僕の場合は”邪魔”っていうのが前提だもん。まだそのドラゴン使いが”邪魔”だとは言えないでしょ」
「どうだかな。俺に危害ある様なら潰すの早い癖に」
「アルスを傷付けるなら容赦なく潰す」
「おー怖っ」

 肩を竦めて怯えている振りはしているものの、笑顔でいるアレスにハルトも微笑む。噂は所詮噂にしか過ぎない。
 気にし過ぎなのもいけないんだろうと、ハルトは準備に集中していた。アルスはベッドの上で胡坐を掻いて座りハルトを見つめていたがハルトの話していたドラゴン使いの守護者、どうも引っ掛かる。
 アルファの言葉もあって色々と自分達の行く手に何かが待ち侘びているのは確かだろう。その待ち侘びている何か、見極めて対応しなくてはいけない。

「……はぁ」
「アルス」
「ん?」
「少し出てくる」
「まだ買い足すのがあるのか?」
「バッグ買い替えだね。底が破けそう」
「あぁ、それなら買いに行くしかねぇよな。俺も行く」
「それじゃアルファ、ルーピンと一緒だし行こうか」
「おう」

 また買い出しに行く為に部屋を出て行くハルトに付き添ってアルスも出て行く。お互いにラフな私服姿なので街に溶け込んでいるが、アルスの顔は少し険しい。
 ハルトが歩く度に女性からの視線を浴びているのが気に入らないのもあるのだが、本人はそんなのを気にした様子も見せないでアルスの腰に腕を回して抱き寄せている。それが嬉しいが視線が気に入らないのと相殺されて険しいのだ。
 アルスの険しい顔付きに気付いているハルトはどうするか考えながら歩いていると目の前に小さな女の子が花を売っているのが見えた。貧乏だから売っているのではない、このバドリアには花が沢山植えてありそれを人々は生活の一部として取り入れている。
 ハルトは女の子に近寄り花を一輪買わせてもらった。アルスが怪訝そうな顔で近付いてきて見上げてくると、ハルトはその花をアルスの右手に持たせて人々の前で堂々と唇を重ねてしまう。

「んっ!?」
「……これでご機嫌直してアルス」
「は、ハルト!!」
「ふふっ、似合っているよ」

 花を売っていた女の子も真っ赤になる位に甘い雰囲気の2人は寄り添いながら旅の道具ショップへと向かう。周囲はハルトの独占欲に当てられ、アルスの事を羨ましそうに見つめてしまう様になってしまうが。
 2人してショップに入ると色々な大きさや素材ごとに分かれて置かれている商品を見ながら、旅に暫く使えそうな丈夫なバッグを探していく。アルスが店の人間と話し込んでる間にハルトが上質な生地で丈夫に使えるバッグを見付けると持って来てアルスに確認してもらう。
 アルスもバッグに触れて丈夫さを確認していると、店の人間があるバッグの素材について面白い話をし始めた。それは竜騎士ならば気にはなる素材。

「東のこの大陸にしか存在しないボルフィンドっていう魔物の皮で作ったバッグは強いですよ」
「どんな皮なんだ?」
「ドラゴンの様に丈夫で、竜の様にしなやかな皮でございます。簡単に言えば今話題のハイブリットな魔物だと思ってもらえれば」
「ふぅん……ボルフィンドか」
「その皮で作られているバッグって貴重なんじゃないですか?」
「そうですね。収穫するのに数年の間で乱獲があって貴重にはなってしまいましたが。ただこの東の大陸のボルフィンドは異常なんです」
「異常って数が多いとか凶暴だからとかか?」
「繁殖スピードが異常なんです。そもそもそんなに個体数が多い訳じゃないのに、気付いたら大陸の各地に生息エリアを広げているので。ギルドやガルガルにも依頼して駆逐してもらわないと人間の住むエリアが犯されしまう程で……」

 店の主はそう言いながらハルトの持ってきたバッグを清算してくれた。受け取りと支払いを済ませた2人はショップを出てのんびりとショップ通りを歩いていたがアルスはボルフィンドについて少し考える事があったようだ。
 ハルトも同じ事を考えているのだろう、繋げた手から微かに汗が滲んでいるのが伺える。
このアルガスト大陸では創造主はアルドウラ神、ハンターや竜騎士の加護をしているのが男神のダラズ神、そして生物や女子供の加護をしているのはレジャ神と呼ばれる3神で成り立っている。
 今回のボルフィンドの異常なまでの繫殖スピードは恐らくレジャ神の身に何かが起こったという事だろうと2人は考えていた。アルドウラ神が何もしないとは限らない、でも、その何かを期待するのは違う気がすると考えているのが2人。

「俺達、厄介事ばかりに巻き込まれているな……」
「それもアルドウラ神への手土産になるかも知れないじゃないか……」
「でも、これだけは言える……明らかに普通じゃない」
「死ぬ、それも視野に入れておかないといけないとかかな……」

 ジワリ、そう汗を流しながら未知なる神々のもたらすこの問題を2人は向き合おうとしているのが分かる。だが、2人は本来ならレジャ神の問題に首を突っ込む必要はないのだが、どうして突っ込むのか?
 2人の性格を考えれば知らない振りだって出来るのだが、それをしない……出来ない理由もあった。アルガスト大陸の古い歴史の中で過去にもこの様な出来事が起こった事がある。
 その時、人々は魔戦争開戦が間近だった事もあってレジャ神の異変に気付かなかった。その結果、魔戦争開戦寸前……人間達は酷く深刻なダメージを受けて魔戦争に挑む人間達の半数が死亡したと残されているのである。
 それを2人は知っている、だからレジャ神に何か起きているだろう今の現状を見て見ぬふりは出来ないと判断したのである。アルドウラ神への手土産としてレジャ神の加護を受けるのも悪くない、そう考える様にして2人はこの問題を解決する事にした。

「問題はボルフィンドの生態を僕達は知らない、って所か」
「ギルドに行くなら買えるんじゃないか? 情報」
「うーん、どうなんだろう。一応基礎情報は貰えるとは思うんだけれど、ランクに関係する情報だったら少し厄介かも」
「またランクか」
「異変のランクアップがどこまで上がるか、それに掛かっているかもね」
「面倒だなある意味」
「アルスの場合もランクあるんじゃないの?」
「ランクって名称じゃねぇからなー。階級って感じだ」
「階級か、そっちの方が竜騎士らしいちゃらしいね。でも今更ランクにこだわる必要もないんだけれどさ」
「辞めるから?」
「うん。辞めれば一からやり直しだし」
「ふぅん」

 腕を組んで歩きながらハルトの言葉を聞いていたアルスは自分の中で未消化になりそうな言葉に気付く。辞めれば一からやり直し、その言葉が何故か引っ掛かる。
 ハルトもその様子に気付き顔を覗き込むとアルスは何か納得出来ない表情と瞳をハルトに向けて黙り込んでいる。アルスお得意な沈黙で悟れ状態。
 アルスのその状態に慣れている訳じゃないが、それでもある程度理解はしているハルトなので、そっと耳元で囁いてあげる。それがアルスの未消化の部分に触れたかは不明だが。

「アルスとの新婚生活をハンターの仕事で邪魔したくないだけ。それは理解して」
「……」
「アルスの帰る場所になりたいから。ハンターじゃない方が都合いい」
「よくそんなセリフ言えるな……!」
「あ、照れた」
「うっせ!」

 耳まで真っ赤になって腕を引っ張って歩くアルスの後ろ姿を眺めながらハルトも気合いを入れる。この大事な人と共に生きていく為にも今は目の前の問題を終わらせていく必要がある事を知っているから。
 レジャ神の試練が迫っている、2人は試練を乗り越えてアルドウラ神への手土産に出来るのか? そして、その試練で試されるのは一体。神々の身に一体何が起こり始めているのだろうか……?
 守護者としての試練を受ける前に2人は女神の真実を知る。竜騎士と狩人の2人が運命に挑む――――。
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