最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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神々の異変編

48話「女神の憂い」

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 東の大陸で異常な繫殖スピードを見せているボルフィンドの生態を調べに行く為に、ハルトがギルドに出向いた時に異変の調査で獲得したランクポイントの確認も同時に終わらせてきた。異変での調査報告書が思った以上の高評価を得ていたのか、ランクは元が10ランクの中で6だったのが今回ので8にまで上がったのはハルトも驚いてはいる。
 ギルドでボルフィンドの生態情報を貰って確認している時にスタッフからある依頼をお願いされる。それはボルフィンドの生態情報更新の為に素材を集めて欲しいとの事だった。
 それは構わないと快く引き受けたハルトはギルドを後にしてアルスが待っている宿屋に戻っている最中だった。それは突然に引き起こされる。

「……?」
「おい! あれなんだよ!?」
「ドラゴンの群れ!?」
「ドラゴンの攻撃だ!」
「ドラゴンの集団が襲って来たぞー!! 逃げろー!!」

 バドリアの兵士達がドラゴン相手の防衛を始めている隙に住民達は避難を開始する。ハルトはバドリアの上空を飛び回るドラゴンの色を確認して目を細めた。
 ドラゴンの身体は蒼。ブルードラゴンだと判断して宿屋へと走るとアルスがルーピンと共に外で空を見上げていた。
 ハルトが駆け寄ると案外のんびりしているアルスが溜め息を吐き出すと同時に聖槍アーノルドを召喚した。行くんだろうと視線で問い掛けて頷いてルーピンに乗ったアルスから離れるとルーピンは大きな翼を上下に動かして空中に上がってドラゴンの群れに向かった飛び込んで行った。

『ハルト!』
「アルファ、僕達は高台へ。アルスのサポートをしないと」
『空に上がる事、必要?』
「そうだね。出来たら上がりたい。でもその方法が僕にはない」
『なら僕が乗せてあげる!』
「アルファ?」

 アルファの身体が光を放つとみるみる身体は大きくなりルーピンより2回りは小さいが、人が1人乗れるだけの大きさに変化を見せる。ビックリしてアルファを見つめているとアルファはオレンジ色の体毛の間から純白の角を2本生やしているのを見せてそこを握って乗る様に促してくる。
 アルファの背中に恐る恐る乗り上げたハルトが角を握ったのを確認したアルファはフヨフヨと身体を浮かせてドラゴン達の群れを追っている竜騎士達の背後に陣取って浮かんだ。アルスと数名の竜騎士達がブルードラゴン達を確実に攻め立てているが撃墜は出来てない。
 ハルトが身体が揺れて動けない状態じゃないのを確認して弓矢に風魔法を付与してから、翼に狙いを定めて放つ事をしながら竜騎士達のサポートを始める。アルスはそのサポートを受けている状態でブルードラゴンを確実に仕留めに掛かっていた。

「自我がある様だから言葉も届いているだろう。ブルードラゴンよ、このままだと死ぬぞ。それでも良ければ俺達に牙を向けるがいい。だが、生きたいと願うのであればここから去れ!」
『お前達には分らんだろう。女神の願いと悲しみの事なぞ』
「女神、レジャ神か。その女神の為にこのバドリアを襲っているのであれば抵抗するのは致し方ないと思え!」
『だから愚かだと言うのだ! 女神が何度も助けを求めているのに無視続ける人間に我々は忠告をしているのだぞ! それが何故分らぬ!?』
「忠告の規模がデカいんだよ! 大体、集団で来れば忠告の規模を越えていると分かれ!!」

 ブルードラゴンとの会話を終えてアルスは他の竜騎士達に攻撃を止めさせた。当然それを受けた竜騎士達は大人しく攻撃を止めてブルードラゴン達は大きく旋回して海側の方面へと飛び去って行った。
 アルスがアルファとハルトに気付きルーピンで近寄るとアルファはハルトとアルスにハッキリとブルードラゴン達の真意を話し始める。それはハルトには予想出来ない事実であり、アルスは先程の会話でブルードラゴン達がレジャ神の為に行動を起こした事を知ったのであまり驚きはしなかった。

『ブルードラゴン達はレジャ神の悲しみを伝えに来た。でも、言葉を知らないから話せる竜騎士達に知らせようと集団で来た。アルス、ブルードラゴン達をどう思う?』
「間違いではないならレジャ神と近い位置にドラゴン達が存在してんだろうな。でも、だからって1体1体の威力が高い攻撃を持っているのに、集団で来るのは間違いだ。竜騎士達の余裕がなきゃ狩られていたのはドラゴン達だぞ」
「それだけ余裕が無かった、とは考えれないのかな? それだけレジャ神の状態がよろしくないって事にも繋がるんだけれども……」
『レジャ神の力、弱い。まるで何かに吸い取られているかの様に毎日少しずつ弱っている。アルス、ハルト、お願い! レジャ神の元に行って状態を見極めて! 3神が乱れたらアルガスト大陸だけじゃない、世界の調和が乱れてしまうから!』
「言われなくても見に行くさ。どっちにしろレジャ神の弱体化は問題ある。守護者としての立場からしたら3神を守るのも役目でもあるからな」
「それじゃ急いで準備してレジャ神の元に向かおう。ボルフィンドの方はギルドの方に要請してハンターを調査に派遣してもらう様に手配しておくよ」

 ハルトがアルファにギルドに向かって移動してもらう様にお願いして、アルスはルーピンと共に宿屋へと戻っていく。そして、ギルドの手配と準備も終わらせた2人はバドリアを出る支度を進めた。
 ハルトとアルスが合流した事であとは装備をしっかり整えた事もあって、装備を終わらせたのと同時に宿屋から出て旅立つ。ルーピンの背に乗ったアルスとハルトはまずアルファの誘導で東の大陸にあるアルジュラの神殿と呼ばれる場所に向かう事になるのを聞く。
 東の大陸内にあるアルジュラの神殿は東の大陸の西側にある山間部にあると言うので、まずは東の大陸内の西側へと移動する事になった。バドリアを出て数時間、代り映えしない空の下を滑空するルーピンは調子がいいのだろう、翼の先端から雲の線を引きながら元気よく飛んでいる。

「アルファ、レジャ神はそのアルジュラの神殿で会えるの?」
『そう! レジャ神の魂が眠る場所。人が祀っている神殿だけれど神聖なる力が宿っているんだ!』
「そのアルジュラの神殿でレジャ神の異変に向かい合えばいいんだな?」
『うん。でも、用心して。不安定な神様程、求めている事は危険が伴う事が多い。下手したら死ぬかも』
「それでも僕達が会う必要があるんだ。大丈夫、僕達は向き合う為に向かうんだから」
「守護者として立ち会う必要もある。それに……アルドウラ神がこの事で何かするとは思えないし、守護者として動く人間が近い場所にいるんだ、見届けてはくれるだろ」
『アルドウラ神がそれをしっかり評価する創造主ならいいんだけれどね……。神様は本当に気紛れだもん、油断出来ないのが本当だから』

 アルファの言葉にアルスは苦笑するがハルトには到底考えれない話ではあった。創造主が気紛れでこの世界を作っていたらどうするんだろう、そう考えて背筋がゾワッと震えたのは内緒の話。
 飛び続けて半日が経過して、空には太陽から夕日が姿を見せており綺麗な夕焼けが空を染め上げているのがなんとも美しい風景であった。アルジュラの神殿まで残り少しまで来た所でアルスはルーピンにまだ飛べるかの確認をしていたが、ルーピンはまだまだ元気なのだろう、翼が元気に動いている様にハルトには見受けられた。
 そのまま山間部の山間にあるアルジュラの神殿が見えてくるとルーピンは嬉しそうに鳴き声を上げ、アルジュラの神殿前に降り立って行く。

「ここがアルジュラの神殿……ここにレジャ神がいる」
「入るぞ。会わなきゃ事情も分からねぇ」
『こっちからレジャ神の気配感じる!』
「待ってよアルス、アルファ!」

 アルジュラの神殿内部に入って行くアルス達に遅れてハルトもルーピンと共に入って行った。少し歩いて広い空間に出るとそこには一面の白い花たちが咲き誇っている空間が広がっていた。その空間の中央に白い羽根が生えた少女が座り込んで泣いている姿があった。
 ハルトがその少女に近寄り優しく声を掛けて泣き止ませようとした。そこにアルファの言葉が重なりハルトはこの少女の正体を知る事となる。

「どうしたの? 泣かないで。僕達は君に泣いて欲しいんじゃないんだ」
「ひっく、ふっ、うっく」
『ハルト、その子人間じゃないよ。その子こそレジャ神の仮の姿』
「えぇ……!?」
「私の事を知っているのですか? 貴方は……アルドウラ神の守護者?」
「そうだ。俺は聖槍アーノルドの守護者のアルス。レジャ神、一体何があったんだ?」
「私の力を受けた生き物たちが私の加護を抜けてアルドウラ神へ反乱を起こそうとしているのです……。私が加護するのはアルガスト大陸に生きている全ての生き物、それは女子供も含まれている。でも、その加護を外れて神々へと反乱を起こし始めているのです……あぁ、何という悲しき事。私の力が及ばない事がこんな事になるなんて……」
「レジャ神、教えて下さい。どうしたら貴女の憂いを断ち切れますか?」
「私の加護を外れたもの達を静めて欲しいのです。私の力を受け入れてまた静かな生活を送れる様にすれば私の憂いは晴れます」

 アルスはアルファとハルトに視線を送りどうするか問う。アルファはレジャ神の膝元に寄り添って見上げて慰め、ハルトはアルスにやるしかない、と視線で答える。
 レジャ神の加護を外れる様な事態が起こり始めている、それが何を意味するのかはハルトもアルスも理解している。アルドウラ神へ会う前にこの問題を解決しなければ先には進めそうにはないのも分かっていた。
 始まる試練。その試練に抗い打ち勝ち、そして掴み取れ。
 全ては運命が示す始まりの物語――――。
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