最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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神々の異変編

51話「守護者としての覚醒前兆」

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 2個目のディグスの回復に取り掛かっていたアルスはその回復方法に変化が生じている事に気付き、色々な角度にディグスを持って調べているが方法が判明する事はなかった。テントの設営を終えたハルトはそのアルスに気付き近寄ると首を傾げながらどうしたのだろうかと様子を伺う。

「このディグス、回復方法が1個目とは異なるみてぇで俺の体力では回復しねぇんだ」
「それは困ったね。他の方法で回復させる必要があるって事だから調べてみないといけないんだろうけれど、とりあえず休もう。テントに入って少し休んで。食事の用意するから」
「分かった。ハルトも少し休んだらどうだ?」
「僕は大丈夫。アルスは探索の鍵だからしっかり休んでもらわないと」

 ハルトはテントにアルスを押し込めると食事の用意を始めた。アルスはそのハルトの顔色を確認して疲労が溜まっているのを認める。
 このままではハルトは無理をしてまで探索や回復の方法を探って休む事をしないだろう、そんな未来を予想は出来る。どうしたらハルトを休ませれるか? それも考えながらディグスの回復方法を探していたが結局方法は見当たらない。
 食事の用意が終わったハルトがアルスに声を掛けて呼ぶと一緒に食事を摂り始める。温かい食事に心が落ち着くのを感じ取れるのはありがたいなと思いながらも、今度は回復方法について話し合う時間になるのは避けれない事ではあった。
 スープの器に口を付けて飲みながら方法の候補を脳裏で考えていたアルスは気付く。ハルトの右手が淡い光を纏っている事に。

「ハルト」
「ん? 何?」
「その右手……どうしたんだ?」
「右手? あれ……なんだろうこの光」
「……」
「魔力を練っている訳でもないし、魔法を使った訳でもないし……なんだろう」
「もしかして……」
「何か心当たりあるの?」
「聖槍アーノルドを持ってみろ」
「アルスの武器を? いいけれど……」

 アルスが聖槍アーノルドをハルトに持たせて何かのスペルを詠唱すると、ハルトの右手に宿っている光が強まり聖槍アーノルドは次第に黄金色の光を宿し始める。それを見たアルスは間違いない……と呟いてハルトの手から聖槍アーノルドを引き取るとハッキリとした口調で分かった事を伝える。

「ハルトに守護者としての覚醒前兆が出始めているんだ」
「え、それって……いい事なの?」
「間違いさえなけりゃいい事ではある。でも、この段階で覚醒前兆が出てくるのは何か意味があるんじゃないかとは思うけれど、どんな意味かは俺には分からない」
「それじゃそれが出ているって事は僕にも何かしらの守護者としての力が出始めるって事だよね? もしかしたらディグスの回復に何か貢献出来るかも知れないね」
「試しに持ってみるか?」

 アルスが光を宿していないディグスをハルトの右手に持たせた瞬間、ハルトは急激に失われていく体力に驚いて瞳を瞬かせる。それで光を取り戻し始めたディグスに気付いたアルスが少し嫌な表情を浮かべて見つめているがハルトには気付かれてない。
 光が半分ほど宿った状態になった時にアルスはハルトの右手からディグスを取り上げて体力の回復を促す。ハルトは失った体力を回復するのが早まる様にとバッグから回復薬を取り出してそれは一気に飲み始めた。
 ゴクゴクと飲み干していくハルトを眺めているアルスは回復が終わるまでの間に、ディグスをしっかり調べる様に色々と調べ始めた。角度を変えて光を当てて濃度や光がどの様にして蓄積されているのかを調べているとアルファが少し真剣な声でアルスのみに話し掛ける。

『アルス』
「どうした?」
『アルスは気付いている? ディグスを回復させるトリガー』
「……守護者だけの体力だけで回復してねぇよな」
『そう。ディグスを回復するのには守護者だけの体力だけじゃ回復は出来ない。周囲の生命エネルギーも必要なんだ』
「その生命エネルギーを補う為に異常繁殖しているボルフィンドが必要、って訳か」
『だからレジャ神の力が無いから繁殖したって訳じゃないんだと思う。もっと根本的な原因があると見ていいと思う』
「本当にある意味調べていかないと真実には辿り着けそうになさそうだな」
『ハルトにどう話すかはアルスの判断に任せるよ』
「分かった」
「どうしたの? 何か話しているの?」
「いや、少しアルファの意見を聞いただけだ。回復は?」
「ある程度は。残りを回復させるよ」
「それじゃ回復させたら台座に置いてくるから休んでろ」
「ありがとう」

 アルファとの会話を終えたアルスはハルトに再度ディグスを回復させる為に握らせる。それで回復が再開されて徐々に満タンな光が宿るとアルスの右手にディグスを渡したハルトはぐったりしながらもテント内に引き籠る事にした。
 台座に置きに行く為にルーピンを呼び寄せたアルスはアルファにハルトをお願いして、台座へとルーピンと向かった。まだ密集地にボルフィンドが戻っている様子はなく、隙間の多い荒野にある台座に近付くと回復したディグスを設置する。
 スキルを刻み、発動させながらディグスは静かにレジャ神へ力を送り始める。それを確認したアルスは周囲を見回してボルフィンドが徐々に戻り始めているのを見て溜め息を吐き出すとルーピンと共にテントへと戻る為に空に上がった。

『ハルト』
「アルファ……どうしたの?」
『少し話をしておきたい。ハルトが守護者として覚醒する前兆が出始めた、これは神々の異変が勢いを増して進んでいる証拠でもあるんだ』
「そうなの? それは由々しき事態ではあるって事だよね?」
『そう。だからあまりいい状態じゃない事は確かだと思う。レジャ神の異変がどんな状態で引き起こされているかを知った時に解決出来ればいいけれど、それが難しいならレジャ神は一度消滅するしか解決する最後の方法だと思っていいよ』
「その最後の方法を選択しないで済むようにしたいね。どんな状態でも解決出来るならしてみせる。それが結果的に神々の異変を解決出来ると思うし、結果として僕の守護者としての覚醒はきっと必要だと思うんだ」
『ハルトはどうしてそんなに前向きなの? 普通なら嫌がる事なのに』
「アルスと」
『アルス?』
「アルスと同じ世界を生きてみたいんだ。同じ世界を生きて、同じ時を生きて、同じ力で世界を旅したい。それだけの理由だよ」

 ハルトの言葉にアルスへの想いをヒシヒシ感じれるアルファは静かに尻尾を揺らして、ハルトの体力が回復するのを邪魔しない様に大人しく傍に寄り添う事にした。ハルトの想いを知ってアルファも色々と考える事が増えた。
 アルファの温もりを感じながらもウトウトし始めている意識をどうにか繋いでいると、外にアルスの気配を感じ取って目を擦って起きようとする。そこにアルスがテントに入って来て様子を見て抱き締めてくれた。
 アルスの温もりと安心感からハルトはいつの間にか意識を手放していた。眠りに落ちたハルトにアルスは心から安堵して栗色の髪の毛に右手を添えて撫でていく。
 静かなテント内にハルトの寝息とアルファの尻尾が起こすカサカサ音が広がり、それと同時にアルスの中でハルトが守護者として覚醒するのであれば必要な事を考える。試練を受けなくてはその強大な力を制御する事は出来ない、それの試練は3神の神々によって与えられる為に今回のレジャ神の異変はどうしても解決しなくてはならないのである。

「どうやっても覚醒が始まれば試練は避けれねぇ……結果がどうなるにしろ俺の経験からアドバイスしてやれるのも限られてんだよな……」

 1人静かに呟くアルスはハルトの寝顔を見つめていると胸の中に生まれている不安を見つめる事になる。その不安がいずれはハルトにとっていい状況に変換されればいいのだが、とアルスは考えていたが次第に疲労からの疲れで身体を横たえて眠りへと身を委ねた。
 ハルトの夢の中に眩い光を持った生物が現れる。その生物がハルトに静かに語り掛けてくる、その言葉をハルトは自然と理解出来る事が出来て静かにその言葉を胸に刻んだ。

『神々の異変はアルガスト大陸の異変。静めればいずれ来る異変を乗り越える力を身に付ける。だが忘れるな。人間は脆い、弱き力を持たない。その人間が神々に愛される為にも異変を乗り越えて試練を越えよ。全ては歴史が紡いできた長い時間の調和なのだから』

 その言葉を聞いた直後にハルトはパチリと目を覚ます。そして隣に横になっているアルスを見て小さく微笑みを浮かべてそっと抱き寄せるとその温もりを感じてハルトは夢の中で聞いた言葉を思い出す。
 夢に出てきた光を持つ生物の事を思い出すが心当たりはない。一体あの生物はハルトの夢に何の為に出てきたのだろうか? そしてハルトの覚醒は神々の異変をどう解決に導くのだろうが。
 静かに紡がれていく歴史の流れに飲み込まれていくハルトとアルスは、この流れをどう受け止めていくのだろうか。それと同時に運命は勢いを増して徐々に激流へと姿を変えていくのであった――――。
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