最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

文字の大きさ
上 下
67 / 105
神狩り武器編

67話「迷いし者達」

しおりを挟む
 神々へ戦いを挑もうとする者達の事を人々は「反乱軍」と呼び、神々の元にいる者達の事を「神軍」と呼ぶ様になりつつある程にアルガスト大陸全土に聖戦の開幕が迫っている事が浸透していた。神狩り武器と呼ばれる古代武器を得るために反乱軍はアルガスト大陸北の大国アルストゥーラ国に部隊を派遣、これに対してアルストゥーラ国で守護者として守護する青年が部隊に接触を試みる。
 この接触でアルストゥーラ国が聖戦に対してどの様に考えているのかをハルトとアルスは知る事となる。そして、その青年こそドラゴン使いとして守護者となった若き新人である事もアルス達は知るのだった。

「あの国がアルストゥーラ国か。大きいな、流石大国と呼ばれるだけはある」
「にしても寒ぃな……アーマー着込む前に肌着に熱伝導のいいのを着込めば良かったぜ」
「だから言ったじゃないか。北に行くなら着込んでって。ほら、これ着てて」
「サンキュ。アーマーあれば問題ねぇと思っていたんだよ。それにこんなに寒気で包まれてるなんて思わねぇし」
「アルスは比較的にこの寒さの原因を知らないんだね。これはアルストゥーラだけの問題じゃないんだ。中央や東の大陸には温かい風が入るけれど西の大陸と北の大陸には風を遮る障害物がないから寒気を遮断する術がないんだよ。あとは海風で冷えた風が吹き込むのも原因だって言われている」
「へぇ~。それじゃ比較的に寒暖差は強いって事になんのか」
「そう言う事だね。とりあえずアルスは風邪引かない内に焚火に当たっておいで。まだ山から離れているからこの程度で済んでいるけれど、山に近い国に入ったらこれ以上の寒さに見舞われるから」
「うへぇ、マジかよ……ルーピンに温めてもらう」

 アルスはハルトの持っていたマントに包まってルーピンのいる場所に歩いて行った。ハルトも寒いのに耐性が強い方ではないが知識としてこの地方が冷えているのを知っていた事もあり着込んでいたので今の寒さには耐えれている。
 だがアルスは素早さが下がると言って着込まないでいた為に今になって身体を冷やし、結局ルーピンの傍で暖を取る羽目になっている事にハルトは苦笑するしかない。アルストゥーラ国から少し離れた平原でハルトを始めとする宝剣を求めて到着した部隊がテントを張ってアルストゥーラ国への入国を待っている状態だった。
 戦争をしに来ている訳じゃないので正式な入国手続きを踏んで、それからアルストゥーラ国王族と面談をし、理由を説明した上で宝剣を得ようとしていたのだが手続きの申請をして既に1週間が経過している。1週間前から2日前までは比較的に気温は穏やかであったが、アルストゥーラ国の背後に聳え立つ山脈であるゾルム山に冷気が入り込んで2日間の間に気温がグッと下がったのだ。
 風は常に冷気を帯び、地面には白い粉のような冷たい物質である雪が積もり、流石の竜騎士達や騎士達は寒暖差に体調を崩す者達も出始めていた。そんな状態で待ち続ていた時使者を名乗る青年が陣営に訪れる。

「失礼しまーす。この部隊のお偉いさんと会わせて下さーい」
「誰だお前。それになんでいきなり責任者に会わせろって? 身元も分からない子供に会わせてやる優しい人間はいないぞ」
「あ、すんません。オレはアルストゥーラ国の王様から正式に使者として命じられたロックって言います。一応アルストゥーラ国の守護者でーす」
「なっ、守護者だと……。それじゃ神々側の……」
「勘違いしないで下さいねー? オレは”アルストゥーラ国”の守護者として存在しているんです。神様の守護者じゃないですよ~?」
「どうしたんですか?」
「あ、ハルト様……。実はこの子供がアルストゥーラ国の使者として来たんですが守護者だと名乗っていて……」
「だぁかぁら! オレは神様達の守護者じゃなくて”アルストゥーラ国”の守護者だってば!!」
「君が使者、それを示せる物は何かあるかな?」
「これを見せればいいって王様が。はい、書状」

 ロックと名乗る青年は懐から書状を取り出してハルトに差し出す。ハルトはその書状を受け取り封を開けて中身を読むと同時にロックが守護者としてではなく”アルストゥーラ国”の正式な使者として来ている事を確認した。
 対応していた人間に手を上げて大丈夫だと告げるとハルトはロックを案内して、中央のテントに誘導する。テントの中には暖を取っていたアルスや指揮をしている人間達が集まっていた。

「皆さん、アルストゥーラ国の王様から正式な任命を受けた使者の方が来ました。書状によれば彼が話す内容がアルストゥーラ国の意志だと言う事だそうです」
「そのガキが使者か。……お前、3神の加護を受けた守護者だな?」
「俺は確かに3神の加護を受けた守護者だけれど、神様の守護者じゃない。”アルストゥーラ国”の守護者だ」
「3神の守護者とどう違うのだ。同じだろう」
「僕は違うと思います。この子は本当に神々の守護者ではなくて”アルストゥーラ国”の為に存在している守護者だと感じます。アルスやコル君やベリオさんみたいにガルーダの為に戦う守護者と同じ様に」
「へぇ、兄さんは分かってくれんだね。さて、まず確認だけれどアンタ達はアルストゥーラ国と戦争をしに来たんじゃないのは確かだよな?」
「そうだ。私達は宝剣を譲り受けたいと話し合う為に訪れた。だが、正式な手続きをしても待たされて1週間。一体アルストゥーラ国はどの様にお考えなのだ?」
「実はその宝剣を王様は渡せないんだよ、今は」
「今は、って事は王位の継承でもあんのか?」
「その通り。今の王様もう年齢的に高齢で政治的な位置でも無理は出来ないって事で、第一王子様に王位継承を行う為の儀式を取り仕切っている真っ最中。だからアンタ達の申請をすぐに受理出来ない状態なのさ。でも事を争うだろうからオレが使者として事情の説明に来たって訳。儀式は後3日で終わるからそれまで待ってほしいんだ」

 ロックは嘘を話すつもりは無いのだろう、堂々とした物言いでハルトやアルスを始めとする大人達にハッキリアルストゥーラ国の内情を説明し切る。アルスはロックの話し方や感情の乗せ方に嘘はないと感じ取り、ハルトに視線で反応を送った。
 ハルトもまたハンターとしての経験からロックがここまでハッキリ話す程の性格だと見抜いて、信じる事にした上で質問をする。ロックはその質問にあっさりと話す。

「君の言葉を信じるとして、もう1つ聞きたいんだけれど。アルストゥーラ国は聖戦をどうするか決めているか聞いているかい?」
「神々との戦いだろ? アルストゥーラ国はそれに関しては中立を貫くって話だ。だってアルストゥーラ国は3神を崇拝している訳じゃない。だからって堕とされた神を崇拝するつもりもない。無信仰の国として存在している以上、どちらにも属する気はないんだってさ」
「なるほど……。それじゃ君個人の意見は?」
「オレ個人の意見?」
「アルストゥーラ国の守護者としてではなく、神々の守護者としての君の意志を聞きたい」
「オレは……正直神々がしようとしている事を全部理解出来ている訳じゃない。それにこの世界を取り戻すってどんな事なのかも分かっている訳じゃないからハッキリは言えないけれど……争うのはあんまり好きじゃない。誰かの犠牲の上で成り立つのが平和であり幸せなのは分かる。でも、それが分かってて争うのは悲しいじゃん。そんな悲しみの量産に関わりたくないね」

 ロックの言葉はその場の大人達に深く突き刺さっていた。子供だからこそ争いの悲しみを一番に感じ取る。
 だからこそ、ロックの言葉には重みよりも悲しみを感じさせる何かがあった。アルスはロックを見て守護者に選ばれた理由がなんとなくではあるが分かる気がしている。
 ハルトはロックを連れてテント出る。外に出たハルトにロックは「こんな質問をするのは気が引けるけれど……」と前置きして聞いてきた。

「お兄さんは何の為に神々と戦うの? 名誉の為? 未来の為? 世界の為?」
「僕は愛する人と生きる為に戦うんだ」
「愛する人と生きる為……。それって理不尽な現実を突き付けられても貫けるの?」
「そうだね。僕は神々がこの世界をいつ消すか分からないと知った時に愛する人と未来を生きれない事を怖いと感じた。理不尽な世界にしない為にも抗うと決めて戦って切り開こうと決めたんだ。それがロックの言う通り悲しみを量産する事に繋がるかも知れない、でも、未来は僕達の手で切り開いて掴み取るべきものなんだって僕は思っている。それが誰かの幸せを奪う事に繋がるとしても、ね」
「ふぅん……。子供のオレにはよく分かんねぇ。でも、その想いは綺麗で大事なもんなんだなって分かる気がする。オレもリューヒッドを守る為なら戦うもん」
「そのリューヒッドって?」
「オレのパートナーブルードラゴンさ! オレは守護者初のドランゴン使いなんだぜ!」
「それじゃ君が噂の。それじゃ君はそのドラゴンを守る時に守護者として戦える?」
「それ、は……うーん、多分オレはその為に守護者としての力は使いたくない。っていうか使う気もないね!」

 キッパリ言い切ったロックにハルトは微笑んでその赤い炎のような髪の毛を持つ頭を優しく撫でる。それが照れてしまうが嬉しいと感じるロックは屈託のない笑顔を浮かべて陣営から出て行った。
 ハルトはロックの様な子供達が次世代であり未来を切り開いていく宝だと思った。アルスが隣に来て見上げてくるのを受けて2人してロックの未来を繋ぐ為に戦う事を話す。
 迷う事もあるだろう、それでも進む為に人は色々な事を知った上で決断をしていく。それが間違いだとしても前に進む力に変えて進んで行けるのは人間として生きてきた生物の刻まれた遺伝子の力である事をハルト達は信じた――――。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

おるすばん

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

雨の向こう

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:86,159pt お気に入り:3,352

名軍師様の尿道プレイ

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:26

異世界で双子の弟に手篭めにされたけど薬師に救われる

BL / 連載中 24h.ポイント:725pt お気に入り:367

俺は諦めるのを諦めた

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:12

あなたを守るためのやり直し

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

名探偵の条件

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...