最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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神狩り武器編

68話「宝剣の力」

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 アルストゥーラ国の使者としてロックが知らせた内情を知ったアルス達は寒さに耐えて言われた通り3日間耐え忍んだ。そして、手続きを受理して入国の許可が出たのを受けて部隊は国内へ入国する。
 国内は盛大な盛り上がりを見せており、ロックの言っていた通り王位継承が無事に終わった事を祝っている状態であった。部隊は城へ向かい正式な面会を申し込み待たされると思っていたが新しい王であるヨルムがすぐに面会を許可。
 それを受けて部隊の責任者としてハルト、アルスを含めた5名でヨルムとの面会に赴く。途中で城のあちらこちらからヨルムの為に贈られた品々が運び込まれる光景を何度も見る事になる。
 王の間に案内されたハルト達は緊張の隠せない状態で中に入って行く。中には新国王のヨルムと既に妻を迎えていたのであろう、王妃の姿もあった。

「よくぞ参られた。私がこのアルストゥーラ国の国王のヨルム。貴方方の事を待たせた非礼を詫びたい。申し訳なかった」
「僕らこそ突然の来訪をお許し下さい。お察しの通り僕らは反乱軍として神々と戦う為の力を集めています。その力の1つとして神狩り武器と呼ばれる古代武器を集めようと情報を集めていた所、この国で王位継承時に使われている宝剣がその古代武器に導く力を秘めている、そう聞きどうかお譲り願えないかとお話をしに参ったのです」
「そうであられたか。先に使者として遣わせたロックから話は聞いておりました。中立の立場である我が国は条件として「聖戦には巻き込まない」事を提示させて頂きたい。勿論貴方方の力になれないのは当然ながら神々の力にもならないとお約束致します」
「それはこちらも承知の上でお願いしている身でございます。僕達はこの国が聖戦において中立を貫いてくれる事を願って宝剣さえお譲り願えれば一切の協力を仰ぐ事はしないとお約束致します」
「それではこの剣をお持ち下さい。これが我が国に伝わる神々の血で鍛えられし宝剣「ナミルズルの剣」でございます」
「確かに。長居は誤解を生みますでしょうから僕達はこれにて失礼します。これからのアルストゥーラ国の発展をお祈りしております」

 オレンジ色の髪の毛に王冠を乗せているヨルムの手から受け取った宝剣をハルトはしっかり持ってアルス達と共に王の間を退出する。この宝剣にルーディス神の血を注げば神剣として生まれ変わり、神狩り武器への道を示す剣になる。
 城外で待機していた仲間達と共にローガドへ戻る為に移動を開始すると、ブルードラゴンのリューヒッドに乗ったロックが見送りに来てくれた。ロックは少し自慢したいのを我慢しているのかソワソワしながらもリューヒッドから降りてハルトにある小包を差し出す。

「これは?」
「このアルストゥーラ国の子供達がよく食べている木の実で、食べたら身体を温める効果がある。お兄さん、いつかまた外の国や大人の世界の事を教えてくれ。オレお兄さんとまた話したい」
「ありがとう。僕もロックとまた会える日を楽しみにして待っているよ。元気でね」
「またなー!!」

 右手をブンブンと振りながら元気よく見送ってくれるロックに手を振り返して、アルスと共にルーピンに乗ったハルトにアルスが少し笑いながら告げる。それはきっと将来のハルトを想像してから出た言葉であろうとは伺えた。

「ハルトって子供に好かれる大人だよな。子供好きにあるタイプの大人だ」
「そうだね。1人で生きていた時も旅の人の子供とかには好かれて懐かれていたなぁ」
「そういうタイプは子煩悩になるって聞くぜ?」
「それじゃ僕はいい父親になれるかな?」
「なれると思う。最高の父親になってやればいい」
「それじゃアルスは最高の母親になって僕の事も愛して?」
「贅沢な夫だな」
「それはアルスも知っている事だろ」
「まぁ、そんなハルトが好きなんだけれどな」

 アルスの耳が赤くなっているのに気付きながら微笑みを浮かべて、手の中にある宝剣をしっかり握り締める。ローガド戻ってすぐにルーディス神に宝剣を届けに行く為にアルスとは広場で別れて教会へと向かうハルトは自分の中に宝剣の力を疑っている部分があるのに気付いていた。
 いくら神の血を使って鍛えられたと言われている剣でも、新しい神の血を注がれた程度で生まれ変わるのだろうかと疑ってしまっているのだ。だが、それはルーディス神によって覆される事となる。

「お待たせしました。これがアルストゥーラ国の宝剣です」
「ようやく来たか。それでは見せてみろ」

 ハルトの手で台に置かれた宝剣を包む布が取り払われると、宝剣には淡い光が宿っているのが分かる。それを見たルーディス神は黄金色の瞳を細め右手を宝剣へ触れさせると光は強まりルーディス神の右手に傷を生み出していく。
 滴り始める血が宝剣に落ちて染み込む様にして吸い込まれていく、それを心配そうにエテルナはルーディス神の傍で見守り、ハルトはその光景に息を飲む。宝剣が徐々に光を強めて姿を変え始めた。

「この姿が本来の姿であろう。神の血で鍛えられる前の姿に戻ったのだ」
「これが……」
「これでこの宝剣は神狩りの武器へと導く神剣「ルシアンドの剣」として生まれ変わった」
「それではこれで神狩りの武器を探しに行けるですね。ルーディス神様、お手を。怪我を手当てしなくては」
「僕はこのルシアンドの剣を使って早速神狩りの武器を集めに行ってきます。また留守にしますが」
「ハルト、武器を集める時に注意しろ。武器は自我を持つ、主と認めぬ者には従わぬ。力を見せるのだ」
「分かりました。それでは行ってきます」

 部屋から生まれ変わったルシアンドの剣を持って出て行くハルトを見送り、エテルナに右手を手当てしてもらうルーディス神は静かに瞳を伏せる。神狩りの武器はルーディス神にも強い影響を与える事を知る者はエテルナ以外にはいなかった。
 広場ではルートとランドルと話し込んでいるアルスが部隊の仲間達と共に待っていた。ハルトが戻ると仲間達がいよいよ武器の探索に行く事を悟り士気が上がり始める。
 ランドルとルートも今回同行するらしいのでアルスにアルストゥーラ国の事を聞いていたそうだ。ハルトの肩に右手を置くランドルの瞳には義父としての優しい感情が宿っている。

「これからの旅路は険しい事になる事が多くなる。だが、君とアルスならきっと乗り越えて武器を得る事が出来る筈だ。皆を導いて頑張るのだよ」
「はい。僕も補佐する人間としてアルスや皆をサポート出来る様に全力を尽くします」
「ハルト義兄様と兄様なら大丈夫です! 俺は信じて着いて行きます!」
「親父もルートも気合い入り過ぎだって。まだ手掛かりはこの剣に頼るしかねぇんだし気楽に行こうぜ?」
「力を抜き過ぎもどうかと思うよアルス」
「俺は自分のペースで行くからいいんだよ」

 アルスの言葉に苦笑を浮かべるランドルとハルト。ルートはそんなアルスの背後から抱き着いてじゃれて甘えている。
 少しの談笑を終えてルシアンドの剣に導いてもらう為に鞘から引き抜いて空に掲げると、剣から一筋の光が空を走る。その光が導く方向にまず一つ目の神狩り武器があると信じて部隊は移動を開始した。
 ローガドを出て向かう先は東にある中程度の国であるサリブル国。そこに光は導いていた。
 ルーピンに乗って飛び始めたアルスとハルトに続き、愛竜に乗ったランドルとルートを始めにして竜騎士達と馬に乗っての移動をする騎士達が続く。サリブル国まではローガドを出て2週間の時間を要する。
 
「サリブルってどんな国か知っているか?」
「ギルドの情報でしか知らないけれど、魔戦争の時に怪我をした竜騎士を庇って命を落とした王女の住んでいた国として聞いている。その王女の優しさを忘れない様に、代々の王女には同じ名前が付けられてて王女を受け継ぐ女性には神々の慈悲が掛けられているって話だよ」
「まるで聖女の様な扱いの王女が住まう国って事か。一筋縄では行かなさそうだ」
「王女の慈悲がどんなものかによっては交渉も難航するだろうな。でも、僕達にも時間はない。出来るだけ確実に手に入れる事も考えないと」
「最悪の場合は……力で手に入れる事も考えないとな。その為に俺はいるんだし」
「アルスの手を煩わせる事の無い様に交渉頑張る」

 ハルトはアルスの腰に腕を回して抱き着くと背中に額を押し付ける。可能なら悲しみを生む方法は避けたい、それはアルストゥーラ国のロックとの出逢いで強く考える様になった考えでもあった。
 悲しみの連鎖を続けるのは未来の子供達に負の連鎖を引き継ぐ事になる。ハルトは自分達の時代でその連鎖を立ち切れたらと考えているのをアルスも理解していた。
 そこに後を追ってきたアルファが合流してアルスとハルトにこう告げる。神獣としての成長しているアルファにとって神狩り武器はある種の天敵とも言える存在なのをアルス達は知る。

『ハルト、アルス』
「アルファ、待ってても良かったんだよ?」
「神獣には神狩り武器の探索は辛くないか?」
『そりゃ僕にとってもダメージを与える武器でもあるから出来るだけ関わらない様にしたい。でも、今度向かう国は神々の慈悲を受けた人間がいるんでしょ? 僕の存在が役立つと思う』
「アルファが無理をしないならいいけれど、君が無理をするのは僕達は望んでないからね?」
「あぁ、お前も大事な仲間で家族だ。傷付く事からは遠ざけてやりたい」
『大丈夫。僕もこの戦いで自分の運命と向き合うって決めたんだ。だかハルト達の為に力になる。だから連れて行って!』
「……おいでアルファ」
「何があっても俺達から離れるなよ」
『うんっ!』

 アルファの覚悟を聞いて2人は共に行く事を受け止める。だが、神獣の運命を知らない2人はアルファの壮絶な覚悟を知る事でアルファとの時間が少ない事を知るのだった――――。
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