最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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神狩り武器編

71話「秘められている力」

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 ルートは1人野営地の中に設営されたテントで日記を書いていた。自分の左足を犠牲にする覚悟に迷いもないからこそ日記に自分の想いの言葉を綴る。
 サラサラとペンを走らせて書いていると父親のランドルが姿を見せる。ルートは父親に振り向くと屈託のない笑顔を向けて日記を書き終えた。

「父様」
「お前が無理して竜騎士をしていた、それに気付けないですまない」
「いえ。無理はしていませんでした。ただ、なるのが当たり前なんだろうなって感じでなったので。父様、俺がもし夢を叶える事が出来たら一番に褒めてくれますか?」
「あぁ、お前が叶えた夢を私は応援するだろう。頑張って夢を叶えなさい。私もガルディアもお前の事を大事にしたいとは思っているのだけは忘れないでくれ」
「はいっ!」

 竜騎士を辞めたい、そう告げたルートにランドルは正直察した部分もある。アルスの影になって重圧を感じながら生きていたルートにとって竜騎士は負担でしかない事を。
 ならば仮に肉体の一部を犠牲にしてでも辞めれるのであれば、ルートにとってはいい事なのかも知れないと考えた上で犠牲となる事を許可したのである。その犠牲でアルスに神狩りの武器を与えれるのであれば本望だと、そうルートが言う様に。
 アルスの為に自分を犠牲に出来るだけの信頼を持っているルートやハルトをランドルは誇りに思っていた。自分の息子達は思いやりのある立派な人間に成長した事に感動を覚えているのも確かではある。
 ルートと共に身体を休めるランドルはこの先に待ち構えている神狩りの武器の試練をアルスが無事に越えてくれる事を願った。ハルトは野営地の中を歩いて出発の準備にいつ取り掛かるかを調整していた。

「後は……」
「ハルト様」
「どうしたの?」
「こちらのアイテムの残量が少なくなりまして」
「それじゃ調合して量を確保する方がいいですね」
「それでは調合師に頼んでも?」
「構いません。すみませんがその手配をお願いします」
「はい、お任せください」

 騎士の仲間に指示を出して色々と調整していたハルトの仕事も一段落してテントに戻ると、アルスが上半身のアーマーを外して磨いていた。アーマーを見るとそれなりに傷があるのを確認したハルトがアルスの隣に腰を降ろす。
 ハルトの戻りにアルスは小さく微笑みを浮かべて磨く手を止めないままでハルトへ「お帰り」と伝える。ハルトもアルスの右頬に唇を押し当ててキスをすれば「ただいま」と言って落ち着いた笑顔を見せていた。

「ガーラド山かぁ……標高高いから騎士達は入れないだろうね」
「竜騎士の部隊で動いた方がいいだろうな。騎士達は麓での待機が無難だと思う」
「そうなると誰かを残さないといけない事になるか……誰に頼もうかな」
「親父に頼めばいい」
「お義父さんに?」
「ルートと俺は絶対的に行く必要がある。ハルトも指揮官として行く必要がある。親父なら地上の方も頼んでも問題無いにフリーだ」
「そっか……それじゃちょっとお願いしてみるよ。今から行くのは悪いし明日の朝にでも……アルス?」
「ハルト……」

 アルスの右手がハルトのベストを握り締めている。その手に引き止められて身動き取れないハルトの視線にアルスはほんのり赤く頬を染めて俯いている。
 その行動がなんとも愛らしく、いじらしく、可愛げのある行動だった事も含めてアルスを抱き締める事に繋がるのは仕方ないとハルトは思ったが、それだけじゃアルスは満足する事はなかった。アルスの行動に隠されている本心に気付いたハルトがアルスの唇を左手の親指で撫でれば2人の視線に熱が宿る。

「シたいの?」
「……ハルトが欲しい」
「声、我慢出来る?」
「手でも噛んどく」
「それはダメ。綺麗な手に傷を付けたくない。それじゃ……これ噛んでて」
「ん……ハルト……」
「アルス……」

 夫婦は縺れ合う様にして眠る場所で身体を重ねていく。微かに聞こえてくる外の声や音に敏感に反応を示すアルスを抱きながらハルトはこの興奮に満ちている自分を知るのだった。
 夜が明けて太陽が上り始める時刻、ハルトはテントから少し肌寒くなっている外に出てブルっと身体を震わせた。そのハルトにルートが駆け寄ってくる。

「ハルト義兄様!」
「ルート君。体調は?」
「元気いっぱいです! あの、ガーラド山の事で少しお話しした方がいいかなって思って」
「何かあるの?」
「ガーラド山は知っての通りアルガスト大陸の中で一番に高い山として知られているんですけれど、竜達の聖地でもあるんです」
「竜達の聖地……、それじゃ猶更竜騎士部隊の出番、って訳だね?」
「それもあるんですけれど、もしかしたら希少な竜と会えるかも知れないんです」
「希少な竜って……光竜辺り?」
「風竜ですね。風を操る竜達は高い山を好むので低い山とかにはいないんです」
「なるほど。会えるといいね。僕も会ってみたい」
「会えたらラッキーですよハルト義兄様!」

 ルートとそんな他愛無い会話をしているとアルスがのっそりとテントから出てくる。ランドルも合流してきたの昨日考えていた地上部隊の指揮を頼むと、ランドルは快く引き受けてくれた。
 そして、野営を終えて部隊は微かに見え始めているガーラド山の麓にまで移動する事になる。大所帯の移動ではあるがスピーディーな動きをハルトは上空から確認していた。
 ルーピンの背でそれを確認しつつガーラド山まで到着した部隊を一度待機状態にする。ハルトはアルスとある程度打ち合わせはしていたのでその内容に従って指示を出していった。

「竜騎士部隊のみで上がって、地上にて騎士とハンターは待機。危険がないとは言えないので地上部隊はいつでも戦闘が出来る準備だけはしておいて下さい。神狩り武器を手に入れたらすぐに戻ります」
「ハルト、ルシアンドの剣は?」
「この山の中腹辺りに光が走っている。行けそう?」
「問題はねぇとは思う。ルーピンなら余裕だろ」
『ギュォォン』
≪この山にある神狩り武器は誇り高き者に従う。お前達の誇り高き姿を見せて犠牲を払えばいい≫
「ルート、いいか?」
「はい。いつでも行けます!」
「……行こう」

 ランドルに指揮を任せてアルスとルートと共にガーラド山へと竜騎士部隊は上がっていく。風の強さはそこまでないものの、霧が広がり視界の悪さには少し手を焼きそうではあった。
 中腹付近まで上がってきた所で仲間の竜騎士が洞窟を見付けてそこに全員が入って行く。中は竜達を入れても余裕なぐらいに大きな空間で、アルスとハルトは神狩り武器の元に導く光を追って飛んでいた。
 少し先に泉があるのが分かり、その手前で部隊は一度地面に降りる。泉は澄んだ水をしており竜達は喉の渇きを潤す為に水に顔を突っ込み飲み始めた。
 その様子を見ている竜騎士達は空間の中に神狩り武器の存在を確認出来ないかと探し始めた。すると数名の竜騎士達がハルトとアルスを呼ぶ、不思議な光の放つ物体があると報告された。

「これが神狩り武器、か?」
「アルフェス」
≪間違いない、同胞だ。答えよ我が声に≫
〈懐かしい声、よもやお前が来るとはなアルフェス。この者達に従ったか〉
「お前が神狩り武器なのは分かった。俺を主として認めるにはどうすればいい?」
〈まずはこの山に住まう竜達の声を聞くがいい。この山に眠る存在を知れ〉

 この山に眠る存在を竜達は知っている、それを聞きに行けとこの神狩り武器は言っている。アルスはハルトに残る様に伝えてルーピンとルートと共に山の頂上へと飛んで行った。
 残された竜騎士達とハルトは空間を見上げてこの空間に出来ている不自然な風の通り道に気付く。まるで意図的に作られた風の通り道が強い力によって捻じ曲げられている、そんな印象を受けてしまう。
 神狩り武器はハルトとアルフェスに声を掛ける。アルフェスの主のハルトに興味を持ったのであろう。

〈アルフェスの主、お前はアルフェスに何を求める?〉
「求めているのは神を倒す力。それ以上でもそれ以下でもないよ」
〈ならば加護は与えてないのかアルフェス〉
≪この者達は聖戦の流れと終わりを決める者達。我々の加護は必要はあるまい≫
「加護? それは一体……?」
〈我々には神を狩る以外にも加護を与える事が出来る。その加護を受けし者は我々の慈悲を受ける事が出来るのだ。その加護は強大で神をも越える加護なのだ〉
≪因みに私の加護は神の力を跳ね返し、その身に新風を宿す加護だ≫

 アルフェスと神狩り武器から明かされた秘められている力について聞いたハルトは、その加護を受ける事を考える。それはハルトの中でアルスとルートの姿があるからだろう。
 そして、アルスとルートは頂上に上り詰めると緑色の鱗を持つ竜達に出逢う。ルートはその竜達を見て些か興奮を押さえれない状態になっていた。
 風竜と呼ばれているその竜達はアルスとルートを見て尻尾を振り、風を巻き起こして歓迎を示している。竜達は竜騎士を見極める事が出来るだけの知能は基本ある、だからアルスとルートが竜騎士だと気付き歓迎したのである。

「兄様! 風竜ですよ! あの希少な風竜!」
「落ち着け。ルーピン降りてくれ」
『グオッ』
「さて、風竜達。この山に眠る存在について教えてくれ」
『ゴキュウ! キュ!』
「この山には聖なる竜騎士の魂が眠る……?」
「聖なる竜騎士って誰だ?」
『キュオォン! クゥクッルン!』

 風竜達が話している聖なる竜騎士、その存在をアルス達が知る時にこのガーラド山に眠る存在を知る事となる。そしてハルトは神狩り武器の加護を受ける為の話を聞く事になる。
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