最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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嵐の前の静けさ編

79話「コルとベリオのお話編」

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 アルバーンの一室にてコルは自分の身体にあった守護者の力が無くなった事を再確認していた。武器「ヘルバス」はそんな主の事を黙って見守り部屋の中で大人しくしていた。
 そこにベリオが戻ってくるとコルに視線を向けて近寄り頭をポンポンとしてやると優しく言い聞かせる。それに対してコルもコルらしい返事をする。

「守護者の力が無くなっただけでもご褒美じゃないか?」
「俺、飲まれそうだった、それが怖い」
「怖い、そう思うなら神狩り武器の力も怖いと思わないとな?」
「何故?」
「強大な力はいつかは自分の事を傷付ける代物にもなる。使い手である俺達はそれを踏まえて扱う事で恐怖と向き合っていく。怖いと思わない奴が神狩り武器の力を使えばそれはただの殺しを楽しむ快楽主義者だ」
「……」
「コルだって、森の仲間達が無差別に殺されるのは嫌だろう? 守りたいと思うのであれば、自分が扱う力を怖い、と感じる心だけは大事にするべきだぜ」
「分かった、ベリオ、ありがとう」
「どう致しまして」

 ベリオが椅子に腰掛けてハンターが必要な道具であるナイフを取り出して磨き始めている様子を、ベッドに腰掛けているコルはただ眺めていた。コルはベリオとは長い付き合いだとアルスは話す。
 元々狼の獣人を受け入れてる国や街は多いが、ガルーダの様に竜騎士を優先的に育てる国では狼の獣人は料理人として迎えられる事が多い。そんな環境に飛び込んできたのがコルである。
 コルは生まれ持った身体能力を活かせる仕事に就きたいと考えてガルーダに来たと言うが、最初の頃は社会に慣れる為に色々な仕事をしていた。そんな中でガルーダのハンターギルド支部に仕事を依頼されてハンターの真似事をした時のパートナーがベリオだった。

「……ベリオ」
「うん? どーしたよ」
「この戦い、終わったら、また。旅したい」
「それもありだな。そうか、コルも世界を見たいと思う様になったか」
「ベリオも、一緒に、行く」
「俺も誘ってくれるのか? ははっ、嬉しいねぇ」
「ベリオ、俺の、お父さん」
「そんなデカい息子を持つ年齢じゃねぇが、コルとならいい旅になりそうだ」

 嬉しそうに笑うベリオにコルも嬉しくなって尻尾をユラユラとさせる。コルがここまでベリオに心を開くのも過去にベリオがコルを守ってくれた事があったから。
 コルはベリオの事を父と慕う、それだけベリオの父性を感じている面もあるのだが。ベリオはベリオでコルを大事なパートナーだと思っているからこそ甘やかす。
 なんだかんだでこの2人はいい相性なのはアルスも知っている。だから2人が3神に選ばれて守護者となった時はアルスは嬉しく思っていたらしい。

「コル、髪伸びたな。邪魔じゃないか?」
「少し、でも、ベリオみたいに、伸ばす」
「本当に俺の真似が好きだな。いつから真似っこになった?」
「ベリオ、カッコいい、だから、真似したい」
「ははっ、カッコいいか。ありがとうなコル」
「ベリオは、番、作らない?」
「番、あぁ恋人の事か。うーん、正直特定の人間作ると仕事やこうした戦いで支障出るからあんま欲しいとは思わねぇんだよな。アルスんところみたいに夫婦揃って選ばれているなら話は別だろうが」
「俺、ベリオが番、作るなら、離れる」
「なぁんだそれ。コルはいつだって俺の傍にいていいんだぞ。それだけ俺の癒しでもあんだから」
「癒し、俺が?」
「そう。お前は俺の癒しだよ」
「ベリオ……温かい」

 ベリオは微かに隠している事があった。コルに対する父性を越えた感情……愛情をコルには隠している。
 コルには番と呼ばれる存在になるという考えはないと思っている。だから自分と番にならないか? なんて口が裂けても言えないのだとベリオは考えていた。
 そんなベリオの腕に包まれていたコルがベリオを揺さぶる。どこでそんなテクニックを身に付けたのか知りたいが。

「ベリオの、番……」
「んー? お前がなってでもくれんのか?」
「ベリオの、番に、俺が、なったら……ずっと、一緒?」
「……一緒にいられるな」
「なら、番に、なる。ベリオと、一緒に、いる……!」
「なぁんで、そんなキラキラした瞳で見つめてくるんだよ……こっちの気も知らねぇで……」
「ベリオ? どうした? 痛い?」
「あぁ、いてぇよ! ここがな!」

 ベリオは心臓部分を押さえながら苦笑を浮かべてコルを離そうとするが、コルがぎゅうっと抱き着いて離れようとしない。そんな小さな我儘を嬉しく思いながらベリオは距離を取ろうとする。
 だが、そんなベリオにコルはうっとりした瞳を向ける。それがベリオにはすぐに分かってしまった、発情している瞳である事に。
 コルの身体がベリオに押し付けられる、微かに湿った肌、股間付近も膨れて、息遣いは荒く、瞳には欲情の色が宿っている。それがベリオの理性に揺さぶりを掛けてくる。
 ここでコルを抱けば生涯離れない番、つまり妻を作る事は出来る。それはベリオにはたまらない誘惑でもあった。
 コルがベリオの股間に右手を這わして撫で上げるのを感じてベリオの理性は、さよならする。そのままコルをベッドに押し倒して美味しく抱いたのは言うまでもない。

「コル……、後悔しねぇか?」
「しない、ベリオの番、俺、ずっと、なりたかった」
「そんなに想っててくれたのか、ありがとうな」
「ベリオは? 後悔する?」
「しねぇよ。だってこんなに愛おしいって思う存在を手に入れれて幸せ過ぎてこえぇもん。コル、ずっと一緒にいような」
「ん、ベリオ、好き、大好き」
「俺も好きだよコル」

 触れ合う唇同士に感じる愛情をベリオは素直に受け入れた。コルは尻尾を揺らして喜びを表現して寄り添う、この場にアルスがいたらベリオに言うだろう。

『お前だって愛妻家じゃないか。溺愛もしそうだよな』と。

 結果的に一線を越えたベリオはコルを今まで以上に大事にしていくだろう。そして、同時にコルを失わない為の努力も怠らない。
 このアルバーンの教会で式を挙げて聖戦に挑むつもりだったベリオはコルと共に教会に赴く。コルもまた番となったベリオを大事に思っているし守りたいとも思っていた。
 ガルーダでアルスとハルトの結婚式を見ているコルは自分も同じ様に着飾って、ベリオの隣に並べる日が来るのだろうか? そんな未来を考えていた。教会でベリオからお揃いの石を付けたピアスを貰ってベリオを見上げる。
 コルには綺麗なドレスを着せてやりたいとは考えていたが、聖戦に勝ってからでも遅くはないとコルに言い聞かせて抱き締める。コルも言葉を理解しているのだろう、ベリオの胸に抱かれてスリスリと甘えてくる。
 コルのクリーム色の髪の毛に唇を寄せて口付けているベリオにコルが見上げて告げる。この言葉がベリオを奮い立たせたのはベリオしか分からない。

「聖戦、勝ったら……一緒に未来、歩く」
「……あぁ、嫌だ、って言っても離しはしねぇからな?」
「離すな、俺、ベリオの妻、離れない」
「聖戦終わったら2人だけで世界を旅するか?」
「いいの? 行きたい」
「2人だけだ、誰も知らない、2人だけの旅にしようぜ?」
「嬉しい、ベリオ、素敵」
「ん。愛している、コル……」
「ベリオ……」

 抱き締め合いながらベリオの栗色の髪とクリーム色の髪が混じり合う光景に心が温かくなる。この夫婦ならきっと色んな意味で世界を変えていくだろう。
 教会で交わされる口付けにほんのりと熱を宿して、2人はただ無心で口付けていく。2人が聖戦の準備に入った頃、ベリオにはコルが気合いの入っている姿をしている様に伺えた。
 生きて帰る、そう決意を滾らせているコルに自然と微笑みを浮かべたベリオは愛用のナイフをカバーに差し込むと、神狩り武器「ジュリス」に手を添えて撫でる。代価を支払っているがその代価すらも越える存在を手に入れているベリオに怖いものはなかった。
 コルもまた神狩り武器を握り締めて自分の中に感じる力と向き合い、静かに瞳を伏せる。グレーの尻尾にグレーの瞳を持つコルの身体に「ヘルバス」から受け取る力によって黄金の色の気が身体に帯びていく。

「よーし、準備も出来た。後はアルス達と合流して聖戦の始まる場所に向かうだけだな」
「負けない、俺、生きて、帰る」
「2人で生きて、帰るぞコル。絶対に」
「うん、ベリオと、一緒に帰る」

 拳をぶつけ合い心を繋ぐコルとベリオ。ルーディス神の加護もあって2人の力は普段よりも強い。
 それでも、それに匹敵するかの様な絆の強さが光る。2人を繋ぐのは愛の絆。
 エテルナとルーディス神の元に赴く2人は手を繋ぎ合って歩いて向かう。この2人の未来がどんな未来になるかは本人達の切り開く力で導かれる事になるのであろう。
 選ばれし者達を繋ぐ運命の大きな強い糸、それが導く先に2人はどう挑んでいくのだろうか。そして……2人は聖戦を生き残れるのだろうか――――。
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