最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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聖戦後編

96話「呪いと愛情と絆」

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 アルスが来て押し倒されて見上げているハルトに、アルスの切なげな瞳が刺さる。本当なら早い段階でアルスからの愛情を受け止めないといけなかったんだと、ハルトはそう考えていた。
 愛するアルスが自分に呪いを掛ける、それは2度目の呪いとしてハルトに掛けられる呪いでもあった。1度目は心臓に掛けられた命の呪い。
 それを解除したのはハルトの意志ではあるが、アルスはそれを良しとはしなかった。どうにかしてハルトを自分に繋ぎ止めたい、その想いがこうして呪いを掛けるまでに至っているのだから。

「アルス……掛けて? アルスの愛を、想いを、僕に刻んで」
「ハルトっ、ごめんな……不安なんだよ、ハルトがどっかに行きそうで……」
「うん、僕も不安だよ。だから、アルスの手で繋ぎ止めて。僕とアルスが永遠に繋がっていられるように」
「すまない……俺の想いは重いか……?」
「ううん。ちょうどいい重さだよ? 僕の愛のが軽過ぎて申し訳ない位」

 ハルトの言葉にアルスの瞳からはポロっと涙が零れ落ちる、それをハルトは優しく右手で拭い微笑みながら腕を伸ばして抱き締めてあげるとハルトの温もりにアルスは涙腺が刺激されて涙が止まらない。そんな2人の姿を神狩り武器達は静かに見つめているが思う所があるのだろう、人型になってそっとその場から離れて行った。
 アルスの右手がハルトの右手を探る様に探している、それに気付いたハルトが右手を差し出すと何かを握らされた。何だろうかとそれを見るとそれが呪いの鍵になるんだろうと思われる液体が入った小瓶が握らされている。

「これを飲めばいいの?」
「俺も飲む、んで、飲んだ後にキスして生気を交換し合えば……いいらしい」
「そっか。それじゃお先に」
「俺も……」

 キュっと音をさせて小瓶を開けて仲の液体を飲み干すハルトは無味無臭の液体にキョトンとする。そして、ジワジワと身体が何かを求める様に熱に包まれていくのを感じ取る。
 ハルトが飲んですぐにアルスも飲んだ為に同じ現象を感じていたが2人はすぐに口付けをして熱を分かち合う。この熱が生気を求め合って交換するのを手助けしているのは本能的に察していた。
 暫く口付けていた2人の唇が離れるとアルスはハルトの胸元に身体を寄せる。ハルトもアルスを抱き締めスッと引いていく熱に納得する、これが呪いの完成だ、と。

「どこかに呪いの証が出るのかな?」
「さぁ、な……俺もそこまでは聞いてねぇ……」
「んー……変な所に出ないといいんだけれど」
「ハルト……もうこれで離れないで済むな」
「うん。僕達は永遠に一緒だ」
「嬉しいっ……」
「愛しているアルス」
「俺も愛している……」

 抱き合う2人の姿は静かなテント内で存在を放っていた。2人の未来がどんなモノだろうであってもきっと2人なら大丈夫、そんな絆が見える様な存在ではあった。
 2人が呪いに包まれたのをレイガスは感じ取っていた。しかし、レイガスの瞳には歓喜と言うより慈愛の感情が宿っているのを知る者はいなかった。

――――

「アルドウラの姿を探す方がいいのか?」
「それがそうとも言えないんだ。開戦して既に1年が経過しようとしている。疲労も蓄積されているから、そろそろ全体的に厳しいのが現状なんだ」
「困ったね、このままだと撤退しなくてはならないのか」
「動物達も、皆、疲弊している」
「ハンター達はまだ出来るが騎士達はそうも言えないみたいだしな……一度リフレッシュでも出来れば違うと思うんだが」

 前線にハルトも着いて来て戻ってきたアルスに前線の状況を踏まえた報告が次々上がってくる。現状を考えるとこれ以上の遠征は色々と人間には不利過ぎるているのが現実である。
 ハルトはティドールやルーディス神とも話し合いをしなくてはならないだろうと考えている時だった。本陣から眩い光が空に上がって反乱軍の戦士達を包み込んでいく、ハルト達にも光は包み込み、身体から疲労が取り除かれていくのを感じる。
 これは、と考えている全員に温かい光の中に声が聞こえてくる。エテルナの声であるのに気付いたのはハルトとアルシェードであった。

『神々と戦い続けている戦士達、どうかもう少しの力を貸して下さい。本当の戦いはここから始まります。どうか、お力をお貸し下さい』
「エテルナさんの声……だ」
「聖女様のご加護って事だね」

 光が消えると周囲にいた仲間達は疲労の消えた身体を触りながら驚きを見せていた。アルス達もそれとなしに自分達の身体を触って驚きを見せている。
 全体の士気が回復したのを受けてハルトはティドールとルーディス神と最終決戦に向けての作戦を考える事を考える。ハルトが本陣に戻っていくのを見送ったアルスには迷いは無かった。
 神狩り武器達は人間達のその姿と聖女の行動に興味深そうにはしていたが、アルフェスは静かに考える。この聖戦の一番の決戦はアルドウラとの決戦ではないのではないか? と。

【アルドウラの奴を倒せば聖戦も終わるんだな?】
〔そうなんだといいけれどねぇ~? 嫌な予感しない~?〕
〈私も同じです。まるで盤上の戦況を整えられている、そんな印象を受けます〉
≪例えそうだとしても、戦い抜くのが使命だ≫

 神狩り武器達も薄々感じていた、アルドウラ神を倒せば終わる……その筈の聖戦に何かがある様な気配を。本陣に戻っていくハルトに従ってアルフェスも戻っていく。
 本陣のテント内でルーディス神とティドールがハルトを待っていたので、ハルトは腰掛けて状況の説明を始める。前線の戦士達の事を始めに全体的な戦力と部隊の編成についての報告を終わらせるとルーディス神は顎に手を添えて考え込む。
 ティドールも同じ様に考え込むとある事に気付く。ルーディス神の方に視線を向けて言葉を考えながら紡ぐ。

「あのルーディス神様。少し思うのですが……ルーディス神様のご加護を受けている者達から報告で上がっているのですが……若返りの力でもあるのですか?」
「そんな事あるんですか? 僕達も加護は受けているけれど……」
「一部の人間達には過ぎたる力としてその様な現象が出ているという事だ。ハルト達神狩りの武器を持つ者達にはその様な現象が出ないのも、神の力を吸う武器達を使っているからだ」
≪それで私達の力が増しているのだな。主、若返りたいと願うか?≫
「僕は……元々老けている様には見られないんだよね。逆に渋い顔付きとかになりたいよ」
「贅沢な悩みであるな。老けて何がいいと言うのだ」
「まぁまぁ、人間は歳を重ねればそれだけ大人の魅力を得ると言います。私も男としてはもう少し渋めになりたいものですよ」

 ハルトはルーディス神とティドールを交互に見て自分の顔に触れてみる。2人に比べて童顔に近い自分のコンプレックスはどうにも歳を重ねても解消されないんではないか? そんな気がして小さく溜め息を吐き出す。
 話を切り替えて戦況をどう動かすか? その話題になった時、ルーディス神とティドールもハルトにある提案をしてくる。事前に2人は同じ事を話し合っていたのだろう、提案自体はスムーズにされた。

「アルドウラ神を誘き出す?」
「そうだ。アルドウラは力を欲している筈だ。その力の元になる人間を囮にするのを考えるが、エテルナを使う」
「聖女様の力を取り込めばアルドウラ神も目覚めると考えるだろうとの事でエテルナ神様にはお話してある。ご本人もルーディス神様の為ならば、と乗る気で準備に入られているよ」
「エテルナの周囲には私の魔力で生み出した結界を張り巡らせる。それを突破される前にアルドウラを撃破すればいいだけの話だ」
「分かりました。ならそれで前線に指示を出してもいいですか?」

 ハルトの質問にルーディス神もティドールも頷いてくれたので、ハルトはテントから出る為に椅子から立ち上がり入口から外に出て行く。外の天気は生憎の雨模様で身体を大粒の雨が染み込んでいく。
 冷たさに風邪を引く者も出るかも知れない、そう考えてなるべく身体を休ませる様に指示を出して前線への連絡者にエテルナ囮作戦とアルドウラ神撃破を行う事を伝えさせる。アルス達もいよいよかと重い腰を上げるのを待っているのはハルトには分かっていた。
 準備段階に入った本陣と並行して前線の部隊がアルドウラ神を誘き出す為の場所に移動を開始し始める。エテルナの両手にルーディス神が神力を使って生み出した宝具が装備されていく。

「それでは行って参ります」
「エテルナさん、ご無理はしないで下さいね」
「はい、ありがとうございます。では」
「……全員、戦闘用意を。エテルナさんを安全に目的地までお送りして下さい」
「いよいよですね」
「これでアルドウラ神を誘き出す手筈は整った。問題は失われし神であるガデルズが出てくるかに掛かっている」
「出てきて止めるようでしたら……?」
「父神とて、私の行動に異論があるのであれば既に出てきている筈だ。それが見られないとなれば迷っているのだろう。3神の行動も私の行動も父神には分かるのだろうからな」
「失礼します! ルーディス神様、ガデルズと名乗る青年が面会を求めておりますが?」
「……噂をしたら来ましたね」
「テントに通してくれ。ハルトも呼んで欲しい。そして、誰もテントに近付けるな」
「はい!」
「私は?」
「エテルナに付き合ってくれ。父が……ガデルズがエテルナをどうにかするとかは考えたくないが、父の考えは私も分からぬ」
「承知しました」

 エテルナの部隊へと向かうティドールと入れ違いでハルトが来てルーディス神と一緒にテント内に入る。テント内でガデルズが来るのを待ちながらハルトにルーディス神は伝えていた。

「ガデルズの考え次第では、ガデルズも討たねばならぬかも知れない」
「その時はその時です」

 この言葉に一体どんな願いを込めていたのだろうか。それを知るのに神々を知る者は苦労するのだろう――――。
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