最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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聖戦後編

101話「覚醒する女神と猛神の2人」

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 アデリスによりエテルナは一命を取り留めるが危険な状態である事は変わらない、最愛のエテルナを容赦もなく傷付けられてルーディス神の神力が強烈な威力を持ってガデルズの身体を襲う。しかし、腹部に刺された怪我を持っているガデルズはその攻撃にすらあまり表情を変える事は無く、ただ微笑んでいる。
 ハルトとアルスはその様子に違和感を感じたがどこに違和感を感じているのかを特定する時間は無かった。ルーディス神の攻撃が繰り広げられるがガデルズに致命的なダメージを与える事は出来ないでいる。

「これで……どうだぁぁぁ!」
「涼しいね、それで世界を取り返す? 笑わせるね」
「なんだ、あのガデルズは不死身かよ……」
「アルス、今の内にベリオさん達を解放するんだ! 鎖が砕ければ……!」
「俺達の事は気にするな! ガデルズに集中しろ!」
「鎖、緩まない、力、入らない」
「僕達の力は届かなくてもプレッシャル達は動ける。プレッシャル、2人に力を貸してあげて」
〈アルシェードが望むのであれば〉
「どうにかダメージを与えて弱らせねぇと……このままだと負ける……」

 攻撃の威力はある、だが、それが直接的なダメージに繋がらない。焦りを見せ始めるアルスとハルトはどうにか打開策を考えようとする。
 ガデルズの無敵さに心当たりがあるのは妻神であるアデリスにはあった。神の肉体は不死身でも不死でもない、あるのはスコールによる長年に渡る蓄積されてきた外部からの刺激による痛みの減少である。
 それが今のガデルズには最大に発揮されているが、それには大量の神力とスコールが必要となる。それだけの元になっているのは一体何なのだろうか? そこまで考えたアデリスは不意にハッとなって周囲を見回し何かを探す。
 その間にもルーディス神の攻撃がガデルズを捉えてダメージを与えていこうとするが、致命的なダメージだと思われている攻撃を受けてもガデルズは怯む事もなく平然としている。ルーディス神もこれには違和感を感じ始める、どうして父はこうも平然としているのだろうか? と。

「もう、終わり?」
「はぁ、はぁ……くっ!」
「ルーディス神様! 皆、ガデルズ神の力を削ぐんだ!」
〈行きます!〉
≪参る≫
〔いっくよ~!!〕
「俺も行く!」

 神狩り武器達の一斉攻撃とアルスのロンギヌスの槍での攻撃が同時にガデルズに行われる。それに合わせてルーディス神も攻撃をする……しかし、ガデルズは腹部からスコールを垂れ流しながらも平然と攻撃を受けても立ち眩みする事もなく、立っている。
 これはもう神の領域を越えた化け物だと思わないと戦えない、そうアルシェードとベリオ、コルは考えていたがハルトは神聖の瞳を使って未来を視ようとするが、靄が掛かって見えなかった。神相手に未来は視れないのだろうか、そう考えていたが不意に一瞬だけの未来が視えた。

「これは……そうか、そう言う事か。アルス! 一度戻って!」
「ハルトっ?」
「策がある! アルフェス達はルーディス神のサポートを続けて! 準備に入る!」

 ハルトの言葉にアルフェス達は同意を示す様に攻撃を続けていき、ハルトに呼ばれたアルスは前線からハルトの隣にまで戻ってくる。ハルトは自分の左手を切り裂き大量の血を滴らせる、これにアルスは戸惑いながら手を伸ばす。
 ハルトはその手を遮りロンギヌスの槍を左手で掴めばその先端に掛けて流れ出る血を纏わせていく。それでロンギヌスの槍が強化されていくのをアルスは驚いてハルトの顔を見つめる。
 神聖の瞳を使って視えた一瞬の未来に映っていたのは、人間の血を浴びたガデルズが苦しむ姿。神の血はスコールと呼ばれる神聖な血、それが下級と呼ばれる人間の血と混じり合った事で激痛を生み出す光景が視えていたのである。
 ハルトは血を纏わせたロンギヌスの槍をアルスに握らせて背中を押す、行く様に。アルスはその手に従ってまた最前線へと戻って行った、血に塗れたロンギヌスの槍を持って。

「何をしても僕には勝てないってどうして分からないの?」
「それでも私達は抗う! それこそ生きるという存在を示すものだと知っているから!」
〔私達だって神様を狩らないと生きれないの! だから貴方を狩って生き抜く!〕
≪主が望む未来を切り開く為に私はここにいる。切り開けるだけの力を使える者として私は戦う≫
〈アルシェードと未来を生きると誓ったのです。禁断の許されない愛だとしても引き裂かせる様な真似は許しません!〉
「ガデルズ! お前だけは俺達が打ち倒す! それがこの世界を取り戻す最後の方法だ!!」

 アルスが跳躍したまま落下の位置を狙い定めて落下していく。ロンギヌスの槍が淡い光を帯びたまま、先端がガデルズを捉える。
 上空からの攻撃であるアルスを軽々と受け止めたガデルズは余裕そうな笑みを浮かべていた、が。ピキッと腕の血管が浮き上がりロンギヌスの槍が纏うハルトの血がその血管を刺激しているのか激痛を生み出す事にガデルズは初めて顔を苦し気に歪める。
 アデリスはハルトの血がガデルズに激痛を与えている隙にエテルナを抱き抱えてアルシェードとベリオとコルの傍にまで移動して3人の身体を癒し動ける様に、鎖を解除して動けるようにするとエテルナを任せようとする。アルシェードとベリオがエテルナを抱き抱えて寝かしている間にコルがアデリスに近寄る。

「これ使う?」
『それは……いいのですか?』
「女神様に必要だと思った。俺構わない」
『感謝します。それではエテルナをお願いします。私はガデルズの防御耐性下げる為にある方法を試します』
「分かった、無理、しないで」
「俺達も動ける。アルシェードと一緒にルーディス神様のサポートしとく」
「アデリス様、俺達に出来る事あれば言って下さい」

 アデリスは4人に微笑みを残して空間から出て行く。目的はある、それはガデルズの命を散らす事に繋がるのにはどうしようもないだろうとアデリスは考えていた。
 しかし、これをしないとガデルズを倒せないし、残された者達の命を守る事は出来ない。アデリスは母としてこの世界を愛しているからこそ、守りたいと思うのは本能から感じられる愛情故の行動でもある。
 エテルナの容態もある、これ以上長引くとエテルナの命をまた繋ぎ止める行為をしなくてはならなくなる。それを考えて行動は迅速に起こすべきである。

『これが例え私の命を散らす事になったとしても、母として、あの子達を守れるのであれば……世界を守れるのであれば私は構わない。愛した子達の未来は守りたいと願うのが親というものだから……ガデルズ、許して……』

 走りながら目的のものを探しているとそれは空間から離れた位置に存在していた。それは……3神達の遺体はリーデル台地に封じられている闇の檻を守る影達によって保護されている状態で残っていた。
 ガデルズの暴力的な神力の源はこの3神達の遺体から搾り取る様にして得ているスコールから得ているのだとアデリスは察していた。この子達を死した後も利用する事にアデリスは悲しみを覚えて3神達を眠らせようと空間から出てきたのである。
 3神の遺体を囲む様に影達は蠢いているがアデリスが来て近寄ると道を開けてくれた。アデリスは3神達に近寄るとそっと手を伸ばして触れるとフワリと身体に光が帯びていく。
 その光が3神の遺体に満ちるとパァァと弾けて遺体は光になって消えていた。それを見届けたアデリスは大粒の涙を浮かべて静かに願う、どうか安らかに眠れます様に、と。

「!、アデリスか……ぐっ、忌々しい人間の血に僕のスコールを汚させている……許せないねぇ……」
「人間の血だって馬鹿には出来ねぇだろ! お前の無敵さだってこんな事で崩れていくんだぜ!」
「父上! いい加減に己の非を認めて堕ちて下さい! このままでは貴方も苦しみだけで生きていくだけになります!」
「それがどうしたんだい? 僕の生きる意味はこの世界を見守る事だった。それは子供達が頑張って作り上げた世界だから愛おしいと思っていた。でも、それを1人の子供が壊すなんて親としては止めないといけない事だ。父として、創造神として、僕はルーディスがやろうとしている事は阻止する義務があるんだ」

 ガデルズの神力が弱体するが、その凶暴で暴力的な勢いは変わらない。アデリスが何かをしたんだろうと気付いてはいるもののルーディス神もアルスも今目の前にいるガデルズをどうにかしなくては何も出来ないと分かってる。
 2人の攻撃に加えて神狩り武器達の攻撃も苛烈を極めているが、ガデルズはまた微笑みを浮かべて攻撃を受け止めている。何かキッカケがないとガデルズは倒せないとハルト達は気付く。
 どうするべきなのか? このままハルトの血でスコールを汚して弱体化させていくしか出来ないのだろうか? そう考えていた矢先、背後にいたアルシェードとベリオが声を上げる。

「うわっ!? なんだ!?」
「エテルナ様!?」
「どうしたんですか? えっ……エテルナ、さん……?」
「……」

 致命傷に近い傷を負わされていたエテルナの身体を包む光、それが強まると同時にエテルナは瞳を深紅に輝かせて強烈な神力を生み出す。その神力は愛おしく慈愛に満ちている優しい神力であった。
 ハルトやベリオ、コルやアルシェードを包み力を与えていく、それと同時に空間を包み込んでいきルーディス神とアルスには湧き上がる希望を与えていく。ガデルズがその光景に瞳を細めて小さく舌打ちする。
 ルーディス神はエテルナの様子に振り向きアルスから行けと視線で言われてエテルナの元に飛んで行く。傍に来たルーディス神にエテルナは優しく微笑みを浮かべてそっと首に腕を回して抱き着くと口付ける。
 その光景を間近で見たハルト達は唖然とする。エテルナの性格を考えるとこんな緊張した場面で愛の行為などするとは思っていなかったからだ。
 でも、これにはれっきとした理由があった。ルーディス神に口付けた後、ルーディス神に光が宿り元々の神力が強化されて次第にルーディス神とエテルナの身体に異変が訪れる。
 いよいよ2人の神が覚醒を始める。その覚醒によって聖戦は新たな局面を迎える。
 それは真実の愛を奏でる声が聞こえる優しさの歌声――――。
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