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断罪令嬢と初恋の騎士 〜自称ヒロインとヤンデレ〜
1)始まりは静かな追憶
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観光国として人気のジュール王国は一年を通して温暖な気候に恵まれ、国内では珍しい植物や美しい花々が咲く事で有名だ。
国の生誕を祝う「百花彩祭り」通称花祭りでは毎年三人の女性が「花冠の美女」として選ばれ、祭りを彩る観光大使としての活動を担っていた。
花祭り自体は数日だが色々な催しのある前祭期間を含めると一カ月を裕に超える。
前祭期間中は歴代美女の肖像画展が開かれ、過去に話題になった肖像画を見ようと訪れる者も多い。
「嘆かわしい、実に不愉快だ」
第二王子のサミュエルは目を閉じてフリフリと首を振った、緩くカールしたクセ毛の金髪も一緒に揺れる。
王家の象徴でも有るロイヤルブルーの瞳は垂れ目瞼で隠れて見えない。
「僕の不在中に[花冠の美女]の選定を終えるとは、全く持ってけしからん」
サミュエルの執務室を訪れていたディマルク公爵家の双子は、その言葉に呆れた顔で同時に意見した。
「エルが不在でも問題は無い」
「エルは選定には無関係だろ」
黒髪にロイヤルブルーの瞳のエルクロード。
黒髪にスカイブルーの瞳を持つエルフリード。
二人は準王族でサミュエルの友人でも有る。
「まあそうだけど、候補者選考と最終選定の過程を見るのは凄く楽しいから」
第一王子ヘイワードは表情が乏しく真面目で気難しい印象を与えるが、サミュエルは自由奔放な性格とふわりとした柔らかい雰囲気があった。
「確かエドワードの婚約者であるパトリシア嬢も[花冠の美女]の一人だよね」
「パトリシア嬢は婚約者では無い、あくまでも婚約者候補者だ」
短髪の近衛騎士エルフリードがすかさず訂正をする、些細な事にこだわる友人にサミュエルは若干呆れる。
「フリードは細かいな、他に候補者がいないなら婚約者と同じだよ」
「ローウェル侯爵令嬢はエロ馬鹿の婚約者にしておくには勿体無い」
弟の加勢のつもりか今度はエルクロードが辛辣な言葉を吐いた。
「それは僕も同意見だけどクロードは容赦無いな、エドワードも一応王子だよ」
艶のある黒髪マッシュをセンター分けにしたエルクロードは宰相補佐をしており、慎重な性格で口は悪いが頭は良い。
一方、短い前髪を立ち上げたエルフリードは騎士らしい実直な性格と弱者に対して優しく思いやりに溢れた好青年だ。
「そうだ!、近々王宮の小ホールで行われる卒業記念パーティーを一緒に覗きに行かないか?」
サミュエルが瞳を輝かせて双子を誘うが、またしても二人から注意を受ける。
「後輩達の記念イベントを邪魔するな、エル」
「第二王子という自分の立場を弁えろ、エル」
サミュエルと同い年の双子は幼い頃からの悪友で心を許せる間柄でも有る、その為サミュエルに対しても言葉に遠慮がなかった。
「う~ん、面白そうなんだけどなぁ」
…まあ、僕一人で見に行けば良いか…
現在の王家には王子王女が6人いて、全員の年齢が近い事もあり、幼少期は貴族や臣下の子息令嬢を招いた茶会を頻繁に行っていた。
それは第一王子のヘイワードが学園に入学すると自然と消滅したが、王子王女が成人に近づくと規模を大きくしたガーデンパーティーとして復活した。
…子供の頃から可愛かったから[花冠の美女]に選ばれるのも納得だな、最近は会う機会も無かったし成長したパトリシアを見るのは楽しみだ…
サミュエルの脳裏に茶会で出会った幼いパトリシアの姿が思い浮かんだ、柔らかく波打つ薄紫色の髪に空色のリボンをつけた可愛い女の子。
「あの時泣いていた小さな女の子が成人して今や【紫陽花の乙女】か時が流れるのは早いな」
サミュエルの口から何気なく漏れた言葉にエルフリードが応える。
「ああ、眩しいくらいに綺麗になってる」
話の流れからエルクロードはふと懐かしい悪戯を思い出した。
「そう言えばあの頃俺達の間で流行っていた遊びがあったな」
「ああ、エルが思いついたアレな、大人達に散々叱られたっけ」
幼少期からの悪友三人は大人になっても仲が良く、互いの仕事の合間に度々サミュエルの執務室に集まり雑談をしていた。
「はははは、直ぐに辞めさせられたけどあれは色々と楽しかったな」
サミュエルは友人達との楽しい思い出と茶会でのパトリシアの様子を懐かしむ。
「あの日以降、パトリシアが僕達の傍から離れないから茶会の場ではずっと一緒にいたよな」
「…………」
「ああ、ちょこちょこ後ろをついて来て雛鳥みたいで可愛かったな」
サミュエルの言葉にエルクロードは無言で頷き、エルフリードは感慨深く同意した。
小動物の様な可愛らしいパトリシアへの温かな気持ちと悪友達と悪戯をした当時の弾んだ気持ちが甦り沁み入るようにサミュエルの心を満たす。
…成長しても変わらず愛らしいのだろうな…
パトリシアの今の姿を想像したサミュエルは自然と口元が緩んだ。
国の生誕を祝う「百花彩祭り」通称花祭りでは毎年三人の女性が「花冠の美女」として選ばれ、祭りを彩る観光大使としての活動を担っていた。
花祭り自体は数日だが色々な催しのある前祭期間を含めると一カ月を裕に超える。
前祭期間中は歴代美女の肖像画展が開かれ、過去に話題になった肖像画を見ようと訪れる者も多い。
「嘆かわしい、実に不愉快だ」
第二王子のサミュエルは目を閉じてフリフリと首を振った、緩くカールしたクセ毛の金髪も一緒に揺れる。
王家の象徴でも有るロイヤルブルーの瞳は垂れ目瞼で隠れて見えない。
「僕の不在中に[花冠の美女]の選定を終えるとは、全く持ってけしからん」
サミュエルの執務室を訪れていたディマルク公爵家の双子は、その言葉に呆れた顔で同時に意見した。
「エルが不在でも問題は無い」
「エルは選定には無関係だろ」
黒髪にロイヤルブルーの瞳のエルクロード。
黒髪にスカイブルーの瞳を持つエルフリード。
二人は準王族でサミュエルの友人でも有る。
「まあそうだけど、候補者選考と最終選定の過程を見るのは凄く楽しいから」
第一王子ヘイワードは表情が乏しく真面目で気難しい印象を与えるが、サミュエルは自由奔放な性格とふわりとした柔らかい雰囲気があった。
「確かエドワードの婚約者であるパトリシア嬢も[花冠の美女]の一人だよね」
「パトリシア嬢は婚約者では無い、あくまでも婚約者候補者だ」
短髪の近衛騎士エルフリードがすかさず訂正をする、些細な事にこだわる友人にサミュエルは若干呆れる。
「フリードは細かいな、他に候補者がいないなら婚約者と同じだよ」
「ローウェル侯爵令嬢はエロ馬鹿の婚約者にしておくには勿体無い」
弟の加勢のつもりか今度はエルクロードが辛辣な言葉を吐いた。
「それは僕も同意見だけどクロードは容赦無いな、エドワードも一応王子だよ」
艶のある黒髪マッシュをセンター分けにしたエルクロードは宰相補佐をしており、慎重な性格で口は悪いが頭は良い。
一方、短い前髪を立ち上げたエルフリードは騎士らしい実直な性格と弱者に対して優しく思いやりに溢れた好青年だ。
「そうだ!、近々王宮の小ホールで行われる卒業記念パーティーを一緒に覗きに行かないか?」
サミュエルが瞳を輝かせて双子を誘うが、またしても二人から注意を受ける。
「後輩達の記念イベントを邪魔するな、エル」
「第二王子という自分の立場を弁えろ、エル」
サミュエルと同い年の双子は幼い頃からの悪友で心を許せる間柄でも有る、その為サミュエルに対しても言葉に遠慮がなかった。
「う~ん、面白そうなんだけどなぁ」
…まあ、僕一人で見に行けば良いか…
現在の王家には王子王女が6人いて、全員の年齢が近い事もあり、幼少期は貴族や臣下の子息令嬢を招いた茶会を頻繁に行っていた。
それは第一王子のヘイワードが学園に入学すると自然と消滅したが、王子王女が成人に近づくと規模を大きくしたガーデンパーティーとして復活した。
…子供の頃から可愛かったから[花冠の美女]に選ばれるのも納得だな、最近は会う機会も無かったし成長したパトリシアを見るのは楽しみだ…
サミュエルの脳裏に茶会で出会った幼いパトリシアの姿が思い浮かんだ、柔らかく波打つ薄紫色の髪に空色のリボンをつけた可愛い女の子。
「あの時泣いていた小さな女の子が成人して今や【紫陽花の乙女】か時が流れるのは早いな」
サミュエルの口から何気なく漏れた言葉にエルフリードが応える。
「ああ、眩しいくらいに綺麗になってる」
話の流れからエルクロードはふと懐かしい悪戯を思い出した。
「そう言えばあの頃俺達の間で流行っていた遊びがあったな」
「ああ、エルが思いついたアレな、大人達に散々叱られたっけ」
幼少期からの悪友三人は大人になっても仲が良く、互いの仕事の合間に度々サミュエルの執務室に集まり雑談をしていた。
「はははは、直ぐに辞めさせられたけどあれは色々と楽しかったな」
サミュエルは友人達との楽しい思い出と茶会でのパトリシアの様子を懐かしむ。
「あの日以降、パトリシアが僕達の傍から離れないから茶会の場ではずっと一緒にいたよな」
「…………」
「ああ、ちょこちょこ後ろをついて来て雛鳥みたいで可愛かったな」
サミュエルの言葉にエルクロードは無言で頷き、エルフリードは感慨深く同意した。
小動物の様な可愛らしいパトリシアへの温かな気持ちと悪友達と悪戯をした当時の弾んだ気持ちが甦り沁み入るようにサミュエルの心を満たす。
…成長しても変わらず愛らしいのだろうな…
パトリシアの今の姿を想像したサミュエルは自然と口元が緩んだ。
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