【R18】闇夜の龍は銀月と戯れる

やまたろう

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煌く太陽と銀色の月

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 メイヴィスの中でキュリアス・グランビアは年下の従兄弟で気遣う必要がある存在と認識していた。


 メイヴィスは基本的に好悪の感情に左右されない、元々の性格も有るが帝王教育の影響もある。キュリアスと同じ年のロランやジャスティンも可愛がり面倒を見ていた。


 だがキュリアスは少し違った、彼はメイヴィスに対して恋愛感情を持って接してきた為、メイヴィスはなるべく彼から距離を取る様にしていた、彼の気持ちに応える事は無理だからだ。


 ここ暫く所在が不明だった彼が、楽園で目撃されたと情報が入ったので、ロランに探らせていたのだ。メイヴィスは今その報告を受けていた。


「で、キュリアスの居場所は特定出来たのか?、ロラン」


「いえ、まだ不明ですが、それより気になる話が有ります、同じく楽園の住人だったジェラルドからの情報ですが・・・・・・」


 ロランから話を聞き終えたメイヴィスは思考する。


 つまり帝国が制圧の能力に変わる力を探ると共に、有益な能力者の子供を多く得る為に実験施設を作り性交をさせていたと?
 現皇帝の子供が多いのも、制圧の能力者を増やすために努力した結果なのか?


「そのジェラルドか、よくそんな情報を掴んでいたな、そしてよくお前達に教えてくれたものだな」


「はい、謎めいていて普通の男とは思えません。今回は味方で良かったです」


「取り敢えず、キュリアスの件は何か新情報が出るまで待とう。ご苦労だったなロラン、もう帰国しても良いぞ」
  

 メイヴィスの帰国命令に対して、ロランが言いにくそうに口を開いた。


「・・・・・それなんですが、楽園で一緒だった女性が一人精神的に追い詰められていて、何とか力になりたいんです・・・・・帰国を少し先に延ばしても構いませんか?」


 ロランは制圧の能力を有している為、普段は自主的に特定の人物としか関わらないように過ごしていた。


「珍しいな、ロランが自分から関わろうとするなんて。分かったグレースが戻るまでジャスティンに付いていてやれ、迂闊な奴だから一人でいると、また変な事に巻き込まれかねない」


「ちょっと殿下、酷いですよ!、僕は大丈夫です」


 ジャスティンが慌てて主張する。


「あははは、確かにそうですね。分かりました、グレースが戻るまでここに滞在してジャスティンを護ります。また新情報が入れば直ぐに報告します、殿下、有難うございます」




 ◆◇◆◇◆◇




 ラグランド王国の第二王子であるダルトンは、自分宛に届いた大きな荷物を眺めていた。


「何だこれは?」


 重くて大きい為、取り敢えず王宮の裏口にあるエントランスに置かれている。周りにはその荷物を運んだ騎士団員と、騎士団長のグリードが居た。


 グリードは不審な顔をしている。


「差出人は不明ですが、ジュール王国からですね。もしかしてナターシャ王女の婚約解消に関連した物でしょうか?」


 ダルトンも不審顔だ。


「うーん、僕宛に届くのはおかしくないか?」


「危険物の可能性も有ります、まずは慎重に開封して見ましょう」


 グリードと騎士団員が慎重に開封作業を進めて箱を開けると柩が納まっていた、横幅が普通の棺の1.5倍は有りそうな立派な物だ。


「棺か?」
「ちょっと大きくないか」


 不可解だが危険物ではなさそうだと、棺の蓋を開けて見ると中には銀色の髪をした青年が眼を閉じて横たわっていた。


「これは、一体・・・・」
「まさか、遺体か?」


 誰もが困惑顔で見つめる中で目覚めた青年は棺の外に出てきた。

 
「生きていた!」
「遺体じゃ無かった、誰だ」


 髪も瞳も銀色の青年、ダルトンはその人間を知っていた、そいつはダルトンの天敵だった。 

「お前は!」


 幼い頃からダルトンの出自を莫迦にして目の敵にし、メイヴィス兄上の側に行こうとすると邪魔をして、何度も嫌がらせをしてきた従兄弟のキュリアスだ。


「お前はキュリアス、キュリアス・グランビア、これは一体どういう事だ!」 


「久し振りだな、ダルトン。相変わらず不細工な顔だ、ようやくお前を排除出来そうで嬉しいよ」


 キュリアスは自身の魔力を解放した。制圧より強く他人を支配出来る傀儡の力だ。彼の足元から円状に銀色の魔力が瞬く間に広がって行く。


 キュリアスは円の中にいる人間に自身の魔力を流して、自由自在に操る事ができる。一方で、銀色の円の中にいる人間は、自分で体を動かす事が出来ない、まるで石のように立っているだけだ。


 グリードとダルトンは危険を察知して声をかけた。


「キュリアス殿下、何をなさるおつもりですか、おやめ下さい」


「キュリアス、ここは王宮だぞ、反逆罪になる前におかしな事は止めるんだ!」


 キュリアスは制止する二人の言葉に激昂して叫ぶ。

「うるさい!、ダルトン、お前さえいなければ、僕はもっとあの人と一緒にいられたんだ、お前が邪魔をしたから!、お前さえいなければ!、ここで死ね!」


 ダルトンはキュリアスの様子に不審を抱く。キュリアスは気に食わない奴だが、こんな事を仕出かす人間では無い、言動もらしく無く変だ、まるで別の人間のような不可思議さがある。


「キュリアスお前、一体どうしたんだ」


 キュリアスに操られた騎士団員が、ダルトンに剣を振り上げて向かってくる、ダルトンもグリードも他の騎士団員も皆んな動けない。


「キュリアス殿下、ダルトン殿下を害してはいけません!」

「いけません、キュリアス殿下!!」

「ダルトン殿下、お逃げ下さい」


 グリードを始め騎士団員の皆が口々に叫ぶ、ダルトンも逃げようと焦るが、キュリアスの傀儡で縛られて逃げる事が出来ない。


「くそっ、体が動かない!」


 騎士はもう目の前で剣を振り上げている、ダルトンは騎士の剣先を睨みつけた。


「さよなら、ダルトン」


 キュリアスが呟いて、騎士の剣がダルトンの体を切り裂いた。と、その寸前に剣ごと騎士の体が跳ね飛ばされて、ダルトンの胸元から琥珀色の守護石が弾けて砕け落ちる。


 キュリアスは眼を瞬き、驚いて困惑した、仕留めたはずのダルトンが生きている。


「何だ!何が起きたんだ、何故死んでいない?」


「これはメイヴィス兄上から貰った守護石、僕を護ってくれたのか?」


 ダルトンは砕けた琥珀色の石を見つめる、グリードはホッとして動けないながらもキュリアスの様子を見て隙を探る。


「ええい、もう一度だ!」


 キュリアスが顔を歪めて魔力を練り出した時、砕けた守護石から金色に輝く魔法陣が展開され始めた。その黄金の魔法陣は、瞬く間にキュリアスの銀色の円を上書きしていく。


 ビリビリと振動する空気と共に、眩い大きな球形の光りが魔法陣の真ん中に現れた。


「「「「    !!!    」」」


 その場にいた者達は体を襲う圧迫感と突然現れた光球に驚くが、事態を把握する前に眩しさで眼をやられる。眩む眼で光球の中を見た騎士団長グリードは息を呑んだ。


 光球の中にはラグランド王国の【きらめく太陽】、メイヴィス王太子殿下がいた。


 ビリビリとした空気を揺るがす震動と圧迫感。魔法陣の上に現れた眩いばかりに輝く光球の中はメイヴィスを中心として煌めく光の粒子が暴れ回っている。


「キュリアス、ダルトンに何をした?」


 メイヴィスの声を聞いたグリードは焦った。


 ・・・・メイヴィス殿下が激しく憤っている、あれ程の魔力を放出されている姿は今までに見た事が無い・・・・あの光る魔力塊に込められた魔力がもしここで解き放たれたら、王宮を吹き飛ばしてしまうかも知れない・・・・・


「メイヴィス殿下!、落ち着いて下さい」

「メイヴィス兄上!!」

「メイヴィス兄様、貴方が何故ここに」 


 グリード、ダルトン、キュリアスが口々に叫ぶ、そして雷帝の力を纏ったメイヴィスの姿を目にして彼に魅入った。


 黄金の髪がゆらりと逆立ち、琥珀色の瞳の奥がバチバチと輝いている、光の粒子が煌めく光玉の中に佇むその姿は、美しくも神罰を下す神のような恐ろしさを感じる。


 グリードを始めその場にいる全ての者が、光を従えたメイヴィスの姿に魅了されていた。
 

「キュリアス、もう止めろ」


 メイヴィス殿下の静かな声が聞こえた後に、辺り一帯が眩しい光に覆われて何も見えなくなった。そして、バリンッと音が聞こえて光が引くとキュリアス殿下が倒れていた。


 体が自然と動き、グリードはキュリアスの傀儡の魔力から解放された事に気付く。


 ビリビリとした空気の振動が緩み、体に感じていた圧力と凄まじい魔力の塊が  ふっと消えた。すると空から大きな雷鳴が聞こえて、大粒の雨が勢いよく降り出し辺りが暗くなる。


 メイヴィス殿下が魔力塊を空に解き放ったらしいとグリードは悟った。


 ・・・・ああ、我が主君は天候までも操るのか・・・・


 雷帝の力をまざまざと見せつけられたグリードは、規格外のメイヴィスの力に心の中でため息を付いた。


「グリード、魔力封じの枷をつけて、キュリアスを拘束しろ」


「殿下もう二度とあの様な魔力塊を作るのはおやめ下さい。」


「キュリアスを威圧しただけだ」


 ・・・・殿下、あれは威圧ではなく暴圧です・・・・


 サラッと軽く流すメイヴィスにグリードは、またしても心の中でため息を洩らした。















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