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学生編
やらかした
しおりを挟む朝起きた時にはもう、通話は切れていた。
いつベッドに移動したのかもあんまり覚えてなかった私は、起きてすぐ自分が通話を繋げたまま寝落ちた事を思い出して、襲い掛かってきた羞恥心に悶えた。
やらかした。
寝るつもりなんてなかったのに…皆月さんの話し方があまりに心を落ち着けてくるから、完全に油断しきっていた。
「うわぁ~……はず…」
きっとドン引きされた。
なんかおかしいこと言ってないよね?……大丈夫かな。
お詫びしようにも今はバイト休みで会えないし…対面で謝れる機会がそもそもない。
「とりあえず…とりあえず、メッセージで謝ろう」
さっそくスマホを手に取って、タタタッ…と慣れたスピードで文字を打っていく。
「えっと…昨日の夜は、すみませんでした……いや、ありがとうが先のが良いかな…?遅くまですみません…うぅん、謝りすぎ?クドい…?」
何度も打っては消してを繰り返して、ブツブツ独り言を呟く。
けっこう大きな失態だから嫌われた可能性もあるし…短文すぎるのは反省が伝わらなくて失礼かな。でも長文すぎてもきっとうざいよね。絵文字とかは付けないほうがいいか…軽薄と思われたくない。
誰かに返信するのに、こんなにも悩んだのは初めてだ。
「おはようございます、昨日の夜も電話ありがとうございました…遅くまで付き合ってくれたのに先に寝ちゃってすみません………堅苦しいかな。いや、でも」
読み上げた言葉以上に最適な言葉が浮かばなくて、心を決めて送ろうと画面に指を伸ばす。
「あ。た…楽しかったです、くらいは付けとこ…」
本当に楽しかったし。
新たに言葉を付け加えて送ったら、私の勇気が届いてくれたのか、数分も経たずに返信が来た。
『おはよ~!わたしも遅くまで話しすぎちゃってごめんね、寝ちゃったことは気にしないで?電話できてうれしかった~』
「まじ女神…」
気遣いに溢れる返信にじんと感動して、思わずスマホを頭上に掲げて涙を浮かべる。優しすぎるよ、皆月さん。
電話できてうれしいとか…破壊力やばい。この人がモテるのが分かった。現に女の私でさえ、今もう心臓が潰れそうなほどに心をやられてる。ほんと神。
「皆月さん…好きすぎる」
前はバイトでしか関わってなかったけど、こうやってプライベートで関わるようになってから、どんどん好意的な気持ちは膨れ上がっていた。とりあえず天使から女神へと私の中で昇格させておこう。…感謝感激。
軽率に先輩としても人としても好きになりつつ、もっと話したいという欲も湧く。
『今日はバイトですか?』
と、つい追加で質問メッセージを送ってしまった。すぐに返信が来る。マメなんだな…
『お休みだよ~』
『それなら…早めに電話かけてもいいですか?あ、というか今日も電話できますか』
『できるできる、大学の講義とか家のことがあるから夕方以降になっちゃうけど…いいかな?』
『全然。むしろ忙しいのにすみません』
『へいきだよ。お話できるのうれしいから』
…もう癒やしなんだけど。
メッセージでさえ楽しすぎる。あんまり文面と話し口調が変わらないのも、脳内再生余裕で助かった。
皆月さんって、あんまり深く人と関わらないイメージというか、どんなに仲良くなっても一定の距離感を保つタイプだと思ってたから、こんな風に応えてくれるのは意外だった。
プライベート…謎に包まれてるんだよね。
大学にバイトに、家事手伝いもしてるのかな?だから忙しそうなのは想像つくけど、空き時間とかに何をしてるのかまったく分からない。趣味とかあるのかな?
今日も電話してくれるって言ってたし…聞いてみようかな。あんまり深入りしすぎたら、嫌がられちゃう気もするけど。気になる。
脳内はずっと、皆月さんのことで埋まっていく。
とりあえず今は普通に平日だから支度して学校へ行って、退屈なような授業を受けて、
「渚、今日みんなでカフェ行くけど…行く?」
「あー…ごめん、今日はいいや」
友人の誘いも断って、足早に帰宅した。
家に着いてすぐお風呂に入って、母親の作ってくれた早めの夕食に手を付けて、歯を磨いて、準備万端。
これで、いつでも電話できる。
そしてその日も、その次の日も。
私と皆月さんの夜の通話は、中間テストが終わっても続いた。
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