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学生編
テスト結果
しおりを挟む親に大学へ行きたいと改めて決意を伝えてから初めて迎えた、中間テスト。
その結果に、私は絶望した。
「こんなんで…本当に大学なんて行けるの?」
「もう諦めて就職したらどうだ」
両親も、私と同じく絶望してしまったようだ。
呆れながら言われて、傷付いた心へ自室へ戻る。とてもじゃないけど、言い返せるような元気はなかった。
どうしてこんなに、今回に限ってテストの点数が落ちてしまったのか。
これには明確な原因がある。
『んふふ、それでね…』
楽しそうに話す通話越しの声を、あくびを噛み殺しながら聞いた。
『あ…ねむい?電話、切ろっか』
「いや……もうちょっと、あと5分…だけ」
ベッドの上でウトウトしながら言うと、心配そうなため息が聞こえてきた。
『でも何日もこんなに遅くまで…寝不足になっちゃうよ?』
「や、大丈夫です…大丈夫だから、話してて…」
『うぅん…話せるのは嬉しいけど…』
そう、実はここ最近ずっと、寝落ちるその瞬間まで皆月さんと電話している。これが原因だ。
今日もまた、落ち込んだ気持ちから逃げたくて、縋る思いで電話をかけて…早2時間。最初は慰めてもらって、そのあとは気が付けばいつも通り。くだらないような話になった。
きっかけはいつだったか…3回目の通話の時に、あまりにも聞き心地のいい声だからぼんやり聞きながら寝てしまって、それ以降なんでか夜になると声が聞きたくなって、電話をかけてしまう日々が続いていた。
テスト期間ということもあってバイトのシフト入れてなかったから会えることもないし、余計に電話をかけたくなる要素が重なって、結果的にほぼ毎日のように通話するという…けっこうなやらかし。自覚はある。
通話しながらお互い勉強することがほとんどで、教えてももらってるし、知識はちゃんと入ってるはずなんだけど…寝不足で頭が回らず、テストに集中できなかった。完全に自業自得である。
『ふぁ……んん、ごめん。わたしも眠たくなってきちゃった』
いつもいつも私のわがままに付き合ってくれる皆月さんもそろそろ限界を迎えたのか、眠たそうな声が耳に届いた。
「あ…すみません。電話、切りますね」
『っや、待って』
まずいことしたという罪悪感で眠気が飛んで、すぐに通話を切ろうとスマホの画面に指を伸ばした。
『そんなに急に切られるのは…なんかさびしくなっちゃうな』
「え」
『あとちょっとだけお話しよ?おねがい』
眠いからなのか、やけに甘えた声を出されて動揺する。電話越しでもこの人こんなに魔性な女なんだ…と感心もした。
さすがモテ女…もはや恐ろしい。
私が男なら、きっと今頃心臓を握り潰されてた。それくらいには破壊力のあるお願いに「はい…」と情けなく裏返った声で返事するしかできなかった。
どこまでも他愛なくて、眠い会話の時間が続く。
本当に眠いのか、疑うほど皆月さんの声はずっといつも通り呑気だ。
「最近…バイトどうですか?」
『相変わらずだよ~…あ、そうそう。ここだけの話ね、時給がちょっと上がったの。他の人には内緒にしてね』
「え。なにそれずるい」
『んふふ~、長く勤めた特権よね。…上がったのは10円とかだけど』
「私なんて一生上がらない高校生時給ですよ?はぁー…同じ仕事してるってのに、年齢で貰えるお金が変わるの萎える」
『んん…ごめん、嫌なこと言っちゃったね』
「いや別に皆月さんに言ってるわけじゃ…」
『渚ちゃんも、大学生になったら上がるよ。もう少しだ、ふぁいと』
話し方から、きっと小さくガッツポーズをしてるんだろうな…って容易に想像がついた。微笑ましいしかわいい。
……そういえば最近、皆月さんの私への呼び方が変わった。
いったいなんの心境の変化なのか、名字呼びから名前呼びに気が付けば変わっていた。彼女の中で私への距離感が縮まったのかな?と思うと…恥ずかしいくらいに、ものすごく嬉しい。
ただ電話してるだけなのに、心臓が変にドクドクする。
声を聞いてるだけで楽しいし癒やされる…けど。
「………会いたい、な…」
ぽつりと、心に浮かんだ願望が口からついて出た。
『え?ごめん~、今なんて言ったの?声ちいさくて聞き取れなかった』
一瞬、やばいと焦ったけど、すぐに聞こえてきた呑気な声にホッとする。
「いや…眠いなって」
『あっ、そ…そうだよね。ごめんねぇ…思ったより長く話し込んじゃった』
誤魔化すためについた嘘を疑いもせず受け止めた彼女は、本当に申し訳なさそうな声を出す。
『遅くまでありがとね。ゆっくり寝てね』
「はい…こちらこそ、いつもすみません」
『いーえ。お話できて嬉しいから大丈夫。また話そうね』
もう電話、切られちゃうかな。切りたくない……いやでもさすがにこれ以上付き合わせるのはだめかな…うわぁ、まだ話足りない…どうしよう。声聞いてたいな。
一瞬のうちに、悶々と葛藤する。
さびしい。
『さびしいね』
私の心の声と、通話から流れてきた皆月さんの声が重なった。
『はやくまた…バイトで会いたいな』
この人はどこまでも、魔性だ。
天然なのか狙ってるのか…どちらにせよ、私の胸を強く締め付けてきて、その苦しさに思わず下唇を噛み締めた。
く、悔しいけど……嬉しい。
『あ。でも今月はもうシフト入ってないんだっけ』
「…はい、来月の初めまで休みです」
『じゃあ学祭まで会えないかな?』
「そう…なりますね」
会えるのは、6月。
誘われた学祭で会える事が、今から楽しみで仕方なくなった。
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