134 / 187
第三章
ヴェルナーの決意
しおりを挟む
「通常、裁判ともなれば、議会に報告されてから裁判まで最低1か月は時間を掛けて調査をするものですが、今回はレーヘの目もあります。恐らく相当短縮されるものと思われますが大丈夫でしょうか?」
今回の裁判は余りにも異例である。まず国王が裁かれるなど前代未聞であるし、その内容もまた前代未聞の出来事なのだ。それに、この事件は裁判の結果がどうあれローレンツ一国だけで解決できる類の問題ではない。
ダラダラと時間を掛けて裁判をやっていれば、国王不在のまま隣国との戦争になる可能性もある。アチャズは不安そうにジェルモに尋ねた。
「そうですね。しかし、どういった事情であれ最優先で事を進める必要があります。アチャズ殿、猶予はどの程度とお考えですか?」
「はっきり言えば私も何もわからないのですが。半分、いえ最悪十日も想定したほうが良いかもしれません」
ジェルモはそれを聞いて腕を組み、短く息を吐く。
「わかりました。分析と証拠まで探るには厳しいですが、やるしかないようですね」
「なんとか、よろしくお願いいたします」
アチャズが頭を下げると、他のふたりも彼に倣って頭を下げた。
ゴドア商業ギルドを後にした3人はアチャズ邸に帰って来た。
「三人ともお帰りなさい!」
声を掛けてくれたのはディーナだった。
「ただいま!あれ、他のみんなは?」
エミールが尋ねるとディーナが説明してくれた。
「今、リヒャルトさんの使いの方が来ていて別室で報告を受けてるの」
「報告?何かあったの?」
マリアがそう尋ねた時だった、ガチャンとドアが開いて全員が出て来た所だった。
「お、帰ったな!」
フランツが声を掛けると他の仲間も気付いておかえり!と口々に声を掛ける。マリアたちはそれに応えつつ、先ほどディーナが言っていた話を彼らに尋ねた。
「ああ、今報告を受けてな。どうも王都の門という門が検閲対象になってしまってるらしい」
ヴェルナーが答えるとガルダが続いた。
「どうにも我々の動きを牽制されているようですな」
「牽制というよりは、事実上の幽閉状態でしょうな」
パトスが微妙にガルダの内容を訂正した。相変わらず片手にはコーヒーだ。
最近は、王都で手に入れた新しい種類の豆と他の種類の豆をどの配合でブレンドするかという、すごくどうでもいい悩みで明け暮れている。一口飲むとさらにパトスが続ける。
「これでますますエルンに帰ることが難しくなったわけですが、問題はもう一つありまして」
「もうひとつ?」
「ええ、どうもベルンハルトが兵を出したそうなのです。表向きは治安維持のためということですが、エルンに向かっているのではないかと思われます」
「エルンって・・・・・・」
マリアの表情がパトスの言葉で曇る。このタイミングでベルンハルトが兵を出したなら、考えられることはふたつしかない。ひとつは、フリードリヒ陛下を擁護する貴族や兵を牽制し行動を抑止すること。
もうひとつは、そのままアルスに向けられたものということだ。もっとも、エルンは王都から離れている。治安維持というのが、牽制程度で済むことなのかもわからない。そして、その情報を聞いて誰もが懸念すること。パトスはマリアの表情からすぐにそれを読み取った。
「そうなのです。エルンは今ギュンター殿が一人だけです」
「大丈夫かしら・・・・・・」
「問題ねぇよ、あいつなら。なんとかするだろ」
「フランツ殿はああ言っていますが、ベルンハルトの十傑というのがいた場合は少し面倒なことになるかもしれません。もちろん、ギュンター殿が引けを取ることはないでしょうが」
「爺さんは心配し過ぎなんだよ。ドルフやアジルもいるんだし、心配はいらねぇよ」
「でも、ギュンターにせめて敵が向かっていることは知らせておいてやりたい」
考え込むパトスに声を掛けたのはヴェルナーだった。ヴェルナーにとって、ギュンターは同郷の古い友人であるため、フランツと同じように楽観出来るようなものでもない。
「俺が行きます」
悩んでいるパトスを見てヴェルナーが即断した。
「ガートウィンからもらったあいつの武器も持って行ってやりたいというのもある。それと、あいつの技が完成したかどうかも見てみたいしな」
フランツが後ろで両手を広げて首を振ってるのを尻目にヴェルナーはニヤッと笑った。
「待ってください。今から行こうと言うんですか?さすがにそれは目立ちすぎる。行くなら私に案があります」
アチャズが慌ててヴェルナーを止める。
「案とは?」
アチャズの案とはこういうことであった。王都で売られている武器は、ノルディッヒで作られたものも多い。そうした武器は、ノルディッヒの鍛冶ギルドを通してこちらに売られている。
当然、それらの運搬を担ってノルディッヒと王都を行き来している者たちがいる。その中に紛れ込んでしまえば怪しまれず、簡単に王都を出れるということであった。
ヴェルナーはアチャズのこの提案に乗った。というより、単純にこれ以上の良策が思いつかなかったというほうが正しいのかもしれない。
今回の裁判は余りにも異例である。まず国王が裁かれるなど前代未聞であるし、その内容もまた前代未聞の出来事なのだ。それに、この事件は裁判の結果がどうあれローレンツ一国だけで解決できる類の問題ではない。
ダラダラと時間を掛けて裁判をやっていれば、国王不在のまま隣国との戦争になる可能性もある。アチャズは不安そうにジェルモに尋ねた。
「そうですね。しかし、どういった事情であれ最優先で事を進める必要があります。アチャズ殿、猶予はどの程度とお考えですか?」
「はっきり言えば私も何もわからないのですが。半分、いえ最悪十日も想定したほうが良いかもしれません」
ジェルモはそれを聞いて腕を組み、短く息を吐く。
「わかりました。分析と証拠まで探るには厳しいですが、やるしかないようですね」
「なんとか、よろしくお願いいたします」
アチャズが頭を下げると、他のふたりも彼に倣って頭を下げた。
ゴドア商業ギルドを後にした3人はアチャズ邸に帰って来た。
「三人ともお帰りなさい!」
声を掛けてくれたのはディーナだった。
「ただいま!あれ、他のみんなは?」
エミールが尋ねるとディーナが説明してくれた。
「今、リヒャルトさんの使いの方が来ていて別室で報告を受けてるの」
「報告?何かあったの?」
マリアがそう尋ねた時だった、ガチャンとドアが開いて全員が出て来た所だった。
「お、帰ったな!」
フランツが声を掛けると他の仲間も気付いておかえり!と口々に声を掛ける。マリアたちはそれに応えつつ、先ほどディーナが言っていた話を彼らに尋ねた。
「ああ、今報告を受けてな。どうも王都の門という門が検閲対象になってしまってるらしい」
ヴェルナーが答えるとガルダが続いた。
「どうにも我々の動きを牽制されているようですな」
「牽制というよりは、事実上の幽閉状態でしょうな」
パトスが微妙にガルダの内容を訂正した。相変わらず片手にはコーヒーだ。
最近は、王都で手に入れた新しい種類の豆と他の種類の豆をどの配合でブレンドするかという、すごくどうでもいい悩みで明け暮れている。一口飲むとさらにパトスが続ける。
「これでますますエルンに帰ることが難しくなったわけですが、問題はもう一つありまして」
「もうひとつ?」
「ええ、どうもベルンハルトが兵を出したそうなのです。表向きは治安維持のためということですが、エルンに向かっているのではないかと思われます」
「エルンって・・・・・・」
マリアの表情がパトスの言葉で曇る。このタイミングでベルンハルトが兵を出したなら、考えられることはふたつしかない。ひとつは、フリードリヒ陛下を擁護する貴族や兵を牽制し行動を抑止すること。
もうひとつは、そのままアルスに向けられたものということだ。もっとも、エルンは王都から離れている。治安維持というのが、牽制程度で済むことなのかもわからない。そして、その情報を聞いて誰もが懸念すること。パトスはマリアの表情からすぐにそれを読み取った。
「そうなのです。エルンは今ギュンター殿が一人だけです」
「大丈夫かしら・・・・・・」
「問題ねぇよ、あいつなら。なんとかするだろ」
「フランツ殿はああ言っていますが、ベルンハルトの十傑というのがいた場合は少し面倒なことになるかもしれません。もちろん、ギュンター殿が引けを取ることはないでしょうが」
「爺さんは心配し過ぎなんだよ。ドルフやアジルもいるんだし、心配はいらねぇよ」
「でも、ギュンターにせめて敵が向かっていることは知らせておいてやりたい」
考え込むパトスに声を掛けたのはヴェルナーだった。ヴェルナーにとって、ギュンターは同郷の古い友人であるため、フランツと同じように楽観出来るようなものでもない。
「俺が行きます」
悩んでいるパトスを見てヴェルナーが即断した。
「ガートウィンからもらったあいつの武器も持って行ってやりたいというのもある。それと、あいつの技が完成したかどうかも見てみたいしな」
フランツが後ろで両手を広げて首を振ってるのを尻目にヴェルナーはニヤッと笑った。
「待ってください。今から行こうと言うんですか?さすがにそれは目立ちすぎる。行くなら私に案があります」
アチャズが慌ててヴェルナーを止める。
「案とは?」
アチャズの案とはこういうことであった。王都で売られている武器は、ノルディッヒで作られたものも多い。そうした武器は、ノルディッヒの鍛冶ギルドを通してこちらに売られている。
当然、それらの運搬を担ってノルディッヒと王都を行き来している者たちがいる。その中に紛れ込んでしまえば怪しまれず、簡単に王都を出れるということであった。
ヴェルナーはアチャズのこの提案に乗った。というより、単純にこれ以上の良策が思いつかなかったというほうが正しいのかもしれない。
11
あなたにおすすめの小説
異世界を制御魔法で切り開け!
佐竹アキノリ
ファンタジー
「第7回アルファポリスファンタジー小説大賞」特別賞受賞作! ネットで超話題の運命制御系ファンタジー、待望の書籍化! ある日、没落貴族の四男エヴァン・ダグラスはふと思い出した。前世の自分は、地球で制御工学を学ぶ大学生だったことを――日本人的な外見のせいで家族から疎まれていたエヴァンは、これを機に一念発起。制御工学の知識を生かして特訓を重ね、魔力ベクトルを操る超絶技巧「制御魔法」を修得する。やがて獣人メイドのセラフィナとともに出奔した彼は、雪山を大鬼オーガが徘徊し、洞窟に魔獣コボルトが潜む危険な剣と魔法の世界で、冒険者として身を立てていく。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる