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河井肥前守には夢があった。
裏山の先は広い台地が続いている。今、そこは背丈の高い雑草の繁茂する未開の地だが、切り開いて、ため池をつくる。幸田川の、このあたりから上流の水の多くは湧き水だ。台地も掘れば水が湧くかもしれない。それが無理でも、雨水で水をためることもできるだろう。ため池が出来たら、その周辺に畑地を作る。山の斜面も開墾する。階段状にして、農地を作り、ため池から水を流す。そこで、稲を育てることも可能になる……。それが河井の夢だった。
それを実現するには、人手が必要だ。三郎だけでは足りない。河井がこの地を紹介されたとき、北条の家来衆は次々と開発者を送り込むと言っていた。しかし、三郎が幸田村に来てから三年が経っても、開発者は一人もやってこなかった。
河井の落胆は深かった。
村の住人を増やす機会は突如やってきた。
余程、上杉勢には迷惑をしているのだろう。境川沿いの上和田村の百姓は口々にこの地に上杉が来ないようにしてほしいと、伊勢殿の武将、西原時一郎に懇願した。西原はこの地を治める武士だが、この地に来ることは滅多に無く、伊勢殿の御馬廻衆として小田原に詰めていた。たまたま、この日、武者だけで80は兵を揃えられるという成瀬城主小山田弥三郎に伊勢殿の書状を渡すことと上杉勢の動静を探る目的で小野路に向かう途中、行く手を阻まれた。
両上杉の争いは、相武の境の地で起きることが多かった。幸田村の周辺の村の中では、鶴間村が、特に深刻だった。鶴間村は、武蔵と、座間、当麻をつなぐ街道上に位置していた。だから、兵が常に往復する。そのたび、彼らは収奪を繰り返した。
西原が百姓に取り囲まれるのはこれが初めてではない。そのことで、いつも西原は難渋するが、今回は、喜ばせる材料はあったので、不快にはならなかった。
「権現山城の上田殿(上田政盛)が、我が北条側についたぞ。喜べ。あと、もう少しで、上杉を追い払うことができるぞ」
相模を北条の手で安定させるためには、どうしても必要な力が上田政盛だった。
上杉に相模を任せようと本心から思う者は相模にはいなかった。上田政盛もその一人だった。扇谷と山内の身内同士の長い戦乱に辟易していた。対抗する力のある武将がいれば、そこに靡くのは当然だった。後は北条がそれになれるかどうかだった。
上田は北条に賭けたのだろう。有力な武将の上田殿の裏切りは上杉にとっては大きな痛手だった。
「ここは何としても、権現山城を守りぬかなければならない。どうでしょう。今、上田殿を支援する兵を集めていますので、この村からも参加を頼みたい。ここは武蔵との境だ。上田殿を守り抜けば、この辺りも安定する。そうなれば、伊勢殿もここに城を築くと言っている。信じて、参加してほしい。なあに。命の心配はない。上杉は本気で戦ったことなどない。負けそうな戦いはしない。権現山は要害の地だ。落とすには相当の死者が出る。だから、戦闘にはならない。上杉は戦う格好を見せるだけだ。権現山城を守りに行くと言っても、今回は味方になってくれたことへの礼みたいなものだ」
河井もその場にいた。上和田村の小川治平に、村の支配者である西原様にお会いして村に開発者を送るよう要請したい、その繋ぎをお願いしたいと頼みに行く途中での幸運だった。
上和田村は幸田村とは山を挟んだ向かいの村で、河井が幸田村にやってきて、すぐに、挨拶に行ったのが小川治平だ。その時、この地を治める伊勢殿の家来は西原という人物で、伊勢殿の御馬廻衆の一人だ、なかなか立派な人物で、彼と話が出来るのはこの辺では自分だけだと小川治平は言ったのだ。
「参加しようと思っておりますが、その前にお願いを聞いてもらえますでしょうか?」と西原を取り囲む百姓の一団の一番後ろにいた河井は言った。
「なんでも言うがいい」と西原は喝破した。
「村に人を送ってほしいのです。いえ、送ってくれると言われましたから、この山の向こうの村に私はやってきたんです。でも、いくら待っても人を送って頂けなくて困っているのです」
「ご存知のとおり、伊勢殿も今、少し難渋していて、この地まで手が回らないのだ。しかし、権現山を守りきれれば、一気に形勢は有利になる。この地も安定するから、必ずや希望は実現する。約束する」と西原は言った。
河井がこの地に来た頃よりも情勢は悪化していた。河井が初めて小川治平に会ったとき、河井は伊勢殿の支援を受けて、幸田村の開発に従事していることを伝えた。治平は伊勢殿の力に懐疑的だった。
「伊勢殿は上杉からこの地を守る力を持った武将だ」と河井は宣伝した。小川は、そうなればいいがと言った。河井は間違いなく、すぐにそういう時代がくると断言した。
永正元年(1504年)武蔵立河原の戦いで、扇谷家当主上杉朝良に味方した伊勢殿は、今川氏親と共に出陣して山内顕定に勝利した。河井がこの地に足を踏み入れたのはその年のことだった。しかし、攻勢はここで止まった。この戦いで敗れた顕定は弟の越後守護上杉房能と同守護代長尾能景の来援を得て反撃に出る。
相模へ乱入して、扇谷家の諸城を次々と攻略した。
翌永正2年(1505年)、河越城に追い込まれた朝良は降伏した。これにより、伊勢は山内家、扇谷家の両上杉家と敵対することになった。武蔵と接するこの地は放棄したのも同然の状態になった。
河井は、三郎を連れて、権現山に行くことにした。上和田村からは参加者はいなかった。危険を感じたからだ。河井も頭から西原のことを信じたわけではなかった。しかし、参加しなければ先に進まなかった。小川も河井の参加には賛成した。誰かが参加しないことには、面目を保てないと思ったからだ。
いや、それ以上に有難い。西原の言うとおりの展開になれば、河井の参加はこの地に大きな利益をもたらすと、小川は思った。
三郎の武具は河井が揃えた。甲冑は粗末だったが、必要な武具は全てあった。大刀と脇差、陣笠で三郎は身を固めた。
上和田村での一件から3日後、西原は約束どおり、村にやってきた。
参加者は深見村から1人、鶴間村から4人、全部で7人だった。7人は境川を船で下った。西原は騎乗し、船の速さに合わせて、境川沿いを下った。
戸塚あたりで、西原から指示があり、船から下りた。
戸塚から最戸、弘明寺を抜けて、権現山に着いた。
城は権現山の頂にあった。城の前は海が広がり、反対側は山が続いていた。その山にも砦があり、急峻で、這って上らなければならないような山だった。
いいところに城をつくったものだ、と三郎は思った。これなら、そう簡単には落城しないだろう。
小田原の兵は300人を越えていた。そのなかには、三郎と一緒の舟に乗って小田原に来た者もいた。皆、参加した事情は我々と同じようなものだろうと三郎は思った。
知る者はそれだけではなかった。集った300人に向かい、声を張り上げている、赤い鼻の男を知っていた。関口太兵衛だった。
きっと、小田原に連れてきた開発者の惨状に責任を感じて自ら進んできたか、開発者を募った責任で強制的に派遣されたかのどちらかだろう、と三郎は思い、少し彼に同情した。
三郎は話しかけられるものなら、太兵衛に話しかけたかった。そして、河井の願いを私の願いとして実現できるよう働きかけたかった。
三郎たちが任された場所は権現山の裏山の本覚山の砦だった。応援にきた長尾氏の兵も同数ぐらいが一緒だった。長尾氏の兵も伊勢殿の兵も権原山城とここにそれぞれの責任箇所を決め、半々に分かれて、守りについた。
権現山城の中ではここが一番安全に思えた。
ここを攻めてくるには、急峻な崖を登らなくてはならない。登ってきたら、上から石を落とす、矢を射かける、敵は一たまりもない。一人転げ落ちれば、続くものも次々に巻き込まれるだろう……。この砦は決して落ちない。難攻不落だ。
西原の言うとおり、城を落とすには、相当の死者を覚悟しなければならない。上杉にその覚悟はない。戦闘は起きないに違いない……。
「事情が変わった。上杉が近々攻めてくるようだ。上田殿の裏切りに相当血が上っているのだろう。しかし、諦めが早い殿様だから、攻略が無理と分かれば数日で去るはずだ。それまで、存分に戦おうぞ」
本覚山の砦に現れた関口太兵衛はそこを守る部隊に笑みを浮かべて叫んだ。西原はその隣でおうと叫んで槍を突き上げた。
大石も矢も十分あった。戦うと聞いて、話が違うと思ったが、上杉が本気で戦わないことは河井も言っていた。負けそうになると上杉はすぐ逃げる。扇谷も山内も上杉はみな同じだ。
勝ったほうも追わない。幸田村周辺で起きる両者の戦いはいつもそうだ。だから、いつまで経っても戦争が終わらない、と河井は言った。それにここは難攻不落だ。三郎も他の者も皆安心しきっていた。
権現山城の様子は分からないが、本覚山の守りは万全だった。敵は最初こそは、大挙して山を這って上ってきたが、石を落とすと、転がるように兵が逃げていった。矢を射るよりも効果は絶大だった。
予想どおり、その後は、僅かな人数で隠れるように様子見に上ってくるだけで、見つかると、慌ててすぐに逃げていった。彼らに戦う意志はなかった。
案の定、ここを守る兵の一部も権現山に回された。そして、帰ってくることは無かった。あちらは戦闘が続いているとの報告がこちらに届いた。
報告では権現山の方も大丈夫とのことだった。あとは上杉が諦めるのを待つばかりだった。が、一週間経っても敵は囲みを解かなかった。この砦での戦闘はなかったが、権現山では散発的な戦闘は続いた。それだけが気がかりだった。
裏山の先は広い台地が続いている。今、そこは背丈の高い雑草の繁茂する未開の地だが、切り開いて、ため池をつくる。幸田川の、このあたりから上流の水の多くは湧き水だ。台地も掘れば水が湧くかもしれない。それが無理でも、雨水で水をためることもできるだろう。ため池が出来たら、その周辺に畑地を作る。山の斜面も開墾する。階段状にして、農地を作り、ため池から水を流す。そこで、稲を育てることも可能になる……。それが河井の夢だった。
それを実現するには、人手が必要だ。三郎だけでは足りない。河井がこの地を紹介されたとき、北条の家来衆は次々と開発者を送り込むと言っていた。しかし、三郎が幸田村に来てから三年が経っても、開発者は一人もやってこなかった。
河井の落胆は深かった。
村の住人を増やす機会は突如やってきた。
余程、上杉勢には迷惑をしているのだろう。境川沿いの上和田村の百姓は口々にこの地に上杉が来ないようにしてほしいと、伊勢殿の武将、西原時一郎に懇願した。西原はこの地を治める武士だが、この地に来ることは滅多に無く、伊勢殿の御馬廻衆として小田原に詰めていた。たまたま、この日、武者だけで80は兵を揃えられるという成瀬城主小山田弥三郎に伊勢殿の書状を渡すことと上杉勢の動静を探る目的で小野路に向かう途中、行く手を阻まれた。
両上杉の争いは、相武の境の地で起きることが多かった。幸田村の周辺の村の中では、鶴間村が、特に深刻だった。鶴間村は、武蔵と、座間、当麻をつなぐ街道上に位置していた。だから、兵が常に往復する。そのたび、彼らは収奪を繰り返した。
西原が百姓に取り囲まれるのはこれが初めてではない。そのことで、いつも西原は難渋するが、今回は、喜ばせる材料はあったので、不快にはならなかった。
「権現山城の上田殿(上田政盛)が、我が北条側についたぞ。喜べ。あと、もう少しで、上杉を追い払うことができるぞ」
相模を北条の手で安定させるためには、どうしても必要な力が上田政盛だった。
上杉に相模を任せようと本心から思う者は相模にはいなかった。上田政盛もその一人だった。扇谷と山内の身内同士の長い戦乱に辟易していた。対抗する力のある武将がいれば、そこに靡くのは当然だった。後は北条がそれになれるかどうかだった。
上田は北条に賭けたのだろう。有力な武将の上田殿の裏切りは上杉にとっては大きな痛手だった。
「ここは何としても、権現山城を守りぬかなければならない。どうでしょう。今、上田殿を支援する兵を集めていますので、この村からも参加を頼みたい。ここは武蔵との境だ。上田殿を守り抜けば、この辺りも安定する。そうなれば、伊勢殿もここに城を築くと言っている。信じて、参加してほしい。なあに。命の心配はない。上杉は本気で戦ったことなどない。負けそうな戦いはしない。権現山は要害の地だ。落とすには相当の死者が出る。だから、戦闘にはならない。上杉は戦う格好を見せるだけだ。権現山城を守りに行くと言っても、今回は味方になってくれたことへの礼みたいなものだ」
河井もその場にいた。上和田村の小川治平に、村の支配者である西原様にお会いして村に開発者を送るよう要請したい、その繋ぎをお願いしたいと頼みに行く途中での幸運だった。
上和田村は幸田村とは山を挟んだ向かいの村で、河井が幸田村にやってきて、すぐに、挨拶に行ったのが小川治平だ。その時、この地を治める伊勢殿の家来は西原という人物で、伊勢殿の御馬廻衆の一人だ、なかなか立派な人物で、彼と話が出来るのはこの辺では自分だけだと小川治平は言ったのだ。
「参加しようと思っておりますが、その前にお願いを聞いてもらえますでしょうか?」と西原を取り囲む百姓の一団の一番後ろにいた河井は言った。
「なんでも言うがいい」と西原は喝破した。
「村に人を送ってほしいのです。いえ、送ってくれると言われましたから、この山の向こうの村に私はやってきたんです。でも、いくら待っても人を送って頂けなくて困っているのです」
「ご存知のとおり、伊勢殿も今、少し難渋していて、この地まで手が回らないのだ。しかし、権現山を守りきれれば、一気に形勢は有利になる。この地も安定するから、必ずや希望は実現する。約束する」と西原は言った。
河井がこの地に来た頃よりも情勢は悪化していた。河井が初めて小川治平に会ったとき、河井は伊勢殿の支援を受けて、幸田村の開発に従事していることを伝えた。治平は伊勢殿の力に懐疑的だった。
「伊勢殿は上杉からこの地を守る力を持った武将だ」と河井は宣伝した。小川は、そうなればいいがと言った。河井は間違いなく、すぐにそういう時代がくると断言した。
永正元年(1504年)武蔵立河原の戦いで、扇谷家当主上杉朝良に味方した伊勢殿は、今川氏親と共に出陣して山内顕定に勝利した。河井がこの地に足を踏み入れたのはその年のことだった。しかし、攻勢はここで止まった。この戦いで敗れた顕定は弟の越後守護上杉房能と同守護代長尾能景の来援を得て反撃に出る。
相模へ乱入して、扇谷家の諸城を次々と攻略した。
翌永正2年(1505年)、河越城に追い込まれた朝良は降伏した。これにより、伊勢は山内家、扇谷家の両上杉家と敵対することになった。武蔵と接するこの地は放棄したのも同然の状態になった。
河井は、三郎を連れて、権現山に行くことにした。上和田村からは参加者はいなかった。危険を感じたからだ。河井も頭から西原のことを信じたわけではなかった。しかし、参加しなければ先に進まなかった。小川も河井の参加には賛成した。誰かが参加しないことには、面目を保てないと思ったからだ。
いや、それ以上に有難い。西原の言うとおりの展開になれば、河井の参加はこの地に大きな利益をもたらすと、小川は思った。
三郎の武具は河井が揃えた。甲冑は粗末だったが、必要な武具は全てあった。大刀と脇差、陣笠で三郎は身を固めた。
上和田村での一件から3日後、西原は約束どおり、村にやってきた。
参加者は深見村から1人、鶴間村から4人、全部で7人だった。7人は境川を船で下った。西原は騎乗し、船の速さに合わせて、境川沿いを下った。
戸塚あたりで、西原から指示があり、船から下りた。
戸塚から最戸、弘明寺を抜けて、権現山に着いた。
城は権現山の頂にあった。城の前は海が広がり、反対側は山が続いていた。その山にも砦があり、急峻で、這って上らなければならないような山だった。
いいところに城をつくったものだ、と三郎は思った。これなら、そう簡単には落城しないだろう。
小田原の兵は300人を越えていた。そのなかには、三郎と一緒の舟に乗って小田原に来た者もいた。皆、参加した事情は我々と同じようなものだろうと三郎は思った。
知る者はそれだけではなかった。集った300人に向かい、声を張り上げている、赤い鼻の男を知っていた。関口太兵衛だった。
きっと、小田原に連れてきた開発者の惨状に責任を感じて自ら進んできたか、開発者を募った責任で強制的に派遣されたかのどちらかだろう、と三郎は思い、少し彼に同情した。
三郎は話しかけられるものなら、太兵衛に話しかけたかった。そして、河井の願いを私の願いとして実現できるよう働きかけたかった。
三郎たちが任された場所は権現山の裏山の本覚山の砦だった。応援にきた長尾氏の兵も同数ぐらいが一緒だった。長尾氏の兵も伊勢殿の兵も権原山城とここにそれぞれの責任箇所を決め、半々に分かれて、守りについた。
権現山城の中ではここが一番安全に思えた。
ここを攻めてくるには、急峻な崖を登らなくてはならない。登ってきたら、上から石を落とす、矢を射かける、敵は一たまりもない。一人転げ落ちれば、続くものも次々に巻き込まれるだろう……。この砦は決して落ちない。難攻不落だ。
西原の言うとおり、城を落とすには、相当の死者を覚悟しなければならない。上杉にその覚悟はない。戦闘は起きないに違いない……。
「事情が変わった。上杉が近々攻めてくるようだ。上田殿の裏切りに相当血が上っているのだろう。しかし、諦めが早い殿様だから、攻略が無理と分かれば数日で去るはずだ。それまで、存分に戦おうぞ」
本覚山の砦に現れた関口太兵衛はそこを守る部隊に笑みを浮かべて叫んだ。西原はその隣でおうと叫んで槍を突き上げた。
大石も矢も十分あった。戦うと聞いて、話が違うと思ったが、上杉が本気で戦わないことは河井も言っていた。負けそうになると上杉はすぐ逃げる。扇谷も山内も上杉はみな同じだ。
勝ったほうも追わない。幸田村周辺で起きる両者の戦いはいつもそうだ。だから、いつまで経っても戦争が終わらない、と河井は言った。それにここは難攻不落だ。三郎も他の者も皆安心しきっていた。
権現山城の様子は分からないが、本覚山の守りは万全だった。敵は最初こそは、大挙して山を這って上ってきたが、石を落とすと、転がるように兵が逃げていった。矢を射るよりも効果は絶大だった。
予想どおり、その後は、僅かな人数で隠れるように様子見に上ってくるだけで、見つかると、慌ててすぐに逃げていった。彼らに戦う意志はなかった。
案の定、ここを守る兵の一部も権現山に回された。そして、帰ってくることは無かった。あちらは戦闘が続いているとの報告がこちらに届いた。
報告では権現山の方も大丈夫とのことだった。あとは上杉が諦めるのを待つばかりだった。が、一週間経っても敵は囲みを解かなかった。この砦での戦闘はなかったが、権現山では散発的な戦闘は続いた。それだけが気がかりだった。
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