恋の終わりに

オオトリ

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「アシュリー。最後に、一度だけ」

 抱きしめさせてと、殿下が言い終わるその前に、腕の中に私から飛び込んだ。

「ルシオ様」

 私の大好きな香りが鼻をくすぐって、くすぐられた鼻がツンとした痛みを呼んでくる。

 まだ、駄目。

「お互いの名前を呼べるのも。これが最後だね」

 これからは、王と臣下となってしまう私達に、それぞれ別の配偶者を据えなくてはならない私達に、お互いの名前を呼ぶことは許されない。

「ルシオ様」

 震えそうになる声で、ただ愛しい人の名前を呼ぶことしかできない。

「アシュリー。すまない…」

 この国を頼む。と、穏やかな声で告げるルシオ様の腕は、私が最も安心できるこの場所は、もう私の居場所にはならない。

 この私の大好きな腕と、香りに包まれるのは、私ではなく妹なのだ。

 どうあっても、この国の行く末を考えたときには。この方と妹の間にも、子供が望まれるだろう。

 それこそ。今回のような事態が起きた場合には、スペアとしての家系が必要なのだ。

 私達は王族である。それは。こういうことだ。



 それでも。



「ルシオ様。一つだけ、お願いがございます」

「アシュリーの願いならば、いくつでも。どんなことでも」

 私を抱きしめる腕に微かに力がこもる。

「香りを、変えてくださいますか?」

 これは、これだけは、私達だけの思い出の残り香。

「ああ、そうしよう…」

「ありがとうございます」

 ぎゅうっと、最後に力を込めて愛しい人を抱きしめる。



 私達は、これでおしまい。







 それでも、せめて、この香りに包まれるのは、私だけ―――。



 きっと、いつか。遠い未来に。永遠にきてほしくはないその日に。
 私は、思い出に縋って、一度だけ。
 あのお茶を口にするだろう。
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感想 11

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みんなの感想(11件)

ぶぶ
2026.01.19 ぶぶ

とても切ない話で涙が出てきました。
お互い好きなのに、病のため公爵にならざるを得ない王子とその代わりに王女とならなくてはいけなくなった公爵令嬢。
妹もかわいそう…
香りを変えてくれと言った言葉が本当に切なかったです。
短いながらとても良いお話を読ませていただきありがとうございました。

解除
まゆ
2025.11.28 まゆ

結局妹さんの方が好きだったってこと?
ちゃんと好きそうに見えるけど……姉の思い込み?
私の頭が足りんすぎてわからない…

解除
johndo
2025.11.04 johndo

タグにご注意、と書いてあったのに読んでしまった。
つらい…つらすぎる。
この二人の未来に幸せはあるのかな。
姉に気持ちを残す相手と結ばれなければならない妹にも。

解除

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