恋の終わりに

オオトリ

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「アシュリー。最後に、一度だけ」

 抱きしめさせてと、殿下が言い終わるその前に、腕の中に私から飛び込んだ。

「ルシオ様」

 私の大好きな香りが鼻をくすぐって、くすぐられた鼻がツンとした痛みを呼んでくる。

 まだ、駄目。

「お互いの名前を呼べるのも。これが最後だね」

 これからは、王と臣下となってしまう私達に、それぞれ別の配偶者を据えなくてはならない私達に、お互いの名前を呼ぶことは許されない。

「ルシオ様」

 震えそうになる声で、ただ愛しい人の名前を呼ぶことしかできない。

「アシュリー。すまない…」

 この国を頼む。と、穏やかな声で告げるルシオ様の腕は、私が最も安心できるこの場所は、もう私の居場所にはならない。

 この私の大好きな腕と、香りに包まれるのは、私ではなく妹なのだ。

 どうあっても、この国の行く末を考えたときには。この方と妹の間にも、子供が望まれるだろう。

 それこそ。今回のような事態が起きた場合には、スペアとしての家系が必要なのだ。

 私達は王族である。それは。こういうことだ。



 それでも。



「ルシオ様。一つだけ、お願いがございます」

「アシュリーの願いならば、いくつでも。どんなことでも」

 私を抱きしめる腕に微かに力がこもる。

「香りを、変えてくださいますか?」

 これは、これだけは、私達だけの思い出の残り香。

「ああ、そうしよう…」

「ありがとうございます」

 ぎゅうっと、最後に力を込めて愛しい人を抱きしめる。



 私達は、これでおしまい。







 それでも、せめて、この香りに包まれるのは、私だけ―――。



 きっと、いつか。遠い未来に。永遠にきてほしくはないその日に。
 私は、思い出に縋って、一度だけ。
 あのお茶を口にするだろう。
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みんなの感想(2件)

johndo
2022.02.26 johndo

つら…。
せめて、殿下も妹も、アシュリーも、なんらかの形で幸せになってほしいです。

オオトリ
2022.02.26 オオトリ

johndo様
ご感想ありがとうございます!

解除
おゆう
2022.02.14 おゆう

切な過ぎる😭。

オオトリ
2022.02.15 オオトリ

おゆう様
ご感想ありがとうございます!

解除

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