1 / 1
ひらり、一葉
しおりを挟む
年老いた男が一人、己の曲がった腰を時折叩きながらも、重たい荷物を背負って南の村から北の村へと森の中を歩いている。
年は取っていても、柔和な笑みをたたえたような人好きのする容貌の男だ。
いつもと同じ道。木々の隙間から光と風とが心地よく届く、静かな森のはずである。
今日も木々の隙間からはよく晴れた青空が見えているし、最近は雨が降ることもなく、風も湿っていない。
それにも関わらす、今日はなにやら森のざわめくような不思議な空気を感じ、老人は空を見上げた。
よくわからない不安にかられながらも、荷物を届ける予定を思うと引き返すこともできない。
もともと通る人は少なく、めったにすれ違うこともない森だ。
老人は自分を励ますように、小さな音で鼻唄を歌いながら歩みを進めていった。
途中で休憩を取りながら。しかし、いつもよりも短めに。ソワソワと周りを見回しながらも、唄は止めない。
もしも、何か獣がいるのならば、こちらの音に気づいて近付いてくれるなよと祈りながらも、唄は止められなかった。
曲がった腰を伸ばし伸ばし。荷物を揺すりあげながら。
鼻唄を唄いながらも足を進める。
やっと森の真ん中辺りに差し掛かったようだ。
真ん中の目印になる、少し拓けたような場所にたどり着いた。
ここは、拓かれた土地というわけではなく、この森の主ともいえる葉の生い茂った巨木が数本立っているため、地面に日差しが届きにくく、他の植物が生えにくいようだ。
もしかしたら、巨木に地面の養分も吸われているのかもしれない。
折返し地点にたどり着いたと安堵の気持ちから、少し休もうと荷物を下ろしたところでふと気付いた。
いつもなら、巨木に集っているはずの小鳥たちの声が一切聞こえない。
いや、影も形も見えないのか。
不思議な空気を思い出し、ひやりとしたものが背中を這う。
――――その時。
広場の中心の最も大きな木の陰から、ひらり…と影が現れた。
獣か…!と小さく息を呑んだが、瞬時に人間の形だと判断する。
続いて、武器を構えるような様子も無い事も見て取り、すぐに息を緩めた。
人がいたから、小鳥もいなかったのか…と緊張から解放された気安さで人影に声をかけようと近付いてしまった。
近付いてから気付く。
あれ?
足元に巨木から出た蔦が絡んでいる?
――――違う。
巨木に絡んだ蔦からこのヒト型が出ている。
気付いた時にはもう遅かった。
老人にヒト型が絡みつく。
――――ああ。木の影で暗くてわからなかった――――これは全体が緑色のヒト型だ…。
老人がそう考える頃には、どうやってか緑色のヒト型は老人のしわくちゃの首筋にぞぷりと刺した管から、ずるりずるりと老人の中身を吸い出していた。
どれ程経っただろう。
森の中心の広場の巨木には小鳥が戻り、巨木に絡んだ蔦もカラリと乾いて地面に萎れ落ちている。
その頃、森の北側では大きな荷物を背負って鼻唄を唄いながらゆったりと歩く、柔和な顔の若い男が目撃されている。
その男は、北の村に立ち寄ることなく、更に北の森へと続く大きな道を鼻唄まじりに歩んでいったそうだ…。
今ひと度。森の中心の巨木の下に戻ってみると―――――
そこには、まるでヒト型の枯れ木のようなモノが横たわっている。
年は取っていても、柔和な笑みをたたえたような人好きのする容貌の男だ。
いつもと同じ道。木々の隙間から光と風とが心地よく届く、静かな森のはずである。
今日も木々の隙間からはよく晴れた青空が見えているし、最近は雨が降ることもなく、風も湿っていない。
それにも関わらす、今日はなにやら森のざわめくような不思議な空気を感じ、老人は空を見上げた。
よくわからない不安にかられながらも、荷物を届ける予定を思うと引き返すこともできない。
もともと通る人は少なく、めったにすれ違うこともない森だ。
老人は自分を励ますように、小さな音で鼻唄を歌いながら歩みを進めていった。
途中で休憩を取りながら。しかし、いつもよりも短めに。ソワソワと周りを見回しながらも、唄は止めない。
もしも、何か獣がいるのならば、こちらの音に気づいて近付いてくれるなよと祈りながらも、唄は止められなかった。
曲がった腰を伸ばし伸ばし。荷物を揺すりあげながら。
鼻唄を唄いながらも足を進める。
やっと森の真ん中辺りに差し掛かったようだ。
真ん中の目印になる、少し拓けたような場所にたどり着いた。
ここは、拓かれた土地というわけではなく、この森の主ともいえる葉の生い茂った巨木が数本立っているため、地面に日差しが届きにくく、他の植物が生えにくいようだ。
もしかしたら、巨木に地面の養分も吸われているのかもしれない。
折返し地点にたどり着いたと安堵の気持ちから、少し休もうと荷物を下ろしたところでふと気付いた。
いつもなら、巨木に集っているはずの小鳥たちの声が一切聞こえない。
いや、影も形も見えないのか。
不思議な空気を思い出し、ひやりとしたものが背中を這う。
――――その時。
広場の中心の最も大きな木の陰から、ひらり…と影が現れた。
獣か…!と小さく息を呑んだが、瞬時に人間の形だと判断する。
続いて、武器を構えるような様子も無い事も見て取り、すぐに息を緩めた。
人がいたから、小鳥もいなかったのか…と緊張から解放された気安さで人影に声をかけようと近付いてしまった。
近付いてから気付く。
あれ?
足元に巨木から出た蔦が絡んでいる?
――――違う。
巨木に絡んだ蔦からこのヒト型が出ている。
気付いた時にはもう遅かった。
老人にヒト型が絡みつく。
――――ああ。木の影で暗くてわからなかった――――これは全体が緑色のヒト型だ…。
老人がそう考える頃には、どうやってか緑色のヒト型は老人のしわくちゃの首筋にぞぷりと刺した管から、ずるりずるりと老人の中身を吸い出していた。
どれ程経っただろう。
森の中心の広場の巨木には小鳥が戻り、巨木に絡んだ蔦もカラリと乾いて地面に萎れ落ちている。
その頃、森の北側では大きな荷物を背負って鼻唄を唄いながらゆったりと歩く、柔和な顔の若い男が目撃されている。
その男は、北の村に立ち寄ることなく、更に北の森へと続く大きな道を鼻唄まじりに歩んでいったそうだ…。
今ひと度。森の中心の巨木の下に戻ってみると―――――
そこには、まるでヒト型の枯れ木のようなモノが横たわっている。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる