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13.:西條辰也
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仕事、仕事、仕事。
ひたすらパソコンと向き合って、どのくらい経っただろう。
午前中からずっと同じ姿勢で、そろそろ限界だ。
お昼も食べてないし、水も少ししか貰えなかった。
でもまあ、これからはこれが当たり前になってくるんだろうな。
「ちゃんとやっているか~?左京、てめぇ寝てんじゃねぇよ!」
「いってぇ!加減しろや兄貴!」
「いい眠気覚ましだろ?辰也、ちゃんとやってるか~?」
扉が開いたかと思えば、哉太お兄ちゃんがビニール袋を手に入ってきた。
監視役で離れたところに座っていた左京お兄ちゃんは気づかないうちにうたた寝をしていたらしい。叩き起こされた音が聞こえた。
ビニール袋のガサガサした音が近づいてくる。
作業を止めていいのか?振り返って対応をした方がいいのだろうか。正解がわからない……
「おい、聞いてんだろ辰也。お兄ちゃんの方見ろや。」
机をガンッ!と蹴られ、条件反射で身体がビクッとしてしまう。
急いで左側に立っている哉太お兄ちゃんの方に顔を向け、手を膝の上に置く。
「ん、いい子だな。お前は家の為に働いてるんだから、それだけをすればいいんだ。ほらチョコ買ってきてやったぞ。好きだろ?」
「あ、ありがとうございます……」
ビニール袋から包装されたチョコを取り出し、俺に手渡してくる哉太お兄ちゃん。
受け取るためにおずおずと手を伸ばすと、お菓子をひょいっと高く掲げる。
「食べさせてやる。ほら口開けとけよ~。」
にこにこと機嫌のいい哉太お兄ちゃん。
昔から自分でやらなきゃ気が済まない性格で、俺が困っている顔を見るのが好きらしい。
チョコの包装を取り、指で摘み口元に差し出してくる。このまま食べろということなのはわかっているが、すぐには食べられない。
指に触れないように注意して、恐る恐るチョコを食べようと口を広げて近づく。
「チッ、おっせぇ……ほら食えよ!」
「ンッ、オェ…ンンッ!」
喉奥までチョコを突っ込まれてえずいてしまう。
戻しはしなかったが、大量の唾液とチョコを床にぶちまけてしまった。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
血の気が引いたのがわかる。指先が冷たいし、目の前が真っ暗になってくる。
哉太お兄ちゃんの靴やズボンに飛び散っていないことを確認しひとまずは安心したが、床を汚したことを怒られる。慌てて椅子から下りて自分が着ているTシャツの裾を引っ張り、床を拭く。
足首にはまっている手錠がガシャッと存在を思い出させる。
「ごめんなさい。掃除します。だから怒らないで…叩かないで…」
ゴシゴシと自分の唾液と、少し溶けたチョコを白いTシャツが吸い取る。
俯いたままそう言った俺の頭上で、哉太お兄ちゃんがはぁとため息をついたのが聞こえた。
「いつまで経ってもお前は臆病だな。あれは悪い子だったお前への躾だろ?愛があるから躾けてやってたんだ。」
「そーそー、俺たちはお前のためを思ってやってたのに。そんなんだから彼氏に捨てられたんじゃねぇの?」
哉太お兄ちゃんに賛同するように左京お兄ちゃんまで近づいてくる。
顔を上げることのできない俺をここぞとばかりにおもちゃにしようと話しかけてくる兄たち。
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
彼氏に捨てられた?誰のことを言っている。
俺が?環ちゃんに?
どうせ嘘だ。環ちゃんはそんな子じゃない。
「彼氏に捨てられたってどこ情報よそれ。」
「大兄貴が言ってた。辰也と別れるためにわざわざここまで話つけにくるらしいぜ。」
「へー自然消滅じゃなくて別れ話しにくるなんて律儀な子じゃん。よかったね辰也。最後に一目会えるかもよ?」
哉太お兄ちゃんがしゃがんだかと思えば、俺の顎を掴み無理矢理視線を合わせてきた。
「そんな期待した顔して…どの道別れるんだよ。それがちょっと早くなっただけ。お前にはお兄ちゃんたちがいれば十分でしょ?不満なの?」
「環ちゃんとは、絶対別れない!」
思えば、反論したのはこれが初めてかも知れない。
俺が言い返したのに驚いたのか、哉太お兄ちゃんと左京お兄ちゃんが目を見開き顔を合わせる。
暫く見合わせていた2人が再び俺の方に向き、哉太お兄ちゃんが俺の頬を叩く。
バシンッ!と音がして、右頬がじんじん痛む。
「やっぱり悪い影響受けてるね。声を荒げるなんて…決めた、絶対会わせない。左京、そのたまきって奴が帰るまで辰也見張ってろ。」
「えー俺ばっか見張りじゃん。それならいっそ外連れ出してた方が見つからないんじゃね?ずっとこの部屋いるの俺やだよ。」
しゃがんでいた哉太お兄ちゃんが立ち上がり、代わりに左京お兄ちゃんが俺の側に来てしゃがむ。
叩かれた頬を見ながら、追い討ちをかけるように両頬を片手で挟まれる。
「はっ!ぶっさいくな面。服もきったねぇし…よし!モール行くか、似合う服選んでやる。」
「あ、じゃあこれ着せた写真撮ってきて。」
兄たちの中では決定事項になったみたい。
モールに行くと言われ、哉太お兄ちゃんが何か写真を見せて左京お兄ちゃんに頼んでいる。
足につけられていた手錠を外してもらい、手首を掴まれて部屋の外に出される。
「しっかり左京の言うこと聞くんだぞ辰也。」
「……」
俺の手首をぎゅっと握り、引っ張って前を歩く左京お兄ちゃんが立ち止まり、一緒に部屋を出た哉太お兄ちゃんに話しかけられる。
無言で了承意思を見せるため頷いたが、癇に障ったのか肩をガッと掴まれた。
「返事しろや。辰也!」
「ヒッ…分かり、ました…」
「ん、よし。」
そう答えると、満足したのか頭をぽんぽんと叩かれる。
その行動にいちいちびくついてしまうのは癖だろう。
忘れてほしいと思ってたけど…ここまで来てくれるなら、俺に会いに来てくれてるなら……環ちゃんに会いたい。
助けてよ……俺の騎士様。
ひたすらパソコンと向き合って、どのくらい経っただろう。
午前中からずっと同じ姿勢で、そろそろ限界だ。
お昼も食べてないし、水も少ししか貰えなかった。
でもまあ、これからはこれが当たり前になってくるんだろうな。
「ちゃんとやっているか~?左京、てめぇ寝てんじゃねぇよ!」
「いってぇ!加減しろや兄貴!」
「いい眠気覚ましだろ?辰也、ちゃんとやってるか~?」
扉が開いたかと思えば、哉太お兄ちゃんがビニール袋を手に入ってきた。
監視役で離れたところに座っていた左京お兄ちゃんは気づかないうちにうたた寝をしていたらしい。叩き起こされた音が聞こえた。
ビニール袋のガサガサした音が近づいてくる。
作業を止めていいのか?振り返って対応をした方がいいのだろうか。正解がわからない……
「おい、聞いてんだろ辰也。お兄ちゃんの方見ろや。」
机をガンッ!と蹴られ、条件反射で身体がビクッとしてしまう。
急いで左側に立っている哉太お兄ちゃんの方に顔を向け、手を膝の上に置く。
「ん、いい子だな。お前は家の為に働いてるんだから、それだけをすればいいんだ。ほらチョコ買ってきてやったぞ。好きだろ?」
「あ、ありがとうございます……」
ビニール袋から包装されたチョコを取り出し、俺に手渡してくる哉太お兄ちゃん。
受け取るためにおずおずと手を伸ばすと、お菓子をひょいっと高く掲げる。
「食べさせてやる。ほら口開けとけよ~。」
にこにこと機嫌のいい哉太お兄ちゃん。
昔から自分でやらなきゃ気が済まない性格で、俺が困っている顔を見るのが好きらしい。
チョコの包装を取り、指で摘み口元に差し出してくる。このまま食べろということなのはわかっているが、すぐには食べられない。
指に触れないように注意して、恐る恐るチョコを食べようと口を広げて近づく。
「チッ、おっせぇ……ほら食えよ!」
「ンッ、オェ…ンンッ!」
喉奥までチョコを突っ込まれてえずいてしまう。
戻しはしなかったが、大量の唾液とチョコを床にぶちまけてしまった。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
血の気が引いたのがわかる。指先が冷たいし、目の前が真っ暗になってくる。
哉太お兄ちゃんの靴やズボンに飛び散っていないことを確認しひとまずは安心したが、床を汚したことを怒られる。慌てて椅子から下りて自分が着ているTシャツの裾を引っ張り、床を拭く。
足首にはまっている手錠がガシャッと存在を思い出させる。
「ごめんなさい。掃除します。だから怒らないで…叩かないで…」
ゴシゴシと自分の唾液と、少し溶けたチョコを白いTシャツが吸い取る。
俯いたままそう言った俺の頭上で、哉太お兄ちゃんがはぁとため息をついたのが聞こえた。
「いつまで経ってもお前は臆病だな。あれは悪い子だったお前への躾だろ?愛があるから躾けてやってたんだ。」
「そーそー、俺たちはお前のためを思ってやってたのに。そんなんだから彼氏に捨てられたんじゃねぇの?」
哉太お兄ちゃんに賛同するように左京お兄ちゃんまで近づいてくる。
顔を上げることのできない俺をここぞとばかりにおもちゃにしようと話しかけてくる兄たち。
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
彼氏に捨てられた?誰のことを言っている。
俺が?環ちゃんに?
どうせ嘘だ。環ちゃんはそんな子じゃない。
「彼氏に捨てられたってどこ情報よそれ。」
「大兄貴が言ってた。辰也と別れるためにわざわざここまで話つけにくるらしいぜ。」
「へー自然消滅じゃなくて別れ話しにくるなんて律儀な子じゃん。よかったね辰也。最後に一目会えるかもよ?」
哉太お兄ちゃんがしゃがんだかと思えば、俺の顎を掴み無理矢理視線を合わせてきた。
「そんな期待した顔して…どの道別れるんだよ。それがちょっと早くなっただけ。お前にはお兄ちゃんたちがいれば十分でしょ?不満なの?」
「環ちゃんとは、絶対別れない!」
思えば、反論したのはこれが初めてかも知れない。
俺が言い返したのに驚いたのか、哉太お兄ちゃんと左京お兄ちゃんが目を見開き顔を合わせる。
暫く見合わせていた2人が再び俺の方に向き、哉太お兄ちゃんが俺の頬を叩く。
バシンッ!と音がして、右頬がじんじん痛む。
「やっぱり悪い影響受けてるね。声を荒げるなんて…決めた、絶対会わせない。左京、そのたまきって奴が帰るまで辰也見張ってろ。」
「えー俺ばっか見張りじゃん。それならいっそ外連れ出してた方が見つからないんじゃね?ずっとこの部屋いるの俺やだよ。」
しゃがんでいた哉太お兄ちゃんが立ち上がり、代わりに左京お兄ちゃんが俺の側に来てしゃがむ。
叩かれた頬を見ながら、追い討ちをかけるように両頬を片手で挟まれる。
「はっ!ぶっさいくな面。服もきったねぇし…よし!モール行くか、似合う服選んでやる。」
「あ、じゃあこれ着せた写真撮ってきて。」
兄たちの中では決定事項になったみたい。
モールに行くと言われ、哉太お兄ちゃんが何か写真を見せて左京お兄ちゃんに頼んでいる。
足につけられていた手錠を外してもらい、手首を掴まれて部屋の外に出される。
「しっかり左京の言うこと聞くんだぞ辰也。」
「……」
俺の手首をぎゅっと握り、引っ張って前を歩く左京お兄ちゃんが立ち止まり、一緒に部屋を出た哉太お兄ちゃんに話しかけられる。
無言で了承意思を見せるため頷いたが、癇に障ったのか肩をガッと掴まれた。
「返事しろや。辰也!」
「ヒッ…分かり、ました…」
「ん、よし。」
そう答えると、満足したのか頭をぽんぽんと叩かれる。
その行動にいちいちびくついてしまうのは癖だろう。
忘れてほしいと思ってたけど…ここまで来てくれるなら、俺に会いに来てくれてるなら……環ちゃんに会いたい。
助けてよ……俺の騎士様。
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