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しおりを挟む哉太さんから問いただした辰也さんの居場所。
3番目の兄、左京さんとモールにいると言われた。
詳しい場所を聞き出せとモールに向かう車に哉太さんを乗せて指示する。
文句を言いつつ、言われた通り左京さんと連絡を取り、モールの広場でクレープを食べていると写真付きで返信が来た。
その場を動くなと連絡させて、モールに到着。
後部座席から飛び出すようにして降り、広場へと全力疾走。
夏休みだからか人が多い。
人並みを潜り抜けて、ようやくキッチンカーを見つける。一度立ち止まり周りを見渡すと、写真と同じパラソルを発見。そこに座っている辰也さんも……
考えるよりも先に体が走り出していた。
まるでスポットライトが当たっているみたいに辰也さんしか目に入らない。
「辰也さん!!!」
丁度食べ終わったのか、クレープの包装紙を畳んでいる辰也さんを大声で呼ぶ。
声に気づいてくれたのか、僕と目が合う。
何かを呟いたかと思えば、泣きそうな顔の辰也さんが勢いよく立ち上がり僕の名を呼び両手を広げて走ってきてくれた。
ああ…捕まえた。
慌しすぎて、離れた時間が半日ほどだというのを忘れてしまったのか随分と長く離れていたように感じた。
お互いが力強く抱きしめ合って、ちゃんと腕の中にいることを確かめ合う。
「環ちゃん、環ちゃんだ。連絡できなくてごめんね、携帯取られちゃって……えっと…」
「辰也さん、謝らないでください。」
泣いてしまった辰也さん。顔を埋めている僕の肩が涙に濡れてじんわりと暖かくなる。
あやすように背中を撫でてから、抱きしめていた身体を離して辰也さんの頬を両手で包み顔を見つめる。
潤んだ瞳、下がり切った眉。
官能的な表情はグッとくるが、ここは外だし人目がつきすぎる。
触れ合うだけのキスに留めて、辰也さんの目尻に溜まっている涙を指で拭い笑みを向ける。
「愛してます辰也さん。さ、帰りましょうか。」
頬から手を離してかわりに手を繋ぐ。
言葉が嬉しかったのか、手を繋いだことが嬉しかったのか、辰也さんも笑みを返してくれる。
「やっぱり環ちゃんは俺の…俺だけの騎士様なんだね。迎えにきてくれて、ありがとう。」
「はい、辰也さんだけの僕ですよ。」
これからは僕だけを頼って、僕がいないとダメな身体にして、もっと依存してくださいね。
そのために、トラウマである辰也さんの家族から引き離したんですよ。
冷静になったら周りの様子が見えてきた。
愕然としている左京さん。
何事かと足を止める人や、そのまま歩き去っていく人など様々だ。
さっさと家に帰ろう。
いっそ実家じゃなくて寮に帰れば2人っきりになれるけど、まだ設備点検中で来週からじゃないと帰れない。
左京さんを放置して、待っていてもらった車へと向かう。運転席の南雲さんと無理矢理連れてきた哉太さんと目が合う。
哉太さんに気づき、隠れるように僕の背後にスッと移動する辰也さん。身長的には隠れていないが、気持ちの問題だろう。
「無事辰也さんと会えました。それじゃ哉太さんは降りてもらっていいですか?」
後部座席の窓から顔を出していた哉太さんにそう告げると、舌打ちをされるが素直に降りてくれた。
「俺はお前なんか認めないからな。」
僕にだけ聞こえるように耳元で話し、辰也さんをじっと見つめて車から離れる哉太さん。
先に辰也さんを車に乗せて哉太さんに対して釘を刺しておこうと思い向き合う。
辰也さんには聞こえないように…
「何故貴方たちを殺さなかったか分かりますか?もし、辰也さんが病気になってしまった場合のドナーですよ。だから健康でいてくださいね、義兄さん。」
「クソ野郎…覚えとけよ!」
負け犬の遠吠えが聞こえるけど気にしない。
ちゃんと役に立てるんだってことを教えてあげたのに、何をあんなに逆上するのか分からないな。
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