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クロック帝国編
狼と鷹は獲物を獲りあう
しおりを挟む「…にしても、ホークはウルフが苦手なの…?」
僕は破れてしまった服の代わりにホークのシャツを借り、頭から被りながら目の前にいるだろうホークに問いかける。
…着てみたらサイズが大きいからか何度も肩からずり落ちるけど、そこはしょうがない。
「んー、そうだな…ウルフのことは苦手じゃなくて嫌いだな。」
まるで好きかのような笑顔で言われ、僕は目を見開く。
「え、え!なんで嫌いなの!?ウルフ優しいし可愛いよ??」
今度はホークのほうが目を見開いている。
「はぁ!?ウルフの野郎が可愛いってマジで言ってんのか!?」
え?かわいい、よね?獣耳だし、尻尾もあるし、笑顔も素敵だし。
「えっと、ウルフがホークに嫌われる理由が分からないな…。」
僕が首を傾げるとホークは僕の両肩を掴みブンブンと前後に揺らしてきた。
「あいつ、俺と会ったら一言目に舌打ちで二言目には近づかないでくれます?って言うんだぞ、そんなやつ好きになれるわけないだろ!?」
んー…?…それは多分ホークがそれより前に何か嫌われるようなことしたんじゃないかな…。
ユースとアルくんには普通だった気がするんだけど…。
「…何かウルフに嫌われるような事した覚えない…?」
ホークは少し考えたあと、こっちを見て首を振った。
「ねぇな…。俺、あいつに感謝される覚えはあっても恨まれることした覚えはねえよ。…だからこそムカつくんだよな、虐めたくなる。」
最後のセリフを一番いい笑顔で言っていて、思わず震える。
「あいつと仲良いらしいお前を俺が奪っちまえば、あいつ悲しい顔すんのかなぁ…?それとも怒った顔すんのかなぁ…!?」
すっごく嬉しそうに俺の肩を掴んだまま顔をのぞき込んでくる。
あ、あれ…?ホーク、また変なスイッチが入ってきちゃったぞ…?
「ほ、ホーク駄目だよ!それじゃウルフに嫌われる一方だよ!」
僕はホークを止めるようにぎゅっと胸に抱きつく。
「別に今更嫌われるとか良いんだよね。だって、最初にそういう態度とってきたのはウルフなんだぜ?」
「でもでも!僕がやなの!」
「…なんでやなんだよ。あれか?ウルフのやつを傷つけたくないからか?」
ちょっとホークが不機嫌になってきた。
「違うよ!ホークが怖い顔になるのがやなの!怖い笑顔じゃなくて、今日僕に向けてたみたいに、本当に笑った顔がいいの!!」
ピクッと反応して固まった後、おずおずと僕の背中に腕を廻した。
「なんだよ、それ。」
そう照れ笑いしながら呟くと顔が見られないようにするためか、ホークは僕の肩に顔を埋める。
髪を梳くようにホークの頭を撫でる。
ホークも嫌がることなくじっと撫でられている。
…ん?なんかドタドタと奥から物音が近づいてきてない?
「あっ、おい!」
ドア前からさっきギルドにいた人だろうか、男の人の声で何かを止める声が聞こえた。
「…どいて下さい!!」
あれ、この声は…
ドアが開いた方向を見ると走ってきたのか、汗をかきながら肩で息をしているウルフがいた。
「おい!その人から離れろ!!!」
こちらに向かってウルフが怒鳴っている。
すると、ホークも気づいたのか僕の肩から顔を上げる。
「あぁ?ウルフちゃんじゃねーか。」
ホークは挑発するようにニヤニヤと笑っている。
もう!そんな顔じゃ駄目だよ!またさっきの繰り返しだよ!
僕はそれ以上喋らせないようにホークの頭を手で僕の肩に押さえつける。
「うぉっ、何しやがる。」
くぐもった声でそう聞こえるが僕は無視してウルフに声を掛ける。
「ウルフ、この人本当はウルフと仲良くしたかったみたいだよ。」
「…え?」
ウルフは驚いた顔をしながらも僕の方に近づいてきた。
「出会った頃に話しかけたら舌打ちと、近寄らないでって言われて傷ついちゃったんだって!」
「…は?」
「だから、こうやって意地悪ばっかりするみたいだよ!」
ウルフは訳がわからないといった顔をしながら僕とホークを交互に見る。
「…最初にしてきたのはあなたですよね?よくそんなくだらない嘘つけますね…?」
ウルフは少し怯えた顔をしながらもホークを睨みつける。
「なにか…誤解がっ、ひゃあっ、あっ、まっ、て…!」
「ふ、だから言っただろ、こいつ俺の話聞く気ねーから。」
ホークはしびれを切らしたのか話を遮るように僕の首から肩にかけてビチャビチャと舌を這わしてくる。
「ひあ、あっ、…っ…!」
「ふ、…」
「…っ!何してるんですか!!」
ウルフに思いっきり剥がされ、抱きとめられる。
僕を抱きしめたまま、ポケットからハンカチを取り出すと、舐められて唾液がついたところを一生懸命拭われた。
「あれれ、もしかしてウルフちゃんはネムのことが好きなのかな~?」
ニヤニヤとこちらに近づいてきて、ウルフはやっぱりホークのことが苦手なのかズリズリと後ろに下がり壁に追い詰められる。
ウルフの背中が壁についたとき、ホークが壁に手をつくと、間にいる僕に顔を近づけてくる。
「んっ、んん、ふ、んっ…」
ホークの唇で口を塞がれ、口を開けると舌が迷いなく入ってくる。
「ふっ、んん、んむ、んあっ…」
「おいっ!」
固まっていたウルフが慌ててホークの顔を押し出し、僕を抱きしめたまま壁側に押し付けるようにホークから隠される。
「あはは、なに~?今度はウルフちゃんがされたいのかなぁ??」
「っふざけるな!」
ガンッ…と音とともにホークが奥に蹴り飛ばされた。
「…されたいわけ無いだろ?!それにあんたもしたくないだろ!!魔獣とのハーフの俺に!!そもそもあんたが部下を使って俺を魔獣だって虐めてきたんだろ!?だから俺は…!」
「…は?なにそれ」
ホークはすごい怒った顔をしている。
…ガタッと部屋の外で音がした。
「…。」
スッと立ち上がり俯きながら無言でこちらに近づいてくるホークにウルフは怯えてしまって耳は垂れ、尻尾も股の間にしまってしまう。
僕は慌ててウルフの前に出て庇う。
「ねぇ、なんでそこまで怒って、っ!」
ホークが僕ごとウルフを抱きしめた。
「…俺はウルフにそんなことやれなんて言ったことない。…あいつらが勝手にやったんだな。…ごめんな、俺、そんなことも気づかずにウルフに八つ当たりしてたわ。」
「え、え?」
ホークが真剣な顔でそう言うと抱きしめられて驚いて固まっていたウルフは困惑して目を泳がせている。
「…落とし前つけてくるわ。あ、ネム、ありがとな。お前のおかげでウルフに嫌われてる理由が分かったわ!」
ちゅっ…と僕のおでこにキスをして、ホークは清々しいほどの笑顔を僕達に向けて部屋を出ていった。
部屋の外で一瞬、ドカッ、バキッ、と何かが破壊される音が聞こえたけど、ウルフに耳を塞がれてなにも聞こえなくなる。
しばらくして耳を外されると外の音は静かになっていた。
「ネム…。」
「なぁに?ウル…っふ、んん、んぅ…」
振り返ると同時に唇を塞がれて口内を舐めまわすようにウルフの舌が動きまわる。
「ん、ふ、んんっ、んん、ふ……」
息が苦しくてトントンとウルフの胸を叩くと、唇が離れる。
僕が見上げるとニコニコと笑ったウルフと目が合う。
「ネム、ありがとう!!」
そう言ったウルフは森で会ったときから今までで、一番良い笑顔をしていて、何を感謝されたのかよく分からなかったけど僕はまあいっか、とウルフに笑い返すのだった。
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