余命宣告を受けた僕が、異世界の記憶を持つ人達に救われるまで。

桐山じゃろ

文字の大きさ
15 / 32
第三章 振り回されるもの

15 オレは一体なにをさせられるんですか!?

しおりを挟む
「残りたい?」
 親友さんを治療した後もこの世界で暮らしたいと言ってみたら、賢者さんに怪訝そうな顔をされてしまった。
「元の世界にあんまり思い入れないですし、こっちの世界は便利な魔道具がいっぱいあるから楽しいなぁって……」
「なるほど。でも、君が帰らないと、悲しむ人がいるんじゃないか?」
 こう説かれても、オレの胸は痛まなかった。
「どうでしょうね。両親はオレに興味なさそうでしたし、兄弟はいないし、親戚も両親と似たようなもので、友達もろくに……」
 一応彼女っぽい女の子はいたが、特に何もしていない。彼女は彼女で「彼氏がいる」という事象が自分にあるという優越感に浸っているだけな節があったし。ああ、あと一方的に奢らされたり、プレゼントをねだられたりはしたな。別れてくればよかった。
「そうか。……悪いが、望みは叶えられそうにない。その部分の変更をするには、時間がないんだよ。すまない、カナメがこの世界に残りたいと申し出る事態を想定していなかった」
 賢者さんが持って回った言い方をする時は、親友さんの治療に必要な魔法に関することだ。
 他人に知られてはいけない事柄がいくつも存在するなんて、どれだけ複雑な魔法なんだろう。
「いや、言ってみただけなんで、気にしないでください。それより飯にしましょうよ」
 できるだけ明るくそう言うと、賢者さんは顔を伏せた。
「優しいな。……」
「?」
「何でもない。そうだな、食事にしよう」
 賢者さん、不穏な言葉を呟いた気がするのだけど、きっと気のせいだろう。



 賢者さんの家で快適な生活をおくること約五ヶ月。
 この間オレは更に三回ほどヨシヒデさんに外へ連れて行ってもらい、異世界を堪能した。
 娯楽は圧倒的に少ないが、やっぱりこっちの世界のほうが面白い。
 魔力のないオレは、魔力が極端に少ない人と同じ扱いだ。
 魔力が極端に少ない人は、壊れた魔道具を何度か叩くと、それで魔道具が直ったりする。一昔前のテレビか。
 オレの場合は、内部魔力が偏りすぎて他の人ではどうしようもないほど壊れた魔道具でも、チョップ一発で直すことができた。
「うちで働きませんか!?」
 魔道具屋さんに勧誘されて心がゆらぎかけたが、毎回ヨシヒデさんが間に入って止めた。

 のどかな日々を過ごしていたある日、また二週間ほど家を空けていた賢者さんは、帰ってくるなり僕に告げた。

「こちらの準備は整った。これから、カナメにも協力してもらう。いいか?」
 いいも何も、元々そういう約束で賢者さんに養ってもらっていたのだ。
「勿論」
 オレが答えると、賢者さんは無表情のまま頷いて、オレを手招きした。

「別の大陸に準備してある。魔法の発動にひと月かかるから、今すぐ行かねば間に合わない。飛ぶぞ」
 飛ぶ、というのは転移魔法のことだ。
 賢者さんがオレの肩に手を置いたかと思うと、景色が一変した。
 といっても、室内から室内へ移動しただけのようだ。
 賢者さんの家と似たような雰囲気の、木造建築の一室に見える。
 違いは、家具が部屋の中央にある質素なベッド以外なにもないところ。
「殺風景なところですね」
 オレが前方をキョロキョロと見回していると、賢者さんが「後ろを見て」とジェスチャーしてきた。

 そこには、管や装置がたくさんついた椅子が三脚、並べられていた。
「なんですか、これ」
 椅子には、明らかに手足や頭を拘束するものまで付いている。

「今回の治癒魔法には、術者、被術者の他に三名、異世界の記憶を持つものが必要なんだ」
 賢者さんの声は硬く、冷たかった。
 普段と違う雰囲気の賢者さんは、俯いて、オレに手を伸ばす。

 オレが「他の三名」の「異世界の記憶を持つもの」であることは確定だ。
 この椅子が三脚あることと、そのことは、オレみたいな馬鹿にも簡単に繋げられる。

 でもオレは、賢者さんが伸ばす手から逃げたりしなかった。

 物々しい椅子や怖い雰囲気の賢者さんが怖くなかったと言えば、嘘になる。
 逃げないのは、それ以上に賢者さんがいい人だということを知っているし、何より恩人だからだ。

「逃げないのか」
 賢者さんはオレに向かって伸ばした手を、寸前で止めた。
 オレは首を横に振った。
「早くしないと間に合わないんですよね」
「しかし……」
「オレはたとえ殺されても文句言ったり化けて出たりしませんよ」
 オレはニッと笑ってみせた。自分に、こんな度胸があるなんて知らなかったよ。
「こ、殺したりはしない。苦痛もなるべく与えない。だが、俺は君を、君たちを、これから……」
 賢者さんは伸ばしていた手を引っ込めて、自分の顔を覆った。
「俺は、カナメにも、ヨシヒデにも、ナティビタス伯爵にも、嘘を吐いている。無事になんて済まない。できる限りは尽くしたが……」
「賢者さん、それ、言ってもいいんですか?」
 魔法には様々な制限があると、賢者さん自身が何度も言っていたことだ。
 オレが指摘すると、賢者さんは慌てて顔から手を離し、口元を両手で覆った。それからひとつふたつ呼吸をし、天を仰いだ。
「まさかカナメに指摘されるとはね。危ういところだった。ありがとう。……ありがとう」
「礼を言うのはこっちです。半年近くも、お世話になりました」
 オレは日本にいたときのように、深々と頭を下げた。

 予想通り、物々しい椅子に座らされた。三つ並んでいるうちの、向かって一番右がオレの席のようだ。
 拘束具をつけようとしなかったので「いいんですか?」と尋ねたら「ああ」と短く返ってきた。
「痛かったりしたら、思わず立ち上がって逃げるかもしれませんよ。遠慮しないでやってください」
「痛みは極力遠ざけるようにしておいたが……それなら、お言葉に甘えるよ」
 両手、両足にがちゃん、がちゃんと金具が装着される。
 頭に、管のたくさんついたヘルメットを被せられて、セッティング完了のようだ。
「他に二人、君と同じようにする。二人と被術者を刺激しないように、君には布をかぶせた上で隠蔽魔法をかけさせてもらうよ」
 ヘルメットを着けさせられてから、オレは言葉を発することができなくなっていた。
 うなずくことも出来ないが、瞼は動かせる。
 片目を瞑ってみせると、賢者さんは泣き笑いのような顔をした。
「本当にすまない、ありがとう」
 頭から大きくて、意外と分厚い布をばさりと被せられた。



 どのくらい時間が経っただろうか。
 オレは気づいたら眠っていた。
 椅子の効果か賢者さんに眠らされていたのか、オレが意外と図太いのか。
 おそらく三番目だったようだ。
 でないと、物音で目覚めることはなかっただろう。

 布と隠蔽魔法のせいか、外の音は不明瞭だ。
 それでも、ヨシヒデさんがこの部屋にやってきたのだなということは、なんとなくわかった。
 ヨシヒデさんと賢者さんはなにやら話し合い、オレの隣の席でガチャガチャと音がした。
 ヨシヒデさんも気のいい人だから、オレと同様に、すんなり椅子に座った様子だ。

 それからまたしばらく時間が経ち、今度は女性の声がした。
 声だけで女性の容姿を想像するなんて失礼極まりないが、女性は絶対美人だと予想がついた。
 女性も賢者さんと会話を交わし、どうやらこちらを指さして何か言っている。
 女性は隠蔽魔法を見破れるようだ。
 結構長いこと会話した後、女性もまた椅子に座った。
 そして、オレは布を取り払われた。

「気分はどうだい?」
 問題ないです、と答えようとして、そういえば声が出せないんだったなと思い出した。
 オレはまた片目を瞑った。
 賢者さんは頷いて、横へ移動した。横を向けないからヨシヒデさんや女性の様子は見えないが、賢者さんは同じように声を掛けて、それからオレたち三人の前へ出た。

「今回は俺の我儘と、俺の親友のために協力してくれて、感謝の言葉もない。きっと成功するだろうが、たとえ失敗しても、今回の協力に見合うだけの謝礼は用意してある。君たちにはこれから――」

 賢者さんは、オレたちから「あるもの」を貰う、と宣言した。
 オレは「なんだ、それだけか」と気にならなかったが、ヨシヒデさんは明らかに動揺して椅子をガチャガチャと鳴らし、女性の方からはカタカタと震えるような音がした。
 音は、再び被せられた布に遮られて、聞こえなくなった。

 賢者さんはヨシヒデと女性に何か言ったが、それぞれの音は小さくなるだけで、オレが意識を失うまで、止まなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...