レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ

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第一章

2 それぞれの道

*****



 ラウトが拠点から出ていった後、アイリは自室へ戻ると、荷物をまとめて窓からこっそりと脱出した。
 それから数時間後。セルパンは何度呼んでも自室から出てこないアイリに業を煮やし、ついにアイリの部屋の扉を勝手に開けた。
 そこはベッドやクローゼット等の大きな家具以外はもぬけの殻で、テーブルに紙が一枚、適当な様子で乗っているだけだった。

「セルパンとはお付き合いしたくありません。私もパーティを抜けます。ギルドには、トラブルがあったことも含めて報告済みで、再加入不可届も出してあります。探さないでください。――アイリ」

「セルパンっ! アイリがパーティから抜けてることになって……お、おい! 部屋には絶対入るなって言われてたじゃないか!」
 ギルドへラウトの脱退申請がきちんと受理されているかを確認しに行ったクレイドが叫びながら戻ってきた。
 声に驚いたツインクも自室から出てくる。

 アイリはパーティの紅一点で、家の中で唯一、内側から鍵のかけられる部屋をあてがわれていた。
 そうでなくとも、同じパーティメンバーとはいえ、女性の部屋に許可なく入るのはマナー違反であり、人格を疑う行為である。
「俺はパーティリーダーで、何度呼んでも出てこないから仕方なかったんだ。それに、ほら」
 セルパンは忌々しげにアイリの書き置きをクレイドとツインクに見せた。
「……セルパン、これはどういうことだ?」
 クレイドが指で示したのは、『セルパンとはお付き合いしたくありません』の部分だ。
「お前、アイリに……」
「し、知らん。アイリが勝手に勘違いしたんだ! きっとそうだ!」
 ちなみにアイリの勘違いではなく、セルパンはラウトを除いたパーティメンバーの平均レベルが三十を越えた頃、アイリに告白している。アイリはきっぱりと断ったのだが、セルパンは諦めず、何度もアイリを誘っていた。
 セルパンがラウトを追い出したのはレベルの件もあるが、アイリがラウトを好いていると邪推したからでもある。

 ラウトは自身のレベルが上がらないことを誰よりも悔しがっていた。低いなりにパーティの役に立とうと、よく仲間を庇って怪我をしていた。そうなると必然的に回復魔法使いと接する機会が増える。
 セルパンたちは、自分たちがピンチに陥ってもラウトがなんとかしてくれると勝手に頼り切っていたため、ラウトの被弾率が上がるのは必然だった。
 怪我人には当然、回復魔法使いが回復魔法をかけるために近づく。
 ラウトとアイリがよく近くにいたのは、突き詰めればセルパンの自業自得であった。

 しかし、セルパン本人はそんな可能性をひとかけらも考えない。ラウトがよく怪我をするのはレベルの低さによる自滅だと、庇われていることを棚に上げて本気でそう思い込んでいた。

「アイリを探すぞ!」
「探してどうする。再加入不可届が出ている以上、連れ戻しても、セルパンがリーダーである限りはこのパーティに戻れない」
「別にパーティじゃなくてもいいだろう。アイリは回復魔法使いだから、治療師として雇えば……」
「本気で言っているのか、セルパン?」
 クレイドが黄緑色の瞳をすっと細めた。攻撃魔法使い特有の魔眼に睨まれ、セルパンは寒気を覚えた。

「治療師をクエストに連れていくことはできない。そもそもアイリは冒険者になるために村を出た人間だ。治療師になるなら村へ帰ることになる。そんなことも忘れていたのか?」

 付け加えるなら、冒険者という職業は、この世界で今一番重要視されている。

 十年前、世界に四体の魔王が降臨し、人間の国へ侵略をはじめた。
 魔王へ対抗するために世界中の人間の国が意見を結集させて立てた策とも言えない策は、魔王軍の雑兵である魔物を相手に冒険者を鍛え上げることだった。
 そこから更に、冒険者ギルドによる適正試験で勇者に認定された人間を魔王討伐に送り出す算段なのだ。
 勇者に選ばれた人間はまだいないが、もし勇者に選ばれれば、魔王討伐の成否に関わらず、本人とパーティメンバーには世界中から莫大な報酬が出ることになっている。

 そして、一度冒険者の道を選んだ人間は、余程の理由がない限り他の職業を選ぶことはできない。
 魔物を少し倒して報酬だけ稼ぐ人間を減らすためだ。
 アイリは冒険者になることを決めたのが、村を出ることができた条件のひとつだったのだ。

「ぐっ……で、でも……そうだ、アイリは勘違いをしているのだから、再加入不可届を取り下げ……」
「できない。再加入不可届とはそういうものだ」
「……じゃ、じゃあ、一体どうすれば……」
「ラウトを追い出すまでは良かったが、アイリに勘違いさせたのはお前だ。諦めろ」
「うう……」
 セルパンはその場に膝から崩れ落ちた。



*****



 僕とアイリは待合馬車を乗り継ぎ、十日かけてオルガノという町に到着した。パーカスの町までは早馬でも五日はかかる距離だ。冒険者ギルドに立ち寄って話を聞いたところ、パーカスの町と最後に合同クエストが行われたのは、魔王降臨直後の混乱期に数回のみだそうだ。
「ここなら大丈夫そうかな。じゃあ早速拠点を決めないと……いや、その前に、少し稼がなくちゃだな」
 財布の中をじっと見る。三万ナルあった手持ち金は、待合馬車の運賃と道中の食費と宿代で消費し、数百ナルにまで減っていた。
「稼ぐ? どうして?」
 アイリがきょとんと首を傾げた。
「手持ちがなくてさ」
 お金がないなんて白状するのは気恥ずかしかったが、正直に話しておいた。
「……あっ、もしかしてラウト、セルパンにお金貸してた?」
「うん」
 僕が答えると、アイリが顔を伏せた。なんだか背後に炎がメラメラ燃えてる気がする。なにこれ。
「もう……。あいつ、ラウトの優しさに付け込んで……。いい? もう懲りたと思うけれど、仲間と思うならお金の貸し借りは絶対に無しよ、解った?」
「懲りたし解った」
 ばっと顔を上げて迫ってきたアイリの勢いに、思わず何度も首を縦に振った。
「じゃあ今から私は自分のお金で部屋を借りるから、一緒に住みましょう」
「いま、貸し借りは無しって」
「それはお金の話。私が借りたり貸したりするのは部屋よ。稼ぐにしたって拠点は必要でしょう? どうしても気になるなら、稼いで返してくれたらいいわ」
 手持ちが数百ナルでは食事をしたらなくなってしまう。これからクエストを請けて、もし失敗でもしたら何もできなくなる。
 住む場所だけでも提供してもらえるなら助かるので、アイリの申し出を有り難く受け取ることにした。

 その後は一旦別行動となった。
 僕はすぐにクエストを請けて経験値とお金をひと稼ぎ。アイリはアパートか、なければ今夜の宿探しだ。
 ギルドハウスの中にあるクエスト掲示板を見て……そうだった、と思い出した。
「僕、レベル十だった……」
 請けられるクエストの難易度はソロ用のG止まり。報酬は一回成功して二千ナルだ。
 今までいた平均レベル三十八のパーティは、パーティ用の難易度Eが請けられて報酬は一回成功につき二万だった。
 二千ナルでは、宿に泊まるのも厳しい。
「周回すればいいか。よし、頑張るぞ」
 周回というのは、クエスト対象を何体も討伐することだ。
 真夜中に拠点を抜け出して魔物討伐するときに、よくやっていた。

 棘スライムの討伐クエストを請けて、早速町の外に出た。
 町から小一時間歩くと、鬱蒼とした森が広がっていた。魔王が降臨してからというもの、町の近くのこういう場所に、魔物が頻出するようになった。
 森の、クエストで指定された場所へ足を踏み入れると、早速棘スライムが頭上の棘をギンギンに尖らせて飛びかかってきた。
 すぐに剣で真っ二つに斬り裂いた。
「よし、一回達成、っと……ん?」
 なんだかレベルが上がった気がする。
 自分のレベルは、意識を集中させると目の前に透明な板が出現して、そこに表示される。
 確認すると、レベルは十一になっていた。
「ええ、棘スライムで?」
 難易度Eで数段強い魔物を何匹も倒してきたのに、棘スライムみたいな雑魚オブ雑魚でレベルがあがるなんて。
「ちょうど棘スライム分の経験値で上がるところだったのかな。……んんん?」
 レベルの下には、あとどのくらいでレベルが上がるかがわかる経験値メーターが表示されている。
 具体的な数字はわからないが、メーターが満タンになればレベルが上がる。

 そのメーターが、もう少しで上がるところまで溜まっていた。

 棘スライムが実は経験値が多い、ということはない。
 パーティの平均レベル十、僕がまだレベル二とか三だった頃によく倒した魔物だ。こいつらをいくら倒しても、経験値メーターは極僅かしか上がらなかった。

 ステータスを呆然と見つめる俺に、新たな棘スライムが飛びかかってくる。
 余裕で反応して倒すと、またレベルが上がった。
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