ニコイチート~チート持ちとニコイチで異世界転生させられたので、手探りで冒険します~

桐山じゃろ

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第四章

38 最期の時には

 大剣は、ボロボロのまま手元に残った。
 こういうのって、役目を終えたら音もなく崩れ去って消えるもんじゃないのかな。
 武器として使えなくなってしまったけど、捨てていいものじゃない気がする。
 鞘に収めて、無限倉庫に戻しておいた。


“上とは、やはり”
「いや、こっちから行く必要なさ……っ!」

 マデュアハンに向かうつもりだったのに、急にそれが降ってくるから、慌ててその場から離れた。
 それは黒い炎を纏って落ちてきて、僕が立っていた場所を、クレーター状に抉った。

 真っ黒な馬だ。
 足元には靄のような雲を履いている。
 たてがみのあるべき場所からは黒い炎が噴いていて、耳の横には殺傷力の有りそうな角が二本。
 瞳は、赤くギラギラしている。

 そいつの足元の地面が、ぐずぐずと粘っこい泥状になっていく。腐った血のような臭いがする。
 あれ、拙いんじゃないか。

「ヴェイグ、あいつの正体わかる?」
“麒麟かと思ったが、知っている性質ではないな”
 僕が知ってるキリンでもない。
 日本で中二病に罹患しかかった時に覚えた、四神。確か麒麟を入れて五神にすることもあるんだっけ。

「こいつがラスボスかな」
 ふいに、カリンの台詞を思い出した。

『ヒントは人の想像力』
 前後の文脈を無視して、何故かここだけ。
 それと、さっきのミツハの、先祖の業の話。

“それならば、まずアルハの祖先をこちらに呼んだ者を糾弾すべきだな”
 四魔神たちをこちらの世界へ持ち込んだの、僕の先祖では。
 僕の思考を先読みしたヴェイグが、フォローも先回りしてくれた。
「原因追求は後でっ」
 麒麟が目の前に迫ってた。創った盾ごと押される。
 盾も、地面と同じようにぐずぐずと溶け出した。渾身の力で麒麟ごと弾いて、距離を取る。

 もうこの世界で僕より強い相手なんていないと驕ってた。
 相手が僕より強い場合の対処法がわからない。

“精霊達を喚ぶ。魔力を借りるぞ”
 中からヴェイグの冷静な声が聞こえた。
 精霊達に何をさせるんだろう。
 左腕と[防具生成]スキルだけで麒麟の突進を防ぎながら、右腕をヴェイグに任せる。
 防ぎきれない。右腕と急所だけ辛うじて守り、他は[再生]と[治癒力上昇]で傷を塞いて凌いでいる。
“すまん、もう少しだ”
 精霊を喚んでも、すぐには来れない。時間と空間の軸が異なる世界から連れ出すのだから、無理をさせると精霊に負担がかかる。
 それでも、普段より時間が掛かっている。
 スキルに代償はいらないけど、僕の処理能力には限界がある。
 再生が追いつかなくなりはじめて、流血がひどくなる。
“よし”
 ヴェイグの合図と同時に、僕と麒麟の間にぶわっと光が広がった。
 麒麟は光に弾き飛ばされ、ひっくり返って背中を打ち付けた。僕のほうは、なんともない。
 再生がようやく追いついて、全身のダメージもヴェイグが即座に癒やしてくれた。
「何をしたの?」
“精霊全てに、力だけ借り受けた。今、借りているのは俺だから、このままではあまり保たぬ“
「それ、大丈夫なの!?」
 ヴェイグのキャパは僕より小さいって言ってたのに。精霊全部って。
“これからアルハに流す。準備はいいか”
 そういうことか。
「いいよ」
 僕は五百年生きていた精霊トーシェから『この先も余裕がなくなることはない』ってお墨付きをもらってる。
 それに、今はもっと力がないと、麒麟を倒せない。

 ぞわぞわと、全身が粟立つ。トーシェのときの比じゃない程の力が、体内で膨れ上がっていく。
 借り物だから、僕のものにする必要はない。
「精霊達に、お礼言いたい」
“俺から伝えておく”
「頼むよ」

 腕を振り上げるだけで、麒麟の足元へ衝撃波を打つことができた。腐った地面もろとも、麒麟が上へ飛ばされる。
 その更に上から、数万本の刀を麒麟めがけて落としていく。最初は黒い炎や角で対処していた麒麟も、刀が直接触れ始めると徐々に高度を落としていった。
 精霊の力は、僕の処理能力の限界値も上げてくれている。刀を途切れること無く創り、落とし、遂に麒麟を地面に磔にした。

 無力化させるには[吸収]が良さそうだけど、直接触れたくない。
 刀をアンテナ代わりにして、間接的な[吸収]を試みる。成功した。
 このスキルは苦手だ。何かを強制的に奪っている感覚で、気分が悪い。
 だから、もういいかな? と曖昧な判断で、止めてしまった。

 僕のミスだ。

 瞬時に起き上がった麒麟が、僕の腹に突っ込んできた。角が脇腹に刺さり、馬らしからぬ牙が胸のあたりを貫いた。
“アルハっ!”
 さっきまで冷静だったヴェイグが声を上げる。
「ごめん、油断した」
“右腕を……何故だ!?”
 口からごぼっと血が溢れる。辛うじてつなぎとめている意識の全てを、ヴェイグが交代できないようにするために費やした。
 精霊のレンタル時間も終わっていた。ヴェイグがもう一度喚ぼうとするのも、止めた。
“何をしている、アルハ!”
 最後の力を振り絞って、麒麟を手で押しやった。触れた部分がどす黒く変色している。

“何を……”
 麒麟も、さっきの一撃が最後の力だったようだ。今の僕でも止めを打つことができた。
 麒麟は動かなくなり、地面を穢しながら消えていく。

「僕の魂で、身体は守るよ。後はヴェイグが使って」
“アルハ?”
「ごめん」

 やられるときは、あっけない。
 謝罪だけじゃなくて、感謝も伝えるべきだったな。



◆◆◆



 意識を取り戻しても、その場から動けなかった。
 アルハは身体だけではなく、大地も守った。
 黒く穢れた部分は[解呪]で浄化されている。生命が芽吹くようになるまで少し時間がかかるだろうが、穢れが消えただけでも良い。
 良くない。
 何故だ。

 カリンが言った通りのことが起きた。

 贈り物プレゼントと称して俺に伝えられたのは、アルハの魂が損なわれたときの対処法だ。
 アルハがいなくなる事態など、考えたくもなかった。
 何より、アルハが消えるなら俺も同時だろう、とカリンに反論した。
 カリンは俺の反論を無視して、方法を伝えてきた。

『魂を、竜に還してあげて』

 背中の剣の柄を握り、引き抜く。
 ディセルブの城に安置されていた、黒い剣。
 これが魂だとして、還すべき先はどこか。

 簡単な話だ。
 竜ははじめから、アルハの心臓にいた。

 切っ先を、アルハの身体の胸に当てる。

「還すぞ」

 ひとおもいに、貫いた。
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