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第8話 喧嘩

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「おい、聞いてんのかよ? その話もっと聞かせくれよ腰抜け野郎」

 本当に意地汚い目をしている。
 どうしてここまで嫌悪感を刺激されるような感覚は初めてだった。
 
 ギルドにいた他の人たちは俺たちのほうをずっと見ているが、見ているだけでなにもしてこないし言ってこない。
 少しだけ馬鹿にしたような目線を向けられるだけだ。
 彼らにとって中立であることが一番問題にならないからだろう。

 クレタさんもリンもどうにかしようとなにか言いたそうにしているが、なにも言えない。
 言ってしまえば自分がどうなるのかわからない。
 そんな怖さがあるのだ。

「…………なんの用なんだ」

「だから、今さっきお前が話していたことを聞きたいんだよ。なんかい言えばわかるんだ。お前は能力だけじゃなくて耳も悪いのかよ」

「…………」

 最悪の状況だ。
 いまの話を聞かれていたのか。
 よりによってこいつらに。

「別に話すことなんてない」

「なにが話すことなんてないだ。いまさっきボスをうんたらかんたらって言ってただろうが。嘘つくんじゃねぇぞ」

「「そうだ、そうだ!!」」

 3人係というのも厄介だ。
 鬱陶しくてしょうがない。

 だが、ここで変に返せば、さらに面倒くさいことになる。
 俺はいままでの経験からしてそのことを知っていた。

「……俺たちがちょっとした災難に巻き込まれてクレタさんに相談していただけだ。心配してくれてありがとな」

「……じゃあさっき俺が聞いたボスをお前が倒したってのも嘘なのか?」

「勘違いだ。俺は全くもってそんな事話していない。じゃあ俺は行くから。クレタさんありがとうございます。ほら、リン行くぞ」

 俺はクレタさんにお礼を適当に言って、リンの手を取る。
 リンの拳は強く握られていて、行きたくなさそうな感じが出ていた。
 それでも俺はリンの手を引っ張る。

 本来ならば俺は一人でいなくちゃいけない存在なのだ。
 ずっと一人でいることが正解なのに、俺の甘さで彼女と少しだけ一緒に居たいと思ってしまった。
 だからこんなことになってしまった。

 彼女に変なことに巻き込まれてほしくない。
 俺のせいだからこそ、とてつもなく嫌なのだ。
 
 俺はそのまま引っ張ってギルドを出ていこうとする。
 そこで事件は起きた。

「…………おい、腰抜け野郎」

 立ち止まり振り返ると、

「ぐは……」

 拳が飛んできた。
 急すぎてなにも出来ずに殴られた。
 俺はそのまま吹っ飛び、その場に転ぶ。
 リンと離れてしまった。

「俺のことをバカにしているのかよ。ふざけんじゃねぇぞ」

「なんでいきなり……」

「お前、俺のことをバカにしているのかよ。ふざけんのも大概にしろよ、雑魚のくせに」

 上から俺を見降ろしてくる。

「ほんとだよな。その態度はないわ……」

「前からそうだけど、もう少し丁寧に対応しろよ。雑魚なんだから」

「あんまり俺たちのことなめてんじゃねぇぞ」

「…………」

 さらに仲間たちが追い打ちをかけて来る。
 少しだけイラっと来るが、俺はそんなことでは怒らない。
 だが、リンはそれを許せなかった。
 
「いい加減にしてください!」

「…………あ?」

 リンが叫ぶ。
 初めて聞くくらい大きな叫びだった。

「いままで我慢してきましたけどもう無理です。やめてください!」

「リン……」

 前に喧嘩するとか言っていたが、まさか本当にやるとは思わなかった。
 リンは怖さを乗り越えて怒ってくれたのだ。
 こんな俺なんかのために。

 素直に嬉しいと思った。
 でも、それは良くない。

「暴力なんて最低です! 今すぐにレンさんから離れてください」

「なんだよ、クソガキ。てめぇもこいつと同じようにしてやろうか」

「やれるもんならやってみてくださいよ」

「ほお、クソガキ。いい態度じゃねぇか。ここにいる腰抜けとは大違いだなあ」

「「あははははは」」

「まあいいぜ。お前がそういうなら部っとばしてやる」

「わかりました。やりましょう。その分私も抵抗します!」

 3人組がリンの方へ近づいていく。
 リンは腰から買ったナイフを取り出す。
 周りはざわざわと騒がしくなる。
 俺をその状況を見て、すぐに立ち上がり、3人組とリンの間に突っ込む。

「もういいリン。やめよう」

「!? ……レンさん、どうして……」

「なんだよ腰抜け。お前ももう一度やられてーのかよ」

「「あはははははは」」

 笑われるが俺は無視して話す。

「前にも言っただろ。暴力はよくない」

「あ? お前まだそんなこと言ってんのかよ。いいか教えてやる。結局世界は弱肉強食。強い奴だけが勝って弱い奴だけが負けるんだ」

「でも、今ここでやったらどうなるのかぐらいわかるだろ。一旦落ち着いて話そう」

「……! ホントお前は心底イライラさせる天才だな。……わかった。俺も甘かった」

 すると奴の手から炎が現れる。
 メラメラとしていて近くにいるだけでヤバさを感じる。

「お前らも知っていると思うが、俺は数少ない能力タレント持ち。お前らなんかこの火炎ファイアーを使えば一発で殺せる」

「…………」

 能力タレント持ちか。
 こいつが持っていることは初耳だった。
 最悪だと思った。

 そんな奴と喧嘩でもしてしまえば、どうなるのかわからない。
 いまから起こるかもしれない状況を想像して、固唾を飲んだ。

「お前だけじゃない。ここにいる全員に言ってるからな。俺に舐めた態度とった奴は全員木っ端みじんにしてやる。覚悟しとけ」

 誰も何も言えない。  
 リンも少しだけ怖がっていて手が震えているのが見えた。

「ほらどうした。かかってこいよクソガキ。それともなにか? 俺が能力タレント持ちだって知ってビビってんのかよ」

「うわ、雑魚じゃん」

「やっぱ雑魚と一緒にいるのは雑魚だけってな」

「「あはははははは」」

 笑われてカットなったのかリンは少し怒り気味になる。
 震えは止まっていた。

「わかりました。やってやりますよ!」

「ダメだリン。やめておけ」

 俺はそういうリンを止める。

「あ? またお前は邪魔するのかよ…………わかった。死にたいってことだな!」

 炎が俺をめがけて飛んでくる。
 速いは速いがなんとか避けた。
 そのまま炎はギルドから離れた道のところに飛んでいく。人もいない。
 どうやら、腕は確からしい。

「クソ……ネチネチ避けやがって。ムカつく野郎だな。…………いやあ、まあいいか。今いいこと考えた」

 ひらめいたような感じを見せてくる。
 俺はなにしてくるか分からず身構える。

「明日、俺たちとバトルしよう。紛れもなくちゃんとしたバトルをな」

 下卑た目線を向けながら奴はそう言った。
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