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第1章『始まりの村と魔法の薬』編
第11話 訪問者/Client
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エレリアがコックル村で目覚めて、気づけば3週間という時間が経っていた。
初めの頃は、村人の視線を避けるため窮屈な生活を強いられていたが、今ではもうずいぶんと村の暮らしにも馴れてきたような気がする。
村の小さな市場に行くと、よく若い人が向こうから声をかけてくれた。ミサと出会った初日に彼女は同世代の子がいないと嘆いていたのだが、村を歩き回ると改めて彼女の言っていたことがよく理解できた。若者がいないという訳ではないが、この村は高齢の村人が多い気がする。年齢は老若男女と様々だが、とにかくエレリアと同い年の村人はミサとソウヤを除いて誰一人見つからなかった。
そして、老人たちから冷たい視線を感じるという事実は3週間経った今でも変わっていなかった。若い衆はフェイルメアの悲劇を経験していないからかエレリアに対し友好的な態度をとっていたが、高齢層の人々はなかなかエレリアに対して心を開いてくれなかった。それもそのはず、エレリアは村長の情けで特別に承認されたようなものなので、他の村人から認知さるないのは仕方のないことだった。
しかし、お人好しすぎると評判のパン屋のおばさんは、エレリアが毎回店に行く度にこっそり焼きたてのパンをおまけしてくれたりもしたし、教会のあの神父もたまに道で出くわすと不安なことについて相談してくれたりもした。
皆が皆、悪い人ではないし、自分を嫌っているわけではない。この事実については、村長や神父さんも言っていたし、自身でも分かっていた。 全員と仲良くなろうだなんて思わない。ただ、自身を偽りなく、そして着飾ることなく生活していれば自然と認められるはずだ。
こうして、エレリアは隠された過去を心の隅っこで抱えたまま、新たなもう一人の自分を胸にこのコックル村の生活に身を染めていった。
そんなある日、二人の日常を一変させる出来事が起きる。
その日は、いつも通りの昼下がりだった。
ソウヤは村の鍛冶屋へ自ら修行へ出向き、家にはエレリアとミサがいた。
二人はすでに昼食を終え、意味のない談笑を交わしながら共に昼食の後片付けをしていた。ミサが食器を水で洗い、それをエレリアが布で拭き食器棚へ戻す。
何てことのない普通の午後。
時間はのんびりと流れ、エレリアはこの後少し昼寝をするか、あるいは最近王国の商人から買った本を読むか、どちらにしようかと頭の中で考えていた。
本とはエレリアが一人で村の市場に行った際に商人から自分のこづかいで買ったものだ。本の中身は、その商人が世界各地を巡った際の旅の内容をつづった言わば自叙伝のようなもので、エレリアはここから隠された記憶のヒントを得られないかと企み購入したわけだ。しかし、読み進めているうちに、今では記憶を取り戻すという初期の趣旨を忘れ、完全に本の中に広がる広大な世界に心を奪われていた。
すべての作業が終わり、ミサが濡れた手をエプロンで拭いていると、突然部屋に訪問者を告げるベルの音が鳴り響いた。
耳をつんざくような甲高い金属的な音に、二人は驚いて同時に玄関の方へ視線を向ける。
「あれ?こんな時間に誰が来たんだろう」
訪問を告げるベルは全部で三回鳴り響き、ミサがはてと首を傾げる。
確かに、普段なら朝や夕方にミサのポーションを求める客がこの家を訪ねて来るのだが、こんな真っ昼間に客が来ることは珍しかった。来るとしても、あらかじめ誰が何時に来るのか予定が入るので、今扉の向こうにいる客は何か急ぎの用事がある客だろう。
突然の来客に思い当たる節がないまま、ミサはとりあえず玄関へ向かった。
この家では扉を開けるまで誰か来たかは分からない。今まで家を訪れた人はみな仲の良い知人やポーションを買ってくれたお客さんだったが、もしかしたら今家の前にいるのは強盗の可能性だってある。
謎の緊張感に包まれたまま、ミサは恐る恐る玄関の扉へ手を伸ばした。
扉が徐々に開き、隙間から外の光が部屋へ漏れていく。
半分まで扉は開いたが、まだ訪問者の姿が見えない。しかし、奥の方に大勢の人影がいるように見えた。心なしか鎧のようなものも見えた気がする。
それは目の端で捉えた一瞬のことだったが、無意識的にミサの意識は緊張感に包まれた。
そして、とうとう扉が開ききり、ついに訪問者が姿を現した。
「…!?」
念願の訪問者の姿を確認したが、次の瞬間にはミサは言葉を失っていた。
今、目の前に見えているものは現実のものなのだろうか。それとも、暑く照りつける日差しが見せている幻なのか。
どちらとも分からないが、扉を開けたミサの前には、目を疑う景色があった。
こんな小さくて貧相な村の景色には似合わない光景。
そして、当の訪問者である男が、目を丸くして固まるミサを前に、毅然とした口調でこう告げた。
「我々はスカースレット王室直属の近衛兵団第1軍団『グリフェウス』だ」
ミサが扉を開け外を確認してから、明らかに彼女の様子が変わっていた。エレリアはキッチンで作業していた場から動いていないので、誰が来たのかはまだ把握していない。
とにかく、真っ先に扉を開けたミサが、それっきり動かなくなってしまった。通常なら、外を確認するや否やすぐに訪問者と会話を始めるだろうが、扉を開けて数秒経った今もミサは一言も発していない。それどころか、まるで呪いで石にでもされてしまったかのように固まっていた。
おかしい。明らかに、おかしい。
エレリアの本能がそう自身に向けてしきりに騒いでいた。
普通の訪問者ではない。
玄関の扉を支えたまま硬直したミサの後ろ姿から、家の外の様子など安易に予想できた。
いても立ってもいられなくなって、エレリアは急いでミサのもとへ駆け出した。
固まるミサの隣に立ち、エレリアも彼女と同じように外の景色を目にし、思わず息を呑んだ。
白銀の甲冑を身にした屈強な兵士達。数はそれほど多そうには見えない。おそらく10人程度。その中には高貴そうな白い馬に乗った兵士もおり、スカースレット王国の紋章が施されたのぼり旗が村の風になびいていた。
あまりの威圧感に、エレリアは思わず後ずさってしまった。
なぜこんな小さな村に、それもミサの家に王国の兵士たちがやって来たのだろうか。
すると、鐘を鳴らした張本人、おそらく兵士の隊長とおぼしき男が再び、固まる二人に対して口を開いた。
「宰相のご命令により全軍団を代表して、今日はこうしてアンバーさんの宅を訪問させてもらった。早速ではあるのだが、お邪魔させてもらう」
必要最低限の説明を施し、彼は一方的にミサの家へ上がろうと足を前に出した。
その時、ミサはやっと意識を現実に戻すことができた。
そして、緊張と恐怖の感情を帯びたたどたどしい口調で、勝手に家に上がろうとする訪問者にあわてて手の平を向けた。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってよ!!急に何!?なんで王国の兵士さんたちが、私の家に?!」
ミサはあまりの混乱に舌がうまく回っていなかった。冷や汗が全身から吹き出し、今にも腰が抜けてしまいそうだった。
すると、戸惑いを隠しきれていないミサに対して、訪問者の男は静かに告げた。
「詳しいことは中で話しましょう」
彼らの隊長と思われる男は、重そうな鎧を身につけたままミサの家に上がり込んだ。
急な訪問だったため、とりあえず一階のいつもの食卓に彼を案内した。他の兵士は誰も家に入らないように外で見張っているようだ。
まさか自分の家に王国の兵士を招き入れる時が来るなんて。
白昼夢のような出来事を前にミサはなんとなか正気を保ち、とりあえず彼に麦茶を一杯差し出した。
「こ、こんなものしかないんですけど、よかったら、ど、どうぞ…」
「うむ、卿の計らいに感謝する」
相変わらず冷静な態度で、男は静かにコップを受け取り、そのまま麦茶を一口すすった。王国の兵士、それも王様を守る兵士の隊長だけあって、何てことのない麦茶を飲む姿だけでも気品に溢れていた。ミサとエレリアの家に同居するもう一人のあの男とは大違いだ。
麦茶を半分まで飲み干すと、男は頭の上半分を覆うカブトを脱ぎおろした。
初めてはっきりと顔を見せた彼は、カブトを脱いだ際に乱れた自身の茶色い長髪を手で整えていた。以外に歳はミサとは随分と離れていないように見え、どちらかと言うと青年と呼ぶのにふさわしい風格を漂わせていた。
彼に麦茶を提供した後、ミサはテーブルを挟んで彼と向かい合うような形でイスに腰をおろした。
そして、ミサはその時初めて正面から彼の容姿をしっかり見ることができた。
きれいに切り揃えられた茶色い長髪に、どんな獲物も射ぬいてしまいそうな鋭い瞳。あまりに端正すぎる顔立ちに、ミサは油断すると気を持っていかれそうだった。
そして、そんな容姿以上に、彼からは他を圧倒するような絶大な風格が漂っていた。正直言って、こんな貧相な村にいてはいけないような存在。
そんな人物がなぜコックル村に、それもわざわざこの家に来たのかミサにとっては甚だ疑問だった。自分が何か知らないうちにとんでもないことをやらかしてしまったか。知らず知らずのうちに何か罪を犯してしまったのか。彼とテーブル越しに向き合う数秒間、ミサは必死に心当たりを探っていた。
「まずは、突然の会談のご了解、誠に感謝する。そして、私の名はグリフェウス隊第1軍団隊長マルロスだ。今後ともよろしく頼む」
「マ、マルロス、さん…」
整えられた語調と極めて謙遜した彼の態度に、ミサは冷や汗を滝のように流しながらぎこちなく頭で礼をした。「今後とも」と言っていたが、これから長い付き合いになるのか。
エレリアは二人の話の邪魔にならないようにキッチンで作業をしている様に見せかけ彼らの対談を遠くから眺めていたのだが、明らかにミサの身体が緊張で凍てついているのが見て分かった。
しかし、そんなミサの様子に構うことなく目の前の青年は早速話題を持ち出した。
「それでは、いきなりではあるのだが本題に入りたいと思う。『アンバー』さんはどこにいらっしゃるのだ?」
「えっ…、アンバーって、なんでおばあちゃんのこと知ってるの!?」
彼の口から飛び出た驚愕の事実に、ミサは思わずイスから立ち上がってしまった。
驚きを隠しきれない。
アンバー、とはミサを引き取ってくれたおばあちゃんの名前。なぜ彼はおばあちゃんのことを知っているのだろうか。思い当たる節がまったく見つからない。
目を丸くして微妙だにしないミサに向かって、マルロスが続けて口を開いた。
「我々はあの偉大なメディカルマイスターのアンバーさんに用があって、こうして卿の宅を訪問させてもらっている次第だ」
どうやら彼らの目的はミサのおばあちゃんにあったらしい。
マルロスの言っている通り、ミサのおばあちゃんはかつては王国でメディカルマイスターとして活躍していたことがあった。メディカルマイスターとは言わば医療の最高峰の職業を指す総称のことで、ミサのおばあちゃんはポーション医療を生業としてその名を王国中に知らしめていた。
しかし、彼女は高齢になったが故に王国の医療の現場を退き、その後はふるさとのコックル村でひっそりとこの世を後にしたのだった。
おそらく、マルロスたちはミサのおばあちゃんがすでにこの世にいないという事実を知らないようだった。
この時ミサは彼から王国の裏情報を聞き出したいと心の中で企てていた。わざわざ王国の一級兵士たちがこんな秘境の村にやって来るなんて、普通ならありえない。彼らには何か重大な問題を持っているに違いない。
マルロスはおばあちゃんの存在をミサが出し惜しみしているのだと疑っているみたいたが、ミサは彼女の安否の情報を一旦隠して、彼らがここを訪れた目的を再び問いかけた。
「でもなんで、あなたたちはおばあちゃんに用があるの?もしかして、王様が病気になっちゃったとか?」
「すまないが今回の案件は口外厳禁なもの故に、アンバーさん本人以外に口出しすることはできないのだ」
ミサの期待とは裏腹に、マルロスの口から冷たい返答が放たれる。
どうやら、彼はおばあちゃんと極秘で対談したいらしい。逆に言えば、それほど重要な目的をもってここを訪れているということだ。
王室直属の一級兵士たちによる訪問。
彼らには何か国家の存亡に関わる重大な問題が渦巻いているのか。
その時、ミサの脳裏にあの時のソウヤの言葉が一瞬よぎった。
それは、エレリアが村にやって来て二日目の朝食の時、食事を終えたソウヤが何の気なしに発した言葉。
『今、スカースレットで夢魔のパンデミックが起こっていて、王様までもが感染したらしい』。詳しいニュアンスは忘れたが、確か彼はこんなことを口にしていた気がする。
これがもし真実とすると、今彼らがこの家を訪ねてきた理由も言われるまでもなく悟ることができる。
しかし、本当にあの時ソウヤが言っていたは事実なのか。事実だとしたら、とんでもないことだ。
すると、マルロスは何かを思い出したような表情を浮かべ、ミサに眼差しを向けてきた。
「そちらの事情も考慮せず誠に恐縮ではあるのだが、彼女に会うまでは我々は何があろうと一切引き返さないつもりだ。そこのところ、ご了承いただきたい」
彼は非常に謙遜した態度で口を開いているが、蒼く光る目はミサを権威で威圧するかのように鋭く細められていた。それは、早くアンバーを出せと脅しているようにも感じられた。
相手は王様に直接仕える兵士の隊長。これは巧妙な口先で逃れられるようなシロモノではないだろう。
たが、ミサは言葉に詰まってしまった。
おばあちゃんはこの世にいない。この事実を、簡単に打ち明けてしまってもよいのだろうか。相手が王国からの使者だから故に、ミサの決断に迷いが生まれる。
「では、もう一度問おう。アンバーさんはどこにいらっしゃるのだ?」
なかなか質問に答えないミサに対して、再びマルロスが律儀な態度のまま返答を迫ってくる。
彼からの不可視の圧力にミサはますます焦りを感じた。
「えっと…、その、ですね…。私のおばあちゃんはどこにいるのかと言うと…」
こういう時はどうすればよいのだろうか。
素直に真実を言ってしまった方がいいのだろうか。ミサは幼い頃おばあちゃんから、嘘は後に大きな悲劇を招くとよく教え込まれていた。嘘をついてはいけない。ミサはこの言葉を胸に、今日まで素直な気持ちのまま生きてきたつもりだ。
しかし、ここで本当に事実を偽ることなく口にしてしまった場合どうなってしまうのか。もしかすると、おばあちゃんがこの世にいないと知ったマルロスはミサに失望してしまい、そのまま憤りで彼女を殺してしまうかもしれない。
逆に、おばあちゃんは外出中です、などと嘘をついたところで彼らを欺くことなどできるとも思えないし、後の結果も前者と同じだろう。
再びミサはマルロスを見つめた。
田舎の小娘に向けられる、王国兵士の脅迫じみた殺気の目線。
今話している相手は世界の戦線で戦うような殺しのプロだ。
そう思えば思うほど、どんどん彼の存在感が巨大化していき、呼吸が苦しくなるほどミサの意識を押し潰していった。
額から浮き出た脂汗が数滴、足の上で硬く握り閉めているミサの手の甲に落下する。動機が激しくなり、視界が明滅するのが自分でも分かった。
精神を削ぎ落とされるほど、ミサは苦渋の判断に迫られていた。真実を伝えるか否か、どちらを選べば正解なのか。
しかし、静かに問い詰めるマルロスの質問とミサの必死の葛藤は、ある一人の一言によってすべて解決した。
「確か、おばあちゃんってもう死んじゃったんじゃなかったっけ?」
エレリアの口から悠々自適に放たれた何気ない一言が、ミサとマルロスの見えない駆け引きの戦場を大きく切り裂いた。
その言葉を二人は同時に耳にし、そして同時に立ち上がった。
「ちょっとリアちゃん!?なんてこと言うの!!」
「それは誠か!?」
二人の興奮した叫び声が、畳み掛けてエレリアに向けられる。
いきなり二人に詰め寄られ、あまりの勢いにエレリアは少し乾いた笑みを浮かべたまま思わず後ずさってしまった。
「アンバーさんがこの世にいないとは、一体どういうことだ!!?」
迫真の表情を顔に張り付けたマルロスはエレリアとの距離を詰め、そのまま彼女の肩を掴んだ。
「ちょっと、何するの…!?」
「答えろ!!アンバーさんがもういないとはどういうことだ!」
「だから、ミサのおばあちゃんはもういない、ってそのままのことだよ…!!」
問い詰めるマルロスに体を激しく揺すられ、エレリアも負けじと眉を少し吊り上げて強気になって言い返した。
「なんで言っちゃうの…」
真実をあっさり口にしたエレリアに対して、ミサはイスに力なく座り落ち、呆れの深いため息を吐いた。
あれほど慎重に判断を選択していたのに、エレリアはこちらの思惑を計ることなくおばあちゃんの逝去を簡単に彼に伝えてしまった。おかげでマルロスは血相を変えて、エレリアを激しく問い詰めている。
しかし、彼が驚くのも無理は無い。ずっとおばあちゃんが生きている前提でここを訪れたわけだ。そんな肝心の探し人がいないと知った今、混乱してしまうのは当然のことだろう。
「もう、いい加減に放してよ!!」
いつまでも肩を掴んでいるマルロスに、我慢の限界に達したエレリアは思いっきり彼を両手で押し返した。
突き飛ばされたマルロスは、その反動で後ろへ少し体勢を崩してしまう。
「あっ!!」
王国の兵士に対するあまりに無礼なエレリアの行為に、ミサは血の気を失ってしまった。
このまま彼が激昂して、二人とも殺されてしまったらどうするのか。
エレリアは眉を寄せたまま、不満気な顔で自身の乱れた服のシワを手で直していた。
「…」
先ほどエレリアから押し飛ばされたマルロスはしばらくうつむいて黙り混んでいた。
急に寡黙になる彼に、ミサは緊張した面構えで固唾を飲んだ。
きっと、マルロスは怒りが込み上げてきて、黙り混んでいるに違いない。長い髪に隠れて横からだと彼の表情を伺うことはできなかったが、肩が細かく震えているのが分かった。
その時、ミサはマルロスから殺されるのを半分覚悟した。彼ならこんな田舎の民を殺すことは厭わないはずだ。腰に提げた剣で一撃だろう。
すると、彼が静かに口を開いた。
「アンバーさんはもういない。これは誠なのだな…?」
先までの強気を無くしたマルロスは今度はミサに視線を向けた。
「えっ…」
突然の彼の問いかけに、ミサはまたも言葉を詰まらせてしまった。
しかし、彼はすでにエレリアの口から真実を知ってしまった。故に、もう隠し通せることもできない。
「…はい、そうです。私のおばあちゃんはもうここにはいません…」
ミサはマルロスの顔色を伺いながら、弱々しく呟いた。
ついにミサもおばあちゃんの永去を認めた。
彼はどんな反応をするのだろうか。
ミサは再び冷や汗を流して、彼の様子をじっくり見つめた。
部屋にこれまで体験したことのない緊張感が満たされる。
「そうか…、そうだったのか…。彼女はすでに…」
ミサとエレリアの口から紡がれた真実に失望したマルロスは独り言を漏らす。よっぽど現実を認めたくないのか、下げた頭をなかなか上げようとしない。
エレリアとミサもお互い口を閉ざしたまま、マルロスの次の動向を見守っていた。
彼はおばあちゃんの不在をどう受け止めるのだろうか。
なかなか口を開かない彼に、ミサの体の中で張り詰める緊張感は最高潮に達していた。
呼吸が荒くなり、うまく体を支えることができない。
それは、少しでも気が緩むとそのまま意識を失ってしまいそうなほどのものだった。
対してエレリアは、見た限り冷静な態度を保ったままキッチンの側に立っている。
ミサからすると、エレリアのその強靭な精神力が羨ましかった。
どんなに緊張感で張り詰めた空気の中でも、変わらない表情でいられる。
もしかしたらこの緊張感を感じているのは自分だけなのかもしれない。いや、この緊張感自体、自分で作った幻のようなものなのか。ミサは黙りこくる軍人の彼を前に、ふとそんなことを思った。
すると、口を閉ざしていたマルロスが決意を表したように顔を上げた。
そして、再び食卓のイスに静かに座り、ミサとテーブル越しに向き合った。
「そちらの都合も考えず、突然押し掛けてすまなかった」
何を言い出すのかとミサは警戒していたが、彼の口から出たのは謝罪の言葉だった。
彼は呆気にとられるミサに対して、毅然とした態度で頭を下げた。再び軍人としての気品が彼から溢れ出す。
「これは、その詫びだ。微量ではあるが、受け取ってほしい」
そう言うと、彼は懐から一つの茶色い小袋を取り出し、テーブルの真ん中に置いた。重い金属の擦れる音が袋から漏れる。
何かの獣の分厚い皮でできた明らかに高級そうな小袋。
それは誰が見ようと一目で分かるほど明かな、お金の入っている袋だった。
テーブルの上に置かれたその袋をミサは言われるがまま手に取り、恐る恐るその袋の口を開けた。
「こ、こんなに…!?」
袋から溢れ出る異様な輝きに、ミサは目を限界まで見開いた。急な軍人の訪問といい、今目に見えてることは本当に現実なのだろうか。
「わ、わ、私、こんなに大量の金貨なんか受け取れませんっ!!」
「その金は、私たちの無礼に対する詫びと卿への敬意を表したものだ。遠慮はいらない」
彼の言うとおり、小袋の中には大量の金貨が嘘のように詰め込まれていた。
数は推測するに数十枚ほど入っているだろか。
ミサにとってはあまりに多すぎる金貨の量。
これだけあれば、しばらくは働かずに暮らしていける。
しかし、こちらは何もやっていないのにこんな大量のお金をもらうのは少し気が引ける。確かに向こうから突然押し掛けてきた時は驚いたが、それでも訳のない金は受け取れない。
しかし、そんなミサの制止を振り切り、マルロスは脱いだカブトを腋に抱える。
そして、彼はイスから立ち上がって、そのまま帰りの支度を始めた。
「それでは私は王国へ戻ることとしよう。今回私たちがここへ来たことは忘れてくれ。では」
彼からしたら、おばあちゃんのいないこの家にもうこれ以上の用は無いのだろう。
マルロスは最低限の別れの言葉を言い残して、ミサたちに背中を向けた。
結局最後まで彼は用件を教えてくれなかったが、もうミサからしたらそんなことはどうでも良かった。向こうがこちらに用は無いのなら、これ以上こちらから関わる必要もない。
仲間たちが待つ家の外へマルロスは歩を進め、玄関の扉の取っ手を握った。
これで彼とは永遠に会うことは無いだろう。
昼下がりに訪れた突然の出来事だったが、彼の役に立てないことが少しミサの中で心残りになっていた。しかし、できないことはできないのだから、これでいいはずだ。
寂寥感を背中から漂わせ、彼が扉を開けようとする。
すると、いきなりエレリアが口を開いた。
「ねぇ、ちょっと待って」
エレリアの呼び声は静寂に満ちた部屋の空気を伝って、ミサとマルロスの鼓膜を震わせた。
後ろから声を聞いたマルロスは背を向けたまま、取っ手を引こうとした手を止めた。
ミサは驚いて、声の主がいる方を急いで振り返る。
するとそこには真剣な眼差しでマルロスを見つめるエレリアの姿があった。
「なんであなたたちはこの家にやって来たの?事情を教えてよ」
真っ直ぐ射ぬくような視線で、エレリアはマルロスを見つめる。
しかし、彼は依然として彼女たちに背中を向けたまま、声だけを二人に送った。
「何回でも申し上げるが、これは公的な用件になる故に、すまないが卿たちにここで伝えることは立場上無理なのだ」
「もうどこにも頼るアテが無いんでしょ」
マルロスが言い終わるのと同時に、エレリアが即座に彼の心を揺さぶる一言を吐いた。
まるでマルロスの思惑を見透かしたようなエレリアの発言に、彼は思わず耳を動かした。ミサも初めは彼女の言っている意味が理解できず、自らの聞く耳を疑った。
「もう誰にも頼ることができない。だから、私たちの家に来たんだよね?」
念を押すようにつづけてエレリアがマルロスに問いを投げ掛けた。
「…」
しかし、マルロスは背中を向けたままずっと黙りこんでいる。確かにエレリアの声は耳に入っているだろうが、彼女の質問に返答しようとしない。
マルロスは今、何を思っているのだろう。
ただ言えるのは、エレリアの一言は確実に彼の苦悩の的を射ぬいていた。その気になれば今すぐ扉を開けてこの家から出ることだってできるだろうが、背を向けたまま彼はずっと口を閉ざしてその場で固まっていた。
それは、エレリアの次の一言にかすかな救いを求めているようにも見えた。
「最後までちゃんと事情を教えて。そしたら、おばあちゃんの弟子でもあるミサがなんとかしてくれるかも」
「ちょっと、リアちゃん!?」
いきなり放たれたエレリアのとんでもない発言に、当の本人であるミサが誰よりも速く反応する。
「なんとかしてくれるって、何てこと言ってるの!?」
「きっとマルロスさんたちは、おばあちゃんのポーションが欲しいからここに来たんだよ。だったら、ミサが代わりに…」
「ちょっと待ってよ!私が代わりにポーションを?無理だよ、いくらなんでもできっこないよ!!」
エレリアが提案した内容に対して、ミサはイスから立ち上がり子供のように言い訳じみた言葉をまくし立てる。
ミサはこれまで村人のために数えきれないほどポーションを作ってきた。用途は人それぞれで、病気の人のため、怪我を直すため、元気を出させるため、といったものだ。
きっとエレリアはおばあちゃんの代わりにミサにポーションの作成を提案したのだろう。
マルロスは今回の訪問の用件をかたくなに口にしようとしないが、ミサもエレリアも彼の案件については薄々ながらも察してはいた。
恐らく隣の王国に何かしらの異変が起こっているのは、あの時ソウヤが言っていた通り間違いないのないことだ。だから、マルロスはこうしておばあちゃんのポーションを求めてここへやって来た。
しかし、だからと言って、ミサにはエレリアの提案には賛成できなかった。
ポーション作りはあくまで趣味程度のもの。
王国の軍人に渡せるようなシロモノではないのだ。
「第一、私はポーションの専門学者でもなんでもないし…」
「ミサ、おばあちゃんのあの言葉、忘れちゃったの?」
「うっ…」
エレリアの鋭い指摘に、ミサは喉まで来ていた言葉を思わず詰まらせてしまった。
おばあちゃんのあの言葉。
それは、ミサが今日まで大切に守ってきた形見のようなものだった。
その言葉を言われてしまっては、言い訳することはできない。
「マルロスさん、事情を教えてください。王国では今何が起こってるんですか」
再びエレリアがマルロスの背中に向かって問いかける。
「…」
依然として黙りこくるマルロス。
やはり、いくら頼みこんでも簡単には教えてくれそうにもない。要求は失敗か。
そう思っていた矢先、急にマルロスが体を二人の方へ翻した。
そして、先ほど帰るときとはうってかわって、何か意を決したような様子で口を開いた。
「そうだな、しかたない。アンバーさんがこの世にいないと知った今、この話をして卿たちの心が少しでも変わると言うなら、特別に話してあげてもいいだろう」
ようやく聞けたその言葉に、エレリアとミサは少し笑顔になる。
「ただし!今から私が話す話はすべて国家の存亡に関わる極秘情報だ。絶対に軽々しく口外へ漏らしてはいけないことを忘れるな。もしこの情報が漏れた時の卿たちの処置は…、もちろん分かっているだろうな?」
突然神妙な顔つきで語り出すマルロスの言葉には、巨大な権力で守れた揺るがない説得力が秘められていた。
ミサは思わず生唾を飲み込む。
いよいよ、とんでもないことになってしまった。
マルロスが再びイスに座り直し、エレリアもミサの隣のイスに腰をおろした。
その間、ミサの心臓ははち切れそうになるほど激しく鼓動していた。
緊張と動揺が、意識を支配する。
これからマルロスが語る話を聞いて、自分の未来はどうなってしまうのか。
まだこの時のミサは、彼の話で将来の重要な分岐点に立たされることなど少しも思ってもいなかった。
初めの頃は、村人の視線を避けるため窮屈な生活を強いられていたが、今ではもうずいぶんと村の暮らしにも馴れてきたような気がする。
村の小さな市場に行くと、よく若い人が向こうから声をかけてくれた。ミサと出会った初日に彼女は同世代の子がいないと嘆いていたのだが、村を歩き回ると改めて彼女の言っていたことがよく理解できた。若者がいないという訳ではないが、この村は高齢の村人が多い気がする。年齢は老若男女と様々だが、とにかくエレリアと同い年の村人はミサとソウヤを除いて誰一人見つからなかった。
そして、老人たちから冷たい視線を感じるという事実は3週間経った今でも変わっていなかった。若い衆はフェイルメアの悲劇を経験していないからかエレリアに対し友好的な態度をとっていたが、高齢層の人々はなかなかエレリアに対して心を開いてくれなかった。それもそのはず、エレリアは村長の情けで特別に承認されたようなものなので、他の村人から認知さるないのは仕方のないことだった。
しかし、お人好しすぎると評判のパン屋のおばさんは、エレリアが毎回店に行く度にこっそり焼きたてのパンをおまけしてくれたりもしたし、教会のあの神父もたまに道で出くわすと不安なことについて相談してくれたりもした。
皆が皆、悪い人ではないし、自分を嫌っているわけではない。この事実については、村長や神父さんも言っていたし、自身でも分かっていた。 全員と仲良くなろうだなんて思わない。ただ、自身を偽りなく、そして着飾ることなく生活していれば自然と認められるはずだ。
こうして、エレリアは隠された過去を心の隅っこで抱えたまま、新たなもう一人の自分を胸にこのコックル村の生活に身を染めていった。
そんなある日、二人の日常を一変させる出来事が起きる。
その日は、いつも通りの昼下がりだった。
ソウヤは村の鍛冶屋へ自ら修行へ出向き、家にはエレリアとミサがいた。
二人はすでに昼食を終え、意味のない談笑を交わしながら共に昼食の後片付けをしていた。ミサが食器を水で洗い、それをエレリアが布で拭き食器棚へ戻す。
何てことのない普通の午後。
時間はのんびりと流れ、エレリアはこの後少し昼寝をするか、あるいは最近王国の商人から買った本を読むか、どちらにしようかと頭の中で考えていた。
本とはエレリアが一人で村の市場に行った際に商人から自分のこづかいで買ったものだ。本の中身は、その商人が世界各地を巡った際の旅の内容をつづった言わば自叙伝のようなもので、エレリアはここから隠された記憶のヒントを得られないかと企み購入したわけだ。しかし、読み進めているうちに、今では記憶を取り戻すという初期の趣旨を忘れ、完全に本の中に広がる広大な世界に心を奪われていた。
すべての作業が終わり、ミサが濡れた手をエプロンで拭いていると、突然部屋に訪問者を告げるベルの音が鳴り響いた。
耳をつんざくような甲高い金属的な音に、二人は驚いて同時に玄関の方へ視線を向ける。
「あれ?こんな時間に誰が来たんだろう」
訪問を告げるベルは全部で三回鳴り響き、ミサがはてと首を傾げる。
確かに、普段なら朝や夕方にミサのポーションを求める客がこの家を訪ねて来るのだが、こんな真っ昼間に客が来ることは珍しかった。来るとしても、あらかじめ誰が何時に来るのか予定が入るので、今扉の向こうにいる客は何か急ぎの用事がある客だろう。
突然の来客に思い当たる節がないまま、ミサはとりあえず玄関へ向かった。
この家では扉を開けるまで誰か来たかは分からない。今まで家を訪れた人はみな仲の良い知人やポーションを買ってくれたお客さんだったが、もしかしたら今家の前にいるのは強盗の可能性だってある。
謎の緊張感に包まれたまま、ミサは恐る恐る玄関の扉へ手を伸ばした。
扉が徐々に開き、隙間から外の光が部屋へ漏れていく。
半分まで扉は開いたが、まだ訪問者の姿が見えない。しかし、奥の方に大勢の人影がいるように見えた。心なしか鎧のようなものも見えた気がする。
それは目の端で捉えた一瞬のことだったが、無意識的にミサの意識は緊張感に包まれた。
そして、とうとう扉が開ききり、ついに訪問者が姿を現した。
「…!?」
念願の訪問者の姿を確認したが、次の瞬間にはミサは言葉を失っていた。
今、目の前に見えているものは現実のものなのだろうか。それとも、暑く照りつける日差しが見せている幻なのか。
どちらとも分からないが、扉を開けたミサの前には、目を疑う景色があった。
こんな小さくて貧相な村の景色には似合わない光景。
そして、当の訪問者である男が、目を丸くして固まるミサを前に、毅然とした口調でこう告げた。
「我々はスカースレット王室直属の近衛兵団第1軍団『グリフェウス』だ」
ミサが扉を開け外を確認してから、明らかに彼女の様子が変わっていた。エレリアはキッチンで作業していた場から動いていないので、誰が来たのかはまだ把握していない。
とにかく、真っ先に扉を開けたミサが、それっきり動かなくなってしまった。通常なら、外を確認するや否やすぐに訪問者と会話を始めるだろうが、扉を開けて数秒経った今もミサは一言も発していない。それどころか、まるで呪いで石にでもされてしまったかのように固まっていた。
おかしい。明らかに、おかしい。
エレリアの本能がそう自身に向けてしきりに騒いでいた。
普通の訪問者ではない。
玄関の扉を支えたまま硬直したミサの後ろ姿から、家の外の様子など安易に予想できた。
いても立ってもいられなくなって、エレリアは急いでミサのもとへ駆け出した。
固まるミサの隣に立ち、エレリアも彼女と同じように外の景色を目にし、思わず息を呑んだ。
白銀の甲冑を身にした屈強な兵士達。数はそれほど多そうには見えない。おそらく10人程度。その中には高貴そうな白い馬に乗った兵士もおり、スカースレット王国の紋章が施されたのぼり旗が村の風になびいていた。
あまりの威圧感に、エレリアは思わず後ずさってしまった。
なぜこんな小さな村に、それもミサの家に王国の兵士たちがやって来たのだろうか。
すると、鐘を鳴らした張本人、おそらく兵士の隊長とおぼしき男が再び、固まる二人に対して口を開いた。
「宰相のご命令により全軍団を代表して、今日はこうしてアンバーさんの宅を訪問させてもらった。早速ではあるのだが、お邪魔させてもらう」
必要最低限の説明を施し、彼は一方的にミサの家へ上がろうと足を前に出した。
その時、ミサはやっと意識を現実に戻すことができた。
そして、緊張と恐怖の感情を帯びたたどたどしい口調で、勝手に家に上がろうとする訪問者にあわてて手の平を向けた。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってよ!!急に何!?なんで王国の兵士さんたちが、私の家に?!」
ミサはあまりの混乱に舌がうまく回っていなかった。冷や汗が全身から吹き出し、今にも腰が抜けてしまいそうだった。
すると、戸惑いを隠しきれていないミサに対して、訪問者の男は静かに告げた。
「詳しいことは中で話しましょう」
彼らの隊長と思われる男は、重そうな鎧を身につけたままミサの家に上がり込んだ。
急な訪問だったため、とりあえず一階のいつもの食卓に彼を案内した。他の兵士は誰も家に入らないように外で見張っているようだ。
まさか自分の家に王国の兵士を招き入れる時が来るなんて。
白昼夢のような出来事を前にミサはなんとなか正気を保ち、とりあえず彼に麦茶を一杯差し出した。
「こ、こんなものしかないんですけど、よかったら、ど、どうぞ…」
「うむ、卿の計らいに感謝する」
相変わらず冷静な態度で、男は静かにコップを受け取り、そのまま麦茶を一口すすった。王国の兵士、それも王様を守る兵士の隊長だけあって、何てことのない麦茶を飲む姿だけでも気品に溢れていた。ミサとエレリアの家に同居するもう一人のあの男とは大違いだ。
麦茶を半分まで飲み干すと、男は頭の上半分を覆うカブトを脱ぎおろした。
初めてはっきりと顔を見せた彼は、カブトを脱いだ際に乱れた自身の茶色い長髪を手で整えていた。以外に歳はミサとは随分と離れていないように見え、どちらかと言うと青年と呼ぶのにふさわしい風格を漂わせていた。
彼に麦茶を提供した後、ミサはテーブルを挟んで彼と向かい合うような形でイスに腰をおろした。
そして、ミサはその時初めて正面から彼の容姿をしっかり見ることができた。
きれいに切り揃えられた茶色い長髪に、どんな獲物も射ぬいてしまいそうな鋭い瞳。あまりに端正すぎる顔立ちに、ミサは油断すると気を持っていかれそうだった。
そして、そんな容姿以上に、彼からは他を圧倒するような絶大な風格が漂っていた。正直言って、こんな貧相な村にいてはいけないような存在。
そんな人物がなぜコックル村に、それもわざわざこの家に来たのかミサにとっては甚だ疑問だった。自分が何か知らないうちにとんでもないことをやらかしてしまったか。知らず知らずのうちに何か罪を犯してしまったのか。彼とテーブル越しに向き合う数秒間、ミサは必死に心当たりを探っていた。
「まずは、突然の会談のご了解、誠に感謝する。そして、私の名はグリフェウス隊第1軍団隊長マルロスだ。今後ともよろしく頼む」
「マ、マルロス、さん…」
整えられた語調と極めて謙遜した彼の態度に、ミサは冷や汗を滝のように流しながらぎこちなく頭で礼をした。「今後とも」と言っていたが、これから長い付き合いになるのか。
エレリアは二人の話の邪魔にならないようにキッチンで作業をしている様に見せかけ彼らの対談を遠くから眺めていたのだが、明らかにミサの身体が緊張で凍てついているのが見て分かった。
しかし、そんなミサの様子に構うことなく目の前の青年は早速話題を持ち出した。
「それでは、いきなりではあるのだが本題に入りたいと思う。『アンバー』さんはどこにいらっしゃるのだ?」
「えっ…、アンバーって、なんでおばあちゃんのこと知ってるの!?」
彼の口から飛び出た驚愕の事実に、ミサは思わずイスから立ち上がってしまった。
驚きを隠しきれない。
アンバー、とはミサを引き取ってくれたおばあちゃんの名前。なぜ彼はおばあちゃんのことを知っているのだろうか。思い当たる節がまったく見つからない。
目を丸くして微妙だにしないミサに向かって、マルロスが続けて口を開いた。
「我々はあの偉大なメディカルマイスターのアンバーさんに用があって、こうして卿の宅を訪問させてもらっている次第だ」
どうやら彼らの目的はミサのおばあちゃんにあったらしい。
マルロスの言っている通り、ミサのおばあちゃんはかつては王国でメディカルマイスターとして活躍していたことがあった。メディカルマイスターとは言わば医療の最高峰の職業を指す総称のことで、ミサのおばあちゃんはポーション医療を生業としてその名を王国中に知らしめていた。
しかし、彼女は高齢になったが故に王国の医療の現場を退き、その後はふるさとのコックル村でひっそりとこの世を後にしたのだった。
おそらく、マルロスたちはミサのおばあちゃんがすでにこの世にいないという事実を知らないようだった。
この時ミサは彼から王国の裏情報を聞き出したいと心の中で企てていた。わざわざ王国の一級兵士たちがこんな秘境の村にやって来るなんて、普通ならありえない。彼らには何か重大な問題を持っているに違いない。
マルロスはおばあちゃんの存在をミサが出し惜しみしているのだと疑っているみたいたが、ミサは彼女の安否の情報を一旦隠して、彼らがここを訪れた目的を再び問いかけた。
「でもなんで、あなたたちはおばあちゃんに用があるの?もしかして、王様が病気になっちゃったとか?」
「すまないが今回の案件は口外厳禁なもの故に、アンバーさん本人以外に口出しすることはできないのだ」
ミサの期待とは裏腹に、マルロスの口から冷たい返答が放たれる。
どうやら、彼はおばあちゃんと極秘で対談したいらしい。逆に言えば、それほど重要な目的をもってここを訪れているということだ。
王室直属の一級兵士たちによる訪問。
彼らには何か国家の存亡に関わる重大な問題が渦巻いているのか。
その時、ミサの脳裏にあの時のソウヤの言葉が一瞬よぎった。
それは、エレリアが村にやって来て二日目の朝食の時、食事を終えたソウヤが何の気なしに発した言葉。
『今、スカースレットで夢魔のパンデミックが起こっていて、王様までもが感染したらしい』。詳しいニュアンスは忘れたが、確か彼はこんなことを口にしていた気がする。
これがもし真実とすると、今彼らがこの家を訪ねてきた理由も言われるまでもなく悟ることができる。
しかし、本当にあの時ソウヤが言っていたは事実なのか。事実だとしたら、とんでもないことだ。
すると、マルロスは何かを思い出したような表情を浮かべ、ミサに眼差しを向けてきた。
「そちらの事情も考慮せず誠に恐縮ではあるのだが、彼女に会うまでは我々は何があろうと一切引き返さないつもりだ。そこのところ、ご了承いただきたい」
彼は非常に謙遜した態度で口を開いているが、蒼く光る目はミサを権威で威圧するかのように鋭く細められていた。それは、早くアンバーを出せと脅しているようにも感じられた。
相手は王様に直接仕える兵士の隊長。これは巧妙な口先で逃れられるようなシロモノではないだろう。
たが、ミサは言葉に詰まってしまった。
おばあちゃんはこの世にいない。この事実を、簡単に打ち明けてしまってもよいのだろうか。相手が王国からの使者だから故に、ミサの決断に迷いが生まれる。
「では、もう一度問おう。アンバーさんはどこにいらっしゃるのだ?」
なかなか質問に答えないミサに対して、再びマルロスが律儀な態度のまま返答を迫ってくる。
彼からの不可視の圧力にミサはますます焦りを感じた。
「えっと…、その、ですね…。私のおばあちゃんはどこにいるのかと言うと…」
こういう時はどうすればよいのだろうか。
素直に真実を言ってしまった方がいいのだろうか。ミサは幼い頃おばあちゃんから、嘘は後に大きな悲劇を招くとよく教え込まれていた。嘘をついてはいけない。ミサはこの言葉を胸に、今日まで素直な気持ちのまま生きてきたつもりだ。
しかし、ここで本当に事実を偽ることなく口にしてしまった場合どうなってしまうのか。もしかすると、おばあちゃんがこの世にいないと知ったマルロスはミサに失望してしまい、そのまま憤りで彼女を殺してしまうかもしれない。
逆に、おばあちゃんは外出中です、などと嘘をついたところで彼らを欺くことなどできるとも思えないし、後の結果も前者と同じだろう。
再びミサはマルロスを見つめた。
田舎の小娘に向けられる、王国兵士の脅迫じみた殺気の目線。
今話している相手は世界の戦線で戦うような殺しのプロだ。
そう思えば思うほど、どんどん彼の存在感が巨大化していき、呼吸が苦しくなるほどミサの意識を押し潰していった。
額から浮き出た脂汗が数滴、足の上で硬く握り閉めているミサの手の甲に落下する。動機が激しくなり、視界が明滅するのが自分でも分かった。
精神を削ぎ落とされるほど、ミサは苦渋の判断に迫られていた。真実を伝えるか否か、どちらを選べば正解なのか。
しかし、静かに問い詰めるマルロスの質問とミサの必死の葛藤は、ある一人の一言によってすべて解決した。
「確か、おばあちゃんってもう死んじゃったんじゃなかったっけ?」
エレリアの口から悠々自適に放たれた何気ない一言が、ミサとマルロスの見えない駆け引きの戦場を大きく切り裂いた。
その言葉を二人は同時に耳にし、そして同時に立ち上がった。
「ちょっとリアちゃん!?なんてこと言うの!!」
「それは誠か!?」
二人の興奮した叫び声が、畳み掛けてエレリアに向けられる。
いきなり二人に詰め寄られ、あまりの勢いにエレリアは少し乾いた笑みを浮かべたまま思わず後ずさってしまった。
「アンバーさんがこの世にいないとは、一体どういうことだ!!?」
迫真の表情を顔に張り付けたマルロスはエレリアとの距離を詰め、そのまま彼女の肩を掴んだ。
「ちょっと、何するの…!?」
「答えろ!!アンバーさんがもういないとはどういうことだ!」
「だから、ミサのおばあちゃんはもういない、ってそのままのことだよ…!!」
問い詰めるマルロスに体を激しく揺すられ、エレリアも負けじと眉を少し吊り上げて強気になって言い返した。
「なんで言っちゃうの…」
真実をあっさり口にしたエレリアに対して、ミサはイスに力なく座り落ち、呆れの深いため息を吐いた。
あれほど慎重に判断を選択していたのに、エレリアはこちらの思惑を計ることなくおばあちゃんの逝去を簡単に彼に伝えてしまった。おかげでマルロスは血相を変えて、エレリアを激しく問い詰めている。
しかし、彼が驚くのも無理は無い。ずっとおばあちゃんが生きている前提でここを訪れたわけだ。そんな肝心の探し人がいないと知った今、混乱してしまうのは当然のことだろう。
「もう、いい加減に放してよ!!」
いつまでも肩を掴んでいるマルロスに、我慢の限界に達したエレリアは思いっきり彼を両手で押し返した。
突き飛ばされたマルロスは、その反動で後ろへ少し体勢を崩してしまう。
「あっ!!」
王国の兵士に対するあまりに無礼なエレリアの行為に、ミサは血の気を失ってしまった。
このまま彼が激昂して、二人とも殺されてしまったらどうするのか。
エレリアは眉を寄せたまま、不満気な顔で自身の乱れた服のシワを手で直していた。
「…」
先ほどエレリアから押し飛ばされたマルロスはしばらくうつむいて黙り混んでいた。
急に寡黙になる彼に、ミサは緊張した面構えで固唾を飲んだ。
きっと、マルロスは怒りが込み上げてきて、黙り混んでいるに違いない。長い髪に隠れて横からだと彼の表情を伺うことはできなかったが、肩が細かく震えているのが分かった。
その時、ミサはマルロスから殺されるのを半分覚悟した。彼ならこんな田舎の民を殺すことは厭わないはずだ。腰に提げた剣で一撃だろう。
すると、彼が静かに口を開いた。
「アンバーさんはもういない。これは誠なのだな…?」
先までの強気を無くしたマルロスは今度はミサに視線を向けた。
「えっ…」
突然の彼の問いかけに、ミサはまたも言葉を詰まらせてしまった。
しかし、彼はすでにエレリアの口から真実を知ってしまった。故に、もう隠し通せることもできない。
「…はい、そうです。私のおばあちゃんはもうここにはいません…」
ミサはマルロスの顔色を伺いながら、弱々しく呟いた。
ついにミサもおばあちゃんの永去を認めた。
彼はどんな反応をするのだろうか。
ミサは再び冷や汗を流して、彼の様子をじっくり見つめた。
部屋にこれまで体験したことのない緊張感が満たされる。
「そうか…、そうだったのか…。彼女はすでに…」
ミサとエレリアの口から紡がれた真実に失望したマルロスは独り言を漏らす。よっぽど現実を認めたくないのか、下げた頭をなかなか上げようとしない。
エレリアとミサもお互い口を閉ざしたまま、マルロスの次の動向を見守っていた。
彼はおばあちゃんの不在をどう受け止めるのだろうか。
なかなか口を開かない彼に、ミサの体の中で張り詰める緊張感は最高潮に達していた。
呼吸が荒くなり、うまく体を支えることができない。
それは、少しでも気が緩むとそのまま意識を失ってしまいそうなほどのものだった。
対してエレリアは、見た限り冷静な態度を保ったままキッチンの側に立っている。
ミサからすると、エレリアのその強靭な精神力が羨ましかった。
どんなに緊張感で張り詰めた空気の中でも、変わらない表情でいられる。
もしかしたらこの緊張感を感じているのは自分だけなのかもしれない。いや、この緊張感自体、自分で作った幻のようなものなのか。ミサは黙りこくる軍人の彼を前に、ふとそんなことを思った。
すると、口を閉ざしていたマルロスが決意を表したように顔を上げた。
そして、再び食卓のイスに静かに座り、ミサとテーブル越しに向き合った。
「そちらの都合も考えず、突然押し掛けてすまなかった」
何を言い出すのかとミサは警戒していたが、彼の口から出たのは謝罪の言葉だった。
彼は呆気にとられるミサに対して、毅然とした態度で頭を下げた。再び軍人としての気品が彼から溢れ出す。
「これは、その詫びだ。微量ではあるが、受け取ってほしい」
そう言うと、彼は懐から一つの茶色い小袋を取り出し、テーブルの真ん中に置いた。重い金属の擦れる音が袋から漏れる。
何かの獣の分厚い皮でできた明らかに高級そうな小袋。
それは誰が見ようと一目で分かるほど明かな、お金の入っている袋だった。
テーブルの上に置かれたその袋をミサは言われるがまま手に取り、恐る恐るその袋の口を開けた。
「こ、こんなに…!?」
袋から溢れ出る異様な輝きに、ミサは目を限界まで見開いた。急な軍人の訪問といい、今目に見えてることは本当に現実なのだろうか。
「わ、わ、私、こんなに大量の金貨なんか受け取れませんっ!!」
「その金は、私たちの無礼に対する詫びと卿への敬意を表したものだ。遠慮はいらない」
彼の言うとおり、小袋の中には大量の金貨が嘘のように詰め込まれていた。
数は推測するに数十枚ほど入っているだろか。
ミサにとってはあまりに多すぎる金貨の量。
これだけあれば、しばらくは働かずに暮らしていける。
しかし、こちらは何もやっていないのにこんな大量のお金をもらうのは少し気が引ける。確かに向こうから突然押し掛けてきた時は驚いたが、それでも訳のない金は受け取れない。
しかし、そんなミサの制止を振り切り、マルロスは脱いだカブトを腋に抱える。
そして、彼はイスから立ち上がって、そのまま帰りの支度を始めた。
「それでは私は王国へ戻ることとしよう。今回私たちがここへ来たことは忘れてくれ。では」
彼からしたら、おばあちゃんのいないこの家にもうこれ以上の用は無いのだろう。
マルロスは最低限の別れの言葉を言い残して、ミサたちに背中を向けた。
結局最後まで彼は用件を教えてくれなかったが、もうミサからしたらそんなことはどうでも良かった。向こうがこちらに用は無いのなら、これ以上こちらから関わる必要もない。
仲間たちが待つ家の外へマルロスは歩を進め、玄関の扉の取っ手を握った。
これで彼とは永遠に会うことは無いだろう。
昼下がりに訪れた突然の出来事だったが、彼の役に立てないことが少しミサの中で心残りになっていた。しかし、できないことはできないのだから、これでいいはずだ。
寂寥感を背中から漂わせ、彼が扉を開けようとする。
すると、いきなりエレリアが口を開いた。
「ねぇ、ちょっと待って」
エレリアの呼び声は静寂に満ちた部屋の空気を伝って、ミサとマルロスの鼓膜を震わせた。
後ろから声を聞いたマルロスは背を向けたまま、取っ手を引こうとした手を止めた。
ミサは驚いて、声の主がいる方を急いで振り返る。
するとそこには真剣な眼差しでマルロスを見つめるエレリアの姿があった。
「なんであなたたちはこの家にやって来たの?事情を教えてよ」
真っ直ぐ射ぬくような視線で、エレリアはマルロスを見つめる。
しかし、彼は依然として彼女たちに背中を向けたまま、声だけを二人に送った。
「何回でも申し上げるが、これは公的な用件になる故に、すまないが卿たちにここで伝えることは立場上無理なのだ」
「もうどこにも頼るアテが無いんでしょ」
マルロスが言い終わるのと同時に、エレリアが即座に彼の心を揺さぶる一言を吐いた。
まるでマルロスの思惑を見透かしたようなエレリアの発言に、彼は思わず耳を動かした。ミサも初めは彼女の言っている意味が理解できず、自らの聞く耳を疑った。
「もう誰にも頼ることができない。だから、私たちの家に来たんだよね?」
念を押すようにつづけてエレリアがマルロスに問いを投げ掛けた。
「…」
しかし、マルロスは背中を向けたままずっと黙りこんでいる。確かにエレリアの声は耳に入っているだろうが、彼女の質問に返答しようとしない。
マルロスは今、何を思っているのだろう。
ただ言えるのは、エレリアの一言は確実に彼の苦悩の的を射ぬいていた。その気になれば今すぐ扉を開けてこの家から出ることだってできるだろうが、背を向けたまま彼はずっと口を閉ざしてその場で固まっていた。
それは、エレリアの次の一言にかすかな救いを求めているようにも見えた。
「最後までちゃんと事情を教えて。そしたら、おばあちゃんの弟子でもあるミサがなんとかしてくれるかも」
「ちょっと、リアちゃん!?」
いきなり放たれたエレリアのとんでもない発言に、当の本人であるミサが誰よりも速く反応する。
「なんとかしてくれるって、何てこと言ってるの!?」
「きっとマルロスさんたちは、おばあちゃんのポーションが欲しいからここに来たんだよ。だったら、ミサが代わりに…」
「ちょっと待ってよ!私が代わりにポーションを?無理だよ、いくらなんでもできっこないよ!!」
エレリアが提案した内容に対して、ミサはイスから立ち上がり子供のように言い訳じみた言葉をまくし立てる。
ミサはこれまで村人のために数えきれないほどポーションを作ってきた。用途は人それぞれで、病気の人のため、怪我を直すため、元気を出させるため、といったものだ。
きっとエレリアはおばあちゃんの代わりにミサにポーションの作成を提案したのだろう。
マルロスは今回の訪問の用件をかたくなに口にしようとしないが、ミサもエレリアも彼の案件については薄々ながらも察してはいた。
恐らく隣の王国に何かしらの異変が起こっているのは、あの時ソウヤが言っていた通り間違いないのないことだ。だから、マルロスはこうしておばあちゃんのポーションを求めてここへやって来た。
しかし、だからと言って、ミサにはエレリアの提案には賛成できなかった。
ポーション作りはあくまで趣味程度のもの。
王国の軍人に渡せるようなシロモノではないのだ。
「第一、私はポーションの専門学者でもなんでもないし…」
「ミサ、おばあちゃんのあの言葉、忘れちゃったの?」
「うっ…」
エレリアの鋭い指摘に、ミサは喉まで来ていた言葉を思わず詰まらせてしまった。
おばあちゃんのあの言葉。
それは、ミサが今日まで大切に守ってきた形見のようなものだった。
その言葉を言われてしまっては、言い訳することはできない。
「マルロスさん、事情を教えてください。王国では今何が起こってるんですか」
再びエレリアがマルロスの背中に向かって問いかける。
「…」
依然として黙りこくるマルロス。
やはり、いくら頼みこんでも簡単には教えてくれそうにもない。要求は失敗か。
そう思っていた矢先、急にマルロスが体を二人の方へ翻した。
そして、先ほど帰るときとはうってかわって、何か意を決したような様子で口を開いた。
「そうだな、しかたない。アンバーさんがこの世にいないと知った今、この話をして卿たちの心が少しでも変わると言うなら、特別に話してあげてもいいだろう」
ようやく聞けたその言葉に、エレリアとミサは少し笑顔になる。
「ただし!今から私が話す話はすべて国家の存亡に関わる極秘情報だ。絶対に軽々しく口外へ漏らしてはいけないことを忘れるな。もしこの情報が漏れた時の卿たちの処置は…、もちろん分かっているだろうな?」
突然神妙な顔つきで語り出すマルロスの言葉には、巨大な権力で守れた揺るがない説得力が秘められていた。
ミサは思わず生唾を飲み込む。
いよいよ、とんでもないことになってしまった。
マルロスが再びイスに座り直し、エレリアもミサの隣のイスに腰をおろした。
その間、ミサの心臓ははち切れそうになるほど激しく鼓動していた。
緊張と動揺が、意識を支配する。
これからマルロスが語る話を聞いて、自分の未来はどうなってしまうのか。
まだこの時のミサは、彼の話で将来の重要な分岐点に立たされることなど少しも思ってもいなかった。
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