崖っぷち貴族の私が「悪魔令嬢」の侍女になりました!

もりの

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人生、終わった。

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 長い走馬灯を見終わったリリアーナは、ぎこちなく顔を上げた。
 怒りで声も出ないのか、レティシアは俯き黙ったまま肩を震わせている。女性にしては身長の高い彼女が背を曲げて顔を俯かせていると、まるで大きな枝垂れ柳のようだ。不気味な迫力にリリアーナは思わずジリ、と後ずさった。

 レティシアはなおも沈黙している。

 さすがのリリアーナでもここから巻き返せるとは思っていなかった。なにせこの家にきたのは数日前。ずっと拒まれていたから、レティシア様にお会いしたのはお顔合わせも合わせて今日で2回目。しかも今のこれは全くの偶然で、リリアーナが人形を真っ二つにしてしまったところへ、運悪く彼女が帰ってきてしまったという最悪のシチュエーションだった。

 もういっそ今バッサリとクビをはねてくれたら楽なのに、などと考えてしまうほど、辺りには妙な静けさが漂っており、それがまた一層恐怖を駆り立てる。

 もちろんできれば死にたくはないが、リリアーナには「罰せられても仕方がない」という諦めも湧いてきていた。リリアーナがレティシア様の大切な物を壊してしまったことは変えようのない事実なのだ。

 恐怖と拮抗するように、膨れ上がってくる諦念と罪悪感。そうだ、せめて命あるうちにお詫びしなくては。相手が誰であろうと悪いのは自分なのだから。

 「申し訳、ございません……」

 リリアーナは深く首を垂れた。すると、ずっと黙り込んでいたレティシアもようやく口を開いた。

 「出て、行って」

 リリアーナは恐る恐る顔を上げた。レティシアの声は震えていて彼女がまだ怒っていることは明確だったが、レティシアはそれ以上なにも言わず、すっと扉の方を指さした。リリアーナは思わず飛び出しそうになった「それだけ?」という言葉を飲み込んだ。

 「……かしこまりました」

 リリアーナはもう一度跪礼すると、人形を抱えて部屋から出た。正直拍子抜けだったが、とりあえず今この瞬間の命は助かったようだった。


 * * *


 職人に壊れた人形を預けたリリアーナは、足音を吸い込む上質なカーペットの上をぽてぽてと歩きながら、思案していた。

 これはつまりお咎めなしということだろうか。いや、後から処分が言い渡されるのかもしれない。だって、閉まる扉の隙間からチラリと見えたレティシア様はやっぱり真っ赤な顔をしていたもの。

 震える拳、眉間には皺、ギュッと食いしばられた白い唇。特に目は恐ろしいほどに鋭かった。キッとつり上がった目。青い瞳は冷やかな色をしていたが、白目は真っ赤に充血していて……

 と、そこまで思い出して、リリアーナは違和感を覚えた。

 なにかおかしい。そもそも噂によるとレティシア様は怒ると衝動的に行動するお人だという話だった。しかし彼女は叫び声ひとつ上げず、自室からリリアーナを締め出しただけだった。

 それに扉の隙間から見えた彼女は、よく考えれば、どう見ても。

 頭の中にボンヤリとかかっていたモヤが少しずつ晴れていき、真実の姿があらわになっていく。
 気づけばリリアーナは踵を返し、レティシアの部屋へと駆け出していた。
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