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人生、終わった。
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しおりを挟む「レティシア様! リリアーナです!」
鍵がかかっていることがもどかしくて、いささか乱暴に扉を叩く。疑念が確信に変わるのを感じながらリリアーナは初日に預かっていた合鍵を取り出した。
「申し訳ございません、開けさせて頂きます!」
半ば叫ぶような声に反応して、部屋の中からはドタバタした足音となにか倒したような金属音が聴こえてきたが、先刻まで死を覚悟していたリリアーナにもはや怖いものはない。
転がり込むようにして入室すると、レティシアはベッドの上に座り込んで肌掛け布団に包まっていた。
「レティシア様……顔をお上げください」
「いやっ……」
「私も嫌です。もう一度きちんと謝罪させてください」
頭から覆い隠している腕を無理矢理解くと、レティシアの顔が露わになる。彼女の表情を見てリリアーナは「やっぱり」と思った。
彼女は、目元を真っ赤に腫らして泣いていた。
時折しゃくりあげながらポロポロと涙をこぼしている彼女は、冷酷無比の「悪魔令嬢」とは程遠く、年相応のあどけない少女のように見えた。
リリアーナの胸がギュッと締め付けられる。なぜなら彼女をこんな風に泣かせているのはきっとリリアーナだからだ。
また顔を隠そうとする腕を優しく退かして、海のように青い彼女の双眸を真っ直ぐ見つめる。
「レティシア様、本当に、申し訳ございませんでした。……大切なお人形を、壊してしまって」
レティシアの目からまた涙が溢れ出す。
やはりそうだった。彼女は怒っていた訳ではなかったのだ。顔を真っ赤にして、肩を震わせて、泣きそうになるのを必死に堪えていたのだ。
そう、思い返してみれば、扉の隙間から見えた彼女は確かに、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
どういう訳かは知らないが……相当思い入れのある人形だったのだろうか。あの「悪魔令嬢」にこんなに弱々しい一面があったなんて。
噂話の中のレティシア・モンフォルルと目の前で泣きじゃくっているレティシア・モンフォルルとが一致しなくて混乱する。
今のレティシアはあまりに痛ましかった。今まで聞いたどんな極悪非道の噂も忘れてしまうほどに。そしてこれは不謹慎かもしれないが……泣いているレティシアは美しかった。
特にサファイアのような大きな瞳は涙で潤んで一層輝きを増し、魅入られてしまいそうなほど美しい。
彼女はそれこそ人形のように目鼻立ちが整っている。だからこそ、険しい表情がより恐ろしく見えるのだろう、とリリアーナは思った。
「あの、お人形ですが……人形職人に渡してきました。破片がきれいに残っているから、直せるだろう、とのことです」
「……ほ」
ほ、とひと文字発してから、レティシアはまた怒ったような顔になった。も、もしかして、勝手に直してしまったらいけなかっただろうか。せっかく一命を取り留めたというのに……またやらかした?
リリアーナは背中に流れる冷や汗を感じながら、レティシアの言葉を待った。
「ほん、とう?」
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