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絶対零度の瞳
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しおりを挟む筆談を交えながら、リリアーナは辛抱強くレティシアの話を聞いた。彼女が言うには、こうだった。
実はレティシアは、鶏肉のソテーが大好物なのだという。
特に今日辞めてしまったシェフの作る鶏肉のソテーは本当に美味しくて、感激した彼女は直接お礼を言おうと、今まで何度も何度も彼を呼び出していたのだそうだ。
けれど、相手は一度も話したことのない使用人、しかも屈強な男性。呼び出したものはいいものの恐怖と緊張のあまりどうしても感謝を伝えることができなくて、毎回失敗してしまっていたらしい。
なんとなく事情が読めてきたリリアーナは、念のため気になる点を確認した。
「ええと……何度も呼び出したというのは……具体的にどのくらいの回数でしょう?」
レティシアは泣きすぎて鼻水が詰まった鼻をスンスンと鳴らしながら、きれいな文字でこう記した。
“大体1週間に1度か2度。鶏肉のソテーが出た日に”
……ということはあのシェフ、数日ごとに呼び出されては、あの絶対零度の瞳で睨みつけられていたということか。
リリアーナは思わず絶句したが、レティシアはなにが悪かったのかよく分かっていない様子だった。しかし自分が悪いのではないか、ということだけは感じていたようで、申し訳なさそうにこう記した。
“きっとわたくしが「美味しかった」とお伝えできなかったから、気を病んでしまわれたのだわ”
リリアーナは顔を覆ってため息をついた。その無邪気な暴力が一体いつから行われていたのか考えると頭が痛くなる。この分だと他の噂もこんがらがった事情があるのだろう。
けれどこれでようやく「悪魔令嬢」の正体が分かった。リリアーナは今まで感じていた全ての違和感が、真実という形に繋ぎ合わさっていくのを感じていた。レティシア様は、きっと悪魔などではない。
ただ、とんでもなく人付き合いが下手だというだけなのだ。
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