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恐怖のお茶会デビュー
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しおりを挟む大丈夫、いざとなったら「気分が悪い」と言って帰ればいい。実際、今のレティシアの顔色は日陰にいても分かるほど青白いので、その言い訳は十分な説得力を持つだろう。
「レティシア様はなにか素敵なことを考えていてください。ほら、あの美味しそうなカップケーキとか……あっ、サーシャ様のドレスもかわいらしくないですか?」
ずっと下を向いていたレティシアの目線がようやく上に上がってくる。案の定、彼女はサーシャのドレスが気に入ったようだった。カチコチだった表情もほんの少し柔らかくなっている。いつも彼女の顔を近くで見ているリリアーナくらいしか気づかないくらい、ほんの少しだが。
“素敵ね。それに、とてもお似合いだわ”
「直接言って差し上げたらいいのに……」
“そうしたいのは山々だけれど、今のわたくしには高すぎる壁だわ”
相変わらず文字は震えているが、周りを気にする余裕は出てきたようだ。これならなんとか乗り切れる。とりあえず今日は何事もなくお茶会を終えることを目標にしよう。
リリアーナが低すぎる目標を立てていると、シャーロットが再びこちらを向いてニコッと笑った。
笑うたびにファンファーレが鳴っているんじゃないかというくらい華やかな笑顔。レティシアは思わずウッと呻きそうになったが、拳を握りしめることでなんとか堪えた。
「ねえレティシアちゃん! これ、私のお気に入りなのよ。こちらじゃ珍しい桃のフレーバーティーなの。ぜひ飲んでみて!」
お菓子にも紅茶にも手をつけていないレティシアを気遣って声をかけてくれたのだろう。気が回るしとても優しい方だ。しかしその優しさは人間初心者のレティシアにとって全くの逆効果だった。
おさまってきていたレティシアの手の震えは、ここ一番の激しさを記録していた。地面から震えているのかと思うくらいに頭の先までブルブルと震えている。
それになんと言っても顔。癖になっているせいで眉間には深い皺が寄っていた。震えながらそんな顔をしているものだから、客観的に見ると……どう見てもレティシアは怒っていた。
アリシア夫人のご友人たちがヒッと息を飲んだのが聞こえた。これはまずい。
「レティシア様、お顔! お顔が険しくなってらっしゃいます!」
リリアーナが必死に囁くも、レティシアの頭は「すすめられた紅茶を飲む」というミッションでいっぱいになっているようで、半ば聞こえていない様子だった。
震えの止まらないレティシアの指が、ティーカップをつまむ。
いやいやいや! そんな手で持ったら大変なことに、ダメダメ、絶対にダメー!
リリアーナの心の叫びは届かず、レティシアはティーカップを持ち上げた。その瞬間、あり得ないほどの震えに耐えられなかったティーカップは、弾き飛ばされるように宙を舞い、それはそれはきれいな放物線を描いて……
サーシャのドレスに、直撃した。
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