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恐怖のお茶会デビュー
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しおりを挟む空は青く晴れ渡り、低木は一層青々と茂っている。よく手入れされた庭園にはアリシア夫人の好きな深紅の薔薇が私を見て! と言わんばかりに咲き誇っていた。
まさに絶好のお茶会日和。芝の上に広げられたティータイム用の机や椅子たちは、控えめながらも細かな装飾が施されている。日除けのパラソルにすら、さりげない金糸の刺繍。家具選びひとつとっても、モンフォルル家の品位の高さが伺える。
色とりどりのお茶菓子を挟んでレティシアのちょうど向かいに座っている向日葵色のドレスのご婦人は、太陽のような笑顔でレティシアに笑いかけた。
「レティシアちゃん、大きくなったわね! うちの子たちがまだまだ子供に見えるわあ」
「ちょっとお母様、やめてよ!」
シャーロットは身体が発光しているのでは?と思うくらいに明るいご婦人だった。髪も目も、太陽の光を吸い込んだような蜂蜜色。背の高いレティシアがいつもより小さく見えるほどにパワフルで、くだけた話し方をするのに不思議と下品な印象は受けない。
隣でシャーロットをいさめているローズピンクのドレスの少女は、彼女の娘のサーシャ。蜂蜜色の髪に結ばれているリボンはドレスと同じローズピンク。シフォンのリボンは彼女が動くたび蝶のようにふわふわと揺れる。彼女はレティシアと同い年の15歳だそうだが、レティシアが大人びているからか、少し幼く見えた。
そして当のレティシアはというと……
……特訓も虚しく、身体も表情もカチコチに固まってしまっていた。元々色白の肌は血の気が引いてより白く、おろしたての藍色のドレスもなんだか色褪せて見える。
レティシアがカチコチに固まっているのにはもうひとつ訳があった。これは完全に誤算だったのだが、お茶会にはシャーロット親子以外にも参加者がいたのだ。
アリシア夫人の友人らしきご婦人が数人。恐らく毎日のようにこの会に参加しているアリシア夫人の馴染みのお茶友だちなのだろう。
レティシアが自室を出るのは食事と庭の散歩の時くらいで、それ以外はずっと部屋こもって本を読んで過ごすから、レティシアもリリアーナもそんな事情など全く知らなかった。てっきり身内だけのお茶会だと思っていたのに。
もちろんご婦人たちにとってもレティシアがお茶会に参加することは青天の霹靂だった。その証拠に皆レティシア以上に真っ青な顔でぎこちない笑顔を浮かべている。まさか自分たちがあの「悪魔令嬢」とお茶の席を共にするなんて夢にも思わなかったのだろう。
ご機嫌なアリシア夫人と朗らかなシャーロットは、両方が両方とも蛇に睨まれた蛙状態になっていることに気づいていないようだ。
リリアーナは考えを巡らせていた。ここは私がどうにかしなくてはいけない。
机の下から出てきた手帳には今までで一番読みづらい字で“知らない人” “帰りたい”と書いてある。リリアーナはさすがに申し訳ないことをした、と思いながら小声でレティシアを励ました。
「大丈夫ですよ、なにかあれば私が代わりにお話ししますから。合図したらお口元を隠して、私になにか言う振りをしてください」
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