崖っぷち貴族の私が「悪魔令嬢」の侍女になりました!

もりの

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実践あるのみ!

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 「レティシア様! これはいい機会です、お茶会に参加なされては?」

 そんな提案をせずともレティシアも参加するのが普通なのだが、極度の人見知りである彼女は身内のお茶会ですら不参加を貫いていた。その証拠にアリシア夫人もレティシアには声をかけてこない。

 けれど、リリアーナはこの機会を逃す手はないと思っていた。人見知りを直そうと特訓してはいるが、それにも限界がある。リリアーナは一番手っ取り早くて効果的なのは多くの人々と関わることだと考えていた。このお茶会はその第一歩だ。

 もちろんリリアーナもレティシアを強引に社交の場へ引っ張りだそうとしている訳ではない。ちゃんと彼女に配慮した上の判断だ。いつものお茶会にはいかにもレティシアが怯えそうな気取った貴族のご婦人たちが集まるが、今回のお茶会に呼ばれるのは叔母と従姉妹である。レティシアも顔くらいは知っているだろうし、練習にはうってつけだと思ったのだ。

 しかし、机の下から出てきた手帳にはいつもより乱れた文字が記されていた。

 “わたくしには無理よ!”

 「大丈夫ですよ! 困ったら私がお助け致します!」

 ヒソヒソと言い合いをしていると、娘とその侍女の不審な様子に気づいたモンフォルル公爵が片眉を上げた。

 「……レティシア? どうかしたかい?」

 レティシアの肩が目に見えて分かるくらいビクッと跳ね上がる。

 反応があること自体が珍しいのに、こうな風にあからさまに驚いたのが分かるなんて、一体どうしたことだろうか。モンフォルル公爵は不審そうに眉をひそめた。アリシア夫人も驚いたようで、目を丸くしてジッとわが子を見つめている。

 レティシアがなにか言い出す前に、リリアーナはすかさず前に出て一礼した。

 「恐れながら、ご主人様」
 「なんだ。言ってみなさい」
 「レティシア様もそのお茶会に参加なさりたいと」

 レティシアがギョッとした様子でリリアーナを見上げる。今日のレティシアは今までに見たことがないほど表情が豊かだ、とリリアーナは思った。特に今の顔は完璧だ。完璧に困惑している。

 レティシアが困惑しているということよりも、練習の成果が目に見えて現れていることに嬉しくなったリリアーナは、彼女ににっこりと笑いかけた。
 ものすごく困っているというのになぜか笑いかけてくる侍女に、レティシアは恐怖と混乱を覚えながらも手帳にペンを走らせる。

 しかしレティシアが拒否するよりも早く、アリシア夫人が嬉しそうに声を弾ませた。

 「レティシアがそんな風に言うなんて珍しいわね。とびきり美味しいお菓子を用意させましょう」
 「そうだな。レティシア、この間仕立てたばかりの藍色のドレスがあるだろう。それを着ていくといい」

 モンフォルル公爵も目を細めて微笑んでいる。両親が嬉しそうにお茶会の話を進めはじめたものだから、「やめる」などと言い出せなくなったレティシアは、もう、頷くしかなかった。
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