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実践あるのみ!
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しおりを挟むレティシアの人見知りを直すと宣言してから、リリアーナはことあるごとに彼女に笑顔の特訓を行っていた。レティシアが緊張しないよう、ふたりきりの時を選んでは練習、練習、練習。今日も庭を散歩しながら、リリアーナはレティシアに向かってニッコリ笑ってみせた。
「レティシア様! にー!」
「に、にー……」
固まりきった表情筋が笑顔を作るのは難しく、レティシアの笑顔はかなりぎこちないものだった。これでもマシにはなってきたのだが、なんというか……ハッキリ言ってしまうと、怖い。すごく。
確かに笑えてはいる。これでも進歩した方だ。だけど怖いものは怖い。
唇はなんとか笑みの形をとっているが、ぎこちなさが悪い方に働いてなぜか嘲笑しているように見える。練習不足な目元あたりの筋肉は固まったままなので目は全然笑っていなくて余計に怖い。しかも自信がないのか俯きがちに笑うせいで、背の高い彼女はどうも人を見下しているように見えてしまって、まるでお芝居に出てくる悪の黒幕のような謎の迫力が出ている。
これがただの笑顔の練習だと知っているリリアーナでさえ怖いのだから、他の人が見たらまたあることないこと言われてしまいそうだ。
人見知りを直すと意気込んだはいいが、元々人当たりがいいと自負しているリリアーナにとって、息をするようにできることを教えるというのは、呼吸の仕方を教えるのと同じくらい難しい。
笑顔以外にも克服すべきことは沢山あるのに、中々前に進んでいる気がしなくてリリアーナは頭を悩ませていた。
なにかいい方法はないものか。
* * *
「そういえば……久しぶりに弟家族が帰国してくるらしくてな」
モンフォルル公爵は口元を拭きながらそう言った。彼の動きに合わせて燭台の火がゆらゆらと揺らめく。豪勢なディナー料理たちに負けず劣らず、あでやかな黒のドレスを纏ったアリシア夫人は、ピンと伸ばした姿勢を崩すことなくほとんど視線だけで公爵の方を向いた。
「……オーウェン様が? お仕事の都合かしら」
「ああ。顔は見せにくるようだが、昼に用事を済ませたらまたすぐ船旅に戻るそうだ。相変わらず嵐のような弟だよ」
「あら、残念だわ」
側に控えていた使用人によって赤ワインが注ぎ足され、グラスの中で芳醇なぶどうの香りが弾ける。夫人はグラスを手に取って、注がれたばかりのワインをひとくち口に含んだ。
「それなら、お昼前のお茶会にシャーロット様たちをご招待しても?」
夫人の提案に、モンフォルル公爵は「もちろん」と頷いた。
オーウェンというのはモンフォルル公爵の弟なのだが、宝石集めの趣味が高じてモンフォルル家を出た変わり者で、今は世界中を旅する宝石商をやっているらしい。そしてシャーロットというのは彼の妻。オーウェンは家族で帰国するということだから、アリシア夫人はシャーロットと彼らの娘をお茶会に誘おうとしているのだろう。
リリアーナはいつものように目を伏せたままレティシアの背後で息を潜めながら話を聞いていたのだが、お茶会の話が出た瞬間、いても経ってもいられずにかがみ込み、興奮気味に囁いた。
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