崖っぷち貴族の私が「悪魔令嬢」の侍女になりました!

もりの

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いざ、決戦の舞台へ。

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 夜だというのにダンスホールはまるで昼間のような明るさで、レティシアは思わず目を細めた。

 見渡す限り人、人、人。ピシッとした礼装に身を包んだ紳士たちの隣には、もれなく色とりどりのドレスを纏った淑女たちが寄り添っている。精鋭の音楽隊たちによる背景音楽と人々の話し声が混ざり合い、空気にすら色がついているかのように賑やかだった。

 人々の華やかさもさることながら、ダンスホールも小国にしては立派なものだ。高い天井には蝋燭の光をキラキラと反射させるクリスタルのシャンデリア。真っ白な大理石の壁には綿密な彫刻が施され、ホールをより明るく見せている。床には白と黒の大理石が複雑に組み合わされ、美しい模様が浮かび上がっていた。

 周囲の人々がモンフォルル一家の到着に気づくと、小さな騒めきが波のようにホール中へ伝わっていくのが分かった。
 中には「あの『悪魔令嬢』が来たぞ」という、好奇の目もあったが、どちらかというと感嘆の声を上げている人の方が多かった。

 モンフォルル公爵の礼装はコートもズボンもワインレッドのビロードで仕立て。真っ白なシルクのベストには純金のボタンが踊る。形はクラシカルだが決して古臭くなく、彼の威厳をより引き立てていた。

 彼に手を引かれて隣を歩くアリシア夫人のドレスは、彼女の好きな深紅のドレス。他の色はほとんど入れずに、繊細なレースや、所々に縫い付けられたルビーが内から滲み出るような絢爛さを演出していて、その立ち姿はまるで真っ赤な薔薇そのものだった。

 そう、モンフォルル家は高貴な血筋の一族であると共に、皆揃って美しい一族でもあるのだ。王に認められた貴く美しい彼らはまさに貴族たちの憧れ。皆が騒めくのも自然なことだった。

 リリアーナは隣を歩くレティシアを盗み見ながら、ほう、とため息をついた。

 確かに彼女の両親たちは美しいけれど、今宵のレティシアは一際美しいと思う。暗がりの下ではただのブルーに見えたドレスは、明かりに照らされるたび緑や紫がかった色に反射している。モンフォルル家にだけ献上されている、特別な布。レティシアのお披露目だから、と両親が選んだものだ。

 レティシアが歩を進めるたびドレスに縫い付けられたクリスタルが星のように瞬く。彼女はまるで夜空を纏っているかのようだった。金の御髪にはモンフォルル家に代々伝わる金のティアラが輝いている。夜の女神が舞い降りて来たのだと言われたら信じてしまいそうだ。彼女はそれほどまでに近寄り難い美しさを放っていた。

 「皆、揃ったようだな」

 レティシアに見惚れていたリリアーナはハッと前を向く。周囲の騒めきも自然と鎮まって、皆の注目はホールの最奥へと集まる。

 皆の視線の先にいたのは白金の髭をたくわえた男性。同じく白金の長い巻毛を後ろで一つに括り、深緑のローブをゆったりと羽織って、彼は上品な微笑みをたたえていた。

 その風貌のせいか、落ち着いた雰囲気のせいか、一見かなり歳を重ねているように見えるが、よく見れば礼服の上からも分かるほど張りのある筋肉質に、艶やかな肌。歳は恐らく、モンフォルル公爵と同じくらいだろう。背丈は彼の方が少し小さいか。しかしなぜだか、公爵よりもずっと大きく見える。一瞬で空間を支配してしまうほどの存在感。

 彼は聡明そうなグレーの瞳を細めると、彼は再び口を開いた。

 「今宵はお集まりいただきありがたく思う。皆、存分に踊り、宴を楽しんでいってくれ」

 そう、彼こそがこの舞踏会の主催者、エデンガード王だ。
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