崖っぷち貴族の私が「悪魔令嬢」の侍女になりました!

もりの

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雛鳥と心配の種

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 今のところ直接手を下してくるような危険性はない。それならば彼女を傷つけないために、ひっそりと彼女を守っていくのが得策だろう。

 もちろんリリアーナだけの力でレティシアを守ることは難しい。だから、彼女の両親にはそれとなく報告しておいた。これで多少護衛が増えたり、監視が厳しくなったとしても不自然なことではない。レティシアがなにかに勘づくこともない。

 守りは万全とくれば、あとはその何者かのことを秘密裏に調べて、問題を解決すればいいだけ。レティシアは今、とてもいい方向に向かっていると思う。だからこのまま、なんの心配もなく前を向いて進み続けてほしい。そのためにも、普段通り振る舞うのがリリアーナの役目。

 「リリアーナ、だい、じょうぶ?」

 不安感が顔に出ていたのだろうか。豊かな表情を褒められることが多いリリアーナだが、こういう時につい思っていることが顔に出てしまうのは玉にキズだ。

 「あ……いえ……大丈夫ですよ」

 リリアーナは内心焦りながらも作り笑いをした。さすがのレティシアもその表情には違和感を覚えたのか、訝しげに眉を顰める。

 レティシアがそういう顔をすると相変わらずギョッとするほど怖いのだが、特訓のおかげか、リリアーナにはちゃんと見分けがついていた。これは心配の表情だ。

 長い文章を話すのはまだ難しいようで、レティシアは手帳を取り出した。どこへ行くにもこの手帳とペンはすっかり必需品となっている。レティシアはサラサラとペンを走らせると、例の「心配の表情」で手帳を差し出した。
 
 “お母様から、なにか悪い知らせでも届いたの?”

 レティシアはリリアーナの机の上に視線をやった。そこにはレティシアが来る前に読んでいた手紙が散乱している。

 「ええ……やっぱり不作が続いているようで。それも終息するどころかむしろ広がっているみたいなんです」

 リリアーナが不安そうにしていのはこの悪い知らせのせいだったのだと、レティシアは納得したようだった。

 よかった、上手く誤魔化せた。

 リリアーナは内心後ろめたさを感じながらもホッとしていた。嘘はついていない。これも心配の種であることには違いないのだ。

 リリアーナが多額の仕送りを送っているからまだ余裕を持って暮らせているようだが、きっとそれも長くは持たない。これ以上不作が続くようであれば領民たちの暮らしが立ち行かなくなってくる。そうなればリリアーナの両親は身銭を切って領民たちを助けようとするだろう。彼らはそういう人たちだ。

 早いうちに原因を突き止めなければ、お家が没落するとか言っている場合ではなくなってくる。人の生き死にに関わってくる大問題だ。

 「肥料を撒いてみたり、いろんな治療薬を撒いてみたり……手は尽くしているようなのですが、どんな作物も枯れてしまうみたいで」

 “それは心配ね。お父様に相談してみましょうか?”

 「ありがとう存じます。ですが、心配には及びません。父が国の調査団に派遣要請をしたそうなので、きっと今度こそ原因が分かると思います」

 “それなら、いいのだけど”

 レティシアは少し安心したのか、小さく欠伸をした。それを見てリリアーナは今があまりにも早朝だということを思い出す。いつもならレティシアもまだぐっすり眠っている時間だ。それは眠いはずである。

 「レティシア様、お部屋へ戻りましょう。ここは冷えます」
 「でも……」

 寝かされてしまう、と気づいたレティシアがささやかな抵抗の声を上げる。彼女はどこまでもリリアーナと一緒にいたいのだ。それはもう、眠っている時までもずっと。

 「大丈夫ですよ、ずっとお側におりますから」
 「……ほん、とう?」
 「ええ、本当ですよ」

 ごめんなさい、レティシア様。めちゃくちゃ嘘です。

 リリアーナはにっこり笑って、膝掛けをレティシアの肩にかけ直した。日中ピッタリとリリアーナにくっついているレティシアは、思ったよりも大人しく立ち上がる。フラフラと歩き出した彼女の背中をリリアーナは優しく支えた。レティシアも本当は眠くて眠くてしょうがなかったのだ。

 早起きの小鳥の鳴き声を聞きながら、ふたりはレティシアの部屋へと戻っていった。リリアーナに言いくるめられて、まんまと寝かされてしまったレティシアは、次に目が覚めた時にようやく騙されたことに気づいたのだった。
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