崖っぷち貴族の私が「悪魔令嬢」の侍女になりました!

もりの

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あなたこそ運命の人ですわ!

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 あくる日の午後、1階の玄関ホールから騒がしい声が聞こえてきた。あまりに長い間騒ぎ立てているものだから、部屋にこもっているレティシアもさすがに不安そうに下の様子を伺っている。

 「私、見て参ります」

 レティシアの宝飾品の手入れをしていたリリアーナがすっくと立ち上がった。

 レティシアはブンブンと首を横に振って彼女を止めようとしたが、リリアーナの我慢はもう限界に達していた。ここまでくるともう、やかましいとかそんなことはどうでもよかった。

 この騒ぎの元凶が気になって気になって仕方がない。

 嫌悪感や不安感よりも、圧倒的に好奇心が優っている。時折大胆な行動に出るリリアーナは、気持ちの上でもかなり勇敢な方だった。

 “どうしても行くというのなら、わたくしも行く”

 そしてレティシアはどうしてもリリアーナと一緒にいたいらしかった。舞踏会の時のことがあったせいで、彼女は特に、ひとりで部屋に置いていかれることには敏感になっていた。

 「ですが、もしかしたら危険な状況かも……」

 “それだったら、とっくの昔に逃げるよう言われているわ”

 「……確かに」

 リリアーナに影響されたのか、よっぽどひとりになるのが嫌なのか、レティシアは震えながらも立ち上がった。そのままリリアーナに近づいていって、彼女のドレスのスカートをひしと掴む。

 「……危なかったら、すぐに戻りましょうね」

 好奇心に負けたリリアーナはレティシアを背にして歩き出す。レティシアは彼女の背中を見つめながらコクリと頷いた。



* * *



 「無礼ですわよ! 離しなさい!」

 玄関ホールで騒いでいたのは紫色のドレスの少女だった。振り乱したミルクティー色の髪はただ垂らしているのではなく後ろがきちんと編み込まれている。ドレスも上質な生地で仕立てられているようだし、パッと見た感じでは恐らくどこかのご令嬢だろう。

 間違ってもこんなところで大声を上げて、ドレスを翻しているような人ではないはずだ。

 使用人たちは彼女を取り囲んで触れるか触れないかの距離でどうしようかと困り果てている様子だった。やはりどこかのご令嬢なのだろう。それも、迂闊に取り押さえることもできないくらいには高貴な生まれの。

 リリアーナは階段の手すりからひょっこりと頭を出し、その異様な光景を眺めていた。紫のドレスの令嬢は、それを目ざとく見つけて一際大きな声を上げた。

 「ああ、見つけましたわ! わたくしの運命の人!」
 「えっ?!」

 唐突に向けられた大声にリリアーナの後ろに隠れていたレティシアがピョコンと跳び上がる。リリアーナは驚きつつも感心した。人って驚くと本当に跳び上がるものなんだ。演劇の世界だけだと思ってた。

 そんなことを思っている内に紫のドレスの令嬢は階段を駆け上り、気づけばリリアーナの目の前で深々とお辞儀をしていた。

 「お会いしたかったですわ、片翅かたはねの君!」
 「か、カタハネのキミ?」

 グイグイと迫ってくる彼女に圧倒されるリリアーナと、その後ろですっかり気配を消して震えているレティシア。謎の呼び名まで飛び出して、ふたりはすっかり大混乱していた。

 「あ……あら? 女の方……?」

 令嬢が戸惑いがちに呟いたひと言で、リリアーナはハッと現実に戻される。

 理解した。瞬時に全てを理解した。このご令嬢にこれ以上なにかしゃべらせてはいけない。

 「ああ!! レティシア様にご用ですか!! どうぞこちらへ!!」

 リリアーナは令嬢に負けず劣らず大きな声で叫ぶとレティシアと令嬢の手を取り、半ば勢いよく引きずるようにして部屋へと駆け込んでいった。
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